Oblivion Episode 38 不変
シングと別れて、蒼の公子探しを再開する緋色の少女。
大方陣内を見回ったが、未だ見つからない。
代わりとばかりに、なぜか白銀の翼の隊員との遭遇が不思議となおも続く。
緋色の少女「モージさん、ご機嫌よう。」
モージ「ああ、___様、お一人ですか。」
向かいからモージから歩いてくる様子が見てとれた。
連合軍の参謀をも務める彼が一人で行動しているということは、迫り来る帝都攻略に向けて独り整理していたのであろうか。
緋色の少女「シングさんが、出立されました。」
モージ「ええ、事前に彼から窺っています。今回ばかりは止めたかったところですが。」
緋色の少女「確かに常に危険が付き纏う役割ですが、今回は何か?」
モージ「ヴィシュヌでの戦いから今日に至るまで、帝国に【七星】のような主力という主力が現れていないのです。いかに壊滅状態と言えど【鳳翼の剣】はまだ健在のはず。【月明かりの修羅】と【無垢なる凶星】もそこまで手負ではない。負傷した【七星】の復調、或いは欠員の補充、様々な可能性こそ考えられますが…まあ、この懸念材料は今に発したものではありませんがね。」
確かにモージの言うように、この数ヶ月の間大なり小なり戦闘こそあれど帝国側の兵力は連合軍の道を阻む程でもなかった。
どちらかというと、来る帝都決戦に備えた策略…かつて自分達が展開した【ファルタザードの戦い】を、場所と攻守を切り替えて再現しようと、そんな可能性も捨て切れない。
緋色の少女「時間稼ぎ、ですか…」
モージ「あくまで可能性です。だからこそ、敵の動きが妙に静かである以上、偵察は見送るべきだと進言しましたが…止まる彼ではありませんでした。まあ当然、彼の実力は折り紙付きです。実際何度も彼の持ち帰った情報に救われた…我々のできることは、信じるのみですね。」
モージはシングへの信頼を口にしたが、その表情からは少なからず苦渋の判断だったことが窺い知れた。
彼の強さは言うまでもないが、その真価は偵察にある。
気配を悟られず情報収集に奔走する役目こそが、彼の本領である。
先遣隊として交戦するわけでもなく、しかし危険だからとその役割を奪うことは、彼の存在意義を否定することにも繋がりかねない。
緋色の少女「___さんにはこの話は?」
モージ「つい先刻。ああ、そういえば殿下をお探しでしたか?それでしたら今頃は…」
シングを心配しながらも、モージの言うように仲間を信じることこそが信頼の形ともなり得ると気付かされる。
【ヴィシュヌの会戦】で道を切り開くべく、無謀な孤軍奮闘に走り蒼の公子に咎められた己とは役割が違う。
そういう意味では、まだ自分は未熟者なのかも知れない。
それはそうと、蒼の公子の所在についてモージから有力な情報を得られた。
彼とその場で別れた緋色の少女は早速その場所へ向かうも、何の因果か何度目かも数えていない白銀の翼との隊員とまたも遭遇することになった。
レティシア「では殿下、今日もありがとうございました!」
ユーリ「こちらこそ、良い鍛錬になりました!」
緋色の少女「あれは…」
陣地から少し離れた場所で、レティシアとユーリが模擬戦を行ったかのような風景が見てとれた。
今し方終わった様子で、2人して自陣に戻ろうとしているようだ。
ユーリ「あ、___様、お疲れ様です!」
レティシア「___!奇遇ね!」
緋色の少女「ご機嫌よう。」
レティシア「ちょっと___と歩いてこようかな!」
ユーリ「じゃ、僕は先戻ってます!」
思わぬ形で緋色の少女と鉢合わせした。
場違いな空気を察したユーリは2人を気遣い、一足先に野営地に戻るため即座に退散した。
取り残された2人は、散歩がてら行動を共にすることになった。
緋色の少女「ええと…逢瀬の時間をお邪魔してしまったでしょうか…?」
レティシア「お、う…!?___様ってたまにとんでもない言葉を使いますよね。」
学院時代からの親友である2人の会話は、緋色の少女の爆弾発言から始まった。
その後和やかな空気に治まり、野営地の外れの開けた場所で腰掛け、近況を共有し合った。
緋色の少女「ユーリさんとはよく模擬戦をされるのですか?」
レティシア「たまにですね。ほら、殿下は身分が身分だから模擬戦に臨む相手がどうしても萎縮というか遠慮しがちになって、望むような結果が得られないと溢されることがあったんです。___様は士官学校時代の学友であるオルランドさんとかオリヴェイラさんとか、それこそ___様ご自身が務めますから相手には困らないとはが思いますけど。」
緋色の少女「それで、仕方なくレティシアさんがその役目を買って出たと。」
レティシア「まあ、私がそもそも余所者だし相手は男子だしそこまで遠慮はなかったから一肌脱いだわけだけど…」
レティシアが面倒見が良いのは、それこそ他ならぬ緋色の少女自身が図らずも彼女に気にかけてもらったためよく知っている。
ユーリが相手に困っていたところ、少なからず情けもあっただろうがレティシアが行動することは想像に難くない。
レティシア「実力に年齢って関係ないけど、それでも最初私やオルランドさん達とは力の差に開きがあったのよ。でも最近は…」
緋色の少女「何かあったのですか?」
レティシア「強かった…だって今日、初めて負けたもの。うーん何か複雑…」
流石に悔しかったのか、頭を抱えるレティシア。
だがその表情は悔しさ一色ではない様子で、それは口調にも表れていた。
緋色の少女「ですが、何だか嬉しそうです。」
レティシア「そ、そう…?もしそうなら、私も付き合った甲斐があったってことね!でも日に日に力をつけてくる彼のあの眼差し、何かこう、一生懸命さが伝わって…思えば殿下との縁も長いね!バトルグラウンド遠征に始まり、舞踏祭、白銀の翼、模擬戦の相手…」
おどけて調子に乗るように深く頷くレティシア。
しかしこれまでを振り返るその表情からは、純粋な嬉しさでは留まらない感情が、緋色の少女から見てもわかるように見え隠れするようだった。
緋色の少女「何と言いますか…お似合いですよ、お二人とも。」
レティシア「んなっ…!?め、滅多なこと言わないで___様!私と殿下はそんな間柄じゃないです!そういう___様こそ、最近___様とは進展はどうなんですか!?」
緋色の少女「わ、私です…?」
あまりにもレティシアの深層心理に無自覚に踏み込んだためか、思わぬ形で不意打ちを喰らう羽目になってしまった。
進展も何も、蒼の公子の補佐として奔走しているのにそれ以上もそれ以下もないというのが緋色の少女の言い分だ。
立場を弁えていると言い換えることもできるが、そんな言い訳はレティシアの前には通じない。
レティシア「エクノアにいた頃から思ってましたが、この天然天使様め…」
緋色の少女「な、何でしょう…!?」
レティシア「いいから、___様のこと好きか嫌いか、そこをまずはっきりさせなさい!!」
緋色の少女「えええええ…!?」
秘めし想いを白状させようと、これでもかと詰め寄るレティシア。
緋色の少女に対して崇拝の気持ちを忘れない反面、この遠慮のないやり取りができるのは彼女だけだろう。
彼女を虐める心算は毛頭ないが、ここは敢えて踏み込んだ。
緋色の少女「そんなの…今更貴方に言わなくても…」
レティシア「いいえ、今だからこそ言葉にしてください!」
緋色の少女「うう…」
これは、今回ばかりは逃げ場がない。
今までなら言葉巧みにはぐらかすこともできただろうが、レティシアがいつになく真剣だ。
もう長いこと、学院時代だけでなくこの長期化した戦いに今日まで帯同してくれた彼女に、これ以上の隠し事は気が引ける。
緋色の少女「もう、ありきたりな言葉だけでは表せませんよ。私の全て、命に換えても守るべき人。叶うのであれば、戦いが終わった後も遠くからでもその治世を支えられる人に…あいたっ!」
レティシア「何で遠くにいる前提なの!!」
レティシアが素直に白状せよと言うから赤裸々に返しただけなのに、後頭部を手刀で叩かれた。
理不尽にも思う仕打ちだが、彼女は悪びれる様子もなく本気で檄を飛ばしている。
緋色の少女「な、何故って私達はそういう関係じゃ…」
レティシア「あくまで受け身に徹するのね…戦いの時は心底かっこいいのに。___様も___様ですよ、全く手を出さないなんて。でも、どこか浮かないですよね?」
緋色の少女「少し疲れているのではないかと。そう思い始めたのは最近になってから。戦闘においては力に陰りはないのですが、平時の最中に以前のような活気が失われているようで…」
言われてみれば、近頃の蒼の公子の様子を思い返したところ、確かに心当たりがないわけでもない。
この微々たる変化に気付くあたり、流石は他に類を見ない強固な繋がりである。
だが、その原因がわからないレティシアでもない。
今の彼の立場を思えば、答えは雲を掴むよりも容易だ。
レティシア「4年、ですからね…その間、___様はずっと先頭に立って私達を導いた…いわば、私達白銀の翼と連合軍の命を背負っている。その重責は、私達が考える範疇の遥か上をいくのかも。」
アキテーヌ地方への侵攻を機に、既に4年が経過していた。
開戦時16歳だった蒼の公子と緋色の少女も、今や20歳を迎えている。
この期間絶えず戦いっぱなしではなかったにせよ、この4年という月日は王位を継承する者であってもあまりにも重荷であったことは想像に難くない。
レティシアも、その点は緋色の少女に対しても同情を隠さざるを得なかった。
レティシア「それで、___様は遠くから眺めてるだけでいいのですか?」
緋色の少女「ですから、あの人の力になりたいと…」
レティシア「そうじゃなくて、一緒に暮らしたいのですか、暮らしたくないのですか!?」
緋色の少女「ひ、飛躍し過ぎです!」
いきなり同棲という話を聞いて、慌てふためく緋色の少女。
しかしレティシアの追撃は、未だ留まるところを知らない。
レティシア「おかしくはありません!子供の頃の約束にあれほど執着しておきながら、何自分から身を引いてるんですか!!まだスタートラインにも立っていない…いえ、他の誰かが並び立つはずもない!」
緋色の少女「一体、何を…?」
レティシア「よーしもう本気になった、こうなったら意地でも意識させてあげます。動揺するということは、___様にも少なからずその気持ちがあるってことです。もう一度聞きますね?___様と、一緒に暮らしたくはないのですか?」
緋色の少女「そ、それは…」
レティシアの気迫に口籠もる緋色の少女。
考えたことがなかったわけではない。
確かに幼少期の頃、別れの間際に自分を必要だと蒼の公子から求められた時は込み上げるものがあったのは事実。
しかし所詮は子供の口約束である。
今2人で想像しているような婚約どころか、あくまで公国を治める同志としての意味合いの方が近いとすらも思える。
舞踏祭のフィナーレを飾った後で二人きりになったあの時に交わした約束も、両者の間で妙に解釈が違う。
加えて結局のところ自分は他所者であり、王妃として導く者の伴侶に相応しい身分の人間を迎え入れた方が安泰だと、レティシアの言うように引いた立ち位置に収まっていた。
だが、ここでレティシアに二択を迫られ回答を余儀なくされたこの時、緋色の少女からは素直な答えが返ってくるのであった。
緋色の少女「そんなの、一緒に暮らしたいに決まっているじゃないですか。自らエクノアへ留学を切り出しておきながら4年間という月日は、あまりにも長かった。やっとの思いで再会した彼は、全く変わっていませんでした。懐かしかった…でも勇敢と兼ね備えたあの優しさは、私だけのものにしてはいけないですよ。」
これまでにほとんど明かされなかった緋色の少女の蒼の公子に対する想いの丈が、わかってはいたものの生半可なものでは測れないと改めて痛感した。
同時に何と表現したら良いのか、少し頭を捻って導き出された彼女の様は、「健気」と言って他ならない。
生涯付き添いたい想いはあるようだが、彼の高潔な思想に惹かれる者は彼女だけではないはずで、他の誰かを優先したい。
そんな自己犠牲精神を尊いとしながらも、自分自身の幸福を受け入れないその姿勢はレティシアの許すところではない。
レティシア「ですが、___様もきっと同じ想いを…!」
緋色の少女「レティシアさん。私は貴方に話していない、秘密があります。」
レティシア「秘密…?」
緋色の少女「はい。レティシアさん…もし、___…」
親友ですら知らない、緋色の少女に纏わる秘密。
彼女はこのタイミングでレティシアに明かす。
その秘密を聞かされた彼女の表情が、驚愕と悲観に満ちていく。
レティシア「そん、な…!」
緋色の少女「きっと___さんなら、そんな私でも受け入れてくれるかもしれませんが、私が耐えられません…」
レティシア「…___様はこのことは?」
緋色の少女「いえ…ですが、この戦いが終わった後に明かすつもりです。あの人の元で尽くす上で、避けては通れませんから。」
緋色の少女の表情が曇る。
この秘密は、今までレティシアに明かさなかったことからも公にするのは確かに憚れる。
幼少期の頃より蒼の公子のことを一番に想ってきた彼女がいて、なぜこの時まで何も進展がなかったのか、そこに理由があった。
まだ彼にはその秘密を明かしていない。
そこに心の迷いがあると踏んだレティシアは、叱咤した。
レティシア「そんなの関係ありません!そんなもののせいで、___様が最初から諦めることはありません!ずっと一途に想い続けてきたのでしょう!?後にも先にも、___様にとって___様以上の人は現れませんよ!仮にその時がやってきたとしても、意志、思い出は、永遠に残るんです!!」
緋色の少女「…!」
生まれて此の方、ここまで感情が昂って声を大にしたことはあっただろうか。
レティシアの渾身の激励は、緋色の少女に響いていた。
その言葉を噛み締めるように微動だにしなかった彼女を、レティシアがそっと肩を抱きしめた。
レティシア「ごめんね、___様の背負う宿命に何の力にもなれず。いずれは私も、いつの日か…でもね、自分の想いはしっかりと伝えるべき。お互いの身にこの先、何が起こるかなんてわからない。何かあったとしても、___様に後悔はしてほしくない。今という時間は、この瞬間しかないんです…!何より、4年間という歳月が今のお二人の絆を強くしたのなら、きっと___様も、同じ想いのはずですよ!」
緋色の少女「そう、でしょうか…」
誰かに抱擁される感触は、久々な気がする。
過去に幼い頃蒼の公子と目標を達成してはお互いを労い何度もやった記憶があるが、帰郷してすぐ蒼の公子に再会した際に嬉しさのあまりこちらから抱きついて以来は流石に自制心も湧くというもの。
その温もりはこれまで彼のものしか知らなかったが、レティシアのそれはまた別の温かみを感じる。
緋色の少女「___さんも同じ気持ち…もし本当にそうだったら、嬉しいですね。」
緋色の少女は、偽りのない本心でレティシアに笑って返した。
その後横顔には少なくとも己の宿命を理由に諦めたかのような悲壮感はなく、少しでも彼女の背中を押せたことにレティシアは安堵する。
今すぐにではなくとも良い。
戦争が終結し、お互い心の余裕ができた頃合いでも良い。
その判断は本人に託したレティシアは、緋色の少女と別れその場を後にした。
緋色の少女
レティシア『___様!私も、頑張りますから!』
ふと、去り際にレティシアが残した言葉が気にかかる。
まるで緋色の少女に呼応するかのように、漠然とした決意表明だった。
緋色の少女(何を頑張るのでしょう…?)
要領を得ず首を傾げるばかりで、悩んでも悩んでも心当たりがない。
肝心なところで、親友の真意が掴めない緋色の少女であった。
レティシアによる蒼の公子の目撃情報を頼りに歩を進める緋色の少女。
その示された先で、ようやく見つけた。
しかしそこにいたのは、普段あまり見せない、張り詰めた緊張の糸が少し緩んだような彼の姿だった。
蒼の公子「ああ、___か。」
緋色の少女「こんにちは___さん。探しましたよ?」
傍になぜか狐の姿に戻り寝ているアイリを片手に、開けた丘に座り込んでいた。
束の間の休息であることには間違いないのだが、しかしどこか様子がおかしい。
体がきつく辛そうにしている様子もなく、体調不良とまでもいかない。
詰まるところ、蒼の公子のことなら機敏になる緋色の少女が前々から懸念していたことが、表面化したのであった。
数年に渡る度重なる死線、命のやり取り、志半ばに斃れた味方…彼が心をすり減らすのも、無理はなかった。
蒼の公子「少しだけ、疲れてた…」
緋色の少女「…はい。」
蒼の公子「僅かでも良い。皆に気取られないよう、離れた場所で休んでたんだ。俺は皆を指揮する者。あまりこういう姿を見せたくはないからさ。」
緋色の少女「…はい。」
蒼の公子「なのに、こうして見つかってしまうんだものな。こんな姿を一番見せたくない人に。そして同時に、一番頼れる君に。」
緋色の少女「…!」
一番、という響きが何故だか頭に残った。
自分に弱みを見せたくはない、それでいて全面の信頼を預けていると蒼の公子は語った。
その言葉が、物凄く嬉しく感じた。
蒼の公子「___。君さえ良ければ。」
緋色の少女「喜んで。」
何をと言わずとも、それだけで緋色の少女は蒼の公子の誘いを快諾する。
何か彼にしてあげられるわけではない、しかし彼のために何かをしたい。
寝ているアイリを挟むように、その場で腰を下ろし蒼の公子と同じ景色を眺める。
敵国の地だというのに、どこか不思議と故郷を想起させる。
すると、隣に緋色の少女がいる安心感に包まれたのか、蒼の公子がその場でうたた寝する。
アイリを撫でる手も止まり、2人して眠るその姿はどこか仲睦まじい家族に見えなくもない。
緋色の少女(お疲れだったんですね…)
今なお体を支えている蒼の公子を見兼ね、緋色の少女は彼の背後に座り、その両膝に頭を寝かせ安眠を取りやすい姿勢を取らせた。
先程のレティシアの激励が効いたのだろうか。
我ながら大胆なことをしているような気がしなくもないが、不思議と恥じらいはそこまで感じなかった。
緋色の少女(今はゆっくり、おやすみください。)
このひと時が、蒼の公子の心労を和らげる時間になれば良いと、緋色の少女は願ってやまない。
ファルタザードの城壁から見下ろせる、どこまでも続く草原や城下町が脳内に浮かんでくる。
そよ風の漂う草原にて、時間を忘れる程に望郷に思いを馳せ決戦を前に最後の安息の時を過ごすのだった。
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独り、親友と別れた後も後悔の念に苛まれるエクノアの魔導士の姿があった。
その表情は先程まで笑みを浮かべ別れた時と違い、今にも溢れた感情が爆発しそうな程に焦燥していた。
彼女、レティシアは、緋色の少女から突き付けられた宿命を、まだ受け入れられないでいた。
レティシア(否定…しきれなかった…だってあんなに慕いながら、最後は…)
あの時、緋色の少女から明かされた衝撃の事実に、言葉に詰まってしまった。
思い返してみれば、彼女は魔導学院時代の頃から誰とも関わりを持とうとはしなかった。
リーヴェの民珍しさに興味本位で話しかけ、偶然今の間柄になったレティシアが異例とも言える。
その答えがあんな残酷なものであろうとは、腑に落ちると同時に到底納得できるものではない。
あれだけ蒼の公子に尽くしておきながら、その先へと今日まで関係を進展させなかったことに、理解せざるを得なかった。
追い打ちをかけるように、再び緋色の少女のあの言葉が頭を過ぎる。
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レティシア『秘密…?』
緋色の少女『はい。レティシアさん…もし、貴方の周りに10年後も100年後もその先も、姿形が変わらない人がいるとしても、貴方は変わらず接してくれますか?』