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007, 孤独な少女


 転生して六日。

 幼少化した自分の体にも慣れてきた。


 難を逃れ、結局洞窟で一夜を明かし外へ足を踏み出すと、そこには爽やかな草原が視界いっぱいに広がっていた。

 微風(そよかぜ)が心地よく空気が澄んでいて気持ちが良い。


「ここを越えた先に町があります、いよいよ到着ですよマサムネ様」


「はい」


 彼女の魔法の事については詮索する様な事はしなかった。

 本人もその話題は持ち出さないので、おそらく話したくない、もしくは話せない理由があるのだろう。


 数日の間柄ではあるが彼女への信頼感は深く根付いていたのだ。

 その時がくれば本人から口を開くだろう。


 料理人スキルについても新たな発見があった。

 何度も肉を召喚してみたのだが毎度、玉砕牙狼(ビーストファング)の肉が現れ気付いた。

 おそらくだが、召喚できる肉の種類を増やすにはやはり何か条件が存在するのだろう。


 スキルについて模索をしていた為、彼女に訊きそびれていた事がある。


「シャルロットさん、アルバーグ様とやらについて少し教えてくれませんか?」


 そう、俺はこの数日で覚悟を決めたのだ。

 結局の所、奴がどういう存在なのか味方と言っていたが果たしてそれは信じて良いものなのか。


 彼女は、にまりと口角を上げ口を開いた。


「おや、とうとうマサムネ様もアルバーグ教へ入信する気にーー」


「なってません」


 むぅと頬を膨らませた。


 そして神妙な面持ちで再び口を開いた。


「……そうですね、アルバーグ様は私にとって英雄みたいな存在です。少し語りましょうか、今から私が話す事は唯の戯言だと思ってくれて構いません」


 暗い表情を浮かべていたが、彼女の眼差しはこれから語る事が実話であると訴えかけて来た。


「……私は、少し特殊な環境で育ちました。それもあってか幼い頃は周りと馴染めず、両親も早くに亡くしてしまい孤独な毎日を過ごしました。生きる事すら辛くなり、この身を投げ出そうとした事もありましたね。まぁ、幼かった私にそんな勇気はなかったんですけど。……そんな時なんです、彼に出会ったのは。ある日私は食料を採りに森へ入り、魔獣の群れに囲まれて自分の死を悟りました。……その時は、あぁやっと解放されるんだって思ったんです。ですがその時彼は私の前に颯爽と現れました。彼は人間の領域を遥かに超えた魔法使いでした、魔獣の群れを相手に傷一つ負わず私を助けてみせ、放心状態の私に手を差し出して心を見透かしたかの様に言ったんです、『今はまだ辛いかもしれない。でもキミなら大丈夫、これまで辛かった分幸せになれる権利がある』と。それから、彼の言葉に救われた同志達と巡り会えました。またあの方に出会えたのであればあの日の感謝を沢山伝えたい、一人の少女が貴方の言葉でどれ程救われたのか……」


「……」


 言葉が喉に詰まって聲にならなかった。


「すいません! 長々と」


「いえ、素敵な話だと思いました」


 今の彼女の言葉から推測すると、アルバーグとは神聖な存在ではなくただの人間なのだろうか。


「彼に名前を訊ねると、名乗った後颯爽に姿を消しました。その日から私の人生薔薇色でしたよ」


 少なくとも洗脳的宗教ではなさそうだ。

 曇った表情は、語り終える頃には晴れた表情へと変わっていた。


 俺の想像していたハンバーグ様と解釈が一致しないな。

 とんでもない下衆を想像していた為、内心度肝を抜かれていた。


 俺に対する話し方からは一ミリとも想像が付かないお方だなハンバーグ。


「他の方のアルバーグ様との素敵なエピソードもお話ししましょうか!」


「い、いやまた後日お願いします」


 そうですかとすんなり受け入れてくれた。


「少し早いですけどお昼ご飯にしましょうか」


「おひるごはん!」


 彼女は非常に食に対する思いが強く、漂ったナーバスな空気も吹き飛ばしてしまう程眩しい笑顔である。


「話してくれたお礼に僕の知識全てを活かします」


 肉はまだ玉砕牙狼(ビーストファング)のしか召喚できない、生臭さを少しでも和らげる料理が好ましい。


 香辛料、スパイスでアレンジを加えれば何とか臭いは誤魔化せるのではないだろうか。


 確かインドネシアか何処の国の料理に鶏肉をスパイスに漬け込んだ後、炭火で焼いた料理があったのをレシピの本で見た覚えがある。

 材料を用意するのが面倒で結局試せなかったのだが。


 スパイスなら幾らでも代用が効く筈。


 いやでも鶏肉ではないと違う料理名になってしまうのだろうか。

 まぁ物は試しだ、確か名前は……


「アヤムバカールだったかな」


〈アヤムバカール:が生成可能です 生成しますか?〉


 おっ合ってた。


「生成!」


〈アヤムバカール:を生成します〉


 魔法陣が現れる。


 この匂い、

 今回こそはもしかしたら……


 鼻を透き通るスパイスの香り、だが同時に少し甘味を感じさせる匂いを放っている。

 スパイスが良い塩梅で臭みを和らげている。


「むぉぅ」


 シャルロットも待ちきれず、目の前の料理に涎を垂らしていた。


 では、


「「いただきます」」


 一口食べるとそこからはもう歯止めが効かなくなった。


 口いっぱいに広がるスパイスのジャブ、ほんのりとココナッツを感じさせる甘み、噛めば噛むほど旨みが口の中で拡散する。


「マサムネ様! これ半端ないです!」


 シャルロットも自分の口調も忘れてしまう程である。


「長い道のりでした……」


 この世界に来て初めて美食に巡り会えた事に思わず涙が溢れる。

 これは本当に以前まで嫌悪を抱いていた魔獣の肉なのかと疑ってしまう。


 町まであと少し、きっとこれから様々な美食に出会える事を想像すると活力が漲って来た。

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