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Ep.11 新型の脅威と更なるアクション

 真っ青な空の下、昔ながらの寺町は静まり返っていた。それもそのはずだ。この空間にはCと銅たちしかいない。


 直線道路のはるか先、二十メートルは距離があるだろうか。それなのに、銅のセンサーは反応してしまったのだ。

 Cの数は全部で三体。月輪曰く、Cが複数いる場合は二パターンタイプがあるらしい。


 まずは護衛タイプ。複数のうち一体がトレンドで、それを初期型、もしくは新型オリジナルが守っているパターン。

 もう一つは群れタイプ。オリジナルが集団でいるパターン。

 残念なことに、トレンドは初期型か新型か、また、トレンドのみで集団を作るのかはデータが少なく不明。


 月輪たちは既に戦闘態勢のひし形陣を組み、四方に散らばっている。銅は、後方に位置する美狼のまた後ろ。

 出来るだけ安全圏にいるように、との教えは大方守れているだろう。とりあえず、道路の隅で様子を伺うことが、銅に課せられた使命だ。


「左から二十(初期型オリジナル)、六十(新型オリジナル)、四十(初期型トレンド)だ。……いや待て! 四十では無い、八十の新型トレンドだ!」


「まずいわ、早く指示を!」


「ルビーは二十を破壊後、俺の補佐へ。アントラーとロディーは新型を!」


 先手必勝で遊馬が飛び出す。狙いは左の初期型オリジナル。

 四脚門から伸びる塀へ飛び乗った、赤と黒のコントラスト少女は、目が合ったCへ技を仕掛ける。

 第二関節までの指出しグローブを対象へ向け、一言放つ。


「フレイース《絶強火炎放射》」


 Cが遊馬の方へ跳んだタイミングで、遊馬の手から火炎が噴き出る。それは火炎放射器のように勢いよく、Cの胸元を中心に燃やしていく。



 燃え滾る炎の傍らでは、月輪も、遊馬と大差ないスピードで駆け出し、正面突破で新型オリジナルへ物理攻撃をお見舞いする。

 遠距離攻撃も可能なのに、人より固い体にパンチをする姿は、闘志に満ち溢れて雄々しい。


 ――ガキンッ


 金属とぶつかった音。見事パンチが当たり、拳形に凹んだ頬。見るからに痛々しいが、無表情のCからは痛覚自体を感じ取れない。

 しかしその打撃を受けて尚、Cは少しよろけるだけに留まる。


(新型、打たれ強ぇぇぇ!)


 戦闘を見守る銅はCの頑丈さに目を見張る。

 これまでは初期型の組み合わせか、単体の新型オリジナルとの団体戦しか見ていなかった為、二対一が基軸だった。

 それが一騎打ちになると、こうも難しい交戦になるのかと気が急く。


 新型はどちらの種類も戦闘能力が高い。第二隊も人並み外れた身体能力と異能を発揮しているが、Cはそもそもロボットなのだ。

 しかも戦闘可能で、最低でも人間を卓越した力をもっている。



 空中では美狼と千坂が、新型トレードと火花を散らし闘乱中。

 その下で、月輪と遊馬が互いの敵を倒そうと、奮闘している。形勢はこちらが不利だろう。


「アッハッハッ。これは骨がありそうな奴だな。俺も少しは本気出すか!」


 錯乱したように笑いだした月輪は、しかし真剣な眼差しをしている。


 Cが動き出した瞬間、月輪も距離を詰め、相手の半歩前で軽くジャンプする。

 殴りかかろうとしていたCだが、すんでのところで相手が消え、拳骨は空を切った。月輪はCの攻撃が失敗したタイミングで、胸元に重い蹴りを入れた。速さも力も超越的だ。


 強烈な一撃を入れられた体は、大きく後退して尻もちをつく。いや、尻もちをついただけでなく、その間抜けな体勢のまま地面を滑っていく。

 鋭い視線で射抜いた月輪は、間髪を入れずにCの頭部へ触れると――


「アイスクラック《極触転瞬氷結》」


 頭から全身にかけ、疾風の如く凍りついてゆく。瞬き一度の速さで氷の彫刻になった姿は、次の刹那、粉々に砕け散った。

 透明な氷の欠片が降る様は、幻想的にも思える。


「ロディー! 最低でも腕は持ち帰りたい!」


 砕けた敵には見向きもせず、白熱している頭上へ声をかけた。

 よく見れば遊馬も月輪の援軍を終え、上の二人に加わっている。美狼が中心となり、二人は補佐しているようだ。


 三人で対峙しているCは、今までに戦っていたCに比べ、明らかな俊敏性をみせている。遊馬なんかはガードするのがやっと、と言ったところだ。

 千坂も彼女と同じような状況である。守りに徹し、隙を突いては軽く攻撃をする。それは、当たっても大した傷をつけられないくらいの力。


 銅が見ていない間も、二人もとい三人は、相手の出方を伺っていたのだろう。

 現在はCの方が優勢に見えるが、美狼たちの表情には幾分かの余裕がある。勝機は十分のはずだ。


 常人より有能な美狼の眼はCを捉える。

 動き方に規則性はないが、多く大きく動き回った後の、ほんの数秒。動きが鈍るみたいだ。

 敵の弱点を見つけ、勝利への算段を立てる。


「…オイ、奴が動きを止めた瞬間、何かしらで気を引け。その一瞬で俺が腕を切断。あとはお前らの繋り攻撃」


 高い位置にいた美狼は、二人へ的確な指示を出す。千坂はいち早く意図に気づき、Cによる連続攻撃のあと、動きが止まった刹那、声明した。


「シューバットボン《至撃花弁》」


 Cに向けた指先からピンクの蕾が二つ、足下に射撃される。それはCの右足付近で爆発し、鮮やかなピンクの花弁が舞う。

 それを見ていた銅は寸刻のみ、美しさに魅了されるも、視界を横切った超高速の黒い何かに、透かさず目移りした。


「――ッッ!」


 黒い何かの正体は美狼だった。

 狼のような靱やかな体躯が反れると同時、素早く右腕を振り下ろし、Cの右肩を斬りつける。


「繫り行くわよ。ロサソーンズ《至締荊棘》!」


 片腕のCに茎針が巻つく。


「ボマヒート《絶合加即燃焼》!」


 Cが怯んだ一瞬の隙に遊馬が叫ぶと、茎に着火してボンッ! と炎を上げた。

 植物はよく燃える。そして太い茎は導火線となる。


 炎は相性の良い植物を燃やしていき、Cの体は火だるまになった。――が、燃え盛る中にいても、奴には息があるようだ。


「まだ足りない、てめェら離れろ」


 首から膝まで真っ黒に焦げた体は、まだ動けるらしい。

 オイル切れのロボットを演出するように、鈍く音を立てて動いている。


「一応防御しとけ」


 美狼の無愛想な言葉に、銅の傍まで移動した遊馬達は、何十メートルも離れた空の人影を見守る。



「エレクレイン《超閃光の沛雨》」



 ゴロゴロゴロ……


 ――――ドッッゴォォォォォォオン!!



 空が光ったと思えば、鳴動と併せて複数の(いかづち)が降り注ぐ。そう、雨のように、Cと周辺に閃光が落ちて、広範囲に被害をもたらす。


(これは当たったら即死だなぁ)


 今みたいに、客観的な目線から見た雷は正義の鉄槌とも言えるが、もし当たったら一溜りもないだろう。

 呑気に空を眺めていた銅は、雷が降り止んでも、しばらくは強烈な残像によって終わったことに気づかなかった。


 雷音がないことで銅はフッと我に返り、目の前にいる月輪たちの顔を仰ぎ見る。自分と同じように驚いているのでは、と反応を伺ったのだ。

 初見の人から見たら、ある意味魅了される光景。人間はやたら他人と共有したがるが、銅も例外ではなかった。


 だが言うまでもなく、銅程の感心はない。嘆賞の念は伝わってくるが、純粋な驚きの気持ちは欠けている。


「ロディー、お見事だ!」


 いの一番に声を上げたのは、リーダーである月輪だった。

 美狼は音もなく降り立ち、深くため息を吐く。


「まァな。……これ、あいつの腕」


 怠そうな態度で返事をした美狼は、手に持っていたものを差し出した。


「うわっっっ!」


 それを見た銅は喫驚(きっきょう)の声をあげた。


 なんせ、彼が持っていたのはCの切断した腕だったのだ。一見しただけでは、人の腕との違いが分からない。

 本当によく見れば、断面部分には配線が詰まっていて、歴としたロボットの腕だと分かる。…それでも恐ろしいものは恐ろしい。


「ンな驚くなよ………あー、っと…」

(こいつ、名前なんだったか)


 美狼は物憂げな顔をした直後、銅の全身を一瞥してすぐ視線を合わせた。


「…………三白眼」


「ッいや、逸実っスよ! 確かに三白眼だけど、そんな名前の人はいないでしょ! そろそろ名前覚えてくださいよぉ〜」


 このやり取り、思い返せば顔を合わせた日から続いている。銅にさほど興味ないのか、それとも名前を覚えるのが苦手なのか。前者だったら悲しいが。


「……まぁ、いつか覚えてくれればいいっスわ」


 そろそろサブリミナル効果にでも頼ろうかな。潜在意識に刷り込もうかな。催眠にかけようかな。なんて諦めにも似た境地になる。


「とにかくスフィアプテロ呼んだから、オレァさっさと現実に戻るわ」


 言うが早いか、腕を置いた美狼の姿は視界から消えた。


「え、こんなとこに置いてって大丈夫なの!?」


 ガランとした土産屋の入口に置かれた商品棚。その上に商品と一緒に並ぶ腕。


「あぁ。腕には受信機を付けたから、スフィアプテロが引き寄せられるはずだ。あれは優れもんだからな、異空間との行き来が可能な故、誰にも見られずに基地まで持ち帰れる。心配しなくても大丈夫だぞ」


「それじゃあ私たちも戻りましょう」


「だな。服を戻すから、ロウナーはその後俺に捕まれ」


「うーっす」


 ロウナーと呼ばれた銅は軽く返事をする。


 ここで言うロウナーは、戦闘時に呼ぶ銅の通称だ。万が一にでも、戦闘中に本名を呼んで敵に聞かれないように。敵を再起不能にするまでは、戦闘名で呼ぶことが義務づけられている。


 ちなみに、今は名前で呼んでもいいのだが、慣れてもらう為だろう、わざと戦闘名で呼んだのだ。


 皆、一瞬にして戦闘スーツから私服に戻る。それを見届けた銅は、月輪の肩に手を添えた。

 初めは緊張で惨めにしがみ付いていたが、やはり(こな)す度に気まずくなる。でも、もうすぐ還戻用の機械が送られると聞いているので、それまでの辛抱だ。


 地平線の先まで白い空間に包まれ、一瞬の温もりから反対に、冷えた空気が体を撫でる。

 耳に入る喧騒とうっすら色を変える空に、元の空間に戻ったと実感した。それは皆も同じで、チラチラと辺りを見回す。


「おーい、美狼! さっきので体力消耗したんじゃないか? 良かったらおんぶしてやろうか?」


「この時間は大体電車も混んでるだろうし、タクシー呼んじゃう?」


「いい。(いち)に電話したから。今ちょうど車乗ってたらしくて、三十分もしないで来るってヨ」


「じゃあ手土産として何か買ってあげましょうよぉ。時間ならあるし、ね?」


 大人たちの話によれば、一路が車で迎えに来るらしい。そして一路に託けて美味しいものを買うらしい。


 比較的のんびりだった一日は、暫時ハラハラしたものの、確かな手掛かりを掴めた充実の一日でもあった。




 ――三十分後、一路の柔らかい容姿とは対照的な厳つい車が迎えに来た。


 労いの言葉に軽く返事し、皆スライド式のドアから乗り込む。カスタマイズされているのか、一人一人のスペースが通常より僅かに広い。


 一路は全員が乗ったのを確認し、車を発進させた。車内は静かで、窓の外から聞こえる騒然たる音が反響する。

 しばらくして、その沈黙を破ったのは運転中の一路だった。


「……実はね、すっっごく言いづらいことがあるんだ」


 心做しか声が重い気がする。


「今夜、遊撃隊が泊まることになった。でも階は別だから、必ず顔を合わせるってわけじゃないんだけど」


「「「…………」」」


 たった一言。然れど一言。それは皆の心臓にクリティカルヒットして、見事残りのHPが底を尽きた。

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