カラード男爵領
さて、どうやってメアリーの実家に行くか。
「メアリーとりあえず馬車を用意して、近くの街まで行きます。」
「近くの街までですか?」
「買いたいものもあるの。私に任せて」
「かしこまりました」
馬車を用意してもらい街に向かう。
「お嬢様そのシーツは何に使うのですか?我が家にも流石にシーツはあると思います」
「これはね、使うときのお楽しみ」
私はいたずらっぽく笑う
そして街につき、時間がかかるので帰りは辻場所で帰りますと言って馬車を返した
そして蕎麦の実とか、ハムとか買いこむ。
無駄になるかもだけど、食べ物だしいいよね。
この世界に米があればなーと思う、マーガレットの記憶では米はないんだよねー
さっさと買い物を済ませ。街の郊外の森の中にやってきた。
「お嬢様。なぜこのようなところに??」
人目がない場所、死体をくるむのにちょうどいいシーツ、
「お嬢様、私は殺されるのでしょうか??」
青ざめるメアリー
「え??なんでそうなるの??」
メアリーは土下座する勢いで
「お許しください、私には養わねばならない弟や妹、それに男爵領の民がいるのです。私が稼がないと実家は...」
「私の魔法は重力操作ってのは知ってるよね?」
メアリーは青ざめながら
「はい、存じています」
「心配しないで、私の力見せてあげる、シーツにくるまって、私もシーツにくるまるから安心して」
シーツは2つに切られていた。一枚をメアリーに渡すとマーガレットはシーツを体に巻き付けた。
「私達今から空を飛ぶの、空を飛ぶと目立つから白いシーツで見えにくくするのよ」
「え?空を..飛ぶ???」
「少しだけ体験してからいきましょう。説明するわ」
「私はね重力を軽くするだけでなく重力の向きを変えることができるの、だから重力を逆にすると」
ゆっくりとマーガレットが浮かぶ
「飛ぶってより落ちるって感じなんだけどね」
メアリーは呆然としている。
空を飛ぶ魔法なんて聞いたことがない
「空を飛ぶの目立つから素早く雲の上まで飛ぶわよ!怖いなら目をつぶってて」
次の瞬間二人は空の上空に消えた。
速い!速い!なんか冷たい!水??
雲の上でいったんとまる、
「これが雲の上の世界、体ビチョビチョ....」
「雲って水分だから、さぁカラード男爵領まで落ちていくわよ!」
速い!すごい速度。しかも男爵領まで一直線。
楽しく景色を見てるとかじゃないジェットコースターのような空の旅
馬車で三時間かかる距離を一時間で男爵領に到着した。
屋敷の近くに降り立ち、屋敷へ向かう。
メアリーは屋敷に入り大きな声で
「お父さん!メアリーです!マーガレットお嬢様が来られました!!お父さん!」
「何事だ?メアリー!そちらの方がマーガレット公爵令嬢様?」
「お初にお目にかかります。私はカラード男爵です。メアリーがお世話に・・・」
「御忍びできているので挨拶は無用よ、急ぎのようなの、嫡男の病気を見舞いに来たのだけど会えるかしら??」
「御忍び?そしてパスカルの見舞いですか?それはいったいどういうことで??」
「お父さんお願い!」
メアリーが必死に頼む。
「話はメアリーから聞いたわ、もしかしたらお役に立てるかと思いまして。」
マーガレットはそう言って男爵を見つめた
「男爵は最近疲れやすく、食欲がないとか足が痺れたりしているのでは?」
「えぇ、年がら年中忙しいので疲れてますね。たしかに食欲もなく足のしびれが出ることも多く」
「マーガレット様?」
「大変不躾なお願いなのですが、嫡男を助けるヒントとなるのでこの台に座って力を抜いてくださる?メアリーもよ」
「???なぜそんなことを??」
「不審がるのもわかるの、でもこの死病をこの土地からなくすためなの、ねぇ、このまま何もしないとパスカル様は死ぬわ、私はこの病を知っている病か確かめたいの、私の知っている病なら治せるの!早くしなさい!」
マーガレットの必死さが伝わる
「お父さん、マーガレット様は弟の病を聞いてすぐに飛んできてくれたの。何もしないで死ぬよりあがいて見ましょうよ。お願いマーガレット様を一度だけ信じて」
「わかりました。座りましょう」
「ふたりとも目をつぶって力を抜いて膝を軽く叩くからびっくりしないでね」
二人の膝を軽く叩く。
メアリーの足は動く、男爵はやはり動かない
「ふたりとも目を開けて、男爵も死病にかかっているわ」
「え!!!」
「そんな..お父さんまで」
メアリーが涙ぐむ
「でも大丈夫、助かります、私が治療法を伝えるから、それとお酒しばらく禁止ね」
「メアリーそばの実をおかゆにしてきて。」
死病の正体は脚気、現代ではかかる人ほぼいないだろうけど明治時代には死者一万とかだったらしい。ビタミンB1の摂取で良くなるはず
「男爵、パスカル様の部屋にいきましょう」
〜~~~~~
「誰?お父さん、と?」
「パスカル、この方はマーガレット公爵令嬢様だ、お前のお見舞いに来てくださった。」
「お初にお目にかかりますパスカル・カラードと申します、病にてこのような格好で失礼します」
「そのままで大丈夫です、すいませんが座ることは可能でしょうか?」
「パスカル、公爵令嬢様の言うとうりにしてくれ」
「わかりました」
「辛いでしょうけど少しだけ我慢してください、そして膝を軽く叩きますね」
「わかりました」
やはり動かない。
「パスカル様、病治りますよ、私が治療法を教えます」
パスカルは目を見開くと
「そんな気休めやめてください!この病で死んでいく領民を何人見たと思っているのですか!」
「私の侍女メアリー・カラードに誓います、治らなければこの首落としなさい。これで信じてくれますか?」
「え!なんて??誓い??」
この世界の誓いは重い、契約と言ったほうがわかりやすいだろう、誓いを守らなかった貴族は軽んじられる。貴族としては終わったと同意味になる。
それほど重い。
「男爵、誓いの書を用意して。まず食事を少しでもいいので食べてください。蕎麦粥、豚肉など、必ず食べるように」
「それとお酒はダメ。守れるかしら?」
「わかりました。」
「そばの実とベーコンなどは少し持ってきたの。いまそれを調理しているので家族みんなで食べなさい。」
そこにメアリーが蕎麦粥を持ってきた。
「少しでも食べるのよ。必ず治るから」
そう言ってマーガレットは部屋を後にした。
男爵や家族も蕎麦粥を食べてもらったあと客間にて
マーガレットは男爵に向き合い話しだす
「この病はある食物を食べると解決するのよ、それがそばであり、豚肉なの。」
そう言って胸元からブローチを取り男爵に差し出した。
「これを売ってそばと豚肉を仕入れなさい、そして領民に対して炊き出しをするのです。」
「こんな高価なもの受け取れません」
そういう男爵にマーガレットはくびをふりながら優しく
「今大切なのは領民の命、わたしの好意を受け取りなさい。足りなければまた宝石を送ります。あなたは領民の命を守ることだけを考えてそして私が困ったとき助けてくれたらいいわ」
「この恩は必ず返します」
「みんな助かってから恩を感じてくれたらいいわ。そばは荒れ地でも育つから育てて特産にしてもいい」
「はい!必ず」
「それと悪いのだけどこの病の治療法のことはしばらく黙っててほしいの。もちろんなくなる命は助けたいから、そばを粉にして死病の薬として庶民が手に入れられるお金で売ってあげて、そうすれば領も潤うわ」
「それは、」
「悪どくしたら駄目よ。」
領主としては当たり前の話だ領民のため
「わかりました」
「それから、私のことは内緒にしててね」
「それは?どうして??ですか??」
男爵は目を丸くする。公爵令嬢としてこのような功績を内緒にする意味がわからない?
「今は目立ちたくないのよ」
「男爵、先程言った誓いをたてるわ、メアリーに説明して」
男爵はメアリーに説明すると
「マーガレットお嬢様がそこまでする必要ありません!」
「メアリー。今は私を信じてもらう事が大切なの。だからパスカルのためにもお願い」
「私達のために命をかけるなんて馬鹿げてます!」
「えぇ、そうかもね。でもそういう人がいてもいいじゃない」
そう言って微笑む
「マーガレット様!」
メアリーは泣きながら誓いの書に血判を押した。
マーガレットも続いて血判を押す
「これで誓いは成立したわ」
「マーガレット様!私は生涯マーガレット様に忠誠を誓います!」
「ありがとうメアリーでもそれはパスカル様が助かってからね」
そう言って微笑むマーガレット
うんうん、いい感じ。これでメアリーは私の味方になるでしょうね。誓いなんて安いものよ
この世界とは違う思考を得ているマーガレットは貴族をやめてもいいと思っている。何なら顔も隠して冒険者になってもいいし、隣国に行ってもいい。世界は広いのだ!
だからいざとなると誓いなんて破ってもいい。
誓いをたてることで忠誠を得るなら安いものね。
メアリーはこの恩を生涯忘れず重いほどの忠誠を示すことになる。このときのマーガレットはまだ知らない。誓いはこの世界の人にとってそれほどのものだとマーガレットは気づいていなかった。
〜~~~~~~~~
「さぁやることやったしメアリー帰るわよ」
「マーガレットお嬢様すいませんが少し父と話したいのです。よろしいでしょうか?時間はかかりませんので」
「もちろんよ。久しぶりの再会だもの、私の配慮が足りなかったわ」
そう伝えるとメアリーはお辞儀をして部屋から出ていった。
部屋から出ると
「お父さん、実はマーガレット様は公爵家で蔑ろにされています。今はとても辛い立場なの。それなのに私の弟のためにすぐに動いてくれたわ。私はマーガレット様に忠誠を誓うわ、そのことで今の当主から男爵家に圧力がかかるかもしれないの。それでも私はマーガレット様の力になりたいの、それにマーガレット様はすごいの!まだまだすごい事をされると思うわ」
カラード男爵は真剣な顔で
「もしパスカルが助からなくても。我が領に支援してくれた恩は必ず返す。お前の好きにしなさい。私もこの領をもりたててマーガレット様の力になるようにしないといけないなぁ」
慈悲深さ、行動力、公爵令嬢としての地位。そしてもしかしたら病を治す知識。
きっとマーガレットはこれからこの世界になくてはならない存在になるかもしれない。
たとえ恩がなくともマーガレット様に忠誠を誓うことは悪くないだろう。