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蒼緋伝〜蒼と緋色の忘却  作者: Shing
蒼と緋色の忘却
43/49

Oblivion Episode 43 兄妹

唐突に行方を眩ませていた【七星】が勢揃いしただけでなく、意識と引き換えにそれぞれ強化された状態で立ちはだかった。

あまりにも矢継ぎ早の展開で、作戦という作戦は何もない。

これから白兵戦の展開になる。

しかしそれでは、単体でも強力だった【七星】に加え皇帝グランシャリオもいるとあらば、早々の戦線崩壊は免れない。

誰かが敵を引きつけ、その間に他の敵を叩く、それが最も現実的とすら思えた。

その非情な決断を下すには、蒼の公子は若過ぎた。


シャール「___様!!」

蒼の公子「!」


それを後押しするのが年上というもの。

蒼の公子と同じ作戦を考えていたシャールが、まもなくぶつかる激戦を前に提言する。


シャール「皇帝グランシャリオは、我ら旧【白い翼】が相手を務めます!我らが時間を稼いでいる間、皆さんには他の【七星】の相手を頼みたい!!」

蒼の公子「!…シャールさん、こんな重過ぎる役目を担うのが、貴方達なのですか…!」


まず今打つべき一手として、強大なグランシャリオを誰かが足止めしなければならないというのは蒼の公子とシャールの共通見解であった。

だがその手段が意味するのは、ある種仲間を囮にすると同義でもある。

その役目を、シャールは旧【白い翼】の団員を率い引き受けると直訴したのだ。

当然拒否するところであるが、状況が状況だけにあまりにも酷な判断を迫られる。


シャール「悩んでいる時間はありません!皇帝さえ止めれば、他の皆さんで【七星】を止められると、俺は確信しています!!」

蒼の公子「っ…!お願いします、皆さん!!どうかご武運を!!」

テュルバー「おうよ!【白い翼】全員で、皇帝を引っ掻き回してやるさ!!」

ジラール「俺達が時間を稼ぐ…殿下も、必ずや…!!」


己の役割を理解したと、元【白い翼】の面々がグランシャリオへと突撃する。

中にはナモまで…彼女が一番年端もいかない。

だが誰が何と言おうと、彼女もまた【白銀の翼】であると同時に立派な【白い翼】の一員であった。

その誇りが、彼女を突き動かしていた。


蒼の公子「(シャールさん、テュルバーさん、ジラールさん、チャルデットさん、ダノワさん、ナモ…!俺達が駆け付けるまで、どうか…!!)総員、敵の動きを注視し、各個撃破に努めよ!!絶対に誰一人フリーにさせるな!!」


蒼の公子の号令が味方に伝達される。

一人一人に指示を出す時間が惜しい。

かつて【七星】達はどんな戦闘スタイルだったか。

それぞれが自分に合った敵を見定め、各個散開する。


グランシャリオ「…と、あちらは始まったようだな。改めて聞くが、お前達に俺の相手が務まるのか?いかに各地を転戦し勇名を馳せた【白い翼】といえど、俺は荷が重いぞ?」


白い翼の面々に囲まれたグランシャリオが、配下の【七星】と激突する蒼の公子達を遠目に見遣りながら、シャールに尋ねる。

今なら見逃してもいい、そう聞こえたようにも捉えられるが、この戦線が崩壊すると蒼の公子達に被害が及ぶ。

それだけは絶対に阻止する。

今のグランシャリオの言葉は、白い翼の団員達の闘志に火をつけた。


シャール「ここは我ら【白い翼】の戦場、我が主に託された役目、そして、未来への礎となる局面。森と草原と共に育った我らを見くびるな!!」

グランシャリオ「ふ、確かに無礼であった。では、本気で障害を取り払わせてもらおう!!」


本気で挑む相手に撤退を促すのは礼節を損なう。

今は白い翼との戦いに集中すべく、グランシャリオは彼らを迎え撃つ。

これまでの戦いとはまるで格が違う。

果たして生き残れるのか。

直感が告げている。

その可能性は、限りなくゼロに近い。

蒼の公子達が【真七星】を倒す時間稼ぎとして、家族同然の団員の命を危険に晒す決断を自ら下したのだ。

だが不思議とその決断に、反論の声はなかった。


シャール「(殿下…貴方の麾下として公国の旗の下で戦えたこと、この生涯最大の誇りでした…!必ずや、連合に勝利を…!)いくぞ!!!!」


グランシャリオに波状攻撃を仕掛ける白い翼。

誰かがやらなければいけないことならばと、蒼の公子達に一縷の望みを託すのだった。



【真七星】との戦い。

既にかつて戦った当時とはかけ離れた実力を、今まさに目の当たりにしている。

中でも【鳳翼の業剣】と【虚空の狂信者】が別格で、加えて威力が半減しているとはいえ無詠唱による【虚空の狂信者】と【時空の魔女】の魔法を回避するのに手一杯であった。


蒼の公子(【鳳翼の剣】の相手は、俺が…!となれば、【虚空の探求者】は___に任せるしか…!)


まずはそれが手堅いだろうと推測する蒼の公子。

緋色の少女に目配せをすると、彼女も自分の考えを読み取ったのか相槌で返してくる。

己の相手を見定めた比翼の双璧が、【真七星】の攻撃を掻い潜り標的を引き付ける。

2人の判断が素早かったおかげで、【鳳翼の業剣】と【虚空の狂信者】の攻撃にも晒されながらも味方にまだ被害は出ていない。


蒼の公子「【鳳翼】!!!!」

アイリ「!!」


アイリに狙いを定めた【鳳翼の業剣】の剣を受け止める蒼の公子。

彼女を離脱させるべく、力づくで弾き飛ばす。


蒼の公子「貴方の相手は、俺だ!!」


【ファルタザードの戦い】から始まり、その後も幾度と衝突した蒼の公子と【鳳翼の剣】改め【鳳翼の業剣】。

いずれも、単独で勝利した覚えはない。

決着を着ける戦いが大一番で、巡り巡ってくる。


緋色の少女「【虚空の探求者】…勝負です…!」


そして、【真七星】サイドとの戦いの命運を分ける戦いがもう一つ。

【虚空の狂信者】に、緋色の少女が挑む。

あの【ヴィシュヌの会戦】以来の再戦。

あの時も2人がかりでやっとの思いで倒したが、当時とは強さは段違いである。

ここで止めなければ、戦局は覆せない。

比翼の双璧が、【真七星】の二大戦力を相手取る。

勝利こそが、最低条件だ。



ライノルト「粉砕する巨石、【ストーンクラスター】!」


ライノルトが【樹海の守り人】に地属性の魔法を繰り出す。

無数に散らばった岩の破片が一斉に強襲するその魔法は、彼程の実力があれば回避は容易ではない。

しかし当然【樹海の守り人】が甘んじて被弾するとは考えてはいない。

いかに対処してくるのか、そこを見極める一手だった筈が、誰も予想しなかった光景を目の当たりにする。


魔女「…!」

サロモン「ライノルト!気を付けろ、【時の魔女】が狙って…!」

ライノルト「ああ、この距離 なら…!?」

オルランド・オリヴェイラ・レティシア「「「!?」」」


一瞬、時間が止まった感覚を覚えた、いや間違いなく止まった。

ライノルトを限定的に、体感で約2秒。

この2秒という時間、この苛烈な戦場で動きを止められた場合何を意味するのか。

【樹海の守り人】の、反撃。


樹海「…!」

ライノルト「嘘…だろ…!?」

サロモン「ライノルト!!!!」


【樹海の守り人】の強烈な斧の一撃が、動きを一瞬止められ対応に遅れたライノルトを捉えた。

咄嗟に展開した地属性の防御魔法も打ち砕かれる致命的な破壊力だった。

【時空の魔女】による、一時的に時間を止める【タイムストップ】。

無詠唱で2秒なのだから、仮に本来の彼女だった場合の効果はどこまで及ぶのか。

いずれにせよ、今この場において【時空の魔女】の存在は限りなく不利だ。


オルランド「【時の魔女】だ、あの女を狙え!!時間を止めるのは…!?」

烈風「…!」


オルランドが味方を指揮する矢先、そうはさせまいと【烈風の神霊槍】が仕掛ける。

かつてそうであったように、彼に加え【樹海の守り人】、【時空の魔女】の兄妹は3人で一組。

意識がなかろうが、かつての繋がりが連携を強固なものへと昇華させる。

ライノルトがいきなり致命傷を負った。

この3人を、どう打ち崩せばいいのか。


樹海「…!」

オリヴェイラ「大きいのが来る!!備えろ!!」


【樹海の守り人】が繰り出す【ウッドハンマー】。

威力が半減しているとは思えないほどの巨大な木の幹が振り下ろされる。

全員直撃は回避したが、飛んでかわした者は尽く空中で身動きが取りにくい。

当然そこを、【烈風の神霊槍】と【時空の魔女】が逃すはずもない。

次に狙われたのはフォアストルだ。

【烈風の神霊槍】が、【ウッドハンマー】を回避したばかりの彼を追撃する。


フォアストル「来た…!けど、体勢を崩されようが狙いは外さない僕の 腕なら…!?」

オルランド「フォアストル、避けろ!!!!」


オルランドが時間が止まった感覚を察知し、フォアストルに大声を発する。

しかし、一瞬でも時を止められると人とは何もできなくなる。

次の瞬間には、敵が目前に迫っている凶悪な魔法であった。


フォアストル「え…?」


気付いた時には目前に迫っていた【烈風の神霊槍】の槍が、フォアストルを貫いていた。

オルランドの警告虚しく、既に手遅れだった。

貫かれたフォアストルの身体は無造作に投げ飛され、次の標的を見据えていた。


オルランド「貴様ぁぁぁ…!!!!」

オリヴェイラ「落ち着けオルランド!!活路はまだある!!」


学友に致命傷を負わせた【烈風の神霊槍】に激昂するオルランドをオリヴェイラが諌める。

ここで激情しては、敵の術中に嵌ってしまう。

ライノルトとフォアストルの2人を失う痛恨の戦況だが、一人冷静に分析する者がいた。


レティシア(あの時間と空間を操る魔法…雷属性の残滓がありました…!)


味方が倒れようとも、動揺せずひたすら敵の観察に専念したレティシア。

彼女の言うように、【時空の魔女】が操る魔法、【時属性】には雷の力が含まれている。

純粋な雷属性でいえば、今のレティシアの右に出る者はいない。

雷の使い手は、熟練度がそのまま音速に近い速さの雷魔法を繰り出すことができる。

【時空の魔女】より雷の力で上回れば、彼女を止められるかもしれない。

この戦場の鍵を握るのは、間違いなく時属性を操る彼女である。


レティシア(この作戦なら…ですが…!)


レティシアにはある作戦が浮かんでいた。

しかしこの作戦を通すには、無視できないリスクが付き纏う。

【烈風の神霊槍】、【樹海の守り人】を潜り抜けて【時空の魔女】に攻撃を通す。

2人を足止めする以上、必然的に味方を危険に晒すこととなる。


レティシア「オルランドさん!!」

オルランド「…ああ、わかっている。狙うは【時の魔女】だ。何か策でも浮かんだのか?」

レティシア「はい!ですが、皆さんの力が必要です!」

オルランド「…何となく理解した。オリヴェイラ、行くぞ。」

オリヴェイラ「上等!」

サロモン「俺も行く。あいつがやられた分も…!」


切迫した状況の中詳しい作戦を聞く暇はないが、最大目標が【時空の魔女】であると共通認識がある以上、各々が何をすべきか言葉にせずともわかっていた。

彼女を倒せば、戦局が変わる。

その切り札たる者はレティシアであり、彼女に託す一手に打って出た。


オルランド「【烈風の神槍】…決着を着ける!!」

オリヴェイラ「【樹海の番人】は俺がやる!!」

サロモン「よくも我が友を…!!」


オルランドとオリヴェイラがそれぞれ【烈風の神霊槍】と【樹海の守り人】に斬りかかり、サロモンも【時空の魔女】に牽制の【ダークボール】を放つ。

レティシアは必殺の一撃のために集中する。

この先何があっても乱してはならない。

何があってもだ。


魔女「…!」

サロモン「な…に…!?」

オルランド・オリヴェイラ・レティシア「「「…っ!!」」」


オルランドとオリヴェイラが【烈風の神霊槍】と【樹海の守り人】を【時空の魔女】から引き剥がす中、【時空の魔女】は攻撃に転じ鎖状の鞭を穿つ時属性の魔法、【チェーンストライク】が目に見えぬ速さでサロモンを貫く。

丁度彼がレティシアより前の立ち位置にいたおかげで、彼女に被弾はしなかった。

動じてはいけない。

サロモンが命を賭して盾となった以上、この狙いを外すわけにはいかない。

奇しくも、前回の【時の魔女】戦で引導を渡したレティシアの代名詞かつ最も得意とする雷属性の上級魔法が迸った。


サロモン「い…け…レティシア嬢…!!」

レティシア「っ…!!紫電の雷光、【ハイパートロン】!!」

魔女「…!?」


サロモンの思いを汲み、レティシアの【ハイパートロン】が【時空の魔女】を貫いた。

経歴上は母国で先輩に当たる彼だが、彼女に託すことに勝機を見出した彼は壁になることを厭わなかった。

仲間がまた一人倒れたが、エクノアが誇る2人の魔導士の手により、この場は【烈風の神霊槍】と【樹海の守り人】を残すのみとなった。

このまま勢いで押し込む。

オルランドとオリヴェイラが怒濤の勢いで畳み掛ける。

敵二人組の個々の戦力は依然高いが、【時空の魔女】を失ったことで陰りがある。

あともう一押しがあれば、打ち崩せる。

動きを止めず、果敢に攻め立てる。

だが人の身である以上、必ず攻撃を繰り出す手が止まってしまうタイミングがある。

徐々に敵に付け入る隙を許し、オルランドとオリヴェイラに危機的な状況が迫る。


オルランド(クソ、まずいな…!)

オリヴェイラ(防御を捨てている以上、今反撃を許すとまずい…!)


千載一遇のチャンスをものにできず、【烈風の神霊槍】と【樹海の守り人】がカウンターを仕掛けようとする。

その時だった。


烈風・樹海「「!?」」


【烈風の神霊槍】の右腕に1本の矢が突き刺さり、【樹海の守り人】の足元が砂状に形状を変え動きを止めていた。

同期で随一の弓の使い手だったフォアストルの矢と、ライノルトの地属性魔法【デザートスワンプ】。

両者共に最後の力を振り絞り、味方の窮地を救った。


オルランド「(フォアストル、ライノルト…!)これで終わりだ!!」

オリヴェイラ「はあああああ!!」


体勢を崩した【烈風の神霊槍】にオルランドの剣が、【樹海の守り人】にオリヴェイラの斧が捉えた。

ほぼ同時の攻撃で、共に戦闘続行不可能に追い込んだ。

先にレティシアとサロモンにより事切れていた【時空の魔女】は殆ど形を留めておらず、【烈風の神霊槍】と【樹海の守り人】も後を追うように光の粒子となり消滅を始めていた。

そして同じ現象がフォアストルとライノルト、サロモンの身にも起きていた。

それぞれが負ったダメージが致命傷となり、助かる見込みは残されていなかった。

勝ち残ったオルランドとオリヴェイラがフォアストルを、レティシアがライノルトとサロモンの元へと駆け寄る。


フォアストル「ここまで、かぁ…」

オリヴェイラ「フォアストル…!」

オルランド「…最後の矢、流石だったな。危うく一撃を貰うところだった。俺達は勝ったんだ…お前が命を賭してくれたおかげでなぁ!!」


オルランドの悔恨が響き渡る。

士官学校時代から蒼の公子と共に研鑽してきたその年月は、この先も揺るぎない友情を表していた。

志半ばに散る友の消滅の現実を受け入れられないながらも、その間際だけは共にあろうと、2人は覚悟を決めていた。


フォアストル「後でさ…___に楽しかったと、伝えといてくれないかな…またみんなで…集まりたいなぁ…」

オルランド「…んなもん、自分で伝えやがれ。」

オリヴェイラ「こいつが忘れても気の毒だし、一応覚えておくよ。だから…な?ゆっくり休めよ。」

フォアストル「…ああ。」


最後に笑ってみせたフォアストルは、力尽き消滅していった。

オルランドとオリヴェイラは、目を離すことなく友の旅立ちを見送った。

後で蒼の公子への重く辛い伝言を託された2人は、しばらくの間その場を動くことはできなかった。



同じ頃、レティシアが同郷のライノルトとサロモンの消滅の際に立ち合っていた。

白銀の翼に属したのはレティシアが先であったが、軍歴が長いのはエクノア王国軍から転属された彼らの方である。

彼女はそんな2人を先輩として敬い、魔道士としての心得を指導してもらったこともあった。


レティシア「ライノルトさん、サロモンさん…!」

ライノルト「俺達は…ここまでのようだな…」

サロモン「まあ…レティシア嬢を、助けられたと思えば、悪くない最期だ…」


最後まで共に在れないことが心残りであったが、その表情はどこか達成感に満ちていた。

ライノルトとサロモンは認めていた。

若輩のレティシアの方が、自分達より遥かに才に秀でていることを。

彼女が緋色の少女一筋のため、故郷エクノアの後進たる存在にはなり得なかったが、その躍進は見ていて楽しかったと振り返る。


ライノルト「必ず、生き残れよ…終わったら、一度エクノアにお住まいの両親に顔を見せるんだ…」

サロモン「君の成長を見届けられないのは残念だけど…必ず、後世に名を残す大魔導士に、なるんだぞ…」

レティシア「はい…はい!先輩方、ありがとうございます…!」


激励の言葉をレティシアに贈ったライノルトとサロモンは、最期は力尽き消滅していった。

彼らの活躍なくして勝利は収められなかった。

頼りになる2人の同胞を失い、レティシアも暫くの間その場から動くことはできなかった。



【時空の魔女】の姿は既になく、ほぼ同じ場所に倒れていた【烈風の神霊槍】と【樹海の守り人】の姿形も殆ど崩壊していた。

その消滅の間際、憑き物が消えたかのように2人は正気に戻っていた。

お互い僅かに健在であることを確認した彼らは、同調するかのように声を発した。


烈風「所詮は…」

樹海「ああ…俺達の、じゃない…」


その言葉を最後に、【烈風の神霊槍】と【樹海の守り人】もまた消滅していった。

その時を迎えるまで、不思議と悔しさは感じなかった。

意識がない中で3人を手にかけた。

もう少し敵の戦力を削ることもできただろうが、要である妹を討たれた時点で、勝敗は決したようなものだ。

比翼の蒼緋ですらない敵に敗れたことだけが腹立たしかったが、今となってはどうでもよくも感じた。


魔女『2人揃って何やってるの!?』

烈風・樹海『『!?』』


突然聞き慣れた甲高い声で怒鳴られた。

そこは死後の世界だろうかその手前だろうか、或いは別の空間か、とにかく何を怒られたのか理由もわからず【烈風の神槍】と【樹海の番人】は戸惑った。

見るとそこにはいつも2人と行動を共にしていた、【樹海の番人】にとっては実妹がかつての姿で立ち竦んでいたのだ。


魔女『陛下から賜った力を奮えば、あいつらに勝てるってお兄様言ってたじゃない…!それが中途半端に負けてしまって…陛下の言葉は、嘘だったの…?』

樹海『…』

烈風『…いや、嘘じゃない。実際、あと一歩だった。』


言葉に詰まる【樹海の番人】に代わり、【烈風の神槍】が弁解する。

これまで誰一人とて欠けることのなかった【白銀の翼】に損失を与えたのだ。

だが、その手段に対し些か疑問があったと、他に誰もいないここで初めて打ち明ける。


烈風『他所の誰か、例え陛下の作戦だとしても、自分達の腕だけでは勝てないのでは、勝敗にはもはや関心がない。陛下と最後まで共に在りたかったが…変な話だ。』

樹海『やれるだけのことはやった。一矢報いられた。後は…ゆっくり休もう。』

魔女『…それなら、戦わずして逃げれば良かった!命を救ってくれた恩人かもしれないけど、結局こんな形で利用されて終わりじゃない!!私はただ、また3人で暮らしたかった!!』


元々はしがない村人でしかなかったが、ある日突然日常が奪われた。

その窮地を救ってくれたのが現皇帝グランシャリオ。

彼は生き残った3人に目をつけ、配下に取り立てた。

自由が効かない一点を除けば、生活する上で貧しい思いをすることはなかった。

皇帝に見出され生活が一変しながらも、兄と彼の親友と行動を共にすることができた。

だが真に欲しかったのは、決して裕福ではなかったが3人で懸命に生きた、あの充実した日々であった。


樹海『そうだな…またあの時に、戻れたら良いな。』

烈風『一度帰るか…俺も、あの風景が懐かしくなった。』

魔女『もう終わっちゃったのよ…みんな消えてしまって、叶えられないじゃない…!』


【時の魔女】の啜り泣く声に、【烈風の神槍】はおろか、兄の【樹海の番人】も悼まれなくなり妹の肩に手を当てる。

真っ白な世界で、3人は各々が後悔を秘めながら空間に溶けていった。

お互いに損失を出した【白銀の翼】と【真七星】の死闘。

まだ、勝負は決していない。

・白銀の翼

レティシア…ミスティックナイト Lv44+

オルランド…ソードマスター Lv44+

オリヴェイラ…グレートナイト Lv43+

フォアストル…スナイパー Lv42+

ライノルト…賢者 Lv43+

サロモン…ソーサラー Lv43+


・真七星

【烈風の神霊槍】…聖槍使い Lv53

【樹海の守り人】…バーサーカー Lv52

【時空の魔女】…ウォーロック Lv50

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