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蒼緋伝〜蒼と緋色の忘却  作者: Shing
蒼と緋色の忘却
46/50

Oblivion Episode 46 壊滅

既に事切れていたシャールの姿を見るなり、グランシャリオにこれまで見せたことのない敵意を向ける蒼の公子。

冷静さを残しつつも、初手の攻撃にしては大技の発動に何の躊躇いもなかった。


蒼の公子「圧倒せし怒涛の奔流、【ハイドロバースト】!!」


直線上の水流がグランシャリオを目掛けて襲う。

威力、速さ共に洗練されており、直撃でもすれば押し流されるだけでは済まないほどだろう。

グランシャリオはそれがわかった上で、その力量を図るべく立ち止まり応戦する。


グランシャリオ「フッ…!!」

蒼の公子「!?(剣の一振りで地面が隆起した…!?)」


詠唱もなければ魔法でもなく、グランシャリオは地面を操り【ハイドロバースト】を相殺した。

魔法と同等の、自然の力を操る離れ技。

蒼の公子との力量差が最も色濃く出た瞬間だった。

その彼よりも魔力に優れ、後方より遅れて合流を果たしたアリエル公国の誇る双璧の片割れが、特大の追撃を繰り出す。


緋色の少女「灰燼に帰せ、【エクスプロード】!!」


周囲に大爆発を引き起こす火属性の大技。

幾多にも及ぶ決戦、そして【異邦の反英雄】と【虚空の狂信者】との勝負を制し、そしてこれが最後の戦いだと最初から全力で挑む緋色の少女。

彼女の戦闘力は【七星】との交戦を通じてグランシャリオの知るところでもあり、手は抜かずに相応の力で迎え撃つ。


グランシャリオ「リーヴェの民のお前には相応の魔法で対処しなければ、文字通り火傷しそうだな…!堅守の断崖、【イージスウォール】!!」

緋色の少女「!?(今まで見てきた同じ魔法でも、規模が段違い…!)」


リーヴェの民の魔法とあって、今度は魔法で大地の壁を築き上げ、爆風から身を守った。

これまで戦ってきたどんな相手よりも、魔法の質は遥か上を行く。

先刻の【虚空の狂信者】も、あの状態で強化されていなければ同等の力を誇っていたかもしれない。

それよりも先に駆け付けた蒼の公子の様子を見て、察する。

【白い翼】はもう、誰もいないことに。


レティシア「雷光の投鑓、【サンダーランス】!!」

アイリ「…!」


【月光の修羅】と【清廉なる凶星】との戦いを制したレティシアとアイリも合流早々に、グランシャリオを狙い澄ました攻撃を繰り出す。

【サンダーランス】と【トリプルファイア】が正確に彼を捉えるが、グランシャリオにとっては緋色の少女が相手ではない分、対策は蒼の公子と同じで良い。

大剣を一振りすると同時に、瞬く間に大地の壁が出来上がった。


レティシア「そんな…!?」

グランシャリオ「獣人…【月光の修羅】と【清廉なる凶星】が探し求めていた豊穣の巫女とは、お前のことか?」

アイリ「!?」


エクノアの魔導騎士には目もくれなかったが、身体的に特徴があるアイリを見て、グランシャリオはかつて【月明かりの修羅】と【無垢なる凶星】と交わした逸話を振り返る。

こちらの世界に迷い込んだと思われる巫女を2人は探していたが、ついぞ開戦まで叶わなかった。

尤も、彼らの【七星】としての働きぶりは満足だったものの、既にいない部下の忘れ物にはもはや大した関心はなかった。


オルランド「くそ、直接叩き込むしかねぇってか!?」

ユーリ「僕も続きます!!」

オリヴェイラ「3人で行くぞ!!」


土煙が晴れた頃合いを見計らい、今度はオルランド、オリヴェイラ、ユーリの3人が至近距離から狙う。

馬上のオリヴェイラから始まり、オルランドとユーリに続く波状攻撃。

何度も死線を潜り抜けた同郷の3人の連携、果敢に詰め寄るも、グランシャリオに死角は存在しない。


オリヴェイラ・ユーリ「「!?」」

オルランド「雷撃…!?」


何の予備動作もなく、どこからともなく電撃を放ち3人の動きを牽制する。

すかさずグランシャリオと距離を保ち、出方を伺う。

ここに、蒼の公子、緋色の少女、レティシア、ユーリ、アイリ、オルランド、オリヴェイラと、【真七星】との戦いを制し生き残った7人が勢揃いした。

安堵の感情など全くもって浮かばない。

一度全員の姿を確認するが、すぐに事情を察することになる。


蒼の公子(フォアストル、モージさん、まさか…)

緋色の少女(フロリマール、貴方…!)

オルランド(シャールさん達、全滅したのか…!?)

オリヴェイラ(ライノルトさんとサロモンさんの姿も見当たらない…!)


敵がグランシャリオ一人を残すのみとなったのは、戦前の戦力差を見れば大健闘したのかもしれない。

ただ、あまりにも犠牲が多過ぎる。

ここで彼を必ず倒さねば、志半ばに散っていった彼らが浮かばれない。

勝たなければ意味がないのだ。

仲間の無念を晴らすべく、ここからは7人全員の総力戦となる。

各個作戦を共有する余裕はほとんど残されていない。

己の信念がぶつかり合う、最後の決戦が始まる。

その先鋒は、蒼の公子と緋色の少女が果敢に打って出る。


オルランド(ああ、そうかよ…いや、そうなんだけどな?)


比翼の蒼緋は言葉にはしなかったが、その背中からは2人のメッセージが読み取れた。

その受け取り方は残された5人それぞれだったが、オルランドの中では悔しさが込み上げてきた。


オルランド(下手に手を出すと返り討ちに遭うからってか?全く、他の連中はともかく余計なお世話なんだよ。これまで戦ってきた仲間だってのに。)


憤りすらも感じるが、ある意味正しい判断なのかも知れない。

長年蒼の公子とは苦楽を共にしてきたが、実力差は最後まで埋まることはなかった。

それでも公国の2番手を自負するだけあり、白銀の翼の一員としてもこれまで重要な役割を果たしてきた。

だが今目の前で繰り広げられている蒼の公子、緋色の少女とグランシャリオとの戦いの様は、別次元なのだ。

自身以下5人が割って入って、何とかできる次元ではないことは、明白だったのである。


オルランド(だが…)


それがわかっている上で、黙っていられるオルランドではなかった。

その思いは、彼だけでなく他の4人も大なり小なり抱いていた。

近くにいたオリヴェイラに、彼は呼びかける。


オルランド「オリヴェイラ。」

オリヴェイラ「!…ああ、そういうこと。残念だけど、確かに頃合いだな。」

オルランド「悪いな。」

オリヴェイラ「いや…」


巻き添えを予告するかのようなオルランドの悪戯じみた笑みに、オリヴェイラも苦笑した。

グランシャリオの装束を凝視する。

すると、最後の決戦を前に【真七星】と並び対峙した際と比較したところ、少なからず損傷を受けていた。

皇帝が如何に強大な力を誇ろうとも、決して無敵ではない。

【白い翼】との戦いは、無駄なんかではなかったことの証左に他にない。

今こそ蒼の公子と緋色の少女と共に参戦し、少しでもグランシャリオの力を削ぐ。

その結果、命を落とすことになろうとも。

勝敗の鍵は、彼らが握っている。


オルランド「さて、一仕事と行くか!」

オリヴェイラ「ああ!」

ユーリ「オルランドさん、オリヴェイラさん!?」

オルランド「悪いな殿下、付き合えるのはここまでだ!」

ユーリ「っ…!僕だって、やってみせるさ!!」

蒼の公子(!あの3人…!)


オルランドとオリヴェイラが駆け出したのを機に、ユーリも釣られるように突撃する。

予想に反した3人の行動に蒼の公子は内心動揺するも、その意志を尊重し連携に組み込む。

この時、もしユーリが同じタイミングで飛び出していたら…

誰も視ぬ未来を他所に、それまで出方を伺っていたレティシアとアイリも動き出す。


レティシア「アイリちゃん!」

アイリ「うん…!」


先にオルランドとオリヴェイラが仕掛けたことで、意を決してレティシアとアイリがサポート態勢を整える。

グランシャリオを取り囲む前衛組の合間を縫うように再び雷と炎の魔法が展開される。

7人による息の合った総攻撃。

既に詰めていた蒼の公子、緋色の少女、オルランド、オリヴェイラが四方から仕掛けた、その時だった。


グランシャリオ「一度限りの技だが…使い期は、今…!」

7人「「「「「「「!?」」」」」」」


グランシャリオが大地に大剣を突き刺す。

それを引き金にそれまで気にも留めていなかった、無造作に散らばっていた無数の武器が浮遊する。

その矛先は、ユーリとレティシア、アイリ、そしてほとんどが前衛の4人を捉えていたのだ。

並大抵の反射速度では、躱せるものではないことは明白だった。


蒼の公子「皆、避けろぉぉぉぉぉ!!!!」

ユーリ・レティシア・アイリ「「「!?」」」

緋色の少女「っ…!!」


蒼の公子の警告が辺りに響く。

後退しつつ、襲ってくる無数の武器を懸命に弾いていく。

緋色の少女は飛翔しながら回避に専念した。

身のこなしが素早いアイリもまた回避を優先し、被弾を免れる。

だがそうではない者もこの場に居合わせてしまった。


レティシア「あ…あぁ…こんな…っ!」

ユーリ「レティシアさぁぁぁん!!」


これは身体機能が超越している者でなければ躱せない無差別攻撃とも呼べる策略だ。

その最たる蒼の公子、緋色の少女、アイリですら捌き切るのに苦戦しているのだから、純粋な魔導色が強いレティシアには対処が不可能なのである。

それを偶然、オルランドとオリヴェイラに遅れる形で突っ込んだユーリが間に合い、彼女の前に立ち一本たりとも逸らさず捌き切った。


ユーリ「く…そ…!」

レティシア「殿下!!」

アイリ「はぁ…はぁ…っ」


自分の盾となり身を粉にした末、夥しい傷を負い倒れたユーリの元に駆け寄るレティシア。

意識はある。

しかし、戦闘続行はもはや不可能であった。

この場においてレティシアは己の力不足を痛感した。

ユーリ程の重傷ではないものの、小さな身体で体力的にも限界が来ていたアイリもまた膝が崩れていた。

そうした中で、グランシャリオの奇策を物ともせずに突っ込んだ2人の攻撃が、身体を数多の武器に貫かれながらも彼を捉えていた。


グランシャリオ「くっ、お前達、正気か…!?」

オルランド「はっ…」

オリヴェイラ「…」


オルランドとオリヴェイラ。

彼らは危険を顧みずに、無数の武器が襲い掛かる中でひたすらグランシャリオに無心に特攻したのだった。

【白い翼】の奮闘に加え、確かに2人の攻撃が届き小さくはないダメージを彼に与えた。

その命と、引き換えに。


グランシャリオ「だが…惜しかったな…!」


大剣を振りかぶり生じた凄まじい剣圧が、懐にまで攻め込んできたオルランドとオリヴェイラを吹き飛ばす。

決死の覚悟で懐に攻め入った2人は身動き一つ取らず、地面へと叩き付けられる。

オリヴェイラに至っては消滅の前兆、即ち、既に事切れていた。


蒼の公子「オルランド、オリヴェイラ!!!!」


決死の作戦を取り見事成功させた戦友の元へ、蒼の公子が駆ける。

その生命はもはや風前の灯、彼もまた旅立とうとしていた。


オルランド「はは…ざまぁみやがれ…アリエル連合の底力、思い知れ…!」


オリヴェイラも巻き込んだ無謀な戦術だったが、オルランドは見事功を成したことで、してやったりの表情を浮かべている。

彼と共に公国に全てを捧げる2人にとって、もちろんこんな日が訪れることがない方が良いに越したことはなかったが、後はグランシャリオに負わせた傷が、攻略の足がかりになればと願うばかりであった。


オルランド「あともう少し…だったんだがな…___…後は、任せた…必ず、アリエルに…栄光、を…」

蒼の公子「っ…グラン、シャリオ…!!」

緋色の少女「…!」


オリヴェイラに続き消えていくオルランドの亡骸を、蒼の公子は最後まで抱き抱えていた。

同時に込み上げるは、グランシャリオへの敵意。

何とか落ち着こうと務めるも、白い翼はもちろんのこと、【真七星】との戦いで散っていた仲間達、そしてオルランド、オリヴェイラ、フォアストルといった学友達に先立たれてしまい、その上で冷静を装える程蒼の公子の精神は成熟していない。

アイリ、ユーリ、レティシアもこれ以上の戦闘に臨めず、残るは彼と緋色の少女、ただ2人を残すのみとなってしまった。


蒼の公子「うおおおおお!!」

グランシャリオ「っ…!(あの2人から貰った傷が思ったより深いな…!長引かせるとこちらが不利になるか…!)」


凄まじい気迫で怒涛の攻撃を繰り出す蒼の公子。

随所で氷の剣を顕現させ手数を増やし、二刀流で攻め立てる。

犠牲を払いつつも、着実にダメージを積み重ねていく白銀の翼を前に、グランシャリオは少なからず焦りを感じていた。


緋色の少女「私も、まだ…っ!?」


蒼の公子の奮闘に、自身も続こうと緋色の少女も気力を絞ったところ、突如膝から崩れ落ちた。

無理もない。

ここまで同期のレグルス戦、かつての同志だった【異邦の反英雄】戦、【真七星】の一角である【虚空の狂信者】戦と、強敵との連戦が続いた。

緋色の少女と蒼の公子は実力上はほぼ互角だが、もし差があるとしたら、それは体力である。

加えて苦楽を共にした仲間をも既に手にかけているのだから、その心労は確実に彼女の心を蝕んでいた。


緋色の少女(お願い、私の体、動いて…!)


まだ戦える。

焦りばかりが募っていく。

しかし、身体がついてこない。

立ち上がれず茫然とする緋色の少女の隙を、グランシャリオは見逃さなかった。


グランシャリオ「リーヴェの娘は、限界のようだな!」

蒼の公子「!しまっ…!」

緋色の少女「…!?」


グランシャリオの突然矛先が蒼の公子から緋色の少女に変わったことで、蒼の公子の反応が遅れてしまった。

手負いのグランシャリオもまだ翳りは見せておらず、鬼気迫る勢いで緋色の少女に襲いかかっていく。

全速力で追おうにもまず間に合わない。

この状況下で彼女を救える手段は、考えうる限りただ一つ。

彼の代名詞とも言える、魔法による縦横無尽の移動。


蒼の公子「(間に合え…!!)水龍の咆哮、【アクアドラゴン】!!」


水で象られた龍の頭に乗り、間一髪のところで先回りを図る。

しかしこれでも間に合うかは五分五分といったところ。

願いにも似た焦燥感が、蒼の公子を駆り立てる。

今この時だけは、打倒グランシャリオよりも緋色の少女を救うただ一点に絞られた。


グランシャリオ「終わりだ、比翼の片割れ、リーヴェの民!ここまで奮闘したこと、忘れまいぞ!!」

緋色の少女「っ!!」

蒼の公子(絶対にやらせない…今度こそ!!)


蒼の公子の脳裏に浮かぶは、幼き頃に体験した忌まわしき記憶。

同時に今の彼を形作る原動力にもなった、あの事件。

二度と緋色の少女を傷付けまいと、己を顧みない手段を取ることに何の躊躇いもなかった。

動けない緋色の少女をグランシャリオの大剣が貫こうとした、その瞬間であった。


緋色の少女・グランシャリオ「「!!」」


水飛沫が上がる。

その時、何かが破損した金属音が響いた。

そして、何かを貫いた、生々しい音がした。

一瞬何が起こったのかわからなかったが、衝撃で閉じた目を恐る恐る開けると、そこには、蒼の公子がグランシャリオの攻撃を庇い立ちはだかっていた。

緋色の少女への被弾を防ぐべく手にした剣を折られながらも軌道を逸らしたのだ。

己の脇腹を貫通する代償を、払って。

比翼の蒼の灯が、消えていく。

・白銀の翼

緋色の少女…戦乙女 Lv50+

蒼の公子…ノーブルロード Lv50+

オルランド…ソードマスター Lv45+

オリヴェイラ…グレートナイト Lv44+

アイリ…上忍 Lv41+

ユーリ…勇者 Lv41+

レティシア…ミスティックナイト Lv45+


・天を目指す者

【大地の覇王】グランシャリオ…オーバーロード Lv65

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