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Ep.3 壮麗な基地にて ー 前 ー

説明回のようになってしまい申し訳ないです涙

 四人で入っても十分な広さのエレベーター内は、明かりや温度が最適な状態に保たれていた。

 隣に立つ少女を見ようとしたタイミングで、エレベーターが止まった。


 一度扉の方に顔を向けた後、銅は何気なく隣の少女を見やった。すると、少女の装いは先ほどの戦闘スーツではなく、普通の服装に変わっていた。


 銅が目を離していたのはほんの数秒。彼女はその隙に着替えを済ませたというのか。

 驚きのあまり三度見をした挙句、開いた口を静かに閉じた。


 この短時間に信じ難い体験を味わい過ぎたせいで、既に悟りの境地に向かっている。

 もはや仏になった銅は、黙って少女達の後に続いた。


 エレベーターを降りると、優しい光が廊下全体に反射していた。

 左右へ延びる廊下は淡いオレンジの床と白い壁とで、落ち着き洒落た内装になっていた。


 床は柔らかい素材で出来ており、歩く度に足音が吸収されていく。

 エレベーターを右手側に曲がって、十秒も歩かないうち、金縁の白いドアが見えた。


 ドア横の近くにいた月輪が、肘くらいの高さにあった黒い機械に右手をかざした。

 『ピピッ』と軽快な音が鳴り、次は覗き込むように右目をかざす。


「ようこそ、俺たちの住処へ」


 そう言ってドアを開けた月輪は、他の人達が入りやすいようにドアを抑える。


 目の前を行く少女の黒髪を追い、十数メートルの廊下を抜ける。

 廊下の一番奥にあるドアの磨りガラスは、何も映していない。


 先頭がドアを開けるとすぐ、暗かった室内に照明がつく。


「うっわ、広いな……」


 視界に飛び込んできた部屋に、銅は知らず心の声が漏れていた。

 まぁ、それは当たり前の反応だ。なんせ三十畳はゆうに超えた、奥行きのある縦長の部屋なのである。


 部屋の形は長方形に近く、今くぐったドアはすぐに部屋を見通せるようにか、四つ角の一角に設置されている。


 ドアの右斜め前には、数人で料理しても余裕のあるキッチン。部屋とキッチンの間には立派なカウンターキッチンまである。


 そのカウンターの前に並ぶ、ダイニングテーブルと六脚の椅子。そこだけ切り取るとモデルハウスだ。


 そしてダイニングテーブルから更に奥、滑らかな段差があり、部屋の端まての窪んだ空間が出来上がっている。


 その空間の中のガラステーブルを囲むように、ドアから見て左側にL字型ソファ、右側に二人掛けソファと一人掛けソファが置かれている。


 どこを切り取っても高級なモデルハウスだ。

 見事としか言いようのない内装に、呆気にとられている少年を無視し、話は進んでいく。


「あれ、大凱は?」


「下にいると思うわ」


「それならいいか。では逸実、そこのソファででも寛いでいてくれ」


 高級そうなソファーを指され、一瞬座るか迷ってしまう。が、突っ立っている訳にもいかず、せめてもと端っこに腰掛けた。


 興味深そうに部屋を見回す銅を横目に、月輪はキッチンに一番近い、白いドアへ引っ込んでいった。


 白いドアの他にも、同じ形状のドアが等間隔に並んでいる。それぞれリビングの両サイドに三枚ずつ、違う色合いのドアたち。

 部屋の観察をし始めた銅へ、テーブルを挟んで正面に座った女性が視線を向けた。


「ねェ逸実君だっけ? もう少しリラックスしてもいいのよ」


 L字ソファの角に座り、デフォルトの笑顔を浮かべている。


「あ、うちは千坂(ちさか) 千景(ちかげ)よ。気軽にお姉ちゃんって呼んでねぇ」


「ぅえ!? いや、さすがにその呼び肩は恥ずかしいというかキツいというかイタいというか……」


「うーん、じゃあお姉様?」


「言い方の問題じゃないんだけど。てか、姉さんって呼ばれる程の年齢っスかね? 俺とそう離れてる感じじゃないですし…」


「んもー、レディに年齢聞くとか失礼、無礼よ! ご法度! 丸刈りアンド眉毛剃り落としの刑! これ常識よぉ」


(知らない常識……。つーか、丸刈り眉なし三白眼のヒョロ男の俺って怖ッ)


 自分の恐ろしい姿を想像して寒気が走る。銅はその姿を断ち切るように首を振り、正面の千坂を見据えた。


「そ、それもそっすね。年齢の話題出しちゃってスンマセン」


「うむうむ、分かればいいわ。まぁ、お姉ちゃんが無理なら千景で良いわよ。もちろん姉貴とか(ねぇ)さんとかだと嬉しいけどねぇ」


 意外とあっさり引いたところを見るに、そこまで本気で言っている訳では無かったようだ。会って早々ジョークを飛ばす、茶目っ気のある性格なのが伺える。


「じゃあ一応千景の(あね)さんで……。ところで、そろそろ事情を説明して欲しいんスけど」


 千坂は先ほどの白いドアを指さし、


「ああ、それもそうよねぇ。まぁその辺はもうすぐ蒼君から聞けるから」


 彼女のいう蒼君とは、どうやら月輪のことらしい。

 指をさしたのと同時、時間を打ち合わせたように白いドアが開き、青いジャージに白Tシャツを着た月輪が出てきた。


 ゆとりあるジャージ越しでも伝わる筋肉量に、同じ男として羨ましく感じたのも束の間。その筋肉が遠慮なく隣に座れば、少々鬱陶しく感じてしまう。

 いくら大きい二人掛けソファとはいえ、筋肉ムキムキな巨体と、百八十センチ以上ある男が並ぶと窮屈に思える。


 しかしそんなことを全く気にしていない月輪は、大きな声で話し始めた。


「いやぁ、待たせてすまない! 改めて月輪蒼志だ、よろしくな!」


「はい。さっきは助けてもらって有難うございました。……んじゃあ早速っスけど、あなた方について聞いても?」


 本題を急かす銅に、月輪は笑顔を崩さない。ちなみに、千坂から一人分離れた場所に座る少女の表情は、終始硬いままである。


「ではまず。我々はとある組織に属している。この時代ではあまり表立って活動していないみたいだが、名前くらいは聞いたことあるかもしれない。"World.Risk"という名を」


 World.Risk――銅が知る情報はその組織名と、警察に似て非なる世界規模の犯罪撲滅組織らしい、ということ。


「名前くらいは聞いたことあります。たしか五年くらい前に大きな事件解決したとかで、そっから浸透してる感じっスよね」


「ほぉ、今はまだその程度の認知度なのか。俺が知る限りではかなり強大な組織だと思っていたが」


「もしかして海外で活動してたんスか? さっきから認識の違いがあるみたいだけど……」


 話の途中にふと感じた疑問を投げかけた。

 すると隣の男は膝に肘をつき、一拍おいたあと納得したように相槌を打った。


「そうかそうか! 肝心なこと言い忘れてたな。我々は現在でいう未来の次元から来たんだ」


 ハハッ、大事なことが抜けていたみたいだ、と笑う月輪を尻目に、銅はまるで未確認生物を見たような表情を浮かべた。

 ボケっと間の抜けた三白眼に、閉じることを忘れた口。なんとも阿呆な顔をして隣の男を見やる。


(この人何言ってんだ? ……で、でも待てよ。あのロボットみたいなやつらとの戦闘シーン見せられちまったら、真っ向から否定は出来ん)


「確かに信じ難いかもしれないけどぉ、あんな所に遭遇しちゃったら、色々と辻褄が合うんじゃなーい?」


「ま、まぁ、ここで突っ込んでても話は進まないし、一旦そういうことにしておきます」


 もちろん飲み込めてはいないが、納得した(てい)で話を進めていく。


「急に言われて理解し難いだろうが、とりあえず知ってくれるだけでいい。まずはこの件に欠かせない、"(コピー)"について話すよ」


「Cって、もしかしてさっきあなた達が戦っていた…?」

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