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001, 間に合ってるんで


 気付くと俺はそこにいた。


「ーーーーーーーーーーーー」

「ーーーーー」

「ーーーーーーーーーーー」


 誰だこいつら。

 俺はさっきまで会社のデスクでクソ上司から押し付けられた大量の書類をまとめていたところ。


 教会の様な建物の中心に座れこむ俺を、囲うように集うフードを覆った白装束達。

 会話をしているようだがどこの言語なのか全く分からない。

 猫型ロボットよ、便利な道具を授けてくれ。


 というか身体にすごく違和感がある。

 なんというか軽いと言いますか、柔軟と言いますか、疲労感そのものを忘れたかの様な。


 頬に触れてみる。

 荒れた肌は何処(いずこ)へと言わんばかりにすべすべである。

 手足もなんだか短くなったような。


 というかなんで俺は全裸なんだ。


 ふと局部へ視線を落とす。


「……なんじゃこれいいい!?」


 俺の立派な息子はかつての影も形も失い、愛くるしいベイビーがこちらを窺っていた。


「ーー?!」

「ーー!?」


 俺の声に集団が慌てふためく。


 俺はこの時確信した。


「若返った……」


 そう、俺の身体は12,3歳の少年の姿へと変貌を遂げていた。


 しかし、ただ若返ったというような訳ではなく、髪は少し明るく目鼻立ちも幼少期の頃の自分とはまるで異なり、別人のような姿をしていた。


 身体の至る所を弄る俺の前に、一人の少女が歩いてきた。

 少女は腰を落とし座り込む俺の目線に合わせる。


「ーーーーーー」


 やはり言語がわからない。

 記憶を掘り返してみるが聞き覚えのない言語であった。


「すいません、何と言っているのかが理解できなくて……」


 フードの隙間から少女の顔が少し窺えた。


 16歳前後だろうか、青い髪に立体的な顔立ち、スラっとした手足、胸部は少し控えめだが、それを感じさせない圧倒的なポテンシャル。


「ーーーー」


 少女もまた、こちらの言語が理解できない所為か、少し哀しそうな表情を浮かべて見せた。


 共通の言語がないと会話が成り立たない。

 俺はうろ覚えの英語や、挨拶程度にしか覚えのない言語を用いたがどれも不発に終わった。


 悪い夢をみているなら早く覚めてほしいものだ。


『あ、あ、あ、聞こえますか?』


「?!」


 周りを見渡すが声の主が見当たらない。

 少女はきょろきょろする俺をおそらくきょとんとした表情で見つめている。


『すいません! すいません! 急いでいたもので言語の調節をすっかり忘れていました』


 また聞こえる。

 いや、これは俺の頭に直接語り掛けてきているのか?


「あなたは一体……」


『すいません、口をぱくぱくさせているところ申し上げにくいのですが、お姿は拝見できているのですが、こちらに声は届いていないので一方的に失礼しますね』


 はあ……


『まず私の名はアルバーグ、あなたをこの世界へと召喚した者でございます。詳しい素性は明かせませんがあなたの味方であります』


 何を言っているんだ……

 召喚?味方?


『あなたにはこの世界を救って頂くためにこちらへ来ていただきました。まあ、それも詳しい事はまだ話せないんですけどね、あはは!』


 あ、こいつ嫌いなタイプだ。


『あ、今、こいつ嫌いなタイプだなって思いましたね?』


 ゔっ……。


『あはは、図星ですか! いいんですよ、よく言われます! まあ兎に角、あなたにはこの世界を救って頂きます、勿論状況に応じてその為のサポートは致します。とりあえず今は言語が理解できなくてお困りでしょう、ちょちょいのちょいで脳にインプットするので!』


 世界線がわからない……。

 つまり俺は前の世界とは異なる別の世界へ来てしまったということなのか?


『ーー終わりました! じゃあ後はお任せします! では!』


 あっ! ちょっ!

 お任せって、俺は何を任されたんだよ。


「あの……」


「っ?!」


 先程の頭に来る声色とはまた違い澄んだ響き。

 俯いていた顔を上げた。


「大丈夫ですか……?」


 少女の発言が理解できる。

 先程まで、泥沼に頭を突っ込んで話していたかのような発音が、聞き馴染みのある音へと変わっていた。


 恐る恐る口を開いた。


「大丈夫です……」


 ?


 ーー何が大丈夫なんだ?

 いきなりこんなとこ連れてこられて、少年の身体になるわ、世界を救ってなんて重荷任されるわ、色々大丈夫ではない。


「……こ、言葉がわかりますっ!」


 少女は驚き両腕を胸に当て、朗らかな笑みを浮かべた。

 そして顔の六割を覆っていたフードを後ろへ下し、隠れていた素顔を晒した。


 ーーやはり俺の目に狂いはなかった。

 圧倒的な顔面! 類まれない容姿!


 おっといけない。

 俺は慌てて局部を手で覆い隠した。

 申し訳ない、粗末なものを……


 少女もまた、俺の行動に顔を赤らめた。


「あなたは?」


 少女に問いかけた。


 すると少女はハッと目を開き我を取り戻したかのように首を振った後、満面の笑みを浮かべて陰部を封印する俺の両手を解き強く握った。


 えぇ"っ!?

 すぐさま太ももで覆い隠す。


「あなた! アルバーグ様の使いの方ですよね! 我々の想いを受け取って下さったのですね!」


 目を輝かせた少女のその言葉に周りが騒めく。


 ん?


「私の名前はシャルロットと言います! 身も心も清いアルバーグ教の信者でございます! あ、私のアルバーグ様に対する信仰心がどれ程の物か伝えるべく、アルバーグ様の魅力を! 気を失う方もいらっしゃるので端的にまとめますとーーーーーーーーーーーーーー」


 宗教的な単語を次々と並べる少女に俺は目を丸くし言葉を失った。


「……」


 熱弁する少女を遮るように黙って立ち上がり、踵をぐるりと回した。

 視線の先にあるドアへ無言のまま歩き始める。


 その一連の流れに誰も疑問を抱き口を開く事もなく、俺がドアに手を掛けるまで後ろ姿を眺めていた。


 ドアを(くぐ)り、後ろを振り返った後右手を突き出して言い放った。


「あ、そういうの間に合ってるんで」

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