第6話 ペナとピット戦略とマシン差と 開幕戦岡山・決勝
どうも!ラドロです!今回も寸劇は残念ながらなしです…^^;
それでは、どうぞ!
10分間の休憩を経て迎えた決勝。周回は27周。SGTよりも周回数が3分の1に減る代わりにタイヤと燃料の消耗スピードは3倍に設定されている。また走行周回数が全体の3分の1から3分の2の間に各チームピットインが義務付けられている。ピットインではNPCによるタイヤ交換と給油(交換するタイヤの種類や給油量はピットインの前に監督が決める)があるがドライバー交代は自分たちで行う。予選以上に過酷な分、ドライバーズポイントがたくさんもらえる。1位で最大ポイントの20ポイント、そこから2位が15ポイント、3位が11ポイント、そして4位から10位まで順に8,6,5,4,3,2,1ポイントとなっている。そしてそのポイントの多さでシリーズチャンピオンを争うわけだが…
「おう、どうした大祐。ぼうっとして」
そう声をかけてきたのはもうひとりのドライバー、創一だ。彼こそが予選Q2で3番手を獲得してくれた。
「別になんでもねえよ。お前こそ、ピットインのときとかちゃんとキビキビ動けよ?」
「わかってるわ」
そうやり取りだけして彼はピットへ、俺はマシンへと足を運んだ。そして5分後。スタート準備が始まった。
『さあ。各車ゆっくりと前進をはじめました。白い一般車両、SCがゆっくりと後ろのマシンたちを先導して行きます。スタート形式としてはSC先導のもと時速80キロ以下でサーキットを1周しそのままスタートするローリングスタートです』
サーキットに実況の解説が響く。静かな行進が逆に緊張感を増幅させる。無言のプレッシャーを感じながら俺ーー正宏ーーは隊列が映っているパネルを見据える。すると後ろのもうひとりのドライバーから声がかかった。
「大祐、例の作戦成功させてくれるかな」
「わからない。成功すると祈ろう」
そして長いローリングも終盤に差し掛かった。SCがピットに入ったのだ。他のマシンはもちろんそのままメインストレートへと向かう。実況の声が大きくなってゆく。
『21XX、VirtualGT、開幕戦岡山、このVR世界での初レース、誰が勝利を勝ち取るのか。その答えを求めて、今シグナルグリーン!各車一斉に加速します!』
始まった。一部のマシンはまだマシンを左右に振ってタイヤを暖めるが大祐のマシンは一目散に1コーナーへ向かう。そして
『おおーっと!ここで3番手のKONGT-Rが2番手のタキオンNSXに外側から並びかける!!次の2コーナーはタキオンが外側に入れ替わるが…やっぱり出た!オープニングラップの最初のコーナーでKONが1台オーバーテイクして2位に浮上!』
「「よっしゃ!」」
2人して歓喜する。“例の作戦”が見事成功したからだ。次なる獲物は1位のスープラ。大祐は少しずつ、しかし着実にアミューズメントに近づく。
『さあそして、1位のスープラの真後ろに2位のGT-Rが接近!テールトゥノーズでバックストレート!KONがスリップを、スリップストリームを使って追い詰めようとするが…スープラがGT-Rを突き放している!スリップに入られてなお少しずつGT-Rとの差を広げた!』
結局この周でオーバーテイクはできず、それどころか少しずつ差を広げられてしまった。
(2周目に入った…そろそろ前をオーバーテイクしないとね…)
そう思いながら私ーー望美ーーは前のマシンのリアを睨めつける。前は4番手を走るLC500だ。相手もこちらを警戒しているのだろう。進路を塞ぐようにして牽制してくる。しかしここはメインストレート。むしろスリップでスピードが上がる。そしてLC500とZをくらべたときのこちらのアドバンテージはコーナーでの小回りの良さだ。
(仕掛けるなら……ここ!)
コースの外側に寄せていたマシンを1コーナー手前で一気に内側に寄せる。同時に減速し、相手に並びかける。不意打ちを食らった相手は無理に食らいつかず真横に並んだ状態を維持している。
(サイドバイサイドね…けど前に出るのはこっちよ!)
そう心で叫びながらステアリングを左に切る。外側だったが何とかオーバーテイクに成功した。すると
「望美、ナイスよ。いま4番手で3番手とは今1.5秒差ね。頑張って」
「ええ。ありがとう」
さらなる高みを目指して私はアクセルを強く踏み込んだ。
この数周で予想以上にスープラに苦戦をしいられる。この間にスープラとGT-Rとでは5秒もの差が開こうとしていた。しかしここで朗報が入り込む。
『さあ?ここでペナルティの情報が入ってきました!現在トップのアミューズメントスープラがジャンプスタートとの情報が入りました。リプレイで見てみましょう!』
目線を合わせたばかりの画面が切り替わる。ドライバーがステアリングを握っているのを右後ろから映すスープラのオンボード映像だ。
『えっとこれは、あーシグナルグリーンの前に速度計が80キロを超えてますね。そしてグリーン点灯のころには100キロを超えてますよ。ジャンプスタートです。この場合ドライブスルーペナルティといって次の周回でメインストレートではなくピットロードを通過しなければなりません!いやーこれは痛い!』
「大祐!前のスープラがペナルティ!トップになるぞ!」
「まじか。ラッキー。ちなみに後ろとの差は?」
「後ろのタキオンNSXが3秒後方。大事にいけよ」
「もちろん」
そしてスープラがピットロードに入ってくる。それに少し遅れて、GT-Rが悠々とメインストレートを通過する。これでトップだ。そしてそのまま特に順位の入れ替わりもなく、周回数は9周に達した。レースの最低周回数は9周のため、ピットに入りタイヤ交換やドライバー交代が可能となる。ここでまっさきに下位からのスタートだった楽天LC500やマザー空力NSX、ファースタースープラがピット・インしてきた。
「…なあ正宏。なんで下位のマシンに限ってこんな速いピットインなんだ?あまり早いと給油やタイヤがきついだろうが…」
「アンダーカットといって早めにピット・インしておくことで集団と離れたところでピットアウトできる。そうすると近くには自分しかいないからいいペースで周回を重ねることができ、結果として集団に引っかかりながら走ってピットインしたチームより総合タイムは早くなり…」
「全車ピットを済ませた後は前に出れるってわけか」
「ああ。ちなみにこの逆はオーバーカットだ。俺たちは今回はオーバーカットをするつもりだから」
「了解」
それぐらい事前に把握しとけよ…と思わずにはいられない俺だった。
「ピットピット。この周ピットに入って」
「了解。今何周だったっけ」
「10周」
「オッケ」
そうやり取りして俺ーー大輝ーーは無線を早々に切る。この周でここでの走行は最後なのだ。集中して走りたい。加えて前後1秒以内にライバルの姿はないのでもはやこれは1周限りのタイムアタックだ。摩耗したタイヤにムチを打つかのごとく攻めた走りに徹する。そうこうしているうちに気づいたらピットロードが見えていた。緩やかに減速しながらピットロードに進路を変え、ピットの入り口でリミッターボタンを押す。右に直角にターンすると俺は素早くベルトを外し、すぐにマシンから脱出できるように準備する。もちろんその間にマシンはピットロードを進んでいる。そして…
(見つけた)
マシンを右に寄せて、俺たち用のピットスペースにマシンを止める。即座に腰を上げる。すると春樹がドアを開けてくる。マシンを脱出した俺と入れ替わるように彼はマシンに足を滑り込ませる。それを確認した俺はドアを閉める。周りを見るとドライバー交代の間にフロントタイヤはもう変え終えたらしい。今NPCは給油をしている。ちなみにピット時のNPCの行動パターンはフロントタイヤ交換⇛給油⇛リアタイヤ交換だ。するとドライバー交代から約10秒。クルーが給油口から給油用の器具ーークイックチャージャーというらしいーーを離した。それを合図としたかのように別のクルー2人がリアタイヤを交換する。そしてタイヤ交換が終わると別のNPCがジャッキを取り外し、マシンを地面に戻す。コンマ1秒遅れてNSXは轟音を上げながらピットスペースから出発した。ピットタイム35秒。
「ピット入るぞ」
大祐のその一声でKONのピットインが始まった。周回数は15周。ピット作業でも特に問題は起こらなかったが給油が長引き39秒かかった。そしてピットアウト。第一スティントを担当した大祐はピットアウトするGT-Rを画面越しに見ていた。しかし直後衝撃の光景が画面に映し出され、実況の声によってそれが現実であることを否応なく認めさせられることとなる。
『さあKONがピットアウトするすぐとなりをタキオンNSXが通過してゆく!タキオンNSXトップに躍り出た!』
言葉を失う俺に対し正宏は檄を飛ばした。
「いまタキオンに抜かれたからな。公式練習のときの借り、返そうぜ」
「了解。頑張ってみるけど後ろも見といてよ?」
「わかってる。お前は何も考えなくていい」
そして後半戦が始まった。順位整理をすると
1位:タキオン 2位:KON 3位:クイーン …
優勝争いは今の所ホンダ対日産となっている。そう結論づけると画面から目を離し、手にしたままだったヘルメットを片付けるべく、ガレージへと向かった。
アンダーカットに成功しトップになった俺たちタキオンのもとにも衝撃のニュースが実況によって伝えられる。
『そして、ペナルティで一時12位にまで落ちたアミューズメントスープラが5番手にまで上がってきてますね。かなり速い』
「?!?!」
思わず背もたれに身を預けていた俺ー帆高ーは起き上がった。順位表をみると本当に5番手のところにアミューズメントスープラの名前が載っていた。残り周回数が10周とはいえ油断はできない。
「春樹、今アミューズメントスープラが5番手にまで上がってきている。終盤来るはずだからそれに向けて温存もある程度してくれると嬉しいです」
と無線を飛ばした。ちなみに彼の答えは
「無理だよ!何言ってんの!!」
だった。まあ無理もない。アンダーカットによってもともと給油やタイヤはギリギリなのだ。更に温存しろは無茶振りもいいところだ。しかしこの危機とも言うべき状況は意外な結末を迎えることとなる。
レース残り8周。アミューズメントスープラのステアリングを握る田中厚志は4位のNTT LC500を捉えようとしていた。タイヤも燃料も摩耗しているがまだ行ける、そう信じてプッシュする。少なくとも燃料はこのまま行く分には持つ計算だ。そう思っているとNTTがバックストレートの立ち上がりでリアを滑らせてしまい、スピードの乗りが鈍い。
それを見逃すわけがない。しっかりスリップに入り、圧をかけてヘアピンに差し掛かる。そして
バンッ
突如音がマシン内外に響いた。ブレーキを踏んでも左が全く止まらない。グラベルに飛び出し、かなり奥のところで止まった。
「…何が起こった?」
「左フロントタイヤのパンク。やっぱり無理をしすぎたな。ピット戻れる?」
「頑張るけど…もう、なんでだよ」
「警告しなかった俺も悪かった。これからちゃんとマネジメントしような」
「…うん」
その返事は涙まじりだった。結局彼らは13位でレースを終えた。
そしてレースはチェッカーの時を迎えた。
『いろいろありましたが、公式練習でコースレコードを作り、アンダーカットによる逆転を通して、カーナンバー26、タキオンNSX の佐藤大輝、春樹の兄弟コンビがVGT、初優勝ー!』
ピットロードのコース側にあるバリケードの隙間から身を乗り出し、俺ー大輝ーは
「よおーーし!!」
と本能のままに叫んだ。マシンがコントロールラインを通過し、体をピット内に戻してからも歓喜の声が止まらない。ディスプレイの手前にあるデスクに放置していた無線のヘッドフォンからは
「ヤッターー!やったやった!」
と弟の大歓声が装着せずとも聞き取れるくらい漏れていた。
長いように思えた3分ほどのウイニングランを経て春樹が再びメインストレートに戻ってくる。チェッカー後は1周した後、再びメインストレートに戻り、そこで順位順に停止するようになっている。みるとコントロールラインの方から順に我らタキオン、KON、NTT、クイーン、楽天、そして最下位スタートだったイン・ウィダーが続いた。後に聞いたところによるとなんとピット時にタイヤ無交換を敢行し、成功させたらしい。1ヶ月後に控えた次戦富士に向け俺を含めた全チームはVRサーキットを去った。
(続く)
わりといいペースで投稿できるようになってきました。次回からもちゃんと週2で投稿するのでよろしくお願います!
今回も読んでいただきありがとうございました。もし本作品を高く評価してくださるなら次回以降も読んでいただけたらと思います。それでは!