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Ep.28,5 失敗作

 階段まであと二十メートルというところで、突然銅の足が止まった。彼より前にいた三人は止まることなく進んだが、後ろの三人はブレーキをかけざるを得なかった。


「なに止まってるんですか! 早く行きま――」


 いきなりの出来事に、慌てた遊馬は敬語になってしまう。

 早く進むよう急かそうとした彼女の言葉を遮り、銅が言葉を被せる。


「声。誰かの声が聞こえるんだ。ほら、助けてって言ってる」


 真剣な顔で謎の声について訴えるが、他の人には聞こえないようで、怪訝そうな顔で銅を見つめる。


「私達には聞こえないのだが……」


「おっさんの声で『こいつを助けてやってくれ』って。それに……鳴き声もする」


「――まさか、あの部屋から? でもあそこに人はいなかったはず」


「なんだシド。心当たりでもあるのか」


 銅の言葉を聞き、遊馬は先ほど見たあの光景を思い出した。しかし人はいなかったし、中の生き物達は声を上げる素振りすらなかった。


「一応。……実は、この先に改造生物達が収容されているエリアがあるんです。でもあの子達は、鳴きも動きもしないし。言いたくありませんが、多分失敗作を収容したエリアなんでしょう」


 俯いて答える声は微かに震え、言葉尻は萎んでいく。彼女なりに思うところがあるらしい。


「……オレが行ってくる。十分経っても戻らなかった時だけ、指揮官に報告しろ」


 後ろで静かにやり取りを聞いていた美狼が、突然名乗りを挙げた。


「確かに、微かだがオレにも鳴き声が聞こえる。だから確認に行く。お前らはコイツを上まで連れてけ」


 それだけ言うと、リーダーである月輪の制止も聞かず、階段を素通りした美狼は通路の奥へと消えていった。


「お、れが余計なことを言ったばっかりに……。スンマセン」


「いや、逸実が悪い訳ではない。美狼には美狼なりの考えがあるだけだ。あいつを信じて、我々は先を急ごう。今頃大凱達が慌てているだろうしな」


 安心させるようにニカッと笑った月輪は、二人の背中を押し出す。彼の大きな手のひらは銅と遊馬の緊張を(ほぐ)し、どこか安心感を与えたのだった。



* * *



 通路の突き当たりを曲がった先に、目的のドアはあった。遠目から見ても大きさが分かる。

 近づけば近づく程に存在感を増す巨大なドアは、段々と大きさよりもその無様な姿が目につくようになった。


 閉まりきっていないドアは、明らかに何らかの力が加えられ、凸凹していた。


(そう)の仕業だな)


 力いっぱいというより、馬鹿力いっぱいだ。

 相変わらずの筋肉野郎だと呆れつつも、美狼は入口を跨いだ。


 室内はジメッとしていて、外との空気の違いをまざまざと感じる。黒と白。天国と地獄。少し大袈裟だが、それくらいに違う。

 こんな陰気臭い部屋にいれば、誰であっても気が滅入るだろう。


 眉を顰めた美狼は辺りを見回し、ひと声掛けた。


「誰かいるなら言え」


 数秒返事を待つが何も返ってこない。早々にしびれを切らし、誰かに向かって吠える。


「連れ出して欲しいンなら出てこい。ここはもう時期開放されるが、お前らはまた別の管理者の元に送ることになる。まァ、支配されたままでいいのなら大人しくしてろ」


 口ではそう言いながらも、静かに部屋の奥へと歩みを進める。

 美狼には謎めいた確信があった。

 自我を保っている改造生物がいない中で、この奥に意志を持つ動物がいるということを。


「……頼む。こいつを外の世界へ連れて行ってくれ」


 檻が並んだ、更にその奥。光も当たらず真っ暗な角。他より一回り小さい檻がポツンと置かれていた。そしてその上には、檻と同じ程か、それより大きなオウムが乗っていた。


此奴(こやつ)はゼロから造られ、出来上がった途端、可愛くないからという理由でこの狭い檻に閉じ込められた。故に何も知らない無垢な子なのだ。この子に外の世界を見せてやって欲しい」


 黄緑色と青色の羽毛に赤の鶏冠、妙にデカいくちばし。普通なら、まずはその見た目が気になって話どころではないが、内容が内容なだけに、今は見た目なんて気にならない。


 口を挟まず話を聞いていた美狼は、真っ直ぐにオウムを見据え、その後ゆっくりと下の檻へ視線を移した。


「下のやつは喋れるのか」


「いいや。私は改造のおかげで口が聞けるが、此奴は話せない。ただ、特殊な力が備わっている」


「ほぅ。どんなだ」


「擬態という力なのだが、本当に何にでも擬態出来る。だからもし連れて行ってくれるとすれば、誰にもバレないであろう」


「それならお前が連れてけばいい」


 オウムの言う擬態が本当なら、わざわざ助けを求めずとも自分で外へ行けばいいのに。

 美狼は自然と辿り着いた疑問を、迷わず口に出した。


「それは出来ない。私の足にはGPSと自爆機能のついた足輪が着けられている。それにこいつの檻自体、開けられないのだ」


 悲壮感漂わせる口調がオウムに不似合いだったからか、美狼が息を吐くように笑った。


「ハッ。そんなことで悲しそうにしてんな。ちょっと待ってろ」


 一歩大きく踏み込んだ美狼は、瞬く間にオウムの足輪と檻の扉を壊してしまった。


 急な出来事に言葉も発せず、オウムはつぶらな瞳を極限まで広げる。檻にいた生物も、扉が開いたことに驚いたようで、「キュイ」と鳴き声を上げた。


「こんな簡単な足枷、オレには朝飯前だ。もっとハードなやつだって経験済みだしナ」


 少し得意げに鼻を鳴らし、檻の中の生物に出てくるよう声を掛けた。


「テメェら、今すぐここを出るぞ。早くしねぇと怒られるのはオレなんだヨ」


 軽くなった足を確かめていたオウムだったが、美狼の言葉に固まる。


「いや、私はいけない。此奴だけ連れて行ってくれればいいのだ」


「キュ、キュイキュイ」


 檻から出てきた生物が、抗議するようにオウムへ(むか)う。


「ごちゃごちゃウルセェ。オレが行けと言えばそれに従え。そっちのちっこいの。ちゃんと監視しておけヨ」


 ガラ悪くしゃがみこんだ美狼が小さい生物に声を掛けた。

 小さい生物は胸を張るような動作をした後、オウムの背後に回った。


「モイ、キューキュイ!」


 小さな生物の鳴き声を合図に、一人と二匹は外の世界へと歩き出した。

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