Oblivion Episode 39 挑戦
ウルノ帝国帝都【カーラネミ】。
他国と国交がなく全貌が不明だったが、大国に相応しく広大かつ優雅な帝都にて、4年もの年月が流れた戦いの幕を降ろす市街戦が繰り広げられていた。
長きに渡る戦いの命運が、ここカーラネミの地で決する。
流石に敵国の首都だけあり配備された兵は精鋭揃いだったが、帝国を追い詰める勢いそのままに、連合軍も負けていなかった。
蒼の公子『ナモ、【七星】の動向は?』
決戦を前に、蒼の公子は白銀の翼や将校達を集めて、最後の作戦会議をを開いていた。
白銀の翼の一員であるナモは、愛馬を通して取り分け強い強者の波動を感じることができるようになり重宝されていた。
ナモ『それが…どこにもいないんです。アークトゥルス城の内部も探りましたが、それらしき反応が…』
オルランド『どうなってんだ?まだ【鳳翼】と【修羅】、【凶星】が健在だろ?』
シャール『ペガサスを介したナモの探知能力は俺が保証する。その彼女を以てして見つけられないということは、実際に帝都にはいないんだろう。』
ジラール『とはいえそれなりに粒揃いの精鋭が集結しているらしい。いないならいないで、作戦を進めるべきだ。』
軍議で交わされた意見が脳内を過りながら、蒼の公子が前線で指揮を振るう。
隣には、この大戦を通して馴染み深い光景となった緋色の少女が肩を並べている。
蒼の公子「オルランド隊はグリングラス軍を率い西の区画へ、シャールさんの部隊はキルリス・イリアスの狙撃隊と騎馬隊を率い東の区画へ!」
オルランド「おう!!」
シャール「承知!!」
蒼の公子「皆、後で必ずアークトゥルス城前で落ち合おう!他の隊は俺に続け!連合軍に…栄光を!!」
味方に指示を送り、三手に分かれる。
東西の区画に主力である白銀の翼を集中させ、中央をその双璧たる蒼の公子と緋色の少女が中心となり切り開いていく。
帝都決戦ともなると敵軍も死に物狂いで、相手が誰であろうと果敢に挑んでくる。
ウルノ兵1「アリエルの将を討ち取れ!!ここで止められねば、勝利はない!!」
ウルノ兵2「ウルノの底力、思い知れ!!」
流石に皇帝の居城へと続く中央のウルノ兵の質は士気と併せてもすこぶる高く、一筋縄ではいかなかった。
立ちはだかる者は容赦はしない。
迎え撃つ蒼の公子と緋色の少女が体勢を整える、その瞬間。
レティシア「天雷の御剣、【サンダーブレード】!!」
ウルノ兵1・2「「「ぐああっ!!」」」
レティシアの行使する雷の剣が、敵の頭上より雷鳴と共に落とされる。
緋色の少女の従者として、比翼の蒼緋と共にアークトゥルス城へと続く中央の区画の攻略に抜擢されたその実力を、如何なく発揮する。
ウルノ兵3「怯むな!!確実に一人ずつ仕留めろ!!」
蒼の公子「!」
多少の障害をものともしない比翼の蒼緋率いる連合軍を、それ以上の兵力で迎え撃つウルノ帝国軍。
うち数名が、蒼の公子を目掛けて突撃してくる。
精鋭といえども返り討ちは造作もないが、わざわざ彼の手を煩わせることもないと緋色の少女が前に出ようとする。
それよりも早く、小さな影が帝国軍の強襲に対処した。
アイリ「…!!」
ウルノ兵3「何だ…獣…?いや、分…身…!?ぐあっ…!」
あたかも複数いるかのように錯覚を引き起こす人型のアイリの個人技に、帝国兵が惑わされる。
どこから襲ってくるやもしれぬ獣のような動きに、なす術がなかった。
比翼の蒼緋に加えレティシアとアイリの活躍で、最も熾烈と目されていた中央の攻防においても、快進撃は止まるところを知らない。
蒼の公子『だが、皆、心して欲しいことがある。』
決戦を前に、蒼の公子は集まった仲間達へ、最後に看過できない重要事項を提示した。
その表情は真剣さと険しさが混在しており、少なからず焦燥感も見え隠れしながらも、味方を鼓舞していた。
蒼の公子『我々の同志、シングが、まだ戻っていない。知っての通り、彼は必ず期待以上の有益な情報を我々に齎し、これまでの戦いを有利に推し進めてくれる原動力となった。その彼が決戦の日になお戻っていないということは、今なお偵察、継戦、或いは負傷、敗走、最悪消滅の可能性も脳裏に入れておかなければいけない。それだけこの戦いがどれ程重要かを物語っている。皆、必ず生き残るんだ。生きて、勝って、故郷へ戻るためにも…!!』
あの激励は、最後の戦いということもあり味方の士気を底上げするのにこれ以上ない効果を持っていた。
次期公爵ないしアリエルの国王と目される立役者だけあり、誰しもが離脱することなくついてきてくれた。
その彼率いるカーラネミの中央を攻略する部隊は、予想に反してオルランドやシャールに託した東西の区画よりも最も速く、皇帝の居城アークトゥルスへと続く橋まで軍を推し進めた。
最後は城を守護する待ち構えた近衛兵を倒すのみ。
彼らを束ねる敵将が、何の所縁もない人物であればと、これ程強く願ったことはなかった。
??「来たな、___…この時を待っていた!!」
緋色の少女「!!」
指揮官と思わしき、馬に騎乗し城門を託された男は、緋色の少女の名を呼ぶ。
レグルス・エンブラント。
かつてエクノア王立魔導学院に在籍していた緋色の少女の同期であり、共に切磋琢磨したあの青年。
卒業を前にいずれ敵同士になることは彼の口から示唆されていたが、ついにこの時がやってきてしまった。
レグルス「ん、レティシアも一緒か。」
レティシア「人をおまけみたいに…まあ嫌味を感じさせないのが貴方の良いところだったけど。」
どうしても緋色の少女に注目が行くのは仕方ないが、添え物みたいな扱いを受けレティシアは憤慨する。
このやり取りがどこか懐かしい。
敵だとわかっていても、レグルスのことは今も同級生という意識が取れないでいた。
緋色の少女「こんな日がいつか来るとは思っていましたが…」
レグルス「事前に素性を明かしていた分、少しはショックは軽いだろ?」
レティシア「昔から私達の同期の中では骨がある人とは思ってたけど、4年足らずでこの大役を任されるなんてね…」
レグルス「どうだ?俺も、ここまで登り詰めたぜ?」
緋色の少女「…ふふ、変わりませんね。」
今は緊迫した場面だというのに、レグルスのキャラクターのせいで緊張感が揺らぎそうだ。
これがかつての同級生と戦うのに迷いを生み出す彼の作戦であるならば大したものだが、彼は昔から姑息な手は使わなかった。
正々堂々と。
フランクな一面を残しつつも、城門前の攻防へと時計の針が止まる気配はなかった。
レグルス「さて…あまり昔話に浸るのもな。俺の役目は、ここを死守すること。」
レティシア「本気、だね。___様の手を煩わせるわけにも、彼を倒すことに心を痛める必要もありません。ここは私が…!」
レグルス「あー、レティシア、君は下がった方が良い。確かに君の方が成績が優れていたけど、今の俺は…!!」
レティシア「…!?」
レグルスがレティシアに敢えて忠告する。
その刹那、彼の纏う雰囲気が急に変わり、予兆もなく砂塵が巻き起こる。
思わず腕で目を覆ったが、そこに佇んでいたのは、城の門番を務めるに相応しい程の風格を身に付けた同級生の姿だった。
レティシア「これ程だなんて…!」
出まかせではない。
レグルスの言うように、まともに立ち合えば返り討ちに遭うのは自分だと、レティシアは直感する。
少し怖気付いた彼女を守るように、緋色の少女が前に出た。
緋色の少女「___さん、レティシアさん。彼の相手は私に任せてください。」
蒼の公子「同級生なんだろ?君が辛い思いをする必要は…」
緋色の少女「私は大丈夫です。レグルスさんには借りがありますから。それに、彼は、もう…」
レティシア「___様…」
蒼の公子「…わかった。」
レグルスの急激な身体強化に何かを察した緋色の少女は、彼との決着をつけるべく戦闘態勢に入る。
生半可ではない彼女の覚悟を汲み取った蒼の公子は、部隊にレグルス率いる近衛兵を相手取るよう指示を出す。
東西の区画の激戦も有利に進めている中、帝都カーラネミでの決戦はレグルスとの勝負により決まる。
彼という壁を乗り越えるべく、緋色の少女は決闘に応じた。
レグルス「この強さに辿り着いた時、初めから俺の相手は君だと決まっていた!!行くぞ、___…エクノア魔導学院一期生第四席、レグルス・エンブラント、参る!!」
緋色の少女「レグルスさん…勝負です!!」
必然だった緋色の少女とレグルスとの戦い。
学生時代に彼とは何度か模擬戦を行ったことはあるが、4年もの月日もさることながら比べ物にならないことは明白である。
当時から騎乗していた愛馬と共に、レグルスは同期の主席に敬意を払いつつ、彼女に挑戦する。
レグルス「煌めく光の結集、【ルミナスシャイン】!!」
緋色の少女「!!」
空中より光が収束し、敵を討つ【ルミナスシャイン】。
何も対応できないと瞬く間に包囲され、閃光の攻撃を受ける光魔法。
緋色の少女であれば回避は容易いが、彼女の戦闘スタイルを知るはずのレグルスが闇雲に撃ってくるはずがない。
レグルス「粛清の剣、【ディバインソード】!!」
当然、次の一手を仕掛けてくる。
光り輝く無数の剣が、飛翔した緋色の少女を隙間すらも残さず取り囲むように次々と降り注ぐ。
この瞬間、レグルスの狙いを察した。
レグルス「かかった…!闇討ち払う断罪の光輝、【ブリリアントパージ】!!」
レグルスの怒涛の3連続魔法。
【ルミナスシャイン】で誘導し、【ディバインソード】で退路を断ち、【ブリリアントパージ】で敵を討つ。
彼の戦歴において、このコンボで逃れられた者はいない必勝の連撃。
緋色の少女に通用するしない関わらず、最初から全力だった。
だが、彼女はやはり、今もなお同期の中で群を抜いてきた。
緋色の少女「はあっ…!!」
レグルス「!?」
炎の剣を奮い、自らも炎を纏うかのように身体を強化させ、強化状態のレグルスの光魔法の連撃を相殺したのだ。
この世界において、質の高い魔法に対しそれ以上の魔法攻撃で返すことで相殺できる法則性がある。
容易なようで魔法の才に溢れるほんの一握りの使い手がそれを可能とし、緋色の少女はまさにそれを体現してくるのだ。
レグルス(流石だよ…!)
わかってはいた。
やはり、魔法において緋色の少女の右に出る者はいない。
彼女に勝つ方法は、魔法は搦手に抑えながらも、己の武術だけであると。
レグルスは馬上で手に槍を握る。
正々堂々と、勇ましく彼女に挑む。
レグルス「真紅の戦槍、【スカーレットランス】!!」
緋色の少女(!!あれは…)
右手に携えた槍に加え、左手に炎の槍を顕現させる。
馬の手綱から手を放しつつも、レグルスは器用に乗りこなしてきた。
緋色の少女(懐かしい、ですね…)
ふと、懐かしい思い出が蘇ってきた。
いつかの定期試験でレティシアと2人でいたところ、己を呼ぶレグルスの声が木霊する。
レグルス『___、ここにいたか!』
緋色の少女『貴方は…レグルスさん。』
あれは3年目の秋頃だったか。
レティシアと進路に関わる話をしていたところ、後日行われる定期試験の課題に苦慮していたレグルスがクラスを代表して指南を請うたことがあった気がする。
緋色の少女『その慌て様…皆さん今度の試験に焦ってるのね?』
レグルス『正直俺もおさらいがてら___に教えを請いたい気分だ。難解な応用だけにな。俺だけには手に負えん。レティシアも頼めるか?』
レティシア『…何かついでみたいな言い方が気になるけど、仕方ないわね。』
図書室で交わされた何の変哲もない会話。
今となっては研鑽の日々を彩った記憶の欠片。
まさに、緋色の少女の指南の甲斐あり、見事我が物とした【魔法の具現化】と、片や光を纏いし二振りの槍刃が、因果を巡り彼女を襲う。
レグルス「行くぞ、___!!!!」
緋色の少女(レグルスさん…貴方は…)
緋色の少女を上回るには武術しかないと、接近戦で挑むレグルス。
知っている。
彼女は武術においても、エクノア王子グラジオすらも圧倒する使い手だということを。
緋色の少女(私にとって、目標でした。)
緋色の少女も恐れることなく、その身に炎を宿し、物凄い速さで飛翔し果敢にレグルスを迎え撃つ。
目前に迫る敵はかつての同級生でありつつも、ある種の目標であったと彼女は刹那、懐古する。
緋色の少女・レグルス「「はあああああっ!!」」
緋色の少女の一振りの赫き剣と、レグルスの馬上からの光と炎のニ振りの槍が勢いよく交差する。
初め拮抗した衝突だったものの、その進撃は、彼を以ってしても止められるものではなかった。
緋色の少女(さようなら…レグルスさん。)
レグルス「ぐっ…うおおおおお!?」
アークトゥルス城門前で激突した比翼の蒼緋率いるアリエル連合軍の小隊と、市街戦の指揮官を務めるレグルス及び近衛兵との戦闘。
その最たる激戦、緋色の少女とレグルスとの戦いは、早い段階での決着を迎えるのだった。
・アリエル連合軍
緋色の少女…戦乙女 Lv48
蒼の公子…ノーブルロード Lv48
アイリ…上忍 Lv39
レティシア…ミスティックナイト Lv43
・ウルノ帝国軍
レグルス…ミスティックナイト Lv43+