Oblivion Episode 29 勝鬨
岩の巨塔から少し離れた拓けた平原。
【七星】が一人、【虚空の探求者】並びその配下をオルランド達が抑え込んでいた。
既に半数近くの部下を失うもなお【虚空の探求者】は顕在である反面、蒼の公子と緋色の少女、アイリを欠くオルランド隊の面々は誰一人とて欠けていない善戦を見せるが、疲労色が濃い。
オルランド「クソがぁ…!」
オリヴェイラ「オルランドの奴も限界だな…【七星】、これ程とは…」
ユーリ「まだまだ、持ち堪えるんです!!義兄さん達が戻ってくるまでの間は…!」
とはいうもののレティシア、フォアストル、モージも疲弊しており、得意の連携にも陰りが見えてきている。
この戦況に敵に【七星】クラスの増援が加わろうものならば、限りなく全滅の憂き目に遭う。
そのまさかが、最悪な形で現実となる。
どこからともなく、謎の3人組がまるで瞬間移動してきたかのように【虚空の探求者】の前に現れたのだ。
魔女「【時の魔女】、【烈風の神槍】、【樹海の番人】、ここに馳せ参じました。ですが、【鳳翼の剣】が敗走された模様。」
虚空「お前達か。そのようだな。」
樹海「信じられん…あの人が敗れるとは。」
烈風「ここに【七星】が4人…奴らを一掃して、体勢を整えましょう!」
他のウルノ兵とは一線を画す【七星】と思わしき3人組が、ウルノ帝国陣営から戦列に加わり【虚空の探求者】の援護に回った。
彼らの関係性を伺うに、同じ【七星】でも全員が同格というわけではなさそうだ。
しかし、この場面で強力な3人が加わったという状況は、この戦場において敗北に近い宣告を受けるに等しかった。
モージ「新手か…!」
フォアストル「【七星】が3人…いやいや、そんな…」
レティシア「ここまで、なの…?」
絶望的である。
ほとんど【虚空の探求者】単独でここまで消耗させられた上に、この状況。
それでも撃退すると誓った以上、降伏するわけにはいかない。
最後の気力を絞り応戦しようと立ち上がった、その時だった。
シャール「遅くなってすまない!!合流に手間取った!」
ユーリ「シャールさん!良かった、ナモさんが呼んできてくれたんだ!!」
テュルバー「ナモからのあんた達の異常事態の報告自体は早かったんだが、足止めを食らっていた!皆無事だな!?いや…殿下と___様、アイリの姿が見えない…?」
オルランド「あいつらとは奴らの策に嵌り逸れた!多分大丈夫だ!」
2つに分けていた白銀の翼のうち片方が合流に間に合った。
2人と1匹の姿が見えなかったが、オルランドの根拠のない、しかし揺るぎない信頼は、不思議と説得力がある。
シャール率いる部隊は、白銀の翼でも指折りの実力者であるオルランドやオリヴェイラすらも追い詰めた、【虚空の探求者】と以下3人の姿を捉える。
まず間違いなくいずれも【七星】であると睨む。
問題は、いくら合流できたからとて蒼の公子と緋色の少女を欠く現状、勝てる見込みがあるかどうか。
だが、シャール隊の加勢を境に、続々と頼もしい増援が駆け付けてきた。
蒼の公子「間に合った…!皆、無事か!?」
緋色の少女「遅くなってしまいすみません!」
白銀の翼が誇る双璧、そして見慣れぬ尻尾、だが不思議と既視感のある小柄な獣耳の緋色の少女が【鳳翼の剣】との死闘から戻ってきた。
これで白銀の翼は勢揃い。
既に満身創痍の彼らだが、主力だけあり油断はならない。
さらにそこへ…
リーヴェ兵1「後方に控えていた【七星】達が現れたか…ならば我らリーヴェの民が出ないわけにはいくまい。」
リーヴェ兵2「いつ前線に繰り出すか、偵察隊を送っていた甲斐がありました。」
リーヴェ兵3「オルランド殿、シャール殿、ここは我らが。」
ファルタザードの中枢を守護していたリーヴェの民が、機を見計らって白銀の翼の危機に駆け付けた。
緋色の少女が示すように、リーヴェの民は一人一人が一騎当千の力を誇る。
そして極め付けとばかりに、あの男が現れた。
??「なるほど、あんた達が風に聞く【七星】か…4人といえど、正面からぶつかればただでは済まないだろうな。」
虚空「お前は…?」
蒼の公子「シング…!」
かつて流転の街、【オラクル】で出会った異邦の男、シングが蒼の公子と交わした盟約の元現れた。
見慣れぬ風貌、第三勢力の出現に敵味方問わず怪訝そうに伺うが、向けられた矛先から既に彼は連合側だとその場にいた誰もが認識した。
【七星】の前に並び立つ軍勢、そしてその中心に立つ人物こそ、同胞【鳳翼の剣】を撃退した男。
今この場において、彼が取り仕切っていると言われても何ら不思議はない。
蒼の公子「白銀の翼、リーヴェの皆さん、異邦よりの客人…いかに【七星】が強力だろうと、縁で紡がれた仲間と共に、貴方達を倒す!!」
蒼の公子の意志が、仲間を鼓舞する。
アリエル公国に味方する勢力が拡大し、公国軍の質が更に強まった。
【虚空の探求者】も白銀の翼との交戦が響き余裕があるわけではなく、今この場で他の【七星】共々ぶつかれば多大な損害が予想される。
既に【鳳翼の剣】が撤退している中、旗色の悪さを察した【虚空の探求者】は、【時の魔女】に指示を出す。
虚空「…ここは撤退だ。今連中とぶつかっては我らとてただでは済まない。」
魔女「撤退…」
烈風「ここにきてこの士気は、やむを得ませんか。」
樹海「あの人がいらっしゃったらまた違ったんだろうが…」
ファルタザード攻略においてウルノ帝国軍の中枢を担う自分達が深手を負っては、後の戦に大きく響くことになる。
最前線と言えど退路は既に確保できている。
その鍵を握る【時の魔女】は、【虚空の探求者】の指示に従い術式を展開した。
オルランド「逃がすか!!」
シング「ここで仕留める…!」
魔女「遅いです…空間転移、【ワープ】!」
オルランドとシングが先陣を切り【七星】達に斬りかかる。
しかし【時の魔女】の空間魔法により4人全員が別の場所へ飛び刃は空を切った。
オルランド「消えた…!?何だ、今の魔法は…!?」
シング「チッ…逃したか…」
【時の魔女】が駆使した未知なる魔法。
複数の人間を別地点に飛ばす初めて見るその魔法に、驚きを隠せない。
すんでのところで取り逃がしたと悔しがる。
しかし彼らが姿を消したのを機にウルノ帝国軍が退却を始めた。
【虚空の探求者】が全権を握っていたのか、或いは彼または【鳳翼の剣】の撤退が即ち作戦の中断を意味していたのか、確認する術はない。
アリエル公国側も、連合として預かっているキルリス・イリアス両部族、グリングラス王国の損害も少なくなく、白銀の翼の双璧も既に満身創痍と、深追いはできなかった。
ユーリ「勝った…勝ったのか…?」
レティシア「ええ、間違いなく!!」
だが王都ファルタザードにまで迫ったウルノ帝国軍を撃退する。
この事実は戦果としては極めて重大な意味を持ち、連合側を大いに湧き立たせた。
オリヴェイラ「惜しかったな、オルランド。」
オルランド「全くだ、完全には喜べまい。まあ、この状況を思えば…」
オリヴェイラ「ああ…俺達の、勝利だ。」
その中でオルランドのような最前線で戦った者は、仕留めきれなかったその結末に一部不満を覚えるも一先ずはお互いの無事に安堵した。
シャール隊もオルランド隊との合流までに死線を潜り抜けたらしく、一様に全員の生還を喜び合う。
そんな白銀の翼の面々を始めとするアリエル連合軍の様子を、蒼の公子と緋色の少女は新たに人の形を取った、まだ年端もいかない獣耳のアイリと共に激戦を制したこの戦場を共に傍観していた。
しかし程なくして、緋色の少女の身体がぐらついた。
緋色の少女「…ぁ…」
蒼の公子「っと…大丈夫か?」
緋色の少女「ごめんなさい…少し、眩暈が…」
無理もない。
同期との直接対決に始まり、【七星】との立ち合い。
加えて終始蒼の公子の安否を気にし続けていたのもあり、心身共に疲労に満ちていた。
緊張の糸が切れたのもあるのだろう。
蒼の公子「守り切ったんだ、俺達の故郷を。君と、共に戦った皆で。」
緋色の少女「はい…」
緋色の少女の身体を支えながら、2人もまた健闘を讃え合うのだった。
アリエル史並びにこの世界の歴史書に記される【ファルタザードの戦い】。
来たるべきその日に備えて、幾つもの国や部族、果てはリーヴェの民の協力を得て、最大戦力を集結させて迎え撃ったアリエル連合側が勝利を収めたのであった。
・白銀の翼
緋色の少女…戦乙女 Lv39+
蒼の公子…ノーブルロード Lv39+
アイリ…上忍 Lv31+
ユーリ…勇者 Lv30
レティシア…ミスティックナイト Lv34
オルランド…ソードマスター Lv34
フォアストル…スナイパー Lv32
オリヴェイラ…グレートナイト Lv33
モージ…ビショップ Lv33
シャール…パラディン Lv34
テュルバー…ウォーリアー Lv33
チャルデット…遊牧騎士 Lv32
ダノワ…槍戦将 Lv32
ジラール…ドラゴンマスター Lv33
ライノルト…賢者 Lv33
サロモン…ソーサラー Lv33
フロリマール…ホーリーナイト Lv30
ナモ…ペガサスナイト Lv29
・異邦の者
シング…密偵 Lv38
・七星
【鳳翼の剣】…ソードマスター Lv42
【虚空の探求者】…ソーサラー Lv42
【烈風の神槍】…槍戦将 Lv38
【樹海の番人】…ウォーリアー Lv37
【時の魔女】…賢者 Lv35
【登場人物】
・【虚空の探求者】
【七星】の一人。万物の根源たる力を探究する求道者。【七星】の中では【鳳翼の剣】と双璧を成す。
世界の根源とは何か、そんな漠然とした果てなき神秘を追い求め、その問いを導き出す過程で身に付けた力を操る。いわゆる星の力を操るがその域は魔導士の範疇をすでに超えており、彼との戦いの末には地形が変わるとの記録もある。




