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2話-魂狂える咆哮

「あ~ふらふらする~頭痛い...」


あの音、思い出すだけでも震えが止まんねぇ。

なんで俺の口からあんな音が出るんだよ、いくら俺がカラオケで60点以上を取ったことがないからといって、あれは予想外だった。


(一体全体、俺は何なんだ?)


前世でこんな事を口にしようもんなら中二病扱いされていただろうな。


「あ、そうだ。あの蜘蛛は?」


周囲をグルッと360°見渡すがどこにも見当たらない。


さっきの轟音にビックリしてどこかに逃げて行ったのか?まぁ、こちらとしては今この瞬間にも生きていられているのだから万々歳だ。


でも、負けた...スライムと蜘蛛にさえ敵わなかった、ただの捕食対象としてしか見られていなかったのが悔しい。


だから俺はこの異世界での最初の目標を決めた、


“強くなること”


弱者は自分の意志を押し通すことも、自由を求め渇望することもできない。

俺はそんなの御免だ、自分のやりたいことができない人生を送るなんて、死んでいるのとさほど変わりはないからだ。


さて、目標も決まったことだし、探索を続けるか。





それにしてもこの森はどんだけ広いんだよ!歩きながらで目に入るのは木、木、木....

数時間前に死にかけたってのに異世界らしいハプニングを欲し始めてる。

でもまぁ、強くなる上では魔獣との戦闘経験は必須だから的を射てるように思える。


歩きながら魔獣への対抗手段、主に俺のスキルなどについて考えてみた。


実は地中から這い出てた後、


「スキルボード!」

「ステータスオープン!」

「鑑定!」

などと転生ものの十八番セリフを幾つか叫んでみたが、黒歴史を更新しただけに終わった。その時は物理的に穴に入りたかった。

だが、今の俺は魔獣との戦闘を通して一つヒントを得た、あの咆哮だ。

あれをモノに出来れば魔獣との戦闘はどうにかなるのだろうが、余りの轟音に俺自身が耐えられないのだ。もし何かしらの対抗手段、例えば耐性を持ってる敵にあったら、動けなくなった俺はゲームオーバーだ。


(どうしたものかな~)


今人外である俺が人里を訪れ、助けを仰ぐのは無理だ、となると知性ありし魔獣に接触するのが得策なのだろう、だが力も、価値ある品も持っていない俺を善意で受け入れてくれるところがあるだろうか?おそらくないだろうな。


そうなると...やはり、あの咆哮に頼るしかないのかもしれない。


「発声練習なんていつぶりだろうな~高校の卒業式の合唱練習以来か...」


「アァァァァァァァァァァァ!」


試しに思いっきり叫んでみたが、あの轟音ではない。


「キャァァァァァァ!」


「ウォォォォォォ!」


「ピィィィィ...ゴホッ」


色々な音で叫んでみたがあの咆哮は出ない、、



ガサッ


俺が発声練習をしていると後ろの茂みが微かに揺れた。


風が吹いただけだと思いたかったが、茂みから蛇?がニョロニョロと出てきた。


(魔獣だ!)


俺は瞬時にそれが魔獣だと見抜き距離をとった。俺が魔獣だと見抜けたのは、何も俺が前世で蛇を飼っていたというわけではない、そいつには頭が二つあったからだ。


「さっきの声に引き寄せられたのか」


今回の戦闘は蜘蛛との一戦以上の苦戦を強いられるかもしれない。あのクソデカ蜘蛛よりは弱いだろうが、今の俺のコンディションが悪すぎる...実をいうと、木に叩きつけられた際に受けたダメージが回復していないのだ。


(とりあえず逃げよう)

後退しようとしたその時、俺は十メートルほど離れたとこにいる蛇により、足払いを受けた。


(胴体が伸びた!?なんだよそれ、初耳なんだが?!)


少し考えれば分かったはずなのに、なぜ俺は気付かなかった!蜘蛛が白い糸を吐いてきたように、此奴も何かしらのスキル?を持っているかもしれなかったのだ。


起き上がろうと何度も試みたが、その度に足を払われ、時には頭や腹を叩かれた。


じわじわと俺のHPは削られていく。


反撃しようたってあんな離れた敵にどうやって攻撃しろってんだよ、俺の体は伸縮自在じゃないし、蛇の攻撃を全て避けられるほどの回避能力もない....


一つ、、一つだけ攻撃手段はある、あの咆哮だ。だが、今このいずれ死にゆくであろう状況で明確な発動条件も分かってないのに使おうと隙を見せ、失敗でもしたらその時はもう...


でも反撃しなくても寿命が数秒のびる程度だ。手から火の玉を出したり、氷の矢を降らせたりできるわけでもないのだ。ここに来て生きるか死ぬかの大勝負に出るのもありだ。


いや、それしかない。


作戦はこうだ、蛇の攻撃パターンは読めてきたので、タイミングよく胴体を掴み、叫声を浴びせ、フィニッシュ、だ。



あいつは、足、脇腹、頬の順番に攻撃をしてくる。俺は脇腹を狙ってきたとこを捉えるつもりだ。



そしてその時は来た、



ガシッ


「よし、掴んだ!」


あとはあの咆哮を出すだけだ。


俺は大きく息を吸い、腹からではなく、核心..いわゆる魂から全力で生への全執着を乗せ咆哮を放った。


「ピャァァァァァァー」

「シャァァァァァァァァァァ」


あの蛇は地面でのたうち回っている。

この咆哮の発生源である俺はというと、


(やばい、鼓膜が破れそうだ。意識を持ってかれる...ここで意識を失ったらどうなるか分からない)


敵が目の前にいる状況で気絶するなんてことはできない、それにさっきまでいたぶってた相手に反撃を食らったのだ、あの蛇が逃げずに、逆上して殺しにかかってくるかもしれない。


俺は人生で初めて舌を噛んだ、口の中で血の味が広がる。下唇の両端から血がつぅーと垂れる。ドラマなどで激痛に耐えるためによく主人公が使っているがあれは所詮作り物だ。実際にやってみると死ぬほど痛い、子供の頃転んだ拍子に口の中を切った時とは天と地ほどの差がある。

だがこれも意識を失わないためだ、


はぁはぁはぁ、ひゃっひょおひゃった〜(やっと終わった)。舌を噛むのがあんなに痛いなんて思わなかったな、もう絶対にやりたくない。


意識を保っていられた俺の精神力を全力で褒め称えるのは後回しだ。あの蛇はどうなった?


そんな疑問と共に前方を恐る恐る確認する。


これは死んでる...ってことでいいのか?


相手が死んでるかどうかも分からないほど俺の目は節穴じゃない、

なんかあの双頭の蛇の体が徐々に黒い粒々混じりの霧となり、散っていってるのだ。


どこか綺麗だと思いながらも、あの蛇を倒せたことをなんとなく悟った。どことなく幽霊が成仏する時に似ていた。儚く、そして美しく、その者が生きていたという事実を、歴史を天まで届けんと、空に舞い散る...


初めて生き物を殺した、俺自身が俺の明確な殺意に動かされ殺したのだ。腕が短すぎるせいか自分の手の平は見えない、だが震えている事は分かる...俺は殺したことを間違っていたとは思わないし、この先、後悔することはないだろう。


だが、そうだな..合掌は出来ないから、心の中で祈ろう、彼の者らの来世を。


追悼の念を念じ終えた時、蛇の体は完全に黒い霧へと姿を変えた。


完全に絶命したのを確認したので俺はもう少し奥に進むことにした。

俺が数歩歩いた刹那、あの黒い霧が俺に向かって流れてきた、そして俺の体に吸い込まれた。

体の中にある何かがほのかに熱くなった。数秒で熱はなくなったので人体への悪影響はないと思う。


さて、今度こそ行くか。とりあえず見かけた魔獣を片っ端から狩ることにしよう。



狩りは二日間に及んだ。火を噴く犬、風の斬撃を飛ばすカマキリ、毒を吐いてくるトカゲ...20体以上の魔獣を狩った。戦闘の度に俺は死にかけたが、咆哮による負傷も全て、原理は不明だが黒い霧を吸収する度に治癒されている。


数々の戦闘で、もっとも苦戦を強いられたのは蝙蝠(こうもり)の魔獣との戦闘だ。


森の奥のほうの洞窟の天井にいた。


蝙蝠の魔獣の代名詞といったら『音波』だろう。超音波攻撃によって相手を後方に吹き飛ばして攻撃する、というのがてっぱんだ。


特殊な音波で攻撃してくる点までは合ってたんだが、後方に吹き飛ばされたりはされなかった。俺の体を突き抜けたはずの音波が体の中で反響したのだ、これがまた臓器を攻撃されるため想像を絶するほど痛かった。


耳は大丈夫だったのかって?安心しろ、あの咆哮に比べたら大したことはない。あれを10としたら、あれは多く見積もって2あるかどうかだ。


一番厄介だったのが、やつの音波攻撃で俺の咆哮の威力が軽減されたことだった。

軽減した状態でも俺の咆哮は相手にダメージを与えることはできた、そのため敵の攻撃を避けて、反撃、避けて、反撃...を何十回も繰り返し、やっとの思いで勝利したのだ。戦闘中に何度意識を失いかけたことか...



またあの類の魔獣と戦う時までには対策を考えとかないとな。

狩りもしたわけだし、俺も結構強くなってるんじゃね?と思ったはいいものの、何も感じられない。近いうちに、自分のステータスを確認する手段を探さないとな。


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