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蒼緋伝〜蒼と緋色の忘却  作者: Shing
蒼と緋色の忘却
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Oblivion Episode 24 火蓋

斥候「報告!!アキテーヌ地方の国境が複数箇所に渡り、突破されました!!」


領都ファルタザードのアリエル邸の応接間に火急の伝令が飛び込んできたのは、【水妃の節】の下旬に差し掛かった頃だった。

アリエル公国は大きく分けて6つの地方に分かれる。

北のネウストリア地方、南のブルグント地方、東のアウストラシア地方、西のアキテーヌ地方、そして辺境のブルターン地方・プロヴァース地方だ。

また地理的に、北をエクノア王国、東をキルリス・イリアス草原、南をグリングラス王国、そして西をウルノ帝国と国境を接している。

当然ウルノ帝国からの足がかりはアキテーヌ地方となり、この一年足らずの期間アリエル公国は準備をしてきた。

誰も想像がつかない奇策を用いて。


ベンヌ「来ましたか…間に合ったってところですな。」

アリエル公爵「ええ、既にこちらの手筈は整っています。」


斥候の報告に反し、アリエル公国の中枢とされる2人は異様に落ち着きを払っていた。

事前に侵攻の予告があったことが最たる要因であり、むしろ来るべき時が来たと割り切っているとも言える。


アリエル公爵「白銀の翼の動向は?」

斥候「偵察隊の働きで、連絡所を飛び回り情報を拡散させているとのこと!敵軍と交戦したとの報告は上がっていません!」


既に国境に近い街を拠点に最前線に構えていた白銀の翼の動きに関しては、現場に一任しており遊撃隊としての役割を与えている。

蒼の公子を指揮官とした彼らの戦力は、相手が一小隊であればまず敗北はないと見て間違いない。


アリエル公爵「既に国境付近に最も近いアーケンに帝国軍は到着した頃合いだろう。街を見てさぞ驚くであろうな?」

ベンヌ「我々では考えもつかなかった思い切った作戦…しかし、いつ仕掛けてくるかもわからなかった以上、理には適っていた。」


ベンヌ卿はいずれ義理の息子になろう蒼の公子の発案に、今も驚きを隠せないでいる。

まだ彼らがファルタザードを出立する前、開戦に備え作戦やその他準備について、公爵やベンヌ卿、その他軍部と会議を開いていた。

飛行兵2騎を抱える白銀の翼がその機動力を生かし各地に点在する連絡役に情報を伝える他、あらゆる戦況に備えて様々な観点から意見を共有した。

蒼の公子の提案は、戦端が開かれるその場で打ち出された。


ベンヌ「最も、この作戦の唯一の欠点とは必ず長期的に後手に回ること。」

アリエル公爵「構わぬ。国民の命が優先されることは私も同意だ。彼奴が必ず挽回してくれるはずだ。」


悲壮感は全く感じさせず、アリエル公爵は断言した。

一年の猶予があったのだ、何も準備してこなかったわけではない。

領内に侵攻する敵国を掃討する作戦と共に、この日、戦乱の火蓋は切って落とされた。



国境の街、【アーケン】。

街としてはそこまで広くはないが、ウルノ帝国がまずアリエル公国侵攻への足がかりにするであろう要所である。

当然アリエル公国の激しい抵抗が予想されていたが、蓋を開けてみればもぬけの殻であった。


ウルノ兵「アーケンの制圧、完了しました。しましたが…」

ウルノ将「うむ…全く以て奇妙だ。生活していた跡があるというのに、ここまで人気が全くないとは…」


一兵どころか住民すらもいない殺伐とした雰囲気に、ウルノ帝国軍も驚きを隠せない。

既に他の部隊や一部先遣隊が領内の奥地へと侵攻し他の街も制圧している頃だろう。

制圧した街の一つ一つが補給地点として活用する手筈だが、もし他の街でも同様の現象が起きているとしたら…

アーケンを拠点に様変わりさせるべく部隊が奔走する中、突如馬を駆けてきた一騎による火急の知らせが街中に轟いた。


ウルノ兵「伝令!!!!ここから東部の街、フラタールに進駐した先遣隊が謎の一団に襲撃され部隊長以下全滅!!」

ウルノ将「!?」


アーケンとは全く対照的なケースが、フラタールにて戦慄する。

敵は迎え撃つ場所を予め絞っていたのか、それともまた別の目論見があるのか。

一小隊ごとに力に差異はあれど、それなりの猛者が揃うウルノ帝国軍。

特に各先遣隊は後続の進軍をスムーズにするため腕利きばかりで構成されており、それこそ全滅は考えにくい。


ウルノ将「敵の情報を集めよ。人数、構成、兵種…他の街の進駐軍とも共有を。」

ウルノ兵「数は20人足らず。規模は大きくありませんが…リーヴェの民を見たとの目撃情報が…」

ウルノ将「噂に聞く天空の…!」


長年に渡り鎖国状態にあったウルノ帝国は、アリエル公国にリーヴェの民が降りてきたことまでしか把握していない。

無論個体差にもよるが、一騎当千の力を誇ると言われても何ら不思議はない。

ましてやその一人が最前線に配備されているとなると、軍全体の見直しすら迫られることにつながる。


ウルノ将「指揮官殿に伝えよ。敵にリーヴェの民あり。数は未知数。軍を再編し、損害を最小限に必要がある。そして一番に、【七星】派遣を要請するとな。」

ウルノ兵「はっ!」


一旅団当たりの兵力は規模にもよるが、フラタールへと進軍した小隊はおよそ100人。

その小隊が20人に満たない敵勢力に壊滅させられた事実。

まだ実際にその謎の部隊を目の当たりにしたわけでもなく、しかしリーヴェの民が一人でもいれば脅威となりうると判断した部隊長は、帝国軍の中核、【七星】の召喚を頼ることにした。



だが、戦慄の舞台となったフラタールでは、想像とは多少の相違がある戦闘が繰り広げられていた。

数で大きく勝るウルノ帝国軍に対し、アリエル公国が誇る少数精鋭部隊、白銀の翼は連携に連携を重ねて次々と撃退していく。

あまりの強さに複数だと誤認してしまうのも無理はないが、ウルノ兵が見たとされるリーヴェの民は、部隊にはたった一人である。


ウルノ兵「つ、強い…!あの銀髪の娘は圧巻だが、何だあの男は…!アリエルはこんな輩を配下に置いていたのか…!!」


その鬼神の如き気迫に、百戦錬磨の強者であってもすくむというものだ。

だがウルノ兵の指摘もこれまた誤りである。

その男とは、傭兵でも他国から招かれた者でもない。

最初から、祖国のために尽くすことを義務付けられ、或いはそう誓い、公国有数の勇者となった、アリエル公爵の嫡男その人である。


蒼の公子「公国の誇りを胸に奮い立て!!帝国の勢いに翳りをもたらせ!!」

オルランド「おう!!」

シャール「承知!!」


リーヴェの民だけではない。

味方を鼓舞する指揮官らしき男が、卓越した剣捌きの使い手が、馬上で槍を片手に駆け抜ける騎士が…

他の面々を見据えても、皆己が役割を重々に理解し的確に攻撃を仕掛けてくる。

言うなれば、彼らは一人一人が師団長クラスの力を誇ると喩えられても過言ではない。


蒼の公子「怪我はないな、___!」

緋色の少女「ええ、問題ありません!」


しかしやはり中でも圧巻の強さを以て共に肩を並び立つこの2人を前に、先遣隊はなす術なくこうして壊滅の道へと辿っていった。

かろうじて僅か数騎だけが生き残り、アーケンに駐留する部隊に伝達されることになる。

やがて謎の集団の転戦と共に、その部隊が【白銀の翼】と呼称される遊撃隊であること、彼らを率いるのがアリエル公爵嫡男であると知れ渡ることになる。



だが、一つだけ不可解なことがある。

開戦から3ヶ月が経過した頃には、ウルノ帝国は既にアキテーヌ地方の大部分を支配下に置いていた。

随所随所で妨害してくる白銀の翼と遭遇した小隊は損害を与えるばかりか尽く甚大な被害を被っていたが、それでも徐々に占領地を拡大していった。

アーケンのように、ほとんどが全く無抵抗どころか無人の歓待を以てしてだ。


ウルノ将「殿下、もしやこれは…」

??「ああ。誘い込まれているな。」


街を死守するでもなく適宜後退しているその様は、まるで奥地へと誘っているかのようだ。

【七星】は未だこの最前線には配備されていない。

代わりに高貴な身分の、将来を期待される帝国の有望株が派遣された。

奇襲を除けばあまりにも順調すぎる進軍に、違和感を覚えざるを得ない。


??「作戦は引き続き慎重に続行せよ。第一の目標まで、目前に迫っている。」

ウルノ将「はっ、そのように。」


指揮官の言及するように、予想よりも早い段階で領都ファルタザードへ距離にしてそう遠くはない所まで迫ってきた。

その前に、領都攻略のために制圧すべき街が手前に控えている。

牧場の街、【ファーヌス】。

白銀の翼、もといアリエル公国の狙いは、未だ釈然としていない。

大半を牧草が占めるこの地で、激戦とされる戦いの前哨戦とも呼ぶべき攻防が、繰り広げられることとなる。

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