8話-ドワーフの町
こんちくわぶ
「うわぁ、お前誰だ」
「おぉ、やっと起きたか」
さっきまで生死をさまよってたっていうのに随分と元気になったもんだ。
「ぎゃぁぁぁぁ、植物が喋ってる」
獣人族のやつらにも似たような反応されたっけな。
「俺は、マンドラゴラでお前がキラーアントに襲われて、死にかけていた所を助けたんだ。」
どうせ、植物が!?みたいな反応がまた返ってくるんだろうな。
「おい、怪我してねぇか?すまねぇな、助けてもらっちまって」
これは予想外だ、まさか他人の心配を真っ先にするとは。
「あぁ、俺は大丈夫だ。それよりお前に一つ言わなきゃいけないことだあるんだ」
「なんだ?」
「お前はあの時、切り傷と酸を腹に受けたことによる大怪我で俺にはお前を助けるために、ネームド化をお前に強制するしかなかった」
「....」
「たとえこの世が弱肉強食の摂理で成り立っていたとしても、許可をとるべきだったと思ってる。この通り、申し訳なかった」
俺は全身全霊で頭を下げる。これで許してもらえず、怒号を上げられても何も言い返せない。
「なんで謝るんだ?お前はどうせほっとけば死んでいた、俺の命を繋ぎとめてくれたんだろう?主従関係如きで命を助けてもらえたんだ、お釣りがくるぐらいだ」
「ソディス、」
やばい、泣きそうだ。こんなに感謝されたのは生まれて初めてだ。
「ソディスっていうのが俺の名前か?良い響きだぜ。しつこいようだが、俺はお前さんみたいな奴が主で嬉しいぜ。これからよろしくな、旦那」
「あぁ」
よくソディスを見れば俺の知っているドワーフと酷似している。長いひげ、管理が行き届いてるか微妙な髪、そして小さい体ながらも筋肉質なこの体...ドワーフじゃん!?
「ソディス、お前ってもしかしてドワーフか?」
「あぁ、そうだぜ旦那」
(リアさn)
⦅ネームド化の際に申し上げました⦆
(すいませんでした)
⦅個体名ソディスは正しくは`偉古の小人に進化しています⦆
あぁ、そういえば種族進化するとかなんとか言ってたな。
「ということはソディスはドワーフの村の場所知ってるのか!?」
「そりゃ俺の故郷だしな。俺んちに荷物も取りに行きたいことだし、行くか?」
「俺がここまで来た目的はドワーフ族に建築学を学ぶためだしな、願ったりかなったりだ。というか、荷物を取りに行くってどこか行くのか?」
「どこに行くも何も、旦那についてくんだよ。旦那はもう俺の主様だからな。ちょうど人材が欲しかったんだろう?」
「そうか、ありがとな」
暫く歩いたら立派な家の数々が集まっている場所に着いた。
「旦那、ここがドワーフ族の町だ」
おいおい、まじかよ村じゃなかったのか?、ソディスも町って言ってるし。
「おーいガイ、何してたんだ...`ってなんだその植物?」
「あぁ、こいつはな・・・」
ソディスが俺たちが出会った経緯を数分にわたり説明した。
「なるほどな、マンドラゴラさんよ、うちのガイ、今はソディスか。とにかくこいつを助けてくれてありがとうな。俺たちはあんたがネームド化をさせたことについて責める気はねぇから安心してくれ」
「あぁ」
「旦那にこの町を案内してやるよ」
おぉ!ドワーフの町の観光とかワクワクするな。
「ここが鍛冶屋、こっちが住宅街、あそこが・・・」
いや、ほんとにすごい。うちの村とは比べ物にならないほどにレベルが高い、前世での文明にはさすがに劣るが、俺がある程度の知識を教えることで限りなく近いとこまでいけるかもしれない。
「ここが俺の家だ、何も何もないとこだがくつろいでくれ」
「ありがとう」
実に質素な家だな、家具などは最低限必要なものしか置かれてない。
「ソディスって、何の職人なんだ?」
「俺は武器製作が主だな」
「武器制作、」
「すまねぇな、建築については基礎知識ぐらいしか持ち合わせていないんだ」
ふむ、こっちの村に来ても大した助けにもならないというプレッシャーは感じてほしくない。だけど、職人の耳にはそれは哀れみの声にしか聞こえないだろう。
⦅個体名ソディスは種族進化により、スキル:創成者を獲得しています⦆
(スキルの概要は?)
⦅あらゆる製作分野での最高純度の知識と技能が身に着くスキルです⦆
(ドワーフからしたら喉から手が出るほど欲しいスキルじゃねぇか)
「ソディス、ちょっと創成者って唱えてみてくれないか?」
「別に構わねぇが、創成者」
突如、ソディスが叫びだした。
「何じゃこりゃ!旦那、これは何だ」
「落ち着け、それはお前が進化の過程でゲットしたスキルだ。製作分野に秀でているスキルらしい」
「こりゃすげぇーぜ旦那。今まで学んだことなかった分野まで...」
「満足してくれたようでなによりだよ。荷物は持ったか?」
「あぁ、相棒の金槌もな」
「最後にもう一回だけ確認するぞ、ほんとについてくるんだな?」
「あぁ、旦那がここに来れたってことは度々ここに来れる手段もあるってことだしな。このスキルも旦那のために使わせてもらうぜ」
「分かった、出発しよう」
ソディスの仲間たちと軽い挨拶を済ませ、帰路に着くことにした。
「いいかソディス、俺がここに来た方法は生半可なものじゃないぞ?」
「お、おぉ」
「しっかり力んどけよ、じゃないとどうなるか分からないからな」
そして来た時と同じように自分とソディスの体を一瞬だけ浮かせ、炎魔法でジェット。
一回目が終わった後、ソディスは死にかけていた。
「おい旦那、こんなの聞いてないぜ。頭のねじぶっ飛んでんのか?」
うん、俺もそれには同意する。これを平然と提案してきたリアさんまじ怖い。
「こういうのも何なんだが、あと4回ほどさっきのをやらなきゃ着かない...」
「.....」
いや、まぁ聞かれなかったから答えなかっただけだし、俺悪くないし。
途中意識を失いかけていたソディスを連れて6日ぶりに村に帰ってきた。
「旦那、こりゃまたすごいとこだな..」
「ははは、、これからよろしく頼むぞ」
「おう、職人としての腕がなるぜ」
そんな何の変哲もない会話をしていると聞き覚えがある声がとんできた。
「おい、マンドラゴラ。お前、俺に何も言わずに遠征行くとはどういうことだ」
「いや、あの後お前の家行ったけどいなかったからさ」
「そっちが噂のドワーフか?」
「あぁ、紹介するよ、ライル。ソディスだ、全ての分野に精通してるんだぜ」
ネームド化をしたことは一旦黙っておこう。
「よろしくなライル」
「あぁ、よろしく」
この二人は意外に気が合いそうだな。
「今夜はソディスの歓迎会をしてもいいか?俺の料理も食わせたいし」
「もちろんだ、お前の帰宅も同時に祝おう」
まだ夕食時まで時間があるので村長との挨拶を済ませ、今村の建築などについて意見を聞いている。
「どうだソディス?お前でも無理そうか?」
「いや、確かに見た目はお粗末だが、支柱などの基礎はしっかりしている」
「それじゃあ、、」
「あぁ、この村の職人たちを教育したら4か月である程度のレベルまでいけるぞ」
ソディス直々に指導をしたいとの事だったので、村の職人たちを集める。
「今日からお前たちの指導係になったドワーフのソディスだ。専門分野は武器だが、大抵の分野はできる。よろしく」
「「「よろしくお願いします!」」」
「俺の事は親方と呼べ!」
「「「はい、親方」」」
うん、この村の人たちは下手なプライドや差別意識はないからすんなり受け入れてくれた。
「おい旦那!なんだこの美味い料理の数々は!」
「だろ?俺は鍛冶とかはできないが料理には自信があるんだ」
「だが酒がまずい、まず過ぎる」
「それには俺も同感だ」
「料理の天才である旦那は酒はつくれねぇのか?」
「大体の製造方法は(リアさんから教えてもらったので)知ってる。お前が建築方面に集中している間にちゃっちゃと済ませてしまおうと思ってる」
「こりゃ、また楽しみが増えちまったな」
宴の翌日からソディスの地獄の指導は始まった。村の職人たちが毎日死にかけの顔で家に帰ってるのを見かける。さすがドワーフの職人、おっかねぇな。
さて、俺はというとリア先輩に俺の前世での酒の記憶を解析してもらい、得た製造方法を試すため、畑に来ている。
今回作っていくのは疲れ果て、仕事から家に帰ったはいいものの、嫁さんには煙たがられる毎日ーそんな世の労働者が唯一心を許せる相棒、それすなわちビール!
ビールの原料として大麦が必要なので畑の近くに田んぼでも作ろうと思う。
実家が田舎ということもあり、田んぼの明確なイメージの再現は問題ない。だが、大麦を育てたことがない俺にはどのような田んぼが適しているのか分からない。
そこでうちのクレバーなAIさんの出番だ、ほとんどのことをやってくれるとのことだ。
酒樽はソディスたちに頼んでみればいいか。
「ソディス、折り入って頼みがあるんだが」
「おぉ、旦那の頼みなら神魔鉱石の採掘以外ならなんでも聞くぞ」
「実はー」
「なるほどな、酒のためだ。最優先事項として取り組ませてもらうぜ」
「ありがとな」
4か月後、やっとビールが完成した。あの後何度も作り、改良を繰り返した。
「ソディス、ビールが完成したんだが飲んでみてくれないか?」
「ついにか、、この泡とその下に隠れる黄金の酒...じゃあ頂くとするかー」
「あ、飲む前にそれ冷やさせてもらえないか?」
「冷やす?」
「あぁ、ビールは冷やして飲むのが一番美味いんだ。」
「そりゃいい、旦那頼むぜ」
氷魔法でちょちょいと冷やした。これには死ぬほど苦労したものだ、リアさんは飲んだことがないからどの程度の冷やさ加減が最適か分からない。だから、俺一人で試行錯誤するしかなかった。
「じゃあ頂くぜ旦那、ごくごくごく」
「どうだ?」
「かぁぁ、このビールってやつ程よい苦みと甘味があって最高だな。冷えてることによってさらに美味くなってるぜ」
「参考までに聞きたいんだが、お前たちはどんな酒を飲んでたんだ」
「旦那、こんな美味い酒を飲まされた後じゃ恥ずかしくていえねぇってもんだ」
現代社会人の味方なだけあるな。
「旦那、」
「ん?どうした?」
「酒樽なら頼まれればいつでも、幾らでも作ってやる」
「お、おうそれは頼もしいな」
ライル、ラルフ、村長の三人に飲ませてみたが発狂していた。
今度の宴の時に皆にお披露目するってことでいいかな~
「ソディス、村の職人たちはどうだ?」
「あいつらは出来がいい、こっちも教えがいがあるってもんだ。後1か月もすりゃこの村の建設技術は劇的に進化するだろうな」
2か月後、村の大体的なリフォームが行われ始めた。ソディスを筆頭に職人たちがせっせと動いている。そんな中、俺は白夜に料理を教えていた。
いや別に、サボって美女と戯れてるってわけじゃない。
白夜さん直々にお願いなのだ。決してやましい気持ちはない。
「まず、調味料の方から覚えていきましょうか。これが醤油、味噌、砂糖、塩ー」
「わぁ〜たくさんあるんですね。覚えられるかどうか」
「料理をしてれば自然とどれがどんな味を引き出せ、どの料理に適してるか分かるようになりますよ」
「それじゃあ、初めてですから肉じゃがでも作りますか」
「はい!」
「じゃあまずは野菜の皮を包丁でこーして削いでみてください」
「こうですか?」
そうそう、そんな感じにするする〜っと..って。
「白夜さん、初めてですよね?」
「うんそうだけど」
前世の知識を使って自分のことを天才だと公言してた自分が恥ずかしい。
「い、いや~白夜さん才能ありますね」
「マンドラゴラさんに褒めてもらえて光栄です」
「たぶん白夜さん俺より才能あるよ」
「そんな、私は画期的な調味料やレシピを思いつかないですよ」
それが全部、俺が考えたものじゃないんだよな..
「はい、完成だよ」
「わぁ、私にもこんな料理が作れるなんて」
「食べてみようか」
「はい!」
ふむふむ、どうしよう俺の作った奴より既に美味い。どうやったらこんなザ・和風の味を出せるんだよ。
「どう?自分で作ったのは」
「とっても美味しいです」
なんでこの村にはダイヤの原石しか眠ってないんだろう。
創成者は「そうせいしゃ」と読みます