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011, 努力と才能


 私はベルネッド家の末っ子として生を享けた。

 一番上に兄が一人、そして姉が二人いる。


 兄様は魔法に関しては卓越した技術の才を持っていて、姉様二人も兄様程ではないが魔法の技術は他者より優れていた。


 幼い頃は兄様の背中を追いかけ、姉様等にも尊敬の念を向けていた。

 私もいずれこの人達みたいに背中を追われる存在に成るのだろうと思っていた。


 だが神は私を見限った。


 ベルネッド家に生を享けた者は皆天賦の才を持っていて、後世まで名を綴る様な人達ばかりであったが、私は天才達とは違って魔法の面では周囲と比較してみても不出来な出来損ないであった。


 人より努力した。

 人より時間を割いた。


 だが私には天才達の様な才能はないのだと痛感させられた。


 いつからだろうか、次第に私は魔法がどんどん嫌いになっていた。


「あなたなんかが私達の妹なんて心底反吐が出ますわ。兄様と私達の面汚しも程々にして下さる?」


「ごめんなさい……」


 姉様二人から日々浴びせられる罵詈雑言、彼女達のストレスの吐口として私は利用された。

 何も言い返す事など出来る筈もない、言い返せば力でねじ伏せられてしまうと悟ってしまったから。


 兄様は私に対して関心がなかった。

 というか人に関心を向けない人で、姉様二人とも会話をする所を目にした事はない。

 クールでかっこいいと思っていた背中も、気付けば追い掛ける事もなくなっていた。


 天才に対する嫉妬、劣等感は日々増す一方。


 ーー14歳の誕生日を迎えた時、私は杖を置いた。


 私は貴族である、無理に兄様達の様になる必要はない、魔法の道を行かずとも色んな生き方がある。

 もっと早く進路変更をすべきであったのだ。


 部屋に引き篭もり、只々涙を流す日々が過ぎていった。


 ◇


「ーー杖を取れ」


 ある日、そう言ってくれたのはお婆ちゃんだった。


 私は嬉しかった、誰かにきっとそうやって諦める事を諦めさせて欲しかった。


 天才にはなれないと分かってはいるが、私はやっぱり魔法が好きだ、誰よりも好きなのだ。


 私の殻を破ってくれたお婆ちゃんはそれからというもの魔法の特訓に付き合ってくれた。


 他愛も無い会話相手にもなってくれて、メンタル面でのケアも施してくれていたのだと今になっては思う。


 日々の会話の中から、お婆ちゃんは全盛期Sランク冒険者として名を馳せていた事も知った。

 師匠としてはとても心強い。


 ーー私は魔法使いだ


 木偶の坊でもいい、その称号だけで自分自身の本心と向き合える気がしたから。


 15歳を迎えた頃、私はお婆ちゃんに勧められ冒険者になる事を決意した。


 審査するのは実の祖母、だがあの人は贔屓なんかするような人ではない。

 身内であろうと駄目なら駄目だと告げるだろう。


 当日、護衛を率いてギルドへ赴き、数人の受験者と共に自分の番が来るのを待機した。

 周りの人達が姉様等の様に自分を蔑視しているのではないか、緊張で心臓が張り裂けそうだった。

 周囲の目を欺くように、心を無にして寡黙な人間を演じてみせた。


「Cランクでしたーー」


「っ!?」


 やはり天才というものは何処にでもいる。


「ルーシャ・ベルネッド様」


 私の番が回ってきた。


 諦めるのはもうやめた、今回落ちたとしても私は何度だって立ち上がると決めたのだ。


「ーールーシャ……、立派になったな、合格じゃ」


 涙が溢れた。

 でも、これはあの時の涙とは違う。


 私は冒険者となったのだ。

 つまり、正式に魔法使いだと認められたという事である。


「ありがとっ……ありがどゔおばあぢゃん!」


 膝から崩れ落ちた私の頭をお婆ちゃんはこの時初めて撫でてくれた。


 目を腫らし受付まで行くと、どうしたと心配された。


 証明書の交付を終え足早に屋敷に帰宅し、自室のベッドへ顔を埋めた。


「Eランクかぁ、まぁ伸び代があるって事よね」


 証明書を眺めニマニマしていると、扉からコンコンとノックがかかる。


「ルーシャ、入るぞ」


「お婆ちゃん! ……っ!?」


 先程酷く崩れた泣き顔を見せた手前、顔を合わせるのが少し気恥ずかしい。


「今回はとても豊作じゃった」


「あぁ、Cランクの人もいたもんね。すごいや、私もその内なれるかな」


「……」


「どうしたのお婆ちゃん?」


 祖母は目を丸くした後、僅かに口角を上げて見せた。


「本当に成長したな、ルーシャ」


「っ! ……やめてよ恥ずかしい」


 私は他にはどんな受験者が居たのかお婆ちゃんに聞いてみた。


 駆け出しCランク冒険者など年に一人出たら充分豊作である、だが今回の受験者からは二人現れたことを知った。


「マサムネ……? あぁCランクの人が確かそう呼んでた気がするわ」


 今年は槍の雨でも降るのだろうか。


「Bランクっ?! ありえないありえない! お婆ちゃんだって最初はCランクからだったんでしょ? そんなのどうせ不正してるに決まってるわ! 私が本当かどうか見定めて来てあげるわ!」


 スズキマサムネ、一体何者よ。


 屋敷を飛び出し、情報を探って回った。


 聞き込みを始めて一時間程、思いのほか彼の居場所は直ぐに見つかった。


 辺りは寝静まり始め、町は暗闇に飲み込まれた。


 夜分遅くに訪ねるのも失礼よね。

 出直そうかしら、いやでも入れ違いになっても困るし、明日にはこの部屋を放している可能性だってある。


 だったら……


「あ、あの……お客様?」


 主人は200ダリスを受け取ると、何も訊かずその場を後にしてくれた。


 ーー鳥の囀りが朝を知らせる


 睡魔を押し殺し、その時を待った。


 そして…….


「探したわよ! スズキマサムネ!」


 この出会いが私の人生を大きく変えるものだという事は、この時の私には知る由もない。

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