Oblivion Episode 32 豊穣
【七星】の一角、【無垢なる凶星】が討たれた今、【月明かりの修羅】を前に蒼の公子、緋色の少女、シングが対峙する。
間違いなく戦況は有利に傾いたはずだ。
蒼の公子と緋色の少女では【月明かりの修羅】の速さには敵わないが、2人が揃うことでその不利はないに等しい。
にも関わらず、彼の表情は余裕を崩していない。
蒼の公子「後は、貴方だけだ。」
修羅「フン…やるな!」
シング(いや…呆気なさすぎる…)
【無垢なる凶星】は、そのあまりの殺意のなさから強敵というより不気味さが際立った。
しかしそれだけで、果たして【七星】に名を連ねる程の強さなのか。
そこは蒼の公子と緋色の少女も釈然としておらず、警戒心を募らせる。
蒼の公子「仲間がやられたというのに、随分と淡泊なんだな?」
修羅「む…そう見えるか?まあそう思うよな。」
怪しい空気を指摘されたが、それを覆い隠せる性分でもなかったため【月明かりの修羅】は素直に観念した。
まだ何かがある。
考えられる可能性はいくつかある。
一つ目は、どちらか片割れが倒されることでもう一方の戦闘能力が変動する説。
だが、今のところ彼に変化があるようには見受けられない。
二つ目は、実はまだ生存している説。
ここが引っ掛かる。
よくよく思い返すと、今し方【無垢なる凶星】は緋色の少女の矢に射抜かれどう消滅したか。
光の粒子となり昇華したか。
否…確かに最期は儚く散っていったが、一方で霞のように、はたまた大気に溶けるように消えていったようにも見えた。
あれは、幻影だ。
その結論に3人が至り、即座にシングが警告する。
シング「(まさか…!)まだだ!!近くにいるぞ!!」
??「勝ったと、思いましたか?」
蒼の公子「!?」
しかしその時には、聞き覚えのある声と共に、既に蒼の公子の死角から何者かが短剣を手に迫っていた。
彼よりも僅かに先に緋色の少女が反応するも、強襲する勢いの差で押し負けることは確実だ。
その数秒の攻防で【七星】の魔の手が迫る、その瞬間であった。
??「!?何者です!?」
修羅「受け止めた…!?」
消滅したはずの【無垢なる凶星】の凶刃を、緋色の少女の剣に合わせるようにもう一本加わり、彼女の攻撃に対抗した。
2人の窮地に現れたのは、この作戦において諸事情で後方に控えさせていたアイリだった。
緋色の少女「アイリ…!ありがとう!」
シング(来てしまったか…)
自分だけでは対処できなかったところを救われ、事情抜きに心の底から感謝する緋色の少女。
一方こうなることは避けたかったシングは複雑で、この後起こる展開に注意を向ける。
その前に一つの疑問を呈する。
シング「こいつ…何故生きてる?」
緋色の少女「雰囲気も違います。先程と違い、まるで正反対…!」
蒼の公子「だが見た目は同じ、紛れもなく【無垢なる凶星】…さっきの子とは同一の存在…?」
3人それぞれ、次々と疑問が浮かんでくる。
緋色の少女の言うように、それまで天真爛漫だった【無垢なる凶星】が、一変してダウナーな雰囲気を醸し出している。
一方で彼女に矢で射抜かれた創痕もなく、同一だが別個体、深まる謎を解決できそうになかった。
凶星「まあ、絶対わからないよね。倒したはずの人が、こうして何事もなく現れたんだから。ちょっと雰囲気は変わったでしょうけど。いいよ、教えてあげる。」
あまりにも淡々と話し、その上自らの能力を隠す気もなく明かそうとする。
自分達のアドバンテージを打ち消すその行為を、【月明かりの修羅】はなぜか止めようともしない。
凶星「自らの分身を作る【ドッペルゲンガー】、それが私の能力。いるんだよね、たまにそういう特殊な能力を持つ人って。ただ私の場合、生み出した分身はどこか頭のネジが緩んでるのが玉に瑕。貴方達が倒したのは、そっちの私。光の粒子に一瞬見えるように退場したけど、それっぽく見せただけ。」
シング「なるほど。だが分身だというなら、どうして最初から2人で来なかった?俺と戦った時もそうだ。あの時俺はお前達2人を同時に相手したが、気配は『3人』だった。」
凶星「だって…めんどくさいし?3対1ともなると、味方に被弾する可能性だってあるし。」
その上やる気がなかったからと捉えられなくもないが、しかしこうして相対した。
事実あと一歩のところで蒼の公子に迫ったのだから、実力は所謂「陽」の状態と差はないはずだ。
凶星「貴方達は見事、分身の私を撃破した。分身は一度行使するとしばらくは使えない代物。【ドッペルゲンガー】がなくとも、私には虹の力がある。貴方達は、私をどう攻略してくるのかな?」
焦っているのか余裕なのか、その表情からは窺い知れない。
分身が倒されるまでどんな腹積りだったのか、【月明かりの修羅】と共に『2人』で加勢するつもりはなかったのか伺う術はないが、いずれにせよ『もう一人』の『本体』が現れた。
確実に相手の手札を1枚減らしたことに違いはなく、ここからは新たな凌ぎ合いが始まる。
そのはずだった。
修羅「おいちょっと待て、何でこんなところにいる!?」
蒼の公子「ん?」
緋色の少女「?」
アイリ「…?」
【月明かりの修羅】が何かに気付き、彼にしては狼狽える様子が見てとれた。
その狼狽ぶりは【無垢なる凶星】にとっても珍しいものらしく、何食わぬ顔で彼に尋ねる。
凶星「どうしたの?」
修羅「バカ、わからねぇのか!?お前の攻撃を止めた奴、あの狐耳、俺達の目的!」
凶星「え?」
【月明かりの修羅】が指差したその先、アイリの姿を【無垢なる凶星】も確認する。
先程攻撃を受け止められてから今の今まで気付かなかったが、それまで冷静だった彼女も少し様子が変わった。
凶星「これは…困ったね。」
修羅「困ったね、じゃねぇよ!どうする、敵側にいる以上、こいつらから引き離すのは至難の業だぞ!」
凶星「あの人達に勝てる勝てないかは別として、既に拠り所が相手側にある以上、それは難しいんじゃない?」
意味深な会話を交わしているが、アイリのことで不穏な内容から油断ならない。
ふと思い返すと、アイリに関連してアミアンでの戦闘を前に事前にシングから念を押されていた。
シング『アミアンで控えているのは、【月明かりの修羅】と【無垢なる凶星】だそうだ。一つ忠告しておく。あの子狐…いや、娘か。今度の戦いには参加させない方が良い。』
それだけを言い残し、それ以上は語らなかった。
どういうことなのか。
その口振から、足手纏いだからというわけではない様子だった。
何か別の意図があると踏んだ蒼の公子はその言葉に従い、アイリを自陣へと待機させた。
結局はじっとしていられずに拠点を飛び出し主の元へ駆け付けたのだが、果たしてアイリは【月明かりの修羅】と【無垢なる凶星】とどのような関係なのか、そして彼らと同郷であるシングは如何なる事情を知っているのか。
敵味方関係なく、何も知らぬが故に聞きたいことが沢山あるのだが、生憎とその空気ではない。
凶星「で、どうするの?力付くで___いく?」
修羅「あのな、仮にも奴らと正面からやり合うのはまだしも、その傍らでそんな器用な真似は難しいに決まってん…うお!?」
不穏な言葉を混ぜつつ、この後の動きを相談する【月明かりの修羅】と【無垢なる凶星】だったが、そこをシングが目にも留まらぬ速さで強襲する。
不意を突かれた形とたった2人は即座に後退し、再び戦闘態勢に備える。
凶星「まあ、そうだよね。」
修羅「ったく、こっちが衝撃の事実に出会している時に、待ってくれねぇな!!」
シング「そんなもん知るか。お人好しでもない奴に何を期待しているんだ?俺はあそこにいる2人とは違う。」
流石の蒼の公子と緋色の少女も、シングのように不意打ちまでして敵の虚に付け入るようなことはせず、それだけは戦いに対する考え方は違っていた。
隙を見せる方が悪いと言わんばかりの奇襲には複雑だったが、あれこれ言う相手ではないのもまた事実だ。
修羅「あのなぁ!お前にとっても無関係ではない話だぞ!?故郷が同じ、立場的にも俺達側のはずだ!!」
シング「誰があんた達の味方だ。事情はわからなくもないが、他国を侵略する者共に俺が与するわけないだろう。我が里、そして主の顔に泥を塗ったあんた達は、俺が斬る。」
修羅「あー…そうだった、お前はあの里長の懐刀だった。」
凶星「故郷の危機よりも、貴方は主の品格を護るのね。」
シング「違うな。あんた達はやり方を間違えたのさ。」
3人にしかわからないやり取りに、蒼の公子と緋色の少女は要領が掴めない。
何はともあれ彼らは立場の違いから相容れない間柄だと理解した。
そして今この場において、次に動くのはこの3人であると、戦況が物語っていた。
修羅「なあ、一ついいか?その獣耳の娘、今までどうしていた?」
緋色の少女「!」
事を構える前に、【月明かりの修羅】はどうしても確認したかったことを2人に尋ねた。
この中でアイリと最も付き合いの長い人物は緋色の少女であり、彼女に返事を委ねる。
緋色の少女「アイリは私達が8歳の時に街道で弱っていたところを迎え入れた、大切な家族です。ただアリエルを離れていた4年の間だけ、私の身を案じ___さんが預けてくれました。」
修羅・凶星「「!?」」
緋色の少女の明かした過去に、【月明かりの修羅】と【無垢なる凶星】は衝撃を隠せなかった。
アリエルを離れていた4年とは即ち、エクノア王立魔導学院に彼女が在籍していた期間に他ならない。
エクノア王国は中立国であると同時に、留学生や行商人を除く如何なる他国の人々を受け入れない半ば鎖国の国でもあったのだ。
凶星「合点がいきました…そうですか、道理で…」
修羅「…仕方ないよな。荒れ果てていく故郷のため旅立った先で行方掴めず。まさかエクノア王立魔導学院の主席が連れていたんじゃあ、な…」
知りたかったことが明らかになり、徐々に落ち着きを取り戻していく。
同時に、これまでの自分達の活動を顧みて、言葉にならない喪失感に苛まれていた。
しかし、過去を振り返っても時は戻るはずもないことを当然理解している2人は、憂いを拭い去る。
修羅「ふん、昔のことを振り返ってもなぁ?今更戻れるわけでもねぇし?」
凶星「ええ。今の私達には、立場があります。」
求めたものが戻ってくる望みは薄くなった代わりに、雇い主に与えられた任は放り出す気はない義理堅い一面を覗かせる。
中途半端の仕事はできない。
いつの間にかやる気に今ひとつ欠けていた【無垢なる凶星】までもが、【月明かりの修羅】に追随する形でアリエル公国が誇る双璧並びに出身を同じくする同胞に立ちはだかる。
この勝負で最も緊張感の増す重要な局面に緋色の少女とアイリが気圧されかけるも、蒼の公子がそっと声をかける。
蒼の公子「大丈夫。この戦い、既に俺達の勝ちだ。」
シング「その通り。奴らが真剣になろうが、その代償に一番肝心なことを置いてきている。」
次の攻防が勝負を決める分水嶺であると見据え、敵の出方を伺う。
遠回しに緋色の少女にはアイリの守護を託し、蒼の公子とシングとで迎え撃つ。
シング「あんた達のおかげで謎が解けた。敵は2人なのに同時に放たれた弾数は3発。まさか分身のものだとは全く予想してなかったが、その分身と絡繰が解けた今が好機だ。」
修羅「んじゃま、動きについて来さえすれば勝てるってか?そりゃあ俺達を…舐めすぎだ!!」
シング「…まだわかっていないらしい。今のあんた達には、まるで負ける気がしない。」
修羅「…ッ、里長の飼い犬が、上から見てんじゃねぇよ!!」
シングの挑発に激昂した【月明かりの修羅】が、雷光の如き速さで迫ってくる。
その攻撃を撹乱させるべく、【無垢なる凶星】が後方からサポートする。
凶星「天虹の帷、【レインボーカーテン】…!」
【レインボーカーテン】。
本来は地面に描かれた紋様から生み出された七色に輝く光の幕で攻撃する虹の魔法を、目にも止まらぬ速さで駆け抜ける【月明かりの修羅】の動きを撹乱させる目隠しにと応用を利かせる。
同郷だけあり抜群の連携を誇る2人に、しかし蒼の公子は全く動じない。
無数に揺らめく虹の幕のどこから【月明かりの修羅】が姿を現すか、蒼の公子は感覚を研ぎ澄ませる。
今なら見破れる。
どの角度から強襲してきても、即座に反応できる。
蒼の公子(そこだ…!!)
修羅「!?」
【月明かりの修羅】が懐に入るよりも先に蒼の公子が動く。
構えていた剣が、【月明かりの修羅】を捉えた。
修羅「…ッ!!」
凶星(やりますね…!)
軽くはない一撃が届いた。
【無垢なる凶星】からしたらあり得ないことが起こった。
俊敏性に劣る相手に、ましてや虹の幕で姿を眩ませた相方が先制されるその様を見たことがない。
感情の起伏に乏しい【無垢なる凶星】も、動揺を隠せない。
予想外の攻防に気を取られて、彼女もまたもう一人の接近に死角を突かれるまで反応に遅れてしまった。
凶星「…いつの間に!?」
シング「だから言っただろう?今のあんた達に、まるで負ける気がしないと。いつものあんたなら、対応できたはず。信念に欠けたブレブレの刃が、俺らに届くと思うな…!」
シングの黒き刃が、【無垢なる凶星】を捉えかけた。
躱わしきるのは難しく、咄嗟の防衛反応で被弾を最小限に抑えようとする。
得意の虹の魔法と併用して何とか彼の射程圏から逃れた彼女は一度距離を取った。
不覚を取ったと焦りの表情が見て取れ、体制を整えようとしていたが、時を同じくして後退していた【月明かりの修羅】に制止された。
修羅「撤退だ___、部隊にそう伝えろ!癪な話だが、巫女様が完全にあちら側に隷属している上に頭が追い付いてない今の状況では、いたずらに消耗するだけだ!!」
凶星「…仕方ない、ですね。」
双方軽くはない傷を負い、まだ動けるうちに【月明かりの修羅】が【無垢なる凶星】に指示を出した。
どちらかというと【月明かりの修羅】に指揮権を委託している【無垢なる凶星】は、代わりとばかりに相方が確実に全軍に指示を行き渡らせるために自らが殿を務めた。
ここで果てるためではない。
十分な距離を確保した【無垢なる凶星】が、ここにきて奥の手を展開した。
シング「(あれは…まずい!)___、詰めろ!!」
凶星「遅いよ。幻惑の迷宮、【ミラージュラビュリンス】。」
蒼の公子・緋色の少女・アイリ「「「!?」」」
防御系の結界魔法、【ミラージュラビュリンス】。
七色の壁に彩られた迷宮を造り出し、敵を留める。
術者の力量次第で広大化し、脱出は困難となる。
この場においては、自身の離脱と帝国軍が撤退する時間を稼げればいいわけで、時間の経過と共に解除される精度に留めた。
シング「___!!」
半透明の壁の向こうに佇む【無垢なる凶星】の姿を見据え、シングは彼女のかつての名を呼ぶ。
同郷ではあるが、決別したとはいえ今の故郷の事情を踏まえ行動を起こした彼女に何も思うところがない彼ではない。
凶星「わかってはいたんだけどね。貴方と私は少し住む場所が違うだけで、あとはそれぞれの里長がどのような判断を下すか。飢えに苦しむ民を救うために消えた巫女様を捜すべく世界を飛び越えた私達と、全ての里を平和的に統一し、里の統制下を図る貴方の主人。4年もの月日をエクノアにいると知らずに無意味に時間を浪費した果てに手段を選んでいられなくなり偶然帝国軍に入った時点で、貴方達とは敵対するって。」
シング「行き違いだったとは確かに気の毒だが、道を違えた以上、あんた達に二度と故郷の地を踏ませはしない。ここで逃れようとも、俺達の手で、この地で必ず引導を渡す。」
凶星「そうかもね。期待してる。いっそ、私達の里も貴方の主に任せた方がって気もしてたし。」
どこか自嘲気味な【無垢なる凶星】だが、それでも今はまだ清算する時ではないと迷宮に閉じ込めたシング達を横目に撤退する。
しかし、最後に思い出したように去り際に一言残していった。
凶星「今日はハラハラしたよ。___もきっとそうだったんじゃないかな。叶わないとわかってるけど、私達、また昔みたいに戻れたらいいのにね。」
シング「!!」
いつか見た懐かしい表情が壁の向こうから覗かせる。
思わず足が止まり、短いながらも3人で過ごした日々が脳内を過ぎる。
その隣で、シングとの応酬が終わったと見るや事態の打開を試みる蒼の公子が一矢報いようとしている。
蒼の公子「逃げるか…!ならこの壁を!」
シング「やめておけ。あの女の力、【虹属性】は幻想、反射の力を司る。その力を併せ持つこの迷宮に閉じ込められたら最後、脱出は困難。魔法でも撃とうものなら、最悪跳ね返ってくるぞ。」
蒼の公子「くっ…!」
既に【無垢なる凶星】の姿はなく、それに連なって【ミラージュラビュリンス】も徐々に解けていった。
先に撤退した【月明かりの修羅】の動向が気になるが、蒼の公子からの痛恨の一撃をもらった状態でオルランド達に挑むとは考えにくい。
帝国軍が彼の号令を境に撤退し始めた様子を見て、何か異変があったのではと他の白銀の翼の面々がこちらの異変を探りに向かってくる。
蒼の公子「大丈夫か、シング?」
シング「問題はない。逃げられはしたが、粛正の手を下す決意に変わりはない。例え、かつての顔馴染みだろうともな。」
とは言うものの、最後に【無垢なる凶星】が残した言葉に一瞬たりとも揺らいだ点は否めない。
次こそは仕留めると、決意を新たにする。
蒼の公子と緋色の少女もシングの穏やかではない心情に理解を示す。
一方でこの戦いで、アイリの正体に迫る秘密が白日の下に晒された。
その会話の内容から、大凡アイリは【月明かりの修羅】、【無垢なる凶星】、そしてシングと出自を同じくすることはほぼ間違いないことになる。
緋色の少女(じゃあ、あの時貴方はこの世界に迷い込んだばかりで、あの場所で行き倒れてたってこと…?)
これで流転の街【オラクル】でシングと初めて会った時に見せた、意味深な反応の謎が解けた。
そして【七星】の2人の言葉を鵜呑みにするならば、アイリは彼らにとって長年追い求めた探し人ということになる。
彼らにとってアイリは故郷に欠かせない存在で、【月明かりの修羅】が去り際に彼女を【巫女】とまで称した。
とはいえ蒼の公子と緋色の少女にとって大切な家族であり、【七星】が害なすものなら容赦はしない。
だが宿願にも見て取れた2人の様子から、仮にアイリが在るべき場所に帰る必要がある場合、時に自分達の行動は彼らにとっての故郷を顧みないエゴにも繋がりかねない。
蒼の公子(アイリは渡さない。けど、もし彼らの言うこと全てが本当だったら…)
尤も、アイリの境遇は最終的には彼女自身が決めるべきであるとも理解もしている。
【七星】の2人の事情を全て把握したわけではないが、かつて幼き頃道端で彼女を保護した身としてどんな行動を取るべきか、今すぐ答えが出そうにない。
果たしてアイリは自分のことをどこまで把握しているのだろうか。
こうして運河の街で繰り広げられた、【アミアンの戦い】。
白銀の翼から離脱者はおらず、アリエル連合側の完勝に終わった。
【登場人物】
・【月明かりの修羅】
【七星】の一人。隠密家業を生業とする家にルーツを持つ。【無垢なる凶星】とは同郷で長い付き合い。
挑発に乗りやすいが、目的は履き違えず自制は効きやすい人物。卓越した速さを誇り、【七星】の中では随一を誇る。【七星】としての活動に準ずる中で独自の使命を持っており、相方の【無垢なる凶星】と共に暗躍する。同じくシングとも同郷で、過去に共闘経験がある。
・【無垢なる凶星】
【七星】の一人。掴みどころがなく、敵味方問わず誑かせては翻弄するトリックスター。
少しダウナーな性格。あまり表にも出たがらない彼女の一面は「本体」として、その存在は秘匿にされている。 自身と性能が同一の分身を作り撹乱させる【ドッペルゲンガー】の使い手。分身体が表に出ていることが多く、記憶や情報は本体にも還元される。本体とは対照的にほんわかとした性格で、敵意を感じ取りにくい。そのため気配を消すことを得意とし、隠密行動に長けている。




