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第3話 「完璧清掃?」「奇跡の園芸?」別荘の大改築!

 一夜明け、別荘の現状を改めて目の当たりにした健太は、深い溜息をついた。

(これは……とんでもないな)

 朝日に照らされた別荘は、昨日夕闇の中で見たよりもさらに荒廃している。壁の穴は拳大どころか、人が通り抜けられそうなほどに広がり、屋根瓦は半分以上が剥がれ落ち、内部は雨ざらしだ。庭に至っては、腰の高さまで雑草が生い茂り、ところどころに魔物らしき獣の糞まで転がっている。とてもではないが、人間が生活できる場所ではない。


「健太様、今朝の朝食です!」

 フィオナは誇らしげに持ってきたのは、またもや焦げ付いたパンのようなものと、味の薄そうなスープだった。隣に立つライアは、すでに自分の分を無言で平らげ、いつでも動ける体勢を保っている。

「あー……フィオナ様、その、ありがとうございます。でも、朝食は俺が作りますよ」

 1日の始まりがこれでは、精神的に参ってしまう。


 昨晩と同じように、『超絶料理』を発動。周囲の森で採集した食材と、持参の乾物を使って、手早く栄養満点の朝食を作り上げた。ふっくらと焼かれたパン、香ばしいソーセージ、そして熱々のシチュー。湯気が立ち上り、芳醇な香りが別荘の庭に満ちる。

 フィオナは目を輝かせ、ライアは一瞬眉をひそめたが、すぐに無言で皿に手を伸ばした。

「……こんなに美味しい朝食は初めてです!」

 フィオナは感動に打ち震えている。

(いや、ゲームのスキル使ってるだけなんだが……)

 健太は内心でツッコミながらも、二人が美味しそうに食べているのを見て、少しだけ心が満たされた。ブラック企業ではこんな経験、絶対に味わえなかった。


「あの、ライアさん……もう食べてますよね? さっき、フィオナ様が作った分を」

 健太が遠慮がちに尋ねると、ライアはびくりと肩を震わせ、皿を置いた。

「な、なにを言う。任務遂行のためのエネルギー補給は、常に最大量を維持するのが騎士の務めだ」

 彼女は目を逸らし、口元を拭う。普段の仏頂面の下に、わずかな動揺が見て取れた。

「そうですわ、健太様! ライアは常に、完璧な騎士であろうとしているのですから!」

 フィオナが擁護するが、健太にはそれが、彼女の世間知らずゆえの天然の擁護だろう。

 健太は内心で苦笑したが、それ以上は言わないことにした。


 食事が終わると、健太は別荘の修復に取り掛かることにした。まずは掃除からだ。

「フィオナ様、ライアさん、俺、この別荘を少し直しますんで」

 そう言うと、健太は早速『完璧清掃』スキルを起動した。

 ボロボロの別荘の内部に入ると、まず目に飛び込んできたのは、埃と蜘蛛の巣、そして魔物の残したらしい泥や土の塊だった。まるでゴミ屋敷だ。


 健太が指先を動かすと、目に見えない光の粒子が室内を駆け巡った。埃は瞬時に消え去り、泥や土の塊は宙に浮いたかと思うと、そのまま別荘の外へと排出されていく。蜘蛛の巣は跡形もなく消え、カビだらけだった壁や床は、新品のように真っ白で清潔な状態へと変化していった。

「な……なんという、神聖な光景……!」

 フィオナは、別荘の入り口からその光景を眺めて、驚きに声も出ない。

 ライアは剣の柄に手をかけたまま、信じられないものを見るかのように目を凝らしている。彼女の騎士としての経験では、こんな魔法など聞いたこともない。


「ええっと、これで中は綺麗になったんで。次は壁と屋根ですね」

 健太はあっけらかんと言い放ち、雑草が生い茂り、木々も好き放題に生えている別荘の庭に向かった。


『奇跡の園芸』を発動。

 健太が草木に手をかざすと、雑草はみるみるうちに枯れて土に還っていき、木々は剪定されたかのように美しい形へと変化していく。荒れ放題だった庭は、まるで一瞬にして手入れされたかのように整い、美しい花々が咲き乱れる庭園へと変貌した。

 フィオナとライアは、その光景に呆然と立ち尽くしている。

「ま、まさか……庭園魔法の使い手……?」

 フィオナは震える声で呟いた。彼女の知る園芸魔法とは、植物の成長を促したりする程度で、一瞬でこれほど大規模な庭園を形成する魔法など聞いたこともない。


 その後も、健太の「地味なチート」は止まらない。

 崩れた壁や屋根は、『生活品錬成』で近くの森から切り出した木材や石材を加工し、瞬く間に修復していく。まるで、見えない職人が何人も作業しているかのように、健太が指先を動かすたびに、バラバラだった建材がぴたりと正確な位置にはまり込み、強固な壁や頑丈な屋根へと組み上がっていく。

「これも、ELSでは家畜小屋とか作る時に使ってたスキルなんだが……」

 健太は独り言のように呟くが、フィオナとライアには、健太が魔法を使っているようにしか見えない。

「これは……伝説の創造魔法ではないですか!?」

 フィオナの顔は青ざめている。創造魔法は、無から有を生み出す、神に等しい力とされているのだ。

 何百時間もかけて極めたクソゲーのスキルは、この世界の最高難度の魔法と遜色ないものとなっていた。


 日が傾き始める頃には、別荘は完全に元の姿を取り戻し、いや、元の姿以上に美しく、清潔な状態になっていた。屋根は新品のように輝き、壁は白く塗り直され、庭には色とりどりの花が咲き誇る。まるで、たった一日で、魔法の力によって新築されたかのようだ。


「健太様……貴方様は、一体何者なのですか……?」

 フィオナは、もはや恐怖に近い感情で健太を見上げていた。その横に立つライアも呆然とした顔で別荘を見つめている。彼女の健太への警戒は、畏怖へと変わっていた。


「ふぅ……これでようやく、安心して過ごせるな」

 健太は達成感に満たされた顔で、出来上がった別荘を見上げた。

 彼にとって、これはELSで完璧な牧場や家を築いた時と同じ感覚だったが、彼の背後では、フィオナとライアが、まるで聖なる奇跡でも見たかのように震えていた。


 こうして、健太の異世界での生活の舞台が整った。

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