7話-ドワーフ族
今回は少しばかり長いです
昼間の実験のおかげで大量に野菜が手に入ったので、今からオリフさんに俺主催の宴を開いていいか聞きに行くところだ。
「オリフさーん」
「おぉ、マンドラゴラか。どうした?」
昼間の実験と宴について説明した。
「なるほど、それは画期的だな。マヨネーズといい畑といい、全くお前には頭が上がらんよ」
「そんな、お世話になってるのはこっちのほうですから。それで宴の件については...」
「あぁ、盛大にやってくれ。楽しみにしてるぞ」
「はい」
大根、人参、玉ねぎは簡単な肉じゃがに使い、トウモロコシは焼くだけ、ジャガイモではフライドポテトを、芋はもちろん焼き芋に、最後に野菜スティック&マヨネーズ。
これで大体準備できたな、あとは日没まで魔獣討伐でもしますか。
ふぅ、そろそろ日没だし帰るか、皆の反応が楽しみだ。
今回は俺の希望で焚火をキャンプファイヤー風にアレンジしてもらった。
「皆さん、お集まり頂きありがとうございます。今夜はこの村でとれた野菜を私が料理したものをお出しします、つい最近住み始めた植物が何言ってんだって思うかもしれませんが、料理の味は保証します。それでは、お楽しみください」
「おい、マンドラゴラ!」
「ん?どうしたライル?」
「なんだよ、このクソ美味い料理の数々は!」
「天才シェフにかかればこんなもんよ」
「兄ちゃん、このポテトフライ?っていうやつまじで美味いな!」
「口に合ったようで何よりだよ」
「こりゃ~さらに酒が進むな!兄ちゃんと酒飲めないのが残念だぜ」
じゃあ、俺もそろそろ頂きますか。
まずは、肉じゃがから...うん、悪くない。だが、やはり醤油が使えなかったのが残念だ。
でも、この村での料理なら十二分に上位に入るだろう。
次は、トウモロコシはどうだ?うん、これは文句の付け所がないな。強いて言えば醤油が...
フライドポテト、ふかし芋、野菜スティック&マヨネーズは前世で食べたものと遜色ない。
次の目標は醤油だな。今までは当たり前のように使ってたから分からなかったが、醤油は偉大だ、それを再認識した。
ライルが俺の隣に腰を下ろした。
「お前、酒飲んでねぇじゃねぇか」
「あ、ああ。今日はそういう気分じゃないんだ」
「気分って、お前宴の時に飲まなくていつ飲むんだよ」
そうだ、ライルは俺が酒にあまり強くないってこと知らないんだ、どうしよう。
「何言ってんだ?こいつは酒無理だぞ?この前は一杯飲んだだけでべろべろになってたからな」
「....」
おい、おっさん!何言っちゃってくれてんだよ!あの夜、ライルの前で一気飲みした俺の努力を返せよ。
「なんだお前酒無理だったのか」
「あ、いや、無理って言うかなんというか...」
「無理なら無理って言ってくれれば良かったものを、お前はお人よしだな」
よく考えてみれば、ライルがこんなことで怒る訳ないよな。酒豪って言っても酒癖が悪く、ウザがらみしてくるような奴じゃないし。
「なぁ、お前どうしてあんな美味い飯が作れるんだ?植物のお前が普段からこんな料理を食べてたとは思えないし」
なんでこいつ、こんな時だけ勘がいいんだよ。転生者なんて言えないし、言ったところで転生の経緯などを話すのも面倒だ。
「まぁ、俺の天性の才能ってやつかな」
「そうか、強くて料理上手って、自身失くすな」
「その代わり俺は人と関わるのが苦手だよ、ライルはそういうの得意だろ?」
「言われてみれば、そうかもな」
「そうやって、人には人の得意不得手があるんだよ。だから気に病むことないさ」
「お前ってたまにすごい良い事言うよな」
「たまにってなんだよ」
俺の試食会を兼ねた宴からもう一年間が経とうとしている。
この一年間で醤油、味噌、砂糖の作成を済ませた。
大豆は魔法で、作る工程や器具に関してはリアパイセンと村の人たちに手伝ってもらった。
砂糖の原料であるサトウキビはこの村の近くにある水辺で栽培している。
村の発展状況はこんな感じ、食に関しては結構な進歩を遂げただろう。
次の目標はもう決めてある。建築物だ、この村のレベルじゃ暴風雨にでもあったら吹き飛ぶだろう。
この一年で俺のステータスはライルが見た瞬間に気を失うレベルにはなった。
なんと、俺の魔力量は十万を突破したのだ。
「なぁ、ライル。この世界での魔力量の平均ってどれくらいなんだ?」
「今更かよ、そうだな...俺たち魔物の場合は200以上あれば好待遇が約束される。ちなみに、俺は900だ」
「へぇー」
「自分から色々聞いといてなんだよその反応」
「いや、別に。ところで人間の場合はどうなんだ?」
仮にも今の俺は魔物だ。敵対関係になることもこの先あるかもしれないし、知っておきたい。まぁ、基本的にこっちから関わる気はないけどな。
「そうだな、人間なら百あれば将来安泰、千あれば神童と呼ばれる。」
「じゃあ基本的に魔物の方が強いのか?」
「いや、魔物にお前のような存在がいるようにあっちにもいるんだ、そういう存在が」
「確か人間側にも特異種が二人いるんだっけ?」
「あぁ、だがそいつらの他にもヤバい奴らはわんさかいる。例えば、冒険者とかがいるな」
「冒険者が強い?ああいうのってそこらの子供でも成れるレベルだろ?」
「低いランクなら、な。SSSランク冒険者は化け物だ、有名どころの話で天魔龍の一体との戦闘があるな」
「天魔龍?」
「天魔龍ってのは特異種と唯一互角に渡り合える存在と言ってもいい。あいつらは観測されただけでも6体はいる、どいつもその気になれば国を滅ぼせる力を持ってると言われている」
「化け物じゃねぇか!それでSSSランクの奴らとの戦闘ってなんなんだ?」
「SSSランク全3人対天魔龍ヴァリスの戦いだ。三人でやっと抑え込めたらしい。」
「犠牲者は?」
「国の領土の3割が持ってかれただけですんだ」
なるほどな、SSSランクとかいう大層な称号を背負ってるだけあるな。
「一つ聞いてもいいか?」
「なんだ?」
「今の俺がそのSSSランクの誰か一人と戦ったらどうなる?」
「....確実に負ける、お前のスキルの詳細に関しては俺には分からないがな。追い詰めることはできるだろう、だがそこまでだろうな」
そうか、更に強くなる必要がありそうだな。
「そして、中立の立場にいるのが《始祖の集い》だ。こいつらは俺たち魔物の先祖的存在の集まりらしい」
「へぇ~そりゃまた強そうな名前だな」
また一つ賢くなったことだし、建築物に本格的に取り組もう。
村にいる鍛冶屋たちに建築の知識を専門家さんから学ばせればいいだろう。俺が言った専門家とはドワーフ族のことだ。リアパイセンにこの世界の種族について聞いてみるついでに、ドワーフがいるかどうか聞いたら、ほんとにいた。ドワーフ族は武器の鍛造だけではなく、建築もできるものがいるらしい。
(リアパイセン、ここらへんにドワーフは住んでるのか?)
⦅住んでいません⦆
それは困った、(どこに行けば会えそう?)
⦅東に1000kmほど行った先にドワーフ族の村があります⦆
いや、1000㎞先って。軽い旅行じゃねぁか。こりゃあオリフさんに聞かないとな。
「オリフさん、折り入って頼みというか相談があります」
「お、おうどうした?」
「ドワーフ族の村に行って数名連れてきたいのですが、いいですか?」
「ドワーフ族か、、別にいいぞ」
「そうですよね、ダメですよねって、え!いいんですか?」
「あぁ、食料だってお前が大量栽培に成功してくれたおかげで問題ないしな。それに、ドワーフ族を迎え入れる理由は、この村の建築物だろ?」
「はは...オリフさんには筒抜けでしたか」
まったく、オリフさんには何から何までほんとに頭が上がらないな。
「少しばかり遠征になりそうなので、帰りは一週間後になるかもです」
「あぁ、気を付けて行って来い。村の連中には俺から伝えといてやる」
「はい、いってきます」
いってきます、なんて言ったのは何時ぶりだろうか...
1000㎞なんて徒歩で行ける距離じゃない?そんなの知ってる、ただでさえ歩幅が犬よりも小さい俺が行けるわけない。そこで皆大好き、うちのスマートAIことリアパイセンに聞いてみたところ、風魔法で体を浮かせ、そこに炎魔法で爆発を起こし推進力を加えるとのことだった。
いや〜うちのリアさんは実に愉快な発想をしてくれる。そんなことしたら首もげるは!
だが、リアパイセンには他に方法はない、とキレ気味に言われた。くだらない口論をリアパイセンとしたら俺には首がないことに気付いた。
よし、じゃあやるか3,2,1。
ドカーンッ!
やばい、前世で一回だけ乗ったジェットコースターとは比べ物にならん。下手したら飛行機より早いかもしれない。
そらにぶっ飛んでから数分、地面が見えてきた。
おし、着地の用意すっか....あれ?どうやって着地しよう。
やばいやばいやばい、落下時のことなんて一切頭になかった。途中からは空の上からの爽快な景色を楽しんでいたまである。
考えろ、考えろ、落下死とか絶対に嫌だ。勢いを完全に殺し切っての着地は今の俺のスキルじゃ無理だ。ここは水魔法で...
「軟水!」
地面に水のゼリーを作る、俺がクッション代わりになるものを探していた時に編み出した魔法だ。
勢いよく軟水をぶち抜きまくる俺、そして最後に地中にゴールイン。
転生したての頃と似てるな、目の前が真っ暗で何も見えん。
頭上に水球を出し地面にかけ、抜け出す。
⦅落下耐性を獲得しました⦆
いや〜新しい耐性スキルゲット出来てよかったよ〜、ってまじでくそ痛かったんだけど、大地魔法で地質変化しとけばよかった。
まぁ、生きてるだけで万々歳か。
リアさん、ドワーフ族の村ってどこにあるの?
⦅約7000㎞先です⦆
(あの、さっきので着くはずだったんじゃ?)
⦅あと4回繰り返せば目標地点に着けます⦆
4回、さっきのをって意味だよな。こんなことなら飛行スキルを持ってそうな魔獣を討伐しとくんだった。
建築学に変えられるものはないしな、冬の時なんて寒すぎて死にかけたし。
でもまぁ、着地さえミスらなければいい話だ。
⦅目標地点に到着しました⦆
いや〜俺のスキル三つを組み合わせて作ったAI(仮)だけあってナビゲーション機能もついてる高性能さだ。
あとの4回も見事に着地をミスり、終には「落下無効」スキルを手に入れた。これで墜落死の心配を帰路でしなくて済む。
ここ一体はもう森林地帯ではないな、さてドワーフの村はどこにあるかな~
こんな具合に暫く歩いていたら、どこからか戦闘音が聞こえてきた。
(リア)
⦅西、300m先です⦆
さすがリアさん優秀だね。
戦闘音が聞こえるところまでついた。
一人の男性と蟻?が戦っている。戦っているといっても蟻のほうが圧倒的に優先で男の方は手傷を負いすぎている、仮に奇跡の逆転勝利をしても出血死するだろう。
早く助けて治療してやんないとな。
(あの魔獣は?)
⦅キラーアント、主に酸性の液体を捕食対象にかけ、殺します⦆
酸性って、絶対当たりたくない。
ついに男の唯一の武器であったであろう剣が、蟻が吐いた酸で溶かされてしまった。
こりゃ本格的にやばいな、おし。
(リアパイセン、あの男に風輪域を)
⦅承、直ちに⦆
よし、これで心置きなく戦える。
麻痺毒を付与した針射で動きをとめ、その隙に魂消咆哮で片づける。
「魂消咆哮!」
蟻はのたうち回った末、魔霧になって俺に吸収された。
さて、まだ戦闘は終わっていない。怪我人を治療するまでが戦いだ。なんか似たようなことを小学生の頃の遠足で言われた気がする。
今はそんなことどうだっていい、
(リア、この男が助かる可能性は?)
⦅零に等しいです。今の主は回復系統のスキルを持っていません⦆
(じゃあ、ドワーフの村に急いで連れて行くとか?)
⦅不可能です。その前に失血死します⦆
どうする、目の前で人が死ぬ姿なんて見たくない。かといって今の俺にはどうすることもできない。
⦅...ネームドにすることによる大量の魔力上昇を促し、治療する方法があります⦆
(ネームド?)
⦅ネームドとは名前を有した魔獣と魔物のことを指します。それらの者は例外関係なく上位種族に進化します⦆
(村の皆は全員名前を持っているけど、あいつらは上位種族なのか?)
⦅否、ネームド化には名付けされるときに主となった者から大量の魔力が注がれることが条件です⦆
(じゃあ、元からある名前はどうなる?)
⦅上書きされます⦆
(その大量に消費した魔力は回復するのか?)
⦅否、ネームド化は主の命、魂を切り取り、分け与える必要があります⦆
(....)
⦅ですが、主の場合は魂消咆哮で既存の魔力量を増やせるため例外です⦆
(推定消費量は?)
⦅対象の身体の損傷を考慮すると2割は消費されます⦆
(リア、相手の了承は得なくていいのか?これは一種の主従契約みたいなものだろう?)
⦅通常の場合は両者の許諾が必要ですが、魔としての圧倒的な個体差がある場合は不要です⦆
弱肉強食って訳か、それは異世界でも変わらないのか。
(リア、)
⦅魔力蓄積中....完了しました、名前を決めてください⦆
名付けか、人生初だな。
(名前は、ソディス)
⦅承、個体名ガイ、種族:小人をネームド化...個体名ソディス、種族:`偉古の小人への種族進化を確認。成功です⦆
う、さすが魂の切り分け。死ぬほど疲れた、今までは魔力切れらしきものは起こしたことがなかったけど、これは桁違いだ。
魔力量の数値に関してですが、これはあくまで一般常識を基盤に考えられたもののため、主人公の魔力量はぶっ飛んでいるわけではありません。