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蒼緋伝〜蒼と緋色の忘却  作者: Shing
蒼と緋色の忘却
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17/50

Oblivion Episode 17 朋友

アリエル公国各地を回って2週目に入ったある日のこと。

2人はアイリと共に国内指折りの交通の要所、【ローザント】を訪れていた。

緋色の少女がアリエル公国に帰還する際にも通りがかったが、ファルタザードとキルリス及びイリアス族の住まう草原、果てはエクノア王国まで繋がる街道が敷かれているため、他の街よりも他国から来た旅行者が多く見られるのが特徴だ。

交易の場としても栄えており、他の地域以上に異国の食材や装飾品が並んでいる。


緋色の少女「___さんはこの街を訪れたことは?」

蒼の公子「小さい頃にあったかな…?ここはファルタザードからは離れているからね。」


過去に訪れたことのある街に限らず、今回の旅で2人は可能な限りの街を巡り、民の言葉に耳を傾ける。

そして彼らの意見を基に、ファルタザードに帰還した後も訪れた街の発展に繋げる。

2人は、公爵から与えられた暇をただ無碍に過ごすことなく観光と公爵家の人間としての務めの両面で器用に切り替えていたのだ。

何も問題なければ旅先の観光客のように人々と交流しているため、十分な息抜きにもなっている。

ローザントは特段大きな街ではないため、ちょっとした騒動でも起こせば割と早い段階で街中に広まる。

例えば運悪く宿が満室で埋まっていた場合、他にあてがあるならまだしも野宿等に慣れていない貴族上がりの令嬢なんて身分の者が断りを入れられたらどうなるか…


??「ま、ま、ま、満室ーーー!?嘘でしょう、この私に外で寝ろってこと!?」

オーナー「申し訳ありません、行商の方々の先客が既に入っており…」


運悪く各地を渡り歩く行商隊と鉢合わせると、途端に宿泊する場所が窮屈になる。

今回はローザントを訪れてすぐのタイミングで部屋を取っていたが、交通の要所であれば頻回に起きるはずであの令嬢のように途方に暮れる旅人も少なくはないはずだ。

この街の抱える課題として、蒼の公子は帰ってから改善策を打ち出そうと意気込む。

その隣で、緋色の少女は驚きの反応を示していた。


緋色の少女「この声…」

蒼の公子「ん?知っている人?」

緋色の少女「おそらくですが…」


遠目で見るよりも直接確かめるべきと、緋色の少女はアイリと共に謎の令嬢の元へ駆け寄る。

髪型、髪の色、身長、動揺した時の仕草…まだ別れてそれ程時間も経っていないがために全て覚えている。

早々にその時が来るとは思わなかったが、緋色の少女はその迷い人に手を差し伸べた。


緋色の少女「どうしたんです?あまり騒ぐと、余計に他の皆さんが心配しますよ?」

??「ふぇ…?」


その令嬢が振り向く前には、緋色の少女は確信を持って声を掛けていた。

すると焦燥に駆られていたその表情はみるみるうちに和らぎ、やがて歓喜の笑顔へと姿を変えていた。


レティシア「___様ぁぁぁ!!こんなにも早く会えるだなんて!!」

緋色の少女「騒がしいですよ、レティシア。まあ…今は仕方ないですね。」


まるで別れから長い月日が経ち再会を心待ちにしていたかのように、緋色の少女に抱きつく。

不安から焦燥、そして突然に降りてきた親友との再会による安堵と、コロコロと表情を変えるその来訪者、レティシアは、喜びを全身に表すのだった。


蒼の公子「エクノア魔導学院の子だったんだね。」

緋色の少女「はい。私と一番仲良くしてくれたのです。」

レティシア(あら?この方は…)


緋色の少女が親しげに見知らぬ男と話している。

いつものレティシアであれば、緋色の少女にまとわりつく悪い虫から身を挺して庇う算段でありそのつもりであったが、直感が告げている。

なぜならレティシアは彼という人物を、もう知っているようなものだからだ。


レティシア「ご紹介が遅れました。エクノア王国の地方貴族オルセーヌ家の出にして、エクノア魔導学院第1回卒業生第三席、レティシア・オルセーヌと申します。卒業後はアリエル公国に仕えることが決まり、道中この街にやってきたところでした。お見苦しいところを見せてしまい申し訳ありません。」

蒼の公子「レティシア…度々手紙に名前が登場した子だね。私は___。この国を治めるアリエル家の者だけど、今は___と各地を回っている。」

レティシア「___様…貴方が!___様から伺っています!!」

蒼の公子「なるほど、私とレティシアさんは、___を通じて知り合いなわけだね。」


身分は多少違うがお互い初対面の感じがなく、その上年も同じ。

蒼の公子から滲み出る人柄がレティシアの緊張を拭い去り、すぐに仲良くなった。

少なからず人見知りが強く友達が限られていたであろう緋色の少女を身近に支えていた彼女は、蒼の公子にとってある種の恩人とも言える。


蒼の公子「今の___があるのは、少なからず貴方のお陰でもあるというわけだ。本当にありがとう。」

レティシア「わ、私の方こそ、___様に窮地を助けていただいて…この救われた命、アリエルのため、___様のために使う所存です!」


恥ずかしげもなく堂々と言い切るレティシアを、蒼の公子は好意的に捉えた。

この幼馴染の親友が、自国のどこに赴任するのかふと気になる。


蒼の公子「どこの街に所属を?」

レティシア「領都ファルタザードです!異国の出身なのでいきなり近衛兵は無理ですが…」

蒼の公子「なれるさ。あの学院を第三席で卒業できたその力、その努力を信じれば。」

レティシア「!」


蒼の公子の言葉にレティシアは思わずはっとする。

その声と共にかけられた言葉には、不思議な魅力が潜んでいた。


レティシア(はっ…!?いけないいけない、思わず心を奪われるところでした。この人は、___様の大切な人…)


親友が手紙にも滲み出る程に一途に慕う理由がすぐにわかった。

すんでのところで踏みとどまったため、レティシアはすぐに割り切れた。

彼女としては、応援に全力を注ぐに徹するのみだ。


蒼の公子(しかしファルタザードとは…相当頑張ったんだろうな。___の近くにいてくれると安心するのだが、…)


ところで蒼の公子はこのレティシアという人物を何とか身近な部隊或いは部署に配置できないか熟考していた。

全国から集まったであろうエクノア王立魔道学院を第三席で卒業したその肩書きのみならず、緋色の少女の良き理解者である点は見過ごせない。


蒼の公子(別にそんなことしなくてもいいのかもしれないな…)


先日出会った傭兵団【白い翼】の登用の件にしろ、蒼の公子に人事権はない。

だがそんなものがなくても、レティシアなら自力で登り詰めるのではないか。

私事のために公爵家の特権を行使する真似をする必要もないと、蒼の公子は一旦解決を保留にするのだった。

さて、ここまでは良かった。

ここからは、一度築かれた2人に対する畏敬の念が、彼らがいかに浮世離れているかを思い知り崩れていく様をレティシアは知ることになる。


蒼の公子「レティシアさん、君は今夜はどうするんだ?あてがあるのか?」

レティシア「お恥ずかしながら、今夜はどこも宿が埋まってしまいどうしようもなく…___様は?」

緋色の少女「はい、私達は向かいの宿に一部屋取っていますが…」

レティシア「へぇー、あの宿で…(ん?「達」…?「一部屋」…?)」


何の疑いもなく緋色の少女は答えたが、これは常識が備わっているレティシアからすればとんでもないことである。

年頃の男女が、同じ屋根の下、空間で、寝食を共にしている。

急に身体が震えだす感覚が全面に出た。


レティシア「___様、少し___様を借りても?」

蒼の公子「?ああ、構わない。」


蒼の公子に許可を取ると、すぐさまレティシアは緋色の少女を連れ出し物陰に連れて行く。

なすがままの緋色の少女。

蒼の公子とアイリも2人を追うことはしない。

裏路地に入り込んだレティシアは、つい先日までの間柄のような口振りで緋色の少女を問いただす。


レティシア「___様、何やっているんですか!?」

緋色の少女「何、とは?」

レティシア「殿方と同じ屋根の下で一晩を明かそうとしていることです!男って怖いんですよ!?いやその…___様に限ってそんなことはしないとは思いますけど!夜になったら何をされるか…!襲われることだって…!」

緋色の少女「?レティシアさん、貴方が何を言っているのか…」

レティシア(えーーーーーっ!?)


危なっかしい上に、その何かを自らの口でこの娘は説明させるというのか。

緋色の少女が入学したのが12歳の時、その後在学中の4年間も4年目終盤にしてようやくクラスメートからの信頼を勝ち取ったはいいもののそれ以外はこれといった交流がなかった。

この手のある意味低俗な話題には人一倍疎いのも仕方がないのかもしれない。

ここは親友として人肌脱ぐべきだと、レティシアは言葉を選びながら説明に努めた。

すると…


緋色の少女「そ、それは…」


羞恥に耐えながら説明した甲斐があり、流石の緋色の少女も赤面し身悶えた。

ところが、自分が何をしていたのかようやく理解した様子であるが、特段反省している様子もない。

聡明な彼女のことだ、事の重大さは理解したはずである。


緋色の少女「ですが『その程度』であれば、彼になら襲われても良いですし…彼になら私は何をされても構いません。」

レティシア(正気です!?)


衝撃の爆弾発言である。

脳内で雷が落ちた感覚だ。

彼女にとっては「その程度」のことであるらしい。

あのクールで冷徹な親友はどこへやら。

目の前の彼女はいつか見た完全なる乙女であった。


緋色の少女「ただこの旅も2週目に入っていますが、そんなことはありませんでしたよ。」

レティシア「に、2週目…!?いや、そんな問題じゃあ…!」


同じ部屋で寝るのは今夜が初どころか旅は2週目と聞いて時既に遅しかと思いきや、何事もなかったのだという。

恐れていた事態は起きていないようだが、緋色の少女にとってそれは由々しき問題ではないらしい。

落ち着かないレティシアを宥めるように、彼女は心の内を打ち明けた。


緋色の少女「この先旅の途中でそういう目に遭うかもしれない貴方の心配ももっともだと思います。でもお話に聞く限り、それは恋人同士がすること。私と彼は幼馴染でありそれ以上ではありません。幼い頃を一緒に過ごしたからわかります。彼は、そのようなことはしません。」


何も憂慮することはないと、緋色の少女はキッパリとレティシアを諭した。

恋人同士でなくともあり得ることから多少ズレてはいるが、彼女が断言していることから彼に対する深い信頼が見てとれる。

降参だ。

おそらく、彼女が言うのであれば間違いないのであろう。

予想に反し万が一襲われてもそれはそれで望むのであればと受け身に徹しているので、この件に関してはもはや口を挟むことではない。


レティシア「…わかりました。お二人の間に入ってお邪魔をしないぐらいには、私も立場は弁えております。___様の話になると、貴方がどれだけ慕っているか、これまで直接お会いする機会がなくとも伝わっていましたから。」


あくまでレティシアは緋色の少女の幸せを願う。

どちらに転んでも彼女が不幸な思いをしないのであれば、見守ってあげるだけだ。

話が一段落したレティシアは蒼の公子と緋色の少女の厚意の元、2人の宿泊する宿に泊めてもらえる運びとなった。

蒼の公子がレティシアに気を遣いベッドを譲り自身は壁に背もたれる形で一晩を明かそうとするも、同じ空間にやはり異性がいるという事実に、どうも気が休まらない。


レティシア(何でこの子は平然としていられるの!?)


隣ではすやすやと緋色の少女が寝ている。

蒼の公子もこの日だけは2人を守るように剣を置き非常時に備えている傍ら、それ以外では一向に起きそうにない。

仮に自分がここにいなかったら、代わりに蒼の公子がこの場所で寝ている。

その事実がレティシアの中でしばらく頭がもやもやとするのだった。



翌朝、宿を出た3人は次なる目的地のため、出発を目前にしていた。

蒼の公子と緋色の少女は引き続き各地を回る旅に出る。

レティシアとは進行方向が逆で、その動向を窺った。


蒼の公子「これから君はどこへ?」

レティシア「真っ直ぐファルタザードへ行きます。与えられた任を全うし、アリエルに尽くす。いつか、___様と同じ環境で活動したいです!」

蒼の公子「なるほど、私からもぜひお願いしたい。___と親交のあった君ならば、私も安心できる。」


公私共に緋色の少女を支えられ、良き相談相手となれるレティシアの存在は貴重だ。

彼女には心を許している緋色の少女も、その日が来ることを心待ちにしているようだ。

帰還後の再会を誓い、先に蒼の公子と緋色の少女がローザントの抱える課題を持ち帰りアイリと共に街を後にした。

彼らの姿が見えなくなるまでレティシアは手を振り続けるが、彼らに出会って積もり積もった疑念と今一度向き合う。


レティシア(___様…噂に違わぬ王の器に相応しいカリスマ性。うちのグラジオ様も立派な方ですが、___様には及ばないでしょう。)


比較するのは失礼だが、一国の嫡子という重なる身分からどうしても自国の王子と見比べてしまう。

一日足らずを共に過ごしただけだが、蒼の公子の人となりは理解した。

その風格からも、将来を渇望されるような実力も当然秘めているであろう。


レティシア(堂々としていますし、自分の望みのためであれば包み隠さず正面から切る、そんなお方。)


レティシアの第一印象は概ね合っている。

事実、蒼の公子は小細工や姑息な手を用いることには否定的で、臆することなく振る舞うも威圧的な態度は決して取らない。

次期国王としての素質は十二分にあると言っていいだろう。

そんな彼が、4年ぶりに年頃までに成長し帰還した幼馴染みに一切手を出していないばかりか、今までの関係性から一歩先に進めてすらもいない。

緋色の少女のことを大切に想っていることは空気からでもわかる。

その上で緋色の少女は彼のことは大切な幼馴染みであるに留めている。

彼から新たな関係性を示されたわけではない証左だろう。

あくまでレティシアの見解だが、蒼の公子が望めば緋色の少女はどんな形であれすぐに受け入れる。

だからこそわからない。


レティシア(どうして、何もしていないのです?)


緋色の少女に拒絶されることが怖い?

意気地なし?

それは断じて違う。

先に抱いた第一印象が、その憶測を全て破っている。

考えられることは、一つ。


レティシア(もしかしてあの子、逆に彼に何かした?)


蒼の公子程の人物が行動しない、或いは躊躇うような出来事が起きたということ。

例えば、男であれば守りたい人を守れる力が欲しいと誰しもが願うであろう。

その強さが逆転するような無情な力関係があってはならない。

そして緋色の少女は物凄く強い。

他にちらつく可能性を考えるが、レティシアの勘は核心を突いていた。

今の関係性の前進を妨げているのは、他ならぬ緋色の少女自身であったということを、この時誰も知る由がなかったのであった。

・アリエル公国

緋色の少女…戦乙女 Lv31

蒼の公子…ノーブルロード Lv31

アイリ…?? Lv⁇


・エクノア王国

レティシア…マージナイト Lv26

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