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蒼緋伝〜蒼と緋色の忘却  作者: Shing
蒼と緋色の忘却
8/23

Oblivion Episode 8 孤高

蒼の公子と別れて1ヶ月が過ぎた、ここは【魔導の国 エクノア】の王立魔導学院。

開校からは既に2ヶ月が過ぎ、生徒達が徐々に学院での生活に慣れる頃だ。

元より魔導の素質のある同年代の生徒達が各国から集うレベルの高い学舎だが、中でも早々に実力が抜きん出ている秀才が一人、周囲の注目を集めていた。

その秀才、アリエル公国から1ヶ月遅れて入学した緋色の少女は実力のみならず、その容姿、いつも連れている使い魔のような可愛らしい狐、何よりあのリーヴェの民という伝承上の存在が同学年にいるという事実が、周囲から関心を寄せられていた。

ところが…


生徒A「次元が違う…1年生レベルじゃない…」

生徒B「正確無比…狂い一つない…」

生徒C「しかもそれを淡々とこなすんだから、才能の差を痛感する…」

生徒D「何でこの学院に来たんだ?」


と、他国はもちろん、エクノア本国の子息子女すらも羨むその才能に、羨望と嫉妬の視線を向けられ、蒼の公子の危惧した通り親しい相手はおらず、案の定同級生でも浮いた存在となっていた。

齢12歳ながら高嶺の花と称されることもあり、むしろその孤高さが密かにファンを生み出したが、とにかく人を寄せ付けない。

それもそのはず、緋色の少女の頭の中は蒼の公子との約束で頭がいっぱいだ。

全国から集うとされるこの学院で自身の力を伸ばしつつ、己を成長させる。

他の生徒との交流にかまけている場合ではない。

ある種、自身が壁を作り、他の生徒も線引きする、異様な環境に身を置いていたのだった。

そんな彼女でも、表情が穏やかになるひと時があった。

一つは、周囲からは使い魔とも称される、アイリと名付けられた愛らしい狐と一緒に過ごすこと。

よく構内の木に背中を預けてはアイリと触れ合い、安らぎを得ている様子が散見された。

そしてもう一つ、時折彼女の姿が郵便受付で目撃されていた。

今はアリエルに住む両親に送るものだとしても、果たしてあそこまで喜ぶものだろうか。

ある日、とある女子生徒が興味本位で彼女に問い掛けたことがある。


女子生徒「ね、その手紙誰に送るの?」

緋色の少女「!こ、これは…故郷の…幼馴染に…」


この時緋色の少女は完全に油断しており、その問いに小さな声で明かしている。

話しかけさえすれば無視することなくしっかりと返してくれる人物であることはその頃には知れ渡っていたが、その時の反応から、ただの近寄りがたい存在から実は想い人のいる年頃の乙女であると噂が立つ。

真偽はさておき、火のないところに煙は立たないということで、それを機に彼女を将来の伴侶にと目論む噂はパタリと途絶えたという。

その後もアイリと手紙が絡む以外では変わらずどのグループにも属さない孤高の立場を取り、特に誰とも接することがないまま数ヶ月が過ぎていった。



それから半年以上が過ぎた、ある課外活動でのこと。

男子3人、女子3人の6人グループに分かれ、王都メディナ近郊にある山から特定の魔導鉱石を収集する課題に勤しんでいた。

緋色の少女もまた一グループに配属されたが、相変わらず他の5人とは打ち解けてはおらず、一人距離を取っていた。

あくまで輪には入らないだけで団体行動は意識し、他のグループ同様に目的の魔導鉱石も採集し下山していた時だった。


担任「レティシアさんのグループが、まだ降りてきていない…!?」

副担任「期限の刻はもうとっくに過ぎている!何かがあったのだろうか…」


レティシア・オルセーヌ。

代々エクノア王国に領地を構えるオルセーヌ家の娘で、フレンドリーな性格。

緋色の少女の手紙の宛て先を尋ねたのも彼女であり、以来嫌いではないが他人に関心を持たない緋色の少女が名前を知る数少ない人物である。

その彼女が属するグループが、遭難にあったというのだ。

教師陣から焦りの声が木霊し、普段は冷静な緋色の少女も戦慄する。

季節は秋だが、エクノア王国が北寄りに位置する寒冷地にあるため、極寒による凍死もこの地域では珍しくはない。

極めつけはこのグループ、運が悪いことに火属性の使い手がいないのである。



教師陣予想通り、火を熾せるる者がおらずレティシア達は山中で途方に暮れていた。

まだ遭難しているだけであるなら、マシだった。


生徒E「しまった…どこかでポイント間違えたかな…」

生徒F「すっかり日が暮れてしまった…!まずいぞこの状況…」

レティシア「近くに洞窟があったはず!一先ずそこで夜を明かしましょう…」


一人の女子生徒の提案に一同は賛同し、来た道を引き返す。

だが、この判断が誤った。

その洞窟は魔物の巣窟となっており、戻ってきた頃には何頭かと鉢合わせてしまう不運に遭ってしまっていたのだ。


生徒G「そんな…ここまでなのかよ…」

レティシア「諦めちゃダメ!先生達がきっと来てくれるはず!みんな、構えて!」


レティシアの鼓舞に、5人が奮起する。

まだ1年生だが、全員がエクノア出身の生徒だったことは僥倖と言える。

レティシアの指揮の元、距離を取りつつ一体ずつ撃破していく。

だが、そもそもが課題明けの帰還途中だったこともあり、皆疲労色を隠せない。

魔力も無限ではない。

誰か一人でも倒れたら、一気に総崩れする。

気が付けば既に、囲まれてしまっていた。


生徒E「やっぱり無理だ…!」

生徒F「もう魔力が…!」

レティシア「くっ…!」


撃てる魔法はあと何発か。

レティシア自身もまた苦境に晒されていた。

ジリジリと距離を詰められる中、そのレティシアが地面に足を取られ体勢を崩してしまう。

その隙を魔物達は逃さなかった。


生徒G「レティシア!!」

レティシア「お父様…お母様…!!」


万事休すかと思われた、その時である。

どこからともなく、広範囲に渡る火属性の攻撃が、レティシア達の周りを取り囲む魔物達を襲い焼き尽くす。

味方を巻き込まず狙いだけに集中したその洗練された魔法と共に現れたのは、あの緋色の少女といつも傍にいるアイリと名付けられた狐の使い魔であった。


緋色の少女「何をしているのですか!?早くその場から離れて!!」

レティシア「___!?」


必死に呼び掛ける緋色の少女の声が、レティシア達の退路への後押しとなった。

一体どうやって自分達を見つけたのか。

しかし感心している場合ではなく、急ぎ6人は彼女が指し示す方角へと駆け出す。

一瞬緋色の少女一人に任せて大丈夫なのか気にする素振りを見せるも、あの群を抜く成績を誇る彼女である、余計な心配なのかもしれない。

それ以前に自分達の身の安全をやむを得ず優先してしまう程に、彼らは追い込まれていたのだ。

必ず戻ってきてと、祈る他なかった。


緋色の少女「ふう…」


敵を一身に引き付けた緋色の少女はレティシア達が避難する様子を見届けると、ほっと息を吐いた。

どうしてこの場にいるのか、思い返してみた。

先生達がレティシア達のグループがまだ帰還していないことに対応に追われる中、制止を聞かずに飛び出していた。

エクノアの山は秋といえど過酷である、このまま放ってはおけない。

僅か半年と少し前、緋色の少女はアリエルで忘れもしない経験をしている。

クラスメートといえど、もう二度と身近な人達を消滅させてはいけない。


緋色の少女「まだ半年ですが…私は、あの時よりは動けているのでしょうか…貴方のように…」


誰に問うでもなく、今は遠い彼の地にいる蒼の公子を想い緋色の少女は独り言を呟く。

初撃の大技を逃れた残る魔物を一掃すべく、アイリと共に戦う構えを取った。

一つ、実感していることがある。

多勢に無勢、並の人間であれば恐怖する場面だが、その時、全くたじろぐことのない自分がいたのだ。


緋色の少女「来なさい…私が相手です!!」


剣を手に取り、応戦する緋色の少女。

そもそもその刃を振るうまでもなく、近付く前に焼き払う。

そこに立っていたのは、まだ道半ばながら過去の弱い自分を断ち切った、あの蒼の公子にも引けを取らない勇敢な彼女の姿であった。



担任「お前達、無事か!!」

生徒E「良かった、先生達だ!!」

生徒F「た、助かった…!!」


緋色の少女に遅れて捜索に乗り出していた先生達が、行方知らずだったレティシア達のグループを見つける。

ようやく緊張の糸が切れ、膝から崩れ落ちる者や泣き出す生徒まで、多種多様な形で安堵した。

一人、窮地を駆けつけ単身残った女子生徒の安否を心配する者がいた。

その所在を確認するように、先生は彼女の行方を尋ねる。


副担任「そうだ、___は見なかったか?一人お前達を探しに行ったんだ!」

レティシア「そ、それは…」


見た。

今もまだ戦っているのだろうか。

あの洞窟の元へ、先生達を連れ救援に駆け付けたいレティシアだったが、その心配をまるで一蹴するかのような現実が目の前に現れた。


緋色の少女「ここに。」

担任「なっ…!?」

レティシア「___!?」


あの緋色の少女が、アイリと共に既に戻ってきていたのだ。

レティシア達が山を降りてきてからまだ15分も経過していない。

いくら何でも早過ぎる。

学年一の秀才のあまりの異端ぶりに、生徒はおろか先生すらも驚きを隠せない。


レティシア「怪我はない!?どこか痛い所とかは…!」

緋色の少女「大丈夫ですから。擦り傷もありません。レティシアさん達も、無事で良かったです。」

レティシア「ああ、___…!ありがとう…!!」

緋色の少女「!?」


淡々と返す緋色の少女をレティシアは強く抱き締める。

他の5人も彼女に感謝の意を表すも、どこか畏怖する存在として見られている気がする。

今の彼女は周りからどんな目で見られようが一向に気にしないが、このレティシアだけは違った。

レティシア・オルセーヌ。

後に緋色の少女の数少ない親友となり、卒業後も家は身内に任せアリエルに渡り国の発展に身を尽くす。

そしてその功績が認められ、アリエル王国王都ファルタザードの区画にその名を残す存在となった人物である。

・エクノア魔導学院

緋色の少女…ヴァーミリオン Lv10

レティシア…交霊士 Lv5



【登場人物】


・レティシア・オルセーヌ

エクノア王国の名門オルセーヌ家の少女。4人兄妹の末っ子で、緋色の少女の数少ない親友。お転婆で自由奔放な性格で、エクノア魔導学院入学前にはよく兄達を振り回していた。

エクノア魔導学院1年性の時、課外活動にて緋色の少女に救われたのを機に、心の中で忠誠を誓うと共に彼女の良き理解者となる。魔法の才能には恵まれており、雷属性を最も得意としている他火属性と、また馬術にも優れ剣の心得も多少ながら持ち合わせている。

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