005, チートスキル?
森を抜け二時間ほど談笑を交わしながら町を目指した。
その間、特に魔獣と接敵する事も人とすれ違う事もなく、殺風景な景色を視界に広げ真っ直ぐ進んだ。
時刻はおそらく昼時。
彼女の腹の虫が再び怒号を鳴らす。
赤面する彼女にフォローを入れる様に声をかける。
「そろそろお昼ご飯にしたいところですね」
「ごはんっ?!」
昨晩は二口しか食べなかった為、俺も昼食を摂りたいのは山々である。
が、如何せん食料は皆無。
森からバジルなる雑草を彼女の小物入れに詰め込んで貰っているので、都合よく魔獣でも現れてくれたのなら胃袋の糧にしてくれるのだが。
「付近で何か食べられる物はないでしょうか?」
「そうですね、この辺りだと木の実が成る植物も、川も流れていません」
数時間歩いた先で食糧が手に入るのであれば彼女が二日も水以外口にしてないなんて状況に陥る事はないか。
そう考えると彼女は中々タフだ。
「……はぁ、ハンバーグが食べたい」
思わず声に漏れていた。
〈ハンバーグ:が生成可能です 生成しますか?〉
「っ?!」
「どうかされましたか?」
再び視界に文字が浮かび上がる。
きょとんとした彼女を見て、やはりこれは自分のみ視認できているものだと確信する。
固唾を飲み込み、文字に対して返答した。
「はい……」
〈ハンバーグ:を生成します〉
文字が映し出されたと同時、舗装された道に魔法陣のような物が浮かび上がる。
こちらは彼女にも視認が可能の様で瞬時後退し、腰にかけた短剣へと腕を運ぶ。
「マサムネ様危険です! 離れてください!」
彼女の言葉に応じて距離をとる。
が、おそらくこれは俺が起こした現象だろう。
だとしたらもしかするとーー
光を放つ魔法陣から円形のテーブルと、椅子が現れる。
卓上には皿に綺麗に盛り付けられたハンバーグがソースを被り待ち構えていた。
やはり。
これはおそらく俺の料理人というスキルの効果によって生み出された物。
「大丈夫ですシャルロットさん、これはおそらく僕が創り出した物です」
首を傾げ、腰に掛けた腕を下げた。
「マサムネ様、魔法がお使いになられたのですか?」
魔法というよりまるでルーティーンの様な、体の基盤に染み込んだ一連の動作の様に感じ取れたのだが。
「いえ、魔法かどうかは僕にも分かりませんが」
テーブルに歩み寄り、卓上に備えられたナイフとフォークを手に取る。
疑念を抱きながらも目の前の光景に抗うことは成しえなかった。
ソースと湯気を纏ったハンバーグに切れ込みを入れると、内側から美しい断面が姿を見せた。
一口サイズに切り分け、肉を口へと運ぶ。
「っ!? これは……」
この匂いこの舌触り、間違えるはずも無い。
「シャルロットさんもこれ、食べてみてください」
手にしたナイフとフォークを皿に乗せ、彼女にも勧める。
カトラリーが一人分しか備えられていないのだから仕方がない、疾しい気持ち等一切ないそうこれは仕方のない事である。
「では、お言葉に甘えて」
意気する俺と裏腹に躊躇いもなく食器を手に取り、彼女もハンバーグを口にする。
「お、おいしい! こんなおいしい料理初めてです!」
咀嚼を繰り返し、途中彼女も気付く。
「もしかしてこれって、玉砕牙狼の肉ですか?」
「ええ、おそらく」
彼女の舌には至高の一品であったが故、過去に感激を受けた食に対しては記憶が強く染みついていると憶測を立てていた。
つまり俺も同様で、俺の舌は少し拒絶反応を見せていた。
昨日のステーキと比較して随分様にはなっていて、強烈な匂いも悪魔的な味も控えめであった。
正直に言えば、微妙。
が、間違いなく昨日のステーキより数段マシな料理と言えるだろう。
鼻を摘めば美味とさえ感じてしまう。
成程、この料理人というスキルはおそらく俺が言葉にした料理を創り出してくれるのか。
今の俺にとっては有り難すぎる能力じゃないか。
「……」
いや、異世界転生で得たチートスキルが料理を出す能力ってどうなんだろう。
どうせならもっとこう圧倒的な魔力だったり、強力なパワーであったり、客観的に見て悪打倒みたいなスキルが良かった。
数に限りがあるリスクを鑑みて取り敢えず今はこれだけで、晩飯の際にもう一度試してみよう。
折角、胃に詰め込めそうな料理だ、食べない他ないだろう。
「えっ……」
再び目にした皿にはソースの跡しか残されていなかった。
皿に向けた視線をシャルロットの顔へ移すと肉をリスの如く口いっぱいに詰め込み、口の周りにソースを飾り幸福に浸る姿があった。
「あっ……ごめゆなはい。おいびくてふい」
まぁ昨晩一睡もせず見張りを勤めてくれていた。
このくらいのご褒美があってもいいだろう。
「大丈夫ですよ、ゆっくり飲み込んで下さい」
「あびばどうございます!」
彼女は所々少し、お下品であった。
食べ終えると、食卓は再び現れた魔法陣へと還っていった。
************
転生して四日が経過した。
この四日間、特に危険もなく町まで順調に近付いていた。
俺の料理人のスキルについてもなんとなく理解もしてきた。
俺の思想した物は数に限りはなく、口にする度この世界に存在する食材を元に料理が生成される。
二日目の晩、試しに寿司を出そうと試みたが、生成が不可能だと言われた。
この世界でも再現可能な料理を挙げていくしかないという事なのだろう。
この場合、おそらく米がこの世界で再現不可能だったのか、もしくは何か条件付きなのか。
穀物が無いとは考えにくい。
因みに食材だけを出す事も出来た。
抽象的な要望にも意外と応えてくれる。
肉を所望すれば玉砕牙狼の肉片が生成された。
ただやはり、調理する器具は自然の中から用意するしかないので町に着くまでは、完成系を出すのが得策だろう。
「マサムネ様、お腹空きました……」
彼女はというと、すっかり俺のスキルの虜になっていた。
「はいはい、何が食べたいですか?」
「やったあ! 私ハンバーグが食べたいです!」