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017, 戦慄の兄妹 Ⅳ


「では僕はこれで失礼します」


 役立たずの筈のスキルを駆使して魔獣を操り、アイルを撃ち破った俺は早急にシャルロットの後を追う。


「何がBランク冒険者よ……あのババア見る目がないわね。……まぁ兎と見誤った私もね。でも獅子だとしても義兄様(おにいさま)には勝てない」


 魔獣達は課せられた責務を終えると遠吠えし、魔法陣へと還っていった。


 恐らく俺が今召喚可能な魔獣は玉砕牙狼(ビーストファング)鉄鎧竜(アーマーサラマンダー)の二種類だろう。

 理論上、恐らく召喚できる魔獣は俺が魔獣を食べる事によって肉の生成が可能になるのと同様に増えていく筈だ。

 もし洞窟で遭遇した骸骨騎士亜種(スケルトンロード)を口にしていたら、あの怪物を何体でも俺の手中で自在に働かす事ができたのか。


 魔獣を操り戦闘に挑むなんてどちらが善で、どちらが悪なのか判別が難しくなりそうだ。


「中々広いな……」


 階段を降り奥まで続く長い通路は進むにつれて老化が増している気がする。

 薄暗く、蜘蛛の巣、鼠、天井から滴る水。

 こんな所でまともな酸素が吸えるか。


 明かりが見える。

 赤く暖かな光、まるで俺がそこ辿り着くのを待っているかの様だ。


「誰かそこにいるんですか」


 ーー返事がない。


 だが光は左右上下に蠢いている。


 慎重に一歩一歩進んでいく。


「ーー待っていたぞ」


「っ?!」


 謎の光の正体は、黒いローブを身に纏った男の鋭い眼光であった。

 その男が何者であるのか察しが付くのに、俺の脳は一秒も必要としなかった。


 こいつがライリーか。

 姉二人と比べて圧倒的な強者の風貌、赤い眼光を見る度に萎縮してしまう。


「あなたがライリーさんですね」


「あぁ」


「僕が来る前に女性が向かってきていませんでしたか?」


 シャルロットの姿が見当たらない。

 一直線の道でライリーとすれ違う筈もない、そしてここにはこの男一人しか視界に収まっていない。


「あぁ来たぞ」


「どうされたんですか?」


 平常心を保つ為右手を硬く握り締めた。


「返り討ちにしてやった」


 クッ……!


「そうですか。生成、"鉄鎧竜(アーマーサラマンダー)"を50体」


鉄鎧竜(アーマーサラマンダー):を50体生成します〉


 男は現れた魔獣を目にすると杖をローブの中へとしまった。


 杖がないとお前達は魔法が使えない筈じゃないのか?

 シャルロット同様に杖を用いる事なくとも高火力の魔法を放つ事ができるのだろうか。


「あの娘が貴様を事を高く評価していた。だが期待外れのようだ」


 男は魔獣の群れに拳を向けた。

 響く轟音と共に、硬さが取り柄の鉄鎧竜(アーマーサラマンダー)達は男の突きによって半数程葬られた。


「っ……! 化け物かよ……!」


 男の二連撃目の打撃により魔獣の群れは跡形もなく消し去った。


「魔獣を味方につけるとは恐ろしい男だな。しかも数に上限がないときたか」


「それを簡単に鎮めてしまうライリーさん程じゃかいですよ」


 召喚した魔獣達は男の手によって次々と屠られていく。


 100、500、1000……何体出した……


 数で押し切る事すらできない。

 通路が広いとはいえ膨大な数を一度に召喚してしまうと天井が崩壊して俺自身が潰されてしまう。


 それに奴はまだ魔法を使っていない。

 己の拳だけで魔獣達の群れを上回っている。


 このままではこちらが押し切られてしまう……!


「"冷徹なる雷鳴(アシッド・ボルテージ)"!」


 男の頭上より落雷が降り注ぐ。


「まだ生きていたのか……」


 男はローブで落雷を弾いてみせた。

 術師は至る所から血流するシャルロットであった。


「シャルロットさん……!」


 彼女は既に瀕死の状態まで追い込まれている。


「マサムネ様!」


「……いいだろう。二人まとめて相手してやる、だがここだと俺が魔法を使えばお前達とルーシャが生き埋めになってしまう。お前達の事はどうでもいいが、外へ出よう」


「っ!?」


 魔法を使われてはこちらの身が保つかは分からないが今ここで不毛な耐久戦を続けていても勝機は一切見つからない。


 こちらの応答を聞く前に男は階段のある方へと歩いて行った。


「大丈夫ですかっ……!?」


「傷はそこまで深くありません。それに治癒魔法も使えるんです。ですのでまだ私も戦えます」


 正直、彼女と二人で立ち向かったとしても勝てる見込みが薄いと感じている。

 だがルーシャを救うと宣言したんだ、ここで退く訳にはいかないだろう。


「シャルロットさん、ルーシャさんは?」


「奥の檻に閉じ込められています。開けようと試みたのですが檻にはライリー様の魔法がかけられていて……」


「そうでしたか……」


 どちらにせよあの男を倒さないとルーシャを解放する事はできないのか。


「……マサムネ様、本当にアイル様を……?」


 まずそこに疑問を持つのは当然だろう。


「はい、実は僕魔獣を召喚できるみたいでしてーー」


 アイルとの戦闘で得た情報をシャルロットに伝えた。


「魔獣を自由自在に操る能力ですか……」


 流石に少し引いただろうか。


「はい……」


「ーー凄いじゃないですか! 食べたら数に限りなく召喚できる、それってつまり古代の生ける伝説、ドラゴンでさえも味方につけることができるって事ですよね?!」


 目が輝いている。

 俺はこの空間が気に入っているようだ。


「まず出逢わないといけませんけどね」


「ハッ! そうでした……でしたらマサムネ様! あの男ぶっ飛ばしてルーシャ様を助け出し、三人でドラゴン! 探しにいきましょう!」


「そうですね」

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