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蒼緋伝〜蒼と緋色の忘却  作者: Shing
蒼と緋色の忘却
19/50

Oblivion Episode 19 準備

アリエル公国各地を緋色の少女とアイリと共に周遊する旅から帰ってきて数ヶ月が経過した。

シングを除く、旅の途中で出会った傭兵団【白い翼】やレティシアとも合流し、皆それぞれ己が役割を果たしている。

蒼の公子は帰還後、現国王から一部権限を譲渡され、その行使に責任を持ちながら奔走していた。

緋色の少女はというと、蒼の公子の補佐役として常に行動を共にし、彼一人でも十二分の成果が出せるところを200%以上に昇華させるほどの働きぶりを見せていた。

正直自分には勿体なさすぎるほどの人材の無駄遣いだと彼自身ですら思わざるを得ないが、あまりの活動のしやすさに文句も言えない。

ところが…


蒼の公子「なあ、___。」

緋色の少女「はい。」

蒼の公子「俺達は今、何をしているんだろうな?」

緋色の少女「今度行われる、領民をも交えた舞踏祭の打ち合わせ、ですね。」

蒼の公子「だよな…?」


父王から与えられた公務があっという間に終わってしまい、その延長で今度行われる街を挙げての舞踏祭の準備に明け暮れていた。

これも間違いなく公務だが、より政に関われると意気込んだ蒼の公子からすれば一体何をされているんだという錯覚に陥るのもわからなくはない。

こうなってしまった原因は2人の仕事が早い上に、現領主の治世がそもそも整っており、わざわざ嫡子たる彼が新たに先導することがないのが実情だからである。


緋色の少女「ですが___さん、この舞踏祭は、戦時で荒む民達の心の拠り所になる…公爵様は貴方ならできるとそれを見越して、貴方に託したと私は思います。」


緋色の少女は父の思惑を推し量っていた。

あくまで次期公爵並びに新国王としての試練だとばかり気に取られていたが、彼女はずっとその先を見ていた。

彼女は絶対に断るだろうが、王としての器は余程彼女の方が持ち合わせている。

その彼女も寄せる期待に、応えないわけにはいかない。


蒼の公子「…なるほど。この伝統ある舞踏会を立派に作り上げるのも俺達の役目だ。少なくとも去年までは父が仕切っていた。これは、やるしかないな!」

緋色の少女「はい、その意気です!」


己の役割に当初こそ懐疑的だったものの、そう思えてくるとやり甲斐に溢れてくる。

父にも取り仕切るための人材がいたが、こちらにも優秀な仲間が揃っている。

今になって大事なことを思い起こされたと、我ながら呆れもする思いだ。


オルランド「___、頼まれておいた公募、済ませておいたぞ?」

蒼の公子「助かる、オルランド。」


蒼の公子が士官学校に在籍していた頃の学友であるオルランドが、かねてより彼に頼まれていた依頼に応じ早速戻ってきた。

オリヴェイラとフォアストルも一緒だ。


オルランド「お、何か吹っ切れた顔だな?」

蒼の公子「吹っ切れたとは何だ、最初から全力だぞ?」

オルランド「はは、まあお前でもそういう一面があるんだなと少し安心した。」

蒼の公子「はぁ〜…まあ、いいさ。俄然やる気が出た。」


学友の冷やかしに呆れながらも、むしろそれすらも刺激に変えた。

オルランド、オリヴェイラ、フォアストルは蒼の公子が士官学校時代から特に親しくしていた友人だ。

身分関係なく軽口を叩き合い、卒業後も蒼の公子に近しい部署に配属され、オフの時はこうして集まっては彼をサポートすることがあった。

幼馴染である緋色の少女に対しても、敬意を払いながらも極力壁を取り払い接していた。


オリヴェイラ「___様は踊りの方は?」

緋色の少女「そうですね…ここ最近では魔導学院で年に一度舞踏会があったぐらいでしょうか。渡航前もリーヴェやアリエルにいた頃から教養として嗜んでいたぐらいには…」

フォアストル「絶対うまいでしょ…見たことがあるわけではないけど。」


緋色の少女のスペックの高さは既にオルランドやオリヴェイラの知るところであり、フォアストルの推測も間違いではない。

名門と名高いフィーニクス家の生まれなのだから、踊りはできて当然なのだろう。

ところで蒼の公子の中では緋色の少女の踊りは、魔導学院入学前の今より幼い時代で記憶が止まっている。

踊りに関しては当時から既に優雅ながらどこか年相応の可愛らしさも残した魅力的な才能の持ち主であったが、今はどうか。

彼女同様に公爵家の嗜みとして、蒼の公子もまた負けず劣らずに人前でも恥ずかしくない技量の持ち主ではあるが、生憎と今回は運営側のため披露する機会はない。


蒼の公子「今は平穏だけど、この情勢下で来年開催されるかはわからない。その翌年、また次の年開催されるかもわからない。必ず成功させよう、俺達の手で。」

オルランド「だな。」

オリヴェイラ「必要な物があったらいつでも言ってくれ?すぐに調達してくるさ。」


いつこの平和が崩れるやもわからない。

戦禍にまだ陥っていない今の時代だからこそ、領民の未来を希望に満ちたものにする。

舞踏祭もまた、大事な行事であったことを実感した。

学友達が協力を買って出てくれたところで彼らと別れ、2人は次の行動に移った。

向かった先は代々舞踏祭の大会場を管理している貴族の邸宅。

従来より開催には全面的に協力を惜しまない一族であったが、運営の代表として挨拶は欠かせない。

しかし、その大会場の主はただの一貴族ではない。


蒼の公子「モージさん、ご無沙汰です。」

モージ「___様、元気そうで何よりです。___様もご一緒で。」

緋色の少女「はい、モージ様、ご機嫌よう。」


大会場の主、モージ・ロスフェルトは士官学校時代に蒼の公子に戦術を教授した一学年上の先輩だ。

実力だけなら蒼の公子に及ばないが、策士家としては評価が高く、彼も大いにその能力を買っている。

同時に今年から若くして代々舞踏祭の大会場を管理するロスフェルト家の現当主でもあり、将来を期待されている。


モージ「次期公爵改め国王として、板についてきていますね。」

蒼の公子「そちらこそ。取り仕切る者の風格がもう出ていますよ。」


お互い卒業した後も政策や知略について蒼の公子はモージによく相談を持ち掛けることがあり、今もなお交流が続いている。

ロスフェルト家は今年の舞踏祭も運営の一端を担っているが、モージが当主として関わることで蒼の公子としても幾分か気が楽になる。


モージ「聞きましたよ、今年はより大々的に行うと。」

蒼の公子「ええ、モージさん。あまり大きな声では言えませんが、今年でしばらく見納めです。せめて、民達にはこの舞踏祭を思い出して日々の糧にしてほしい。まあ、我が国は負けるつもりはありませんけどね!」

モージ「ウルノ帝国ですね。最近特に動きが活発になってきている。」


戦時ともなれば、これまで行われてきた催事も全てお預けとなる。

いっそウルノ帝国が方針転換して振り上げた拳を収めてくれないか。

僅かな期待を抱きつつも、公人たるもの幻想を抱くべきではない。

街の雰囲気も、隣国の脅威を肌身に感じる空気へと変わりつつある。

来るであろう戦禍を目前に、しかし蒼の公子は国民の希望を絶やさないためにも、例年にない規模の舞踏祭を企画しているのだった。


モージ「何やらやる気に溢れていますね。少し趣の違う公務ですから少し抵抗感があるものかと。」

蒼の公子「何でもお見通しですね。___に気付かされたのです。この大役が、やがて戦いに疲弊する民達の希望となり得ることを。」


舞踏祭がもたらす影響を見出した蒼の公子は、緋色の少女が教えてくれたと明かす。

彼女は帰還してからという日々常に彼の隣に立ち続けている。

誤認されやすいが、緋色の少女は誰かから指示されて彼のサポートを務めているわけではない。

元リーヴェ四大貴族フィーニクス家の出であり非凡の才を持っていることは疑う由もないが、人々を導くに必要な素質を彼女もまた持っているということ。

蒼の公子にとって緋色の少女という存在はこの上ないパートナーではなかろうか。


蒼の公子「必ずや、成功させましょう!」

モージ「ええ、もちろんですとも。」


主催者としての挨拶を済ませ、ロスフェルト邸を去る2人。

来訪から屋敷を後にするまで、緋色の少女が挨拶以外ほぼ言葉を交わさず見守っていた。

あそこまで私見を挟まずに一歩引き下がった位置に留まるのも珍しい。

しかし、噂によればいざという時の緋色の少女は恐ろしい程の強さを発揮するらしい。

4年前の誘拐事件、2年前のエクノア王立魔道学院とのバトルグラウンド親善試合。

断片的な逸話をかき集めれば、有事の緋色の少女は圧倒的な実力を誇るのではないか。

今の姿からは想像もできない緋色の少女と彼女を連れる蒼の公子の2人を見送るモージは、肩を並べる仲の慎ましさを微笑ましく思う傍ら、何かを目論む不敵な笑みを浮かべでいた。


モージ「すみませんね、殿下。舞踏祭当日は、少し策を講じさせていただきますよ。」


それは決して祖国に仇なす悪意に満ちたものではなく、2人を敬愛する仲間内から持ち掛けられたある種のサプライズ。

当然2人は何も知らず、彼らは彼らで着々と準備を進めていく。

モージの計画が当日表沙汰になった時、果たしてどんな結末が待ち受けているのだろうか。

・アリエル公国

オルランド…剣士 Lv27

フォアストル…アーチャー Lv25

オリヴェイラ…アクスナイト Lv26

モージ…プリースト Lv26



【登場人物】


・モージ・ロスフェルト

若くして代々アリエル公国の舞踏祭の会場を管轄する貴族の現当主。策略にも長け、蒼の公子に軍師として登用される。

士官学校時代は蒼の公子の一学年年上で、当時より交流があった。彼の導く者としての器を高く評価しており、協力を惜しまない。

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