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蒼緋伝〜蒼と緋色の忘却  作者: Shing
蒼と緋色の忘却
45/50

Oblivion Episode 45 星剣

蒼の公子と、剣術の祖とも称される最強の剣豪、【鳳翼の業剣】との戦い。

【ファルタザードの戦い】では緋色の少女との連携を以てしても押し切れなかったところ、アイリの加勢が功を成しやっとの思いで膝を付かせた相手。

今この場所ではその時を遥かに超える程の力を身に付け蒼の公子に襲いかかるも、驚くことにこちらも善戦していた。

最後の戦いにかける思いは、大一番で真価を発揮した。


鳳翼「…」

蒼の公子「いける…!けど油断はしない!貴方を倒し、皇帝を止めるためにも!!」


剣術の祖とも称される達人が相手というだけでも骨が折れるというのに、彼はあくまで【真七星】の一人に過ぎない。

本命は今、仲間達が抑えてくれている。

一刻も早い救援が至上命題とされる中で、蒼の公子は冷静に【鳳翼の業剣】の攻略法を探る。

出方を伺う彼に、一振りの炎の太刀が襲い掛かる。

その切っ先からは常に炎が燃え盛り、駆け巡る戦場を瞬く間に火の海にする。


蒼の公子「大海に渦巻く波濤、【メイルシュトローム】!!」


しかし相性は良かった。

火の海と化した周囲を、広範囲に及ぶ水属性の魔法で打ち消す。

焼け野原と水飛沫とが頻りに入れ替わり、遠方でも緋色の少女が巨岩の雨を潜り抜け赫く燃える炎の剣で【虚空の狂信者】に果敢に立ち向かっている。

まさに天変地異の如き2つの戦いを制するのは誰か、緊迫した戦いが繰り広げられていたのだ。


蒼の公子「激流の氾濫、【スプラッシュ】!」

鳳翼「…!」


激しい水流が【鳳翼の業剣】を襲う。

足元を取られると一気に飲み込まれる。

対する【鳳翼の業剣】は、一振りで炎を展開し、一気に干上がらせた。

詠唱ができず魔法が半減する今の状態とは関係なしに、直接剣を媒体に繰り出してくるため、例え相性上は有利でも生半可な規模では覆してくる、それが今の目の前の相手だ。

彼を上回るには、その先の手を打つ必要がある。


鳳翼「!?」

蒼の公子(かかった…!)


炎の剣が一度収束した瞬間を狙い、蒼の公子が【鳳翼の業剣】の足元を凍て付かせた。

彼程の実力があれば溶かすまでに数秒とかからない。

だがその数秒に満たない時間を稼げれば十分だ。


蒼の公子「これで…決める!!」


蒼の公子は水属性の性質を持つ剣に加え、もう片方の手で氷剣を顕現させる。

前回の勝負では見せていない、決戦を前に彼が編み出した、水と氷の二刀流。

足場を取られ身動きが取れない【鳳翼の業剣】に本来の水属性の剣を振り下ろす。

数秒の時間ながら氷の解凍に時間を取られた彼は、やむを得ずその場に立ち止まり業剣で迎え撃つ。

体幹を軸に回転し、炎の剣圧で迫り来る敵を迎え撃ち跳ね返す、彼の得意とする【鳳旋渦】がその剣を受け止めた。


鳳翼「…!」

蒼の公子「くっ…!?」


その衝突は物凄い衝撃波を伴い、寧ろカウンターに優れる炎の渦が蒼の公子の勢いを巧みに殺していた。

体制を崩されながらこの剣圧は、伊達に剣術の祖で知れ渡っていない。

だがふと機転を効かせた彼はその勢いを利用して、もう片方の手に持つ氷の剣で【鳳翼の業剣】の持つ業剣を弾いた。


鳳翼「!?」

蒼の公子「はあああああ!!」


足元を取られ、得物を失い無防備の【鳳翼の業剣】に、蒼の公子の渾身の一撃が彼を捉えた。

【ファルタザードの戦い】では緋色の少女と2人がかりでも叶わなかった彼に、単身で打ち勝った。

膝をつき地面に剣を突き立てた【鳳翼の業剣】の身体が儚く輝く。

同時に、憑き物が取れたかのような表情に精気が戻り、自分を破った勇者に目を見遣り賞賛の言葉を投げ掛けた。


鳳翼「見事…!強くなったものだ。」

蒼の公子「ハアッ…ハアッ…」


皇帝グランシャリオとの戦いに備え体力を温存しなければならないというのに、ここまで消耗させた【鳳翼の剣】の強さは、流石と言う他なかった。

だが剣を交えて一つ、わかったことがある。

【ファルタザードの戦い】に比べ、他の【七星】達に洩れず強化こそされていたが、【鳳翼の剣】の強さの性質が違っていた。


蒼の公子「勘違いかもしれませんが、貴方はそのままの方が強かったはず。」

鳳翼「光栄なことを言う…奴の提案に乗ってみたは良いが、あまり気分の良いものではなかったな。まるで俺じゃない誰かが俺の身体を使って戦っていたようだ…」


消滅していく手前、【鳳翼の剣】は蒼の公子の指摘を肯定するように事の顛末を振り返る。

彼の剣には、己に絶対的な自信が上乗せされていた。

意識を奪われる代わりに身体が強化されては、彼の真価は発揮されなかったという。

裏を返せば、【鳳翼の剣】として立ちはだかった方が、少なくとも緋色の少女なしには敗北を喫していたかもしれないということだ。


鳳翼「【鳳翼の剣】として立ち合えなかったことが心残りだが…形はどうあれ俺の剣を破る相手に巡り会えたことは、良い冥土の土産になりそうだ…」

蒼の公子「次があったら、その剣、誰かに教えてみてはどうでしょう?敵同士でしたが、貴方であれば、我が国でも歓迎しますよ。」

鳳翼「そうだな…そんな道も、あるかもしれない、な…」


蒼の公子の誘いに満更でもない反応を見せた【鳳翼の剣】は、そのままその姿を止めることなく光に消えていった。

強敵だったが、その信念や強さには敬意を払うべきものがあった。

全ての剣に通ずる【剣術の祖】の最期に冥福を祈った蒼の公子は、急ぎその場を離れるのだった。



同じ頃、緋色の少女と星の力を操る【虚空の狂信者】との戦い。

幾度となく断続的に隕石を落とす彼の猛攻に、緋色の少女は足場を飛び移りしながら反撃を伺っていた。


緋色の少女(あまり時間はかけられません…一刻も早く…!!)


直前の【異邦の反英雄】戦の消耗を全く感じさせないような卓越した身のこなしで、空から降る巨岩に冷静に対処する。

【ファルタザードの戦い】では2人がかりでも勝ち切れなかった、【鳳翼の業剣】を相手に戦う蒼の公子の戦況がちらつく。

しかし目の前のこの男も、彼に比肩する実力者、強大な魔力を誇る、帝国最強の魔術師である。

他人よりも自分の心配が迫られるところ、一刻も早い決着が望まれる。


緋色の少女「天雷の御剣、【サンダーブレード】!」


とにかく【虚空の狂信者】の手を止めなければならない。

緋色の少女は発生の速い雷属性の魔法で反撃する。

【鳳翼の業剣】と違い、彼は俊敏性に優れているわけではない。

その場に留まり、迫る攻撃に対処するスタイルである。

鋭い雷撃が【虚空の狂信者】を襲うが、即座に大地を操り【ロックウォール】で壁を造り事なきを得る。

並大抵の相手であればここで止まり、限られた攻撃手段で攻め立てるしか方法はないのだが、彼女は一味違う。


緋色の少女「翡翠の疾風閃、【エアリアルブラスト】!!」


立て続けに、緋色の少女が今度は違う属性の上級魔法で【虚空の狂信者】の牙城を崩しにかかる。

発生速度が劣る代わりに、攻撃範囲が拡大した風の一閃。

先程の大地の壁では相性上不利で、風穴すらも空けられる可能性がある。

【虚空の狂信者】は風属性に有利な火属性の【フレアストーム】を迎撃手段に用いた。

そのはずが、無詠唱で迎え撃ったが故に相殺された。

緋色の少女にとっては想定内である。


虚空「!?」


狙いはその先、火と風の衝突により引き起こされた爆炎で視界不良に陥ったところを、緋色の少女から放たれた矢が風を切った。

彼女の魔法を放つ予備動作で対処していた【虚空の狂信者】は反応できず、その矢は肩を貫いた。

苦し紛れに【スターダスト】で反撃するが、その後も彼女の多彩な攻撃手段で徐々に追い詰められていく。

その引き出しの多さは、彼にとって想定外に違いない。

最も得意とする火属性だけでなく、風、雷、そして魔法に限らず剣や弓を、それも縦横無尽に使ってくる。

いかに彼の使う力が特異でも、仮に魔力量が互角かそれ以上でも、詠唱と無詠唱の差、そして彼女の圧倒的な攻撃パターンが、明確に差を生んでいた。


虚空「!!」


【ヴィシュヌの会戦】でも使ってきた上級魔法、【シューティングスター】。

その攻撃は煌めく無数の星の欠片が拡散し広範囲に及ぶ。

無詠唱故に性能は落ちているが、【虚空の狂信者】程の力ならばやはり被弾すると軽傷では済まされない。

それでも巧みに星の欠片を躱し、彼に接近していく緋色の少女。

これだけの無数の欠片、躱しきることは難しく、或いは数弾命中したのかも知れない。

しかし彼女は止まらない。

実際のところ何かが身体を掠めた気もするが、今の彼女にはどこ吹く風だった。


緋色の少女「これで…最後!!」

虚空「!?」


【シューティングスター】を掻い潜り、遂には【虚空の狂信者】の懐に入った緋色の少女の炎の剣閃が彼を捉えた。

決定的な一撃となるには十分で、体勢が大きく崩れる。

そのまま膝を突くと同時に、憑き物が晴れていくように精気が戻り、自身を敗北に追いやった幻の存在と改めて相対した。


虚空「同じ相手に二度も負けるか…陛下…この力、私には不向きだったようだ。」


他の【真七星】同様に、謎の力で意志と引き換えに強化された状態で臨んだ決戦。

【ヴィシュヌの会戦】の借りを返そうと、彼らを倒すためなら手段は選ばなかった。

だが蓋を開けてみれば、魔力量その他概ね強化されたのは間違いなかったが、強みとする魔法の質の低下という点においては緋色の少女が相手では痛すぎる代償だった。


虚空「異邦の民、リーヴェの民…空想上とされた存在と手を組み、或いは敵対するとは、考えもしなかっただろうな。華麗なる比翼の片割れよ…その手で勝利を勝ち取って見せよ。陛下を倒せる力が、その身に備わっているなら、な…」

緋色の少女「…」


消えていく【虚空の伝道者】から激励とも取れる手向けの言葉に対し、緋色の少女は特に反応は示さなかった。

ただ間違いなく強敵だった相手からの言葉としては違和感すらも覚える。

既に残滓すらも消滅した彼に敬意を示すように緋色の少女も彼に一礼し、彼女は立ち去っていくのだった。



緊迫した戦場が荒野を渦巻いている。

【鳳翼の業剣】を下した蒼の公子が、息切れ切れに足を走らせていた。

他の戦いはどうなったのか。

【虚空の狂信者】と相対した緋色の少女のことが気がかりだが、流石に戦いに私情を持ち出す程彼も愚かではない。

シャール達だ。

旧【白い翼】の面々が皇帝グランシャリオを相手取り奮闘してくれているはずだ。

救援に向かうなら真っ先に彼らの方だ。

緋色の少女やオルランド達なら大丈夫、必ず駆けつけてきてくれる。

心のどこかでゆとりを持たせようと前向きに考えようと切り替える。


蒼の公子(シャールさん、ジラールさん、テュルバーさん、ダノワさん、チャルデットさん、ナモ…!!)


しかしわかってはいたが、焦りという感情はそう簡単に拭えるものではない。

一人一人の無事を祈りながら、単身蒼の公子は急ぐ。

この丘を越えれば【白い翼】が奮闘する戦場に出るはず。

猛烈な勢いで目標の戦場に躍り出た、その時だった。


グランシャリオ「ほお…お前が来たということは、【鳳翼の業剣】を破ったというのか。見事。こちらもちょうど、カタが着いたところだ。」

蒼の公子「なっ…!?」

シャール「…」


グランシャリオが、大剣でシャールを貫いていた衝撃の光景が、蒼の公子を絶句させた。

辺りを見回す。

他の仲間達の姿はない。

撤退したのか。

シャールが殿を務めたのか。

いや、それはあり得ない。

ここが崩れれば、他の戦場に影響が及ぶ。

誰一人とて後退せず、皇帝を相手に一人、また一人と失いながらも、こうして蒼の公子が駆け付けるまでの時間を稼ぎ、最後にシャールが力尽きた。

皮肉なことに、その解釈が一番しっくり来た。


蒼の公子「グランシャリオ!!!!!!」


全てを察した蒼の公子の激昂が、荒廃した大地に轟く。

盟友を失った彼の怒りが、剣を握る手に力が込める。

全ての元凶との戦いが、幕を開ける。

・白銀の翼

緋色の少女…戦乙女 Lv49+

蒼の公子…ノーブルロード Lv49+


・真七星

【鳳翼の業剣】…剣聖 Lv58

【虚空の狂信者】…黒魔術師 Lv58

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