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蒼緋伝〜蒼と緋色の忘却  作者: Shing
蒼と緋色の忘却
47/50

Oblivion Episode 47 残響

激震が走る。

緋色の少女が茫然とする中、アイリと意識のないユーリを抱えるレティシアがその光景を目の当たりにした。

既に戦線の離脱に追い込まれざるを得なかった2人には、受け入れがたい現実が待っていた。

比翼の蒼緋を以てしてもグランシャリオには届かないのか。


グランシャリオ「!?お前…!」

蒼の公子「っ…貫け…氷刃…【フリーズランサー】…!」


致命傷を負いながらも、蒼の公子は息も絶え絶えの状態で【フリーズランサー】を撃ち込む。

一矢報いようと残された力を振り絞ろうと最後の抵抗を見せるも、余裕を持って後退するグランシャリオには届かなかった。

蒼の公子にとってこれが最後の反撃。

後ろで佇む緋色の少女の無事を確認すると同時に、その場に倒れてしまった。

彼を親のように慕うアイリが、考えるよりも先に身体が動いてしまった。


アイリ「うわあぁぁぁぁ!!!!」

グランシャリオ「豊穣の巫女か…残念だが、手遅れだ。」

アイリ「ぐっ…!?」


斬りかかってくるアイリを、大剣の一振りで難なく弾き飛ばすグランシャリオ。

壁に叩きつけられ、項垂れる。

今の攻撃が彼女の最後の抵抗となり、万事休すとなった。


緋色の少女「___さん!!!!」


ようやく我に返り目の前の状況を把握し、倒れるすんでのところで蒼の公子を支えたが、その命は風前の灯だった。

既に消滅の兆しは見せており、跡形もなく消えるのも時間の問題であった。


緋色の少女「嫌です、そんな…お願い…目を開けて…独りにしないでください…!どうして私なんかを庇って…!」

蒼の公子「ああ…___、怪我はないか…?」


意識が遠のいていく中で蒼の公子は、身体は傷付きながらも緋色の少女の整った顔に手を添える。

その表情は悲壮感に満ちていた。

最期が近付いているのは蒼の公子も知るところ。

愛する者を置いていく無念は消えないが、この瞬間だけは、彼にとっての最優先事項は緋色の少女の健在だった。

それを確認した時、蒼の公子の表情が綻んだ。


蒼の公子「守った…守りきったぞ…___を…今度、こそ…」


あの時の再現を阻止した。

それだけでも良かった。

それを皮切りに、蒼の公子から力が抜けていくように頬に当てていた手が落ち、彼の身体が崩れていった。

公国の希望が消失した瞬間だった。

幼き頃より緋色の少女と共に街を駆け抜け、別離した後も研鑽を積み重ね、再会の時には彼女の全身で表した喜びをその身で受け止め、開戦後は彼女と2人で牽引してきた、アリエル公国次期当主、蒼の公子、ここに散った。


緋色の少女「何の…ための…4年間だったの…___さんを…守る、はずが…うああああああああああ!!!!」


緋色の少女の慟哭が辺りに響く。

同志を失い、後輩を失い、この世界で最も大事な人を失った。

気丈でも何でもない彼女の心の支えであり、この世界で最愛の人を。

半ば精神が崩壊しているような狂乱状態に陥り、その泣き声が暫く止むことはなかった。


グランシャリオ「別れは済んだか?」


敵ながら律儀に緋色の少女が落ち着けるまで待ちつつも、残酷にも聞こえてくるグランシャリオの言葉が突き刺さる。

流石に痺れを切らし、ゆっくりと膝を突き項垂れている彼女の元へと歩み寄る。

止めを、刺すために。


グランシャリオ「お前達2人は…幼き頃より、まるで兄妹のように育ったんだとな。民からは将来を渇望され、2人で国を治める未来もあったのだろう。それを考えれば結末としては、確かに残酷だな。」


グランシャリオからは同情を向けられるも、今の緋色の少女に何一つ聞こえていない。

身動きすらも取ることもなかった。

抵抗の意志も等しく、決着はグランシャリオの大剣に委ねられた。

アリエル公国の領都ファルタザードに陣形を敷くリーヴェの民はいざ知らず、ひとまずはこの戦争はグランシャリオか、或いは比翼の蒼緋の2人を亡き者にすれば終結するとは、全ての人々にとっての共通見解であった。

【天空の国 リーヴェ】への足掛かりを得る第一歩として、緋色の少女を仕留める。

無慈悲な大剣が、放心状態の彼女の胸を貫いた。


グランシャリオ「最後は、呆気なかったな…」


激痛に苦しむ声すらも発さず、緋色の少女はその剣を受け入れる。

もはや気力すらもなかった。

流れ出る血を、気にも留めなかった。

ゆっくりと貫いた剣を抜き、勝利の余韻にしばし浸る。

この際遠くで絶望に打ち拉がれ、既に戦意を喪失しているアイリとレティシアは敵でも何でもない。

天を仰ぎ、グランシャリオは長かった戦争に終止符を打つのであった。
















見知らぬ真っ白な空間、そこに緋色の少女の意識はあった。

現実の世界とは対照的に、感情を剥き出しにただひたすら己の非力を嘆いていた。


緋色の少女『守りたかった…守れなかった…貴方がいなければ、生きていく意味がありません…』


蒼の公子が輝ける未来を誰よりも願っていた。

彼のために身を粉にして支える未来を、緋色の少女は常に思い描いていた。

それが果たされなくなった今、その願いは虚しいものへと変わった。


緋色の少女『誰でも構いません…どうか、私をあの人の側に置いてください。この命ここで果てても良い…ですが、例え生まれ変わっても、私はあの人の力になりたい…あの人が向けてくれる笑顔を、ずっと見ていたいのです。他の幸せなんていりません…、そんな未来を、どうか…』


架空の存在に藁にもすがる想いで緋色の少女は悲痛な願いを向ける。

己が非力なばかりに蒼の公子を救えず、アリエルの民達に託された勝利を放棄する程に追い込まれていた。

そんな彼女にふと、何者かも知れぬ優しい声がどこからか響いてくる。


??『ここで、諦めるのですか?』

緋色の少女『…!?』


声のした方向へ振り返る。

そこには自身と同じ、リーヴェの民特有の風貌をした見知らぬ女性が佇んでいた。

だが今までに会ったことはない上に、ここがどこなのかにすら関心を持たない緋色の少女にとって、彼女の正体は重要ではない。


??『あの者が消滅した今、彼に代わり双世界を守る役目を果たせるのは、貴方しかいません。』


謎の女性は、緋色の少女を奮起させるかのように通告した。

ふと、幼き日のある光景を思い起こさせた。


蒼の公子『ここ、僕のお気に入りの場所なんだ!時計塔からだともっと高い場所から見渡せるけど、あそこは登るのが大変だし、何よりファルタザードを取り囲むこの城壁そのものはまだ未完成。いつか僕が治めるこの街、この国を守るんだ!』


それは領都ファルタザードを取り囲む城壁の一角である少年が声高らかに夢を語った日、今も鮮明に覚えている。

彼…蒼の公子は、確かに言った。

この国を、守ると。

それは月日が過ぎても不変の意思として彼の原動力となり、今日までその責務を果たした。

始まりは祖国アリエルに限定的だったが、いつの日かその範囲は他国に、果てには異なる世界と広がったが、当然緋色の少女も含まれている。

直前に、あの戦場で自分は何をしたか。

彼の意志を無碍にして、自ら命を断つかのようにグランシャリオの剣を抵抗もせず身に受けたが、それは違うのではないだろうか。

それは命を賭してまで彼女を守った、蒼の公子の想いを蔑ろにする行為の他ならないのではないか。

こんなところで、嘆いている場合ではないのだ。

先程とは緋色の少女を纏う雰囲気が違う。

彼のいない世界に、生きていく意味がない。

彼女はそう言った。

確かに本音はそうだが、蒼の公子と共に駆け抜けたあの世界。

彼が守りたかったものを、最後まで守り抜く。

例えこの身が、滅びようとも。


??『まだ立ち上がれるのであれば、貴方に力を託します。そして選ぶのです。彼の者が救おうとしたその命を生かし、いつの日か新たな仲間と共に皇帝を打倒するか、或いはその命を燃やし、今ここで、決着を着けるかを。』


決断の時。

その選択は、いずれもグランシャリオとの決戦に収束するもの。

ただし、それをいつ、誰と決行するのかという点において全く違う。

蒼の公子の存在が全てだった彼女に取って、この先誰かと手を組み、仮にグランシャリオを倒したとしても、その先の未来にはもう、彼はいない。

対して、【白い翼】が、オルランドが、オリヴェイラが、そして蒼の公子が命を賭して皇帝を攻め立ててきたこの戦い。

ならば…


緋色の少女『私、は…』


その赤き瞳に再び生気が宿る。

蒼の公子が守りたかったその命を、ここで燃やし尽くすことにやるせなさも感じるが、皆が繋いでくれた今が、消耗しているグランシャリオを倒し得る最大の好機。

選択に、時間はかからなかった。















蒼の公子が消滅し、緋色の少女にもとどめを刺し、激戦の跡が未だ残る戦場。

意識のあるアイリとレティシアは既に戦意を喪失しており、他の白銀の翼も全滅、誰が見ても皇帝グランシャリオがなおも顕在しているウルノ帝国の勝利に終わったかに見える。

手負ではあるが、扉の向こう側の世界に居座る連合軍を蹴散らすのに造作もない。

【真七星】を失ったことで己の計画に狂いが生じたことは否めないが、帝都カーラネミに戻り、この戦争に幕を下ろそうとしたその時だった。


グランシャリオ「何…!?」


広大な大地に、燃え盛る炎がグランシャリオを取り囲むかのように忽ち立ち昇る。

不自然な現象を生み出したその張本人は一体誰か。

この期に及んで、この場所から逃すまいとまだ抵抗の見せる者がいる。

そしてこれ程の大規模な炎の壁を展開できる者は、彼の脳裏には一人しかいない。


グランシャリオ(まさか…)


あまりの規模に恐る恐る後ろを振り返る。

そこに剣を支えに辛うじて立っていたのは、胸部を貫かれながらも、今なお燦然と輝く白銀の翼に炎を纏い、不死鳥が如く死の淵から舞い戻った、銀の髪と赫い目に戦意を取り戻した、緋色の少女…銀髪の戦乙女だった。


銀髪の戦乙女「ハアッ…ハアッ…」

グランシャリオ「馬鹿な…急所を貫いたはず…」


それどころか、貫かれた胸部が見る見るうちに回復の力で塞がっていく。

他の傷も瞬時に治癒していき、今や銀髪の戦乙女はリーヴェの民すらも超越した存在にも思えた。

さながら【不死】…緋色の少女が誰にも知られたくなくてグランシャリオを口止めしたように、リーヴェの民が【不老】であるとは把握していた。

それよりも、レグルスより比翼の蒼緋の成り立ちを聞かされていたグランシャリオにとって驚くべきは、別にあった。


グランシャリオ「支柱を目の前で砕かれ、その身を貫かれ…なぜ、立ち上がれる!?」

銀髪の戦乙女「…」


緋色の少女の精神を一度は崩壊させた。

消滅した蒼の公子の元へ、手向けの一振りをその身に見舞った。

もう戦える気力も失ったはずが、今こうして目の前に立ちはだかっている。

全てにおいて予想だにしなかった、銀髪の戦乙女による最後の抵抗。

決戦が、終局を迎えようとしている。

・白銀の翼

銀髪の戦乙女…熾天使 Lv50+++


・天を目指す者

【大地の覇王】グランシャリオ…オーバーロード Lv65

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