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侯爵令息の言葉に肝が冷えた。
「冤罪の内容を考えたのはアンタだろうっ!」
静まり返る牢屋。
そんなわけがない。皆で口々に意見して決めたじゃないか。言い返そうとした僕より早く他の二人の言葉が出た。
「そ、そうよっ! アンタが首謀者よっ!」
「そうだっ! 俺は公爵令息の命令に従ったんだ」
ああ、国王陛下のお言葉を逆手に取られた。僕はもう何も考えられなくなった。
「まさかこんな風に話し合わせをするとはな……」
ため息をついた近衛が中に入ってきて口に猿轡をされ後手に縛られた。呆けていた僕は何も言わずに受け入れた。
三人が大騒ぎで抵抗している声が響いていた。
「全くここまでさせるなよ。
今、お前たちの親の聴取をしているからお前たちの聴取は明日だ。それまで口裏合わせをしないためにそうしておく」
近衛は呟きながら出ていった。
ベッドに横を向いて寝転された僕は思考に沈む。
何も知らずただ男爵令嬢に夢中になった第三王子は辺境砦で馬番になるらしい。それなら策略してしまった僕たちはいったいどうなるというのだ。
僕は冷たいベッドの上で震えが止まらなくなった。
翌朝からの騎士団の取り調べはとても厳しいものだった。だが、騎士団長の言うような国家に反逆する気持ちなどないことはわかってもらわなくてはならない。もし反逆罪となったらそれは国王陛下への忠誠を確かにさせるための見せしめ。冤罪だ。
「そうか。国にあだなすつもりはなかったのだな。国王陛下が第三王子殿下にも責任があったとして、第三王子殿下への謀略も赦しが出た」
必死になって訴えたら、どうやらわかってもらえた。それに奴らの曰う公爵令息の命令という意見は通らなかったようだ。
僕は胸を撫で下ろした。
「では、次だ。ご令嬢方の家から被害の訴えが出された。
冤罪をふっかけようとした状況と理由を話してもらおうか」
騎士団の人が意地悪そうにニヤける。僕が侯爵令嬢に感じた優位さが顔に出ている。これからが本番ということなのだろう。
僕はおそらく青くなっている……。僕は侯爵令嬢たちのように相手を睨むことなどできない。だってこれは冤罪ではないのだから。
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僕は令嬢たちへの謀略で有罪になった。彼女たちへの傷害罪。それを行ったのは貴族令息であった時だが、早々に廃嫡廃籍されたことで罪の償いは平民としてせねばならないそうだ。
平民が貴族令嬢を傷つけたら……。死刑も免れないかもしれない……。
僕は震えた……。
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死刑にはならなかった僕は半地下の薄暗い廊下を重い荷物を担いで歩いている。僕の仕事は荷物運び。許されているのはこの半地下の廊下の行き来だけ。外に続くという部屋から、中に続くという部屋へと何十往復も荷物を運ぶ。
僕の部屋もこの突き当たりにある。飯は朝方にパンが数個袋に入れられて渡される。
ここは辺境砦の一つであるらしいが、窓のない馬車に乗せられ、夜更けに到着して部屋に入れられたので本当のところはわからない。部屋も廊下も窓はかなりの高さのところにあり、外の様子を見ることはできない。
時々僕のことを見に来る兵士に聞いたところあの時一緒にいた二人も他の砦で同じ仕事をしているそうだ。男爵令嬢のことはあえて聞かなかった。
「馬番なら青い空も目にいっぱいに見ることができるのだろうなぁ」
僕は高い窓から少しだけ見える薄い長方形の空を見上げた。




