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Ep.4 壮麗な基地にて ー 後 ー

 銅の問いに月輪は大きく頷いてみせた。そのまま姿勢を前傾し、膝の間で手を組んだ。


「Cの正式名称はコピー(C O P Y)。簡単に言えば人型ロボットだな。それで、我々が戦っていたのは"初期型"と"新型"と呼ばれるコピー達だ」


「コピー? 初期型?」


「余計ややこしくさせてしまうが、初期型と言っても二種類いる。"トレード"と"オリジナル"だ。どちらも人型ではあるが、それぞれの在り方が違う。詳しく言うとこうだ――


 【初期型オリジナルコピー】

 人間の容姿をしたロボット。その形は老若男女と様々。

 オリジナルは出現した際、元々そこに存在していたかのように認識されるようになる。


 もう一種類のトレードコピーとは異なり、食事や睡眠行為、生殖能力等、通常の人間と同じ機能は備わっていない。

片一方より生産性は高いが、戦闘能力はあまり強力ではない。


 【初期型トレードコピー】

 ある特定の人物の容姿、記憶や口調、癖までをインプットし、その人物に成り代わって生活を送る。


 トレードは、その人物に見合った生活を送るが、予め感情・行動を制限されている為、極端に不道徳な行いは出来ない。


 通常の人間が持つ機能を備え、歳をとって死を迎える。中には病気や疾患を抱えるコピーもいるとか。ただしそれも、よりリアルな人間に見せる為のもののようだ。

 片一方と比べ生産性は低いが、戦闘能力は高い。


 ――ざっと説明すればこんな感じだ。つまり、人々が気付かないうちに、Cが紛れているということだ」


「そのトレードコピーと入れ替わった人間は?」


「……未だ詳しくは解明されていない」


 一拍置いて苦しそうな顔に変わった月輪は、それでも言葉を続ける。


「我々の時代、逸実からすれば未来の話になるが、一部のCによる暴動が起きたんだ。そのせいで我々人間は危機に直面した。今は一時的に落ち着いているが、まだまだ問題は山積みだ」


 コピーによる暴動で、世界規模の混乱と多大な損害を招いたこと。実に人類の三分の一がトレードコピーであったこと。そして、そもそもコピーに関して知らないことが多すぎること。


「正直、急にそんなこと言われても理解すら難しいっスけど。とりあえずこれからの将来、コピーとやらの暴走が起こるってことですよね…」


「イエス。ざっくりだがそういうことだな」


「ほぇぇ…」


 小難しい話に漠然とした不安を感じるも、想像はおろか、飲み込むのもやっとだが。


 数時間前に出遭い、戦闘に巻き込まれ、こんな場所に連れてこられた挙句、にわかには信じがたい未来の話ときた。ほぇぇ以外の言葉が出てこなくても仕方がない。


「とはいえ、逸実の急な出現には驚いたな。なんせ我々には特別な技術があるが、勿論逸実にはないだろう? ……っは! まさか俺たちと同じく、未来からってわけないよな?」


「あ、当たり前じゃないっスか! 正真正銘、2011年生まれのピチピチ現代人っスわ」


「そうかそうか。じゃあ、機会があればこの現代の事を教えてくれ!」


「は、はぁ。構いませんけど……」


「自分たちの使命は分かっているが、この時代にあるものは興味深いものばかりで、つい目をやってしまう。ここに来てもうすぐ半年経つが、知りたいことは山ほどある。むしろ増えてるんだ!」


 頭一つ分小さい幼馴染みを彷彿とさせる、月輪の人懐っこい笑顔に毒気を抜かれたのか、銅の表情もわずかに柔らかくなる。


「俺で良けりゃ構いませんけど」


「あの、お話中すいません。もうすぐ(いち)さんも戻ってくるし、夕食前の定期報告もあります。特に重要な事だけでも聞いておきませんか」


 鈴を転がしたような声が割って入る。

 そう、殊更小さな声量で会話に入ってきたのは、今まで静かだった黒髪の少女。

 斜め前に視線を向ければ、その少女が真紅色の瞳を携え、銅をみていた。


「いつの間にか話の論点がズレていたな」


 分かりやすく萎縮した月輪はゴホン、と咳払いをし、凛々しい眉の間にしわを寄せた。


「さっきの話だが、逸実があの場に現れることは、俺がアボーヤを食べることと同じくらい、有り得ない話なんだ」


(ん? …いやいや、アボーヤってなんだ。加えて例えのチョイスが微妙過ぎる。んな真剣な顔されっと余計反応に困るわ)


「……アボーヤが何かは知らないっスけど、俺がいたあの空間は?」


 今まで人が溢れていたはずのホームは目を開けた途端に光が指し、いつの間にやら誰の姿もなくなっていたのだ。


「恐らく、何らかが()()()になって解眼(かいげん)したのだろう。解眼が出来れば、あの空間へ移動可能になるんだ。あそこは異空間、ここから少しズレた人のいない異空間だ」



 【解眼】

 人間とコピーを見分け、コピーを人型ロボットと認識する為の、体の解放。

 決まったものや動作によって引き起こされる。解眼後は、身体能力が著しく向上する。



「我々の移動は未来の技術によって可能だが、逸実には何か引き金となるものか、動作があったはずだ。あの場に現れるまでの、一連の流れを思い出してくれ」


「確か……」


(人混みの中でサラリーマンとぶつかったんだ。あれ? 今、冷静に考えてみれば、あの男の人どっかで…)


 思い出そうとする過程で、何かに引っかかる。

 しかしスーツを着た若いサラリーマン。それも普通の顔立ち。そんな人なんてどこにでもいるはず。


「どうかした?」


 しかめっ面になった銅を見て、すかさず千坂が声を掛けた。その声に、深くなる思考から浮上していく。


「い、いえ、何でもないっス。えーっと…」


 余念を振り払い、再度、一連の流れを思い出す。


(人とぶつかった後、急な頭痛に襲われたんだ。それも頭が割れんばかりの。で、しゃがみこんで頭を抑えたけど、痛みは消えなかった)


「視界を遮断する為に、まずは目を閉じました。そんで、少しでも頭痛を和らげようと、こめかみの辺りを何回か叩いたんスよ。したら、痛みが引いたんで目を開けると、一瞬光がパーっとして、気付いたらあの場に」


 順を追って出来事を並べる。やや語彙力を疑うが、銅自身何が未だ理解出来ていないのだ。


「きっとそれだ。頭の横を何回か叩く動き。恐らく頭痛がしてから光が消えるまでが、空間移動への引き金なんだ」


「なんでンなことに」


 心の底で燻った言葉が口に出ていたようで、千坂が申し訳なさそうに目を細めた。


「ごめんねぇ。うちらはあまり技術に詳しくないから、その辺は分からないの。でも少しなら大凱さんが知ってるかもぉ」


「そうだな。それに、もうすぐで定期報告だ。指揮官にも聞いてみればいい」


「あんま関わり合いにはなりたくないっスけど、自分の身に何があったかは知りたい…」


「まぁ、その為にはここに残ってもらわないとだ。何はともあれ、俺たちは何か理由があるからこそ、運命の出会いを果たしたんだ! もういっそ、ここに住んでしまえばいいんじゃないか!?」


 まるで名案と言わんばかりに目を輝かせ、鼻息がかかるほどの距離まで顔を近づけた。

 銅は出来る限り体を反らせ、月輪の肩を軽く押し返す。


「ち、近い近い」


「ハッハッハ、まぁとにかく定期報告で聞いてみることにしよう」


 月輪たちによると、十五分後の十八時から定期報告らしい。それまでは建物内の探検でも、このまま休んでいてもいいと言う。


 銅は広いリビングを横切り、廊下へのドアに手をかけた。

 短い廊下には左右にドアがあって、玄関から向かって右はトイレ、左は洗面所。このゾーンだけは一般的な作りだ。


 小さく頷きつつ、外へ出ようとした時、ドアの外から電子音が聞こえた。

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