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蒼緋伝〜蒼と緋色の忘却  作者: Shing
蒼と緋色の忘却
25/50

Oblivion Episode 25 共闘

牧場の街、【ファーヌス】。

アリエルの民にとって避暑地として慣れ親しんだこの街も、かつての活気は見られず閑散としていた。

そして、この地でも間もなくしてウルノ帝国軍の手が迫ろうとしていた。


??「結局、あんただけは最後までこの地を離れなかったな?」


そう黒の外套を纏った男が言葉をかけた相手は、長きに渡り牧場を経営してきた街の長でもあるアルベルトだ。

誰もいない牧草地を見据え、妻もこの地から避難させることができ、安堵と寂しさが入れ混じった今の心情を語った。


アルベルト「ああ、これで良い。私はこの街に生まれ、この街と共に生まれ育った。家族ともいうべき牛達は、先に公国が引き取ってくれたが、どうしても、この街を離れるわけにはいかない。」

??「…そうか。」


黒の外套の男を以てしても、アルベルトの説得は不可能に近かった。

ましてや、己はこの街に深く縁があるわけでもなければこの世界の住民ですらない。

否定も肯定もする資格もあるはずがなく、彼の決断を尊重する他ない。


??「程なくしてウルノ帝国軍の連中が押し寄せる。偵察に出た限りでは俺なら一人で殲滅できる。だがその場凌ぎにしかならない。以後もこの街に留まるだろうあんたに付きっきりというわけにもいかず、何より生憎俺は共倒れする趣味もない。短い間でも間借りできる場所を提供してくれたあんたに何も返せないのが残念だ。」

アルベルト「十分だ。少なくともお前さんは、気に入ってくれたからこそ、この街を選んでくれたのだろう?」

??「ああ。故郷とは違う静けさがあった。我が主も、いつかは連れて来たいほどにな。」

アルベルト「嬉しい言葉だ。ええ、そうでしょうとも。この街は人達が去っても、風景も、誰にも奪わせやしません。この命に換えても…」

??「…生きていたら、また会おう。」


あまり肩入れすると情が移りかねない。

適度に別れの挨拶を済ませ、帝国軍が到着する前に次なる目的地へと足早々に街を発つ外套の男。

最後の最後まで街に多少なりとも愛着を持ってくれて、アルベルトは感謝の気持ちしか湧いてこない。



黒の外套の男が姿を消してから半刻が過ぎた。

そう遠くない場所から、馬の駆ける音や金属の音が鳴り響く侵略者の足音がもうすぐそこまで聞こえてきた。

覚悟はしている。

抗う術は持たない。

それでもこの街を統べてきた者の責務として、町長アルベルトは彼らに立ちはだかる。


ウルノ将「何だ、人がいたのか。大人しく投降せよ。」


降伏を促す敵の軍勢。

既にファーヌスは包囲されている。

だが、最後の時だというのに、どこか冷静でいられた。

街の長としての矜持が、そうさせているのかもしれない。

黒の外套の男は無事脱出できたであろうか。

そして、今この場で断ったらどうなるのか。

元よりその心づもりであったアルベルトは、堂々と突きつけた。


アルベルト「断る。遙か昔より先祖代々受け継いできたこの牧場を、おいそれと明け渡すわけにはいかん…!」

ウルノ将「…町長とお見受けする。では、ご覚悟を…」


指揮官の抜剣と共に、配下の兵も一斉に矛先を己に向けた。

悠長な真似はできない。

領都ファルタザードを攻略する手前、ファーヌスは避けては通れない。

ここは粛清の名の下に障害を取り除き、制圧するのが得策であった。

その時であった。


ウルノ兵「ぐわっ!?」

ウルノ将「!?」


アルベルトを取り囲むウルノ兵を、どこからともなく矢や魔法で次々に仕留められていく。

敵の姿を見渡すも、やがて彼らにとっての死神が姿を現すのに、然程時間はかからなかった。


蒼の公子「フォアストル、レティシアさん、サロモンさん、ライノルトさん、そのまま援護を頼む!他は俺に続け!!」


アリエル公国軍…いや、ただの守備隊ではない。

卓越した連携と、そして何よりも脅威なのは、縦横無尽に戦場を舞う天使の如き風貌…


ウルノ兵「は、白銀の翼だ!!!」

ウルノ将「狼狽えるな!!今の我が隊は3小隊からなる旅団!兵力では我々が…!」


だがその見立ては甘いと言わざるを得ない。

数で勝負するのは決して間違いではないが、個々が技量を保持していなければ、それはただの雑兵に過ぎない。


緋色の少女「アルベルト様から…離れなさい!!赤き紅蓮の真炎、【シアリングレッド】!!」


緋色の少女の火球が、ウルノ帝国軍に襲いかかる。

敵陣から一気に炎が上がった。

アルベルトは、2人が幼き頃に家族ぐるみでファーヌスを訪れた際の縁のある人物。

彼を手にかけようものなら…

白銀の翼の双璧は、怒り心頭だった。


アルベルト「あ、貴方方は…!」

蒼の公子「アルベルトさん、無事ですか!!俺の隊が辺りを偵察していたら、人気がないはずのファーヌスに単身誰かが残っていると報せがあって…間に合って良かった…!」

アルベルト「勿体なきお言葉…!ですが私は、この街と運命を共にすると願った身…」

緋色の少女「違うんです、アルベルト様!」


白銀の翼とウルノ帝国軍が攻防を繰り広げられる中で、2人は懸命の形相でアルベルトに迫る。

すぐ近くでダノワとチャルデットが3人を守りながらの戦況。

その切羽詰まった中、開戦から3ヶ月、なぜアリエル公国が【白銀の翼】を除き反撃という反撃にも出ず今の状況に陥っているのか、作戦上全てを明かせないものの手短かに説明する必要があった。


蒼の公子「貴方が街と運命を共にする気持ちもわかりますが…今は耐えてください!ファーヌスは、必ずや復活する!!」

アルベルト「!!」


蒼の公子の力強い説得が、アルベルトの心に突き刺さった。

事実、アリエル公国は各地でほとんど反撃に出ず敗色濃厚だと認識していたが、彼の率いる軍は何倍ものウルノ帝国軍を押し返していた。

彼はまだ諦めていない、いや、最初から諦めていないと表現した方が良いのだろうか。


緋色の少女「今は多くは語れませんが、どうか諦めないで!私達にとっても思い出の地、ファーヌスを、すぐに取り返して見せますから!!」

アルベルト「___様…」


ここまで公国を代表する2人から迫られては、アルベルトも信じざるを得なかった。

いずれ国を導く彼らに激励されては、応えないわけにもいかない。

そんな彼に、白銀の翼の反撃をすり抜けて、単身迫る凶刃が襲いかかってくる。


チャルデット「しまった、___様!」

ダノワ「ダメだ、間に合わない!」

蒼の公子「!!」


いくら蒼の公子といえど、不意の襲撃に対しすぐに対応できるものではない。

常に彼の隣に沿う緋色の少女が即座に迎え撃つ…その時だった。


??「間に合ったか…」


その凶刃を受け止めたのは二刀の短剣、黒の外套の男。

すぐさま反撃し瞬く間に斬り伏せてしまった。

その姿はアルベルトのみならず、見覚えのある蒼の公子と緋色の少女も即座に反応する。


アルベルト「貴方は…!」

蒼の公子「シングさん…!?」

シング「ファーヌスに漂う空気の流れが変わった。戻ってきてみれば、そうかあんた達か…」


半刻にも満たない時間の内で、去った後のファーヌスの異変を感じ舞い戻ってきた黒の外套の男、シング。

公国軍の精鋭部隊が危機一髪のところでアルベルトの元へ駆け付けた様を見て、彼と蒼の公子の窮地を救う。


シング「おい___、公国の動きは一体どうなっている?後退に後退を重ね、何を考えているんだ?」

蒼の公子「民の犠牲を出さないためだ。大丈夫、計算内だ!」

シング「ほお…?」


何か狙い澄ました確固たる作戦があるのだと、蒼の公子の返しですぐさま理解したシング。

ひとまずこの場を切り抜けようと、彼は率先して共闘に打って出た。


シング「町長、あんたは下がれ。ここは俺とこいつらで凌ぐ。」

アルベルト「わかりました。このアルベルト、貴方方の意向に従います。」

蒼の公子「はい!…ジラール、彼をファルタザードへ!!」

ジラール「承った!」


アルベルトの意志を確認し、すぐさま安全の地へと避難させるべく飛竜を駆るジラールに彼を託した。

これで憂いは消え去った。

後は、ファーヌスに侵略したウルノ帝国軍を殲滅するだけ。

初めてシングの実力を垣間見たが、やはりこの男、十二分に強い。


蒼の公子「さっきは助かったよ、ありがとう。」

緋色の少女「私からも、本当に…」

シング「フン、礼は良いから、まずはこの場を片付けて、後で今の戦況をきっちり聞かせてもらうぞ。」


自然と共闘戦線を組む。

これまでの白銀の翼の動き通りなら、ファーヌスは放棄する。

その手前、アルベルトに対し言い切った、復活するというあの言葉。

それが真実なら、興味がある。

彼を見送った後懸念が去った蒼の公子と緋色の少女、シングの3人は、他に奮戦を続ける白銀の翼と並び一気呵成に参戦する。



瞬く間にウルノ帝国軍を返り討ちにした白銀の翼とシング。

そして街を守備するでもなく、即座に立ち去る準備をしている。

アルベルトをファルタザードへと送ったジラールとは、後で合流する手筈となっている。

ようやくこれまで不明だったアリエル公国の作戦を直接聞く機会が巡ってきた。


シング「それで、この後どうするんだ?」

蒼の公子「ファルタザードへ戻る。そこで最初の山場、防衛戦を展開する。」

シング「防衛戦…?」


耳を疑った。

確かにアリエル公国は成長著しい新興国だとは聞いている。

だがいくら国力が優れていようとも、籠城となると数に勝るウルノ帝国の大軍の前では陥落は時間の問題となる。


シング「馬鹿な…俺もこの世界に明るいわけではないが、あの帝国が相手だ。同盟国の援軍とファルタザードの守備隊だけでは、飲み込まれるぞ。」

蒼の公子「ああ。あの強大な帝国を前に、まずこの山場を乗り越えなければ勝利は夢のままだろう。」


だがシングの懸念を余所に、蒼の公子に動揺の色はない。

何か打開策があると揺らぎない自信に満ちていた。

シングが問うまでもなく、彼の口から作戦が明かされた。


蒼の公子「迎え撃つ軍隊にはファルタザード守備隊のみならず同盟諸国も加わる。ここまでは敵も予想の範疇だろう。だが、公国全土から集結したとしたらどうなる?」

シング「!?まさか…領民達が尽く避難し、あんた達が各地を転戦していたのは…」

蒼の公子「ああ、守るべき民達を一箇所にまとめることで、同じく各街に分散していた駐在兵も領都に集結させることができる。我ら白銀の翼がまず買って出たのは、アキテーヌ地方の方々に連絡するその伝令役…随所で敵を迎撃したのは、敵の兵力を削ぐのはもちろんのこと時間を稼ぐため。」


シングがこれまで抱いていた謎が解けていった。

神出鬼没の白銀の翼、ゴーストタウンと化した街々…全てはアキテーヌ地方の民を戦禍から回避させつつ、かつ領都ファルタザードにて迎え撃つ算段。

この作戦をより盤石なものにするために、蒼の公子は余念を欠かさない。


蒼の公子「確かに現状アキテーヌ地方のほぼ全域はウルノ帝国の手に渡った…けど、北のネウストリア地方、南のブルグント地方、更にはそのウルノ帝国から程遠いブルターニュ地方とプロヴァンス地方の駐在兵も呼び寄せる。既にファルタザードの準備は、整っているはずさ。」


これこそが、蒼の公子自らが公爵やベンヌ卿に提言した作戦の全容。

数ヶ月に渡り敢えて劣勢を演じてきたが、その全貌は未だ真価を発揮していない。


蒼の公子「アルベルトはファルタザードへと送った。時期送り届けた仲間が戻ってくる。方や自軍の損失を確認次第帝国軍がファーヌスにやってくる。君はどうするんだ?」

シング「…今はまだ、準備が必要だ。だが、こちらとしても、帝国を打倒せねばならない理由がある。」


即座に合流とまではいかなかったが、シングは協力する姿勢を見せた。

出身を筆頭に素性は相変わらず不明だが、信頼に足るかどうかは目を見て判断できる。

蒼の公子が信じるなら、緋色の少女はもちろんのこと他の白銀の翼の面々も異論はない。


蒼の公子「さあ、俺達もファルタザードに戻ろう。道中でジラールさんと合流する。みんな、よく戦ってくれた。」

オルランド「よしきた、いよいよってか。」

シャール「この戦いを乗り切らなければ、勝利はないですからね。」

緋色の少女「シングさん。どうか道中はお気を付けて。そしてきっと、貴方と戦える日が訪れることを、祈っています。」


先に済ませることがあるシングとはそこで別れ、ファルタザードへと帰路につく一行。

白銀の翼の面々から謝意を向けられながら去る彼らを見送るシングは、事の顛末を主に伝えるべく足早々にその場を後にする。


シング(開戦最初はアリエル公国の後手ぶりに懐疑的だったが…奴の前代未聞の作戦、勝機はある。)


蒼の公子の考案した意表を突いたその策に、賭けてみることにしよう。

これはこの世界のみならず、シングにとっての主の住まうもう一つの世界の命運を賭した戦い。

開戦から数ヶ月経ち、最初の山場となる激戦が、間もなく訪れようとしていた。

・白銀の翼

緋色の少女…戦乙女 Lv36+

蒼の公子…ノーブルロード Lv36+

ユーリ…傭兵 Lv27

アイリ…⁇ Lv??

レティシア…ミスティックナイト Lv31

オルランド…ソードマスター Lv31

オリヴェイラ…グレートナイト Lv30

フォアストル…アーチャー Lv29

モージ…ビショップ Lv30

シャール…パラディン Lv31

テュルバー…ウォーリアー Lv30

ジラール…ドラゴンマスター Lv30

チャルデット…遊牧騎兵 Lv29

ダノワ…槍闘士 Lv29

ナモ…ペガサスナイト Lv26

ライノルト…賢者 Lv30

サロモン…ソーサラー Lv30

フロリマール…ロッドナイト Lv27


・異邦の国

シング…密偵 Lv35

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