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蒼緋伝〜蒼と緋色の忘却  作者: Shing
蒼と緋色の忘却
5/50

Oblivion Episode 5 幽閉

2年後。

雲が立ち籠る曇天の空模様。

その日のファルタザードは、喧騒に包まれていた。

街中ではアリエル領兵が散見され、慌ただしく情報収集に努めている。

そして、12歳となった蒼の公子も、この日だけは怒りと焦燥感に駆られ領兵の影でアイリと共に街中を奔走していた。

普段は明るい彼が、まるで別人のように変貌したのは、昼過ぎにファルタザードで起きたある事件に遡る。


蒼の公子『そんな…おば様!!!!』

女店主『申し訳、ございません…力…及ばず…』


慣れ親しんでいた市場の女店主が、息も絶え絶えの状態で見つかったのだ。

一般領民に過ぎない彼女が何者かに襲われた理由、それは、いつも蒼の公子と一緒にいるあの緋色の少女がまさに連れ去られようとしていた現場に偶然居合わせたからである。

彼らに脅されて竦んでいる緋色の少女を助けようと、彼女は勇敢にも心得のあった魔法で立ち向かうも、その凶刃に倒れてしまったのである。

程なくして現場に駆けつけたアリエル領兵の治療の甲斐なく、彼女はその時を迎えてしまった。


女店主『ああ、___様…貴方達2人が治める、治世を…見たかっ…た…』

蒼の公子『待って、逝かないでください!!貴方が亡くなっては、___も悲しんでしまいます…!』

女店主『___様…どうか…あの子を…どうか』


蒼の公子の願い虚しく、間もなく幼い頃からの顔見知りであった女店主は光の粒子と化してしまった。

これは蒼の公子が初めて経験した人間の死であり、深く脳裏に刻まれることとなった。

齢12歳である彼は泣き崩れるかと思いきや、その悲しみは怒りと化し、単身緋色の少女を連れ去った正体不明の敵を追おうとファルタザードを奔走していたのであった。

目撃者によると、敵は二人組ながらも消滅した女店主は大いに健闘したのだという。

おそらく敵は軽くはない手傷を負い、そう遠くに行くことはできないはずだ。

問題は事件はファルタザードの比較的中心で勃発したことから、敵がどこから侵入したのかが未だ掴めきれてないという状況だ。

予め巧みに偽装して城壁内部に侵入でもされれば、今のファルタザードでは身分割り出しは不可能だ。

だが戦闘が起きるとなると自ずと波が立ち退路は大きく制限されるはずである。

街中の混乱に乗じて敵が既に領都を脱出するとしたら、4つある区画のうちこの時間帯は行商が出入りする東の門だけだ。

この4年間、ファルタザード広しと言えど何度も街へと共に足を運んできた。

現場から東の門へ、敵の一団よりも速く最短ルートを導き出した。

そのルートをアイリも把握しているようで、身軽さを最大限に活かし蒼の公子よりも速く疾走する。


蒼の公子「待つんだ、アイリ!!!!」


普段は利口なアイリもこればかりは主の制止は聞けないと言わんばかりに、徐々に加速していく。

ここに来て連れ戻す時間すらも惜しい。

やむを得ず彼女の姿を見失わないように、懸命に追い掛ける。

それにしても、あの風貌の緋色の少女を外に連れ出そうにものならあまりにも目立つため、何らかの手段を用いたかと思うと、怒りが湧き上がる。

街中を駆け抜けて生じた疲労など意にも介さず、蒼の公子はアイリの後を追う。



その頃、ファルタザード郊外。

緋色の少女の姿は、町外れの森小屋にあった。

特に四肢を拘束されているわけでもなく、構成員の2人組の監視下に置かれていた。

虚な表情で隅に佇んでいる彼女を他所に、2人組は奮戦した一人のアリエルの民に負わされた傷を応急処置しながら、小休止を強いられていた。


構成員A「やられた…あの女、ただの市民だと侮った…」

構成員B「あそこまでは順調だったんだがな…アリエル領兵は楽に消せたものを…」


現場を目撃した女店主を手にかける前に、彼らは警備に当たっていたアリエル領兵3人を始末している。

一方で緋色の少女に目立った傷はなく、しかし既に目に光はなかった。

人身売買を生業とする彼らは、ここ数年のうちにアリエル公国に幻のリーヴェの民の一貴族が移り住んだ噂を耳にしていた。

リーヴェの民は例え一市民であっても強大な力を持つと言われており、高く売り飛ばすためにもリスクを抑えるなら子供を攫った方が良いという理論に落ち着くのは至極自然な形と言える。

フィーニクス家がアリエルに移り住んだこの4年に渡り、領内で大きな事件は起きなかった中でのファルタザードを震撼させた。

中でも街中の人々の目を掻い潜り、彼女を攫った彼らの実力は相当なものと言える。

その2人が、一市民を装ったかのような市場の女店主の強烈な猛攻に足を掬われかけたのである。


構成員A「ここは大丈夫なのか?」

構成員B「ファルタザードからはそれなりに離れている。ここは特に使われた痕跡もない、寂れた小屋だ。この辺りに住居を構える地理に明るい人間なら目をつけられるだろうが、領都の変事はまだ伝わっていないはず。当面は大丈夫だ。」


仮にも見つかったならば抹殺すれば良いだけのこと。

多少のプランのズレはまだ想定内だ。

一度ここで休み、万全の態勢で帰還する。

まず一人は外に出て周囲の偵察を、もう一人が緋色の少女の監視の役目を担う。

役割を確認した後で別行動を取り、残った一人は彼女を見遣った。


構成員A「リーヴェの民か…実物は初めてだが、丁重に扱わないとな…」


まだ幼いながらも、その背中にはやはり興味を引かざるを得ない。

帰還中、何かの拍子で傷付けるわけにもいかない。

相方に留守を託された一方で、屋内という気の緩みもあり無意識に臨戦態勢を解いた、その時だった。


構成員A「なっ…!?」


どこからともなく颯爽と現れた一匹の狐の咥えたナイフにより一閃された。

たまらず後退したところ、その狐は緋色の少女を護るかのように立ち塞がり、男を威嚇し注意を引く。


緋色の少女「アイリ…!?」

構成員A「何だこの狐は…!?」


かなりの知能を有すると見た一方で、どこかに指示を出している人物がいるのではないか。

冷静な判断は損なわれておらず辺りを警戒したところ、居場所を特定される前にその人物…いや、まだ年端も行かない子供が屋根裏から追撃した。


蒼の公子「水泡連弾、【バブルショット】!!」


天井から放たれる泡状の弾丸。

負傷した身体を引き摺りその男は何とかかわす。

蒼の公子は水属性の素質を持っていた。

若くしてその才能及びそれを操れるその力量に驚くも、それ以上に驚愕したのはその身なりであった。


構成員A「そのなり…公爵家の者自らだと…!?」


いくら何でも伝達が早すぎる。

その上駆けつけてきたのがアリエル領兵ではなく高い知能を持つ狐を従えた王族という事実に、一度は冷静さを取り戻したその男は飲み込めていない。

屋根裏から飛び降りたその蒼の公子もまた、狐と同じように緋色の少女の前に立ちはだかった。


構成員A「公爵家の者を始末するのは後々面倒だが、仕方ない…!」

蒼の公子「その心配はいりませんよ。」

構成員A「!?」


警戒感を露わにする男を前にして、蒼の公子は冷静に、しかし冷徹さと復讐に満ちた瞳で捉えていた。

幻想か現か、背筋が凍る。


蒼の公子「貴方はここで終わる。アリエルの民を…いや、僕達の大切な人を奪った貴方には、相応の報いを与えてやる!!」

構成員A「なっ、足元が…!?」


幻想ではなかった。

【バブルショット】により辺りが水浸しとなった森小屋で、男の足元から徐々に体全体に氷が蝕んでいく。

蒼の公子は亜属性が一つ、氷属性を展開していた。

だがその表情は復讐に囚われる余り無意識のようであり、自身に秘められし力の全貌を知らぬままに行使しているようにも見える。


構成員A「よせ、やめろ…!!娘は返す!!俺が悪かった、だから…!!」

蒼の公子「その言葉、消えた先でおば様に伝えるんだな!!」


更なる力を引き出した蒼の公子は己の手のように氷で男の全身を覆い、言葉一つ話せなくなるように封じた。

最期は冷気が男の灯火を消し、氷像の中で消滅してしまった。

ここまでが、アイリと緋色の少女の見た光景である。

王族たる者、民を率いる身、人を手にかけることに成熟しきった12歳は一切の躊躇いがなかった。

彼は振り向き、緋色の少女の無事を確認する。


蒼の公子「怪我はない?」


そこにいたのは、いつもの蒼の公子の姿。

救い出された緋色の少女は先程までの冷徹な彼を目の当たりにしても、恐怖心は抱かなかった。

やっぱり来てくれた。

自身を攫った男二人を目の当たりにした時、護身用の剣を振るえなくても、これまで屋敷で初歩的な魔法を行使することはできたはずだった。

しかし緋色の少女は抵抗することはなかった。

元より己の実力を過小評価している節があるが、抵抗すれば命を落としたかもしれない。

そうなると蒼の公子とはもう二度と会えない。

ならば、あの場で捕まってももしかしたら助けに来てくれるかもしれない。

だが、どうやらその判断は誤っていたようだ。

結果的に懇意にしていた女店主は消滅し、そして、今まさに目の前で再び凶行が走ろうとしていた。


緋色の少女「___さん、危ない!!!!」

蒼の公子「!?しまっ…」


真っ先に緋色の少女が気付くも時既に遅く、外へ偵察に出ていたもう一人が戻るや否や相方を消滅させたであろう蒼の公子に得物を背後から振りかぶっていた。

命中する寸前、そこにいち早く行動に移した短剣を咥えたアイリが身を挺するように庇うも、成人の渾身の一撃を前には耐え切れず、蒼の公子共々壁に叩き付けられてしまった。

アイリのおかげで急所は避けられたが、どちらも強い衝撃により動けずにいた。


構成員B「よもや公爵家自ら、それもこんな子供があいつを倒すとは…」

蒼の公子「もう一人、いたんだ…!」


先程の男と違いアリエル家の子供とて油断はしない。

不気味に光る剣を構え、蒼の公子とアイリの元へジリジリと攻め寄られる中、緋色の少女にある変化が起きていた。

このままでは、彼らが消されてしまう。

あの時抵抗していたら、店主のおばさんも、蒼の公子も、アイリも、誰も傷付かなかったかもしれない。

彼のように、自身を顧みずに戦えていれば…

何かが、緋色の少女の中で迸った。


構成員B「何…!?」


男の背後でただならぬ戦慄が走る。

振り返らずとも肌身に感じるその威圧。

緋色の少女の未来を決定づけた、語られざる伝承が、そこにはあった。

・アリエル公国

緋色の少女…ケルビム Lv8+

蒼の公子…アリストクラット Lv8


・誘拐団

構成員A…戦士 Lv12

構成員B…盗賊 Lv14

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