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012, 仲間


「どうですか? 僕のとっておきは」


「……すごいわ。初見で出されて魔獣の肉が使われているなんて誰も信じないわよこんなの」


 シャルロット以外の人間に出すのは少し気が引けたが、出した物に良い評価を与えられると嬉しいものだ。


「にしてもこれ、直ぐに持ってきたけど出来たてよね? そんなすぐ作れるものなの?」


 初対面で魔法陣なんかいきなり見せつけたら警戒されてしまうと思ってこっそり出したのだが、裏目に出てしまったか。


 まぁ、隠すような事でもないか。


「実はかくかくしかじかでーー」


「え?! つまりあんたいつでもどこでも美味しい料理が無条件で出せるって事?!」


 シャルロットに説明した時はそこまで驚かれなかったが、こっちの反応が正常なのだろう。


「まぁ、そうなります」


「えっへん、うちのマサムネ様はすごいんですから! 何せあのアルバーグ様の使いなのですから!」


 これ以上に話をややこしくするな。


「アルバーグ……? 何処かで聞いた名ね」


「アルバーグ様をご存知ですか!」


 ハンバーグ様ほんと何者なんだ。


「昔おばあちゃ……お婆様から話に聞いた事がある気がするわ。確か、無慈悲のアルバーグって異名で呼ばれてた気が……」


「むじひぃ?! アルバーグ様は尊きお方です! 私の村が存続できたのはアルバーグ様あっての事! 誰ですかそんな変な異名を付けた不届者?! 私が直接ぐーぱんしてきます」


「絶対にやめて下さい」


 憤りを覚えたシャルロットを鎮火するのには骨が折れた。


「ところであんた達、冒険者になったって事はこれから町を出たりするの? それとも町を拠点に?」


「あぁ……それは僕もまだ少し悩んでまして」


 冒険者職というものは旅をしながら生計を立てる者と、拠点を構えて生活する者がいる。


 旅をするならば色んな地で依頼を請け負う事が出来るので様々な魔獣と会うことができる。

 町を拠点にするならば土地勘も優れ、周囲に湧く魔獣にも博識になる為、安全面をとるならば後者である。


 本来、俺達は世界を救うという目的の元この町へ情報収集する為に訪れた。

 だが未だ手掛かりは見つかっていない。

 これ以上この町に滞在していても有益な情報は得られないだろう。


 世界を早いこと救って元の世界へ戻して貰わないと、また上司に沢山怒鳴られる。

 はぁ鬱になりそうだ。


 ……ん?


 そもそも世界を救ったとして俺は元の世界へ戻れるのか?

 あいつの口から直接聞いた訳ではない。


 そもそも俺は元の世界に戻る必要はあるのか?

 未練も何もない、唯過酷な日々へ逆戻りするだけではないのか?


 理不尽にも屈しず、文句一つ垂れず辛抱する日々を果たして俺は本当に取り戻したいのか?


 俺はやっと解放されたのではないだろうか。

 向こうでの日々とこっちでの日々、有意義な時間を過ごせているのはこっちだろう。


 死の局面に当たる事はあれど、精神的に追い詰められ脳死の状態になるのとどちらがマシだ?


 うまい飯も食えて、可愛い女の子にチヤホヤされて何一つ不自由なんて無い筈……


 俺は一体どうしたいんだ。


 頭が真っ白になっていく感覚がした。


「ーームネ様、マサムネ様!」


「っ!? どうしました?」


 いけない、我を失っていた。


「大丈夫ですかマサムネ様? 少し横になられますか?」


 大袈裟な。

 おっといけない、涙を拭わねば。


「……えっ」


 何故俺は涙しているのだろう。


 やはりどこか元の世界に未練を感じていたのか。


「あーあ、シャルロットが泣かせた」


「私ですか?! どちらかと言えば話していたルーシャ様ではないですか?!」


「……ふっ」


 そうだ。

 昔の事なんかどうでもいい、今は信頼し合える仲間がいるではないか。


「すいません、取り乱しました。もう大丈夫です、ルーシャさんもありがとうございます」


「私は何もしてないわよ……」


 そう言ってルーシャは頬を少し赤らめて、ふんっとそっぽを向いた。


 世界を救った所で俺の居場所は変わらない。

 シャルロットが笑顔で今日のお昼ご飯は何だ、晩ご飯は何だと俺を待ってくれている。

 今はそれだけで充分ではないか。


「決めました。来週にでも僕達は次なる町へと向かう事にします」


 早いとこ世界を救ってシャルロットとスローライフを満喫しよう。


「そう、ならあんた達ともこれっきりね」


 少し哀しさを感じさせる笑みを浮かべて見せた。


「ルーシャさんはずっとこの町に?」


「まぁこれでも町を束ねる一角の家の娘ですから。出来損ないでもいないよりはマシよ」


 始め俺に突っかかって来たのは恐らく魔法面で何か悩みがあるからだろう。

 出来損ないという発言はそこから派生した自虐。


「ルーシャ様は出来損ないなんかじゃありませんよ」


 会話に参加していなかったシャルロットが真剣な眼差しで訴えかける。


「……っ! 根拠もないくせに」


 シャルロットの声で彼女から曇った表情が消え去った。


 それから魔獣食を三人で囲い、雑談を交わしながら其々の親睦を深めた。


「それじゃあまた何処かでね。ご飯ご馳走様、おいしかったわ!」


「はい、また何処かで」


 魔獣食、貴族の御令嬢の口にも合うとは底が知れない未知の食材である。


「あっ! いけない!」


 シャルロットが声を挙げた。


「どうされましたか?」


「話に夢中になり過ぎてルーシャ様に入信書を渡すのを忘れていました。あの感じ絶対いけると思ったんですけど……」


 相変わらずブレないなこの子は。


「その内また逢えますよ」


「いえ、この機会を逃す訳にはいきません! 私ちょっと追いかけてきます」


 そう言って宿を飛び出していってしまった。

 呼び止める訳でもなくその背中を見送った。


「……さて次はどの町にしようかな」


 市場で買った地図を広げ次なる目的地を探す。


 ララグリーナはこの国の中でも中々栄えた町だ。

 この場所で何も手がかりが無しと言うのならば、やはりここしかないか。


 目指すは王都、ミラボーデン。

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