大切なものを奪えたくないものがある
その頃、政春達は……。
「へぇー、あの男がバイトして、妹さんを……」
「そのこと、あの不良達は知ってるの?」
愛の質問に、政春は言った。
「いや、本人に言うには知らないらしい。隠してバイトしている」
「隠してって……、それじゃあ学校でのあの振る舞いはいったい……」
政春は、綱達についていった。
「おそらくは、演技かもしくば仕方なく不良のふりをしているかだな。もしかしたら、あいつの妹、あいつが学校で不良キャラになったこと知らないかもしれない」
「あの男がですか……?」
「たくっ、表は不良で裏は妹思いの真面目か」
成三は頭をボリボリ掻いた。
すると……、前から誰か走ってきた。
「アニキ、あそこに来てくるのって……」
「?」
そこに走ってきたのは、綱達だった。
「綱達……!」
だが、綱達はそのまま行った。
「何かあったのですかね……?」
さっきの綱達の顔は、何かに急いでいたようだった。
「まさか……。もしかして、あいつ……!」
政春は、綱達を追った。
「春ちゃん?」
「アニキ、どうしたんですか?どこへ行くんですか!?」
常之達は、そのあと政春を追った。
その一方、綱達は、廃ビルのところにいた。
「……ここまでやるつもりかよ。山下さん……!」
そこにいたのは、ガラ悪いヤクザが何十人もいた。目の前には、スキンベッドの男がいた。
「鬼庭さん、借金を返してくれますよ……。でないと、あんたの妹がどうなってもいいのですか?」
ヤクザに捕まっていたのは、小3の女の子だった。
「!?種……!」
綱達の妹・鬼庭種である。
「おい……、うちの妹を離しやがれ。というより、どうして妹がここに?」
「それは、俺たちですよ」
そこにいたのは、信じられない人物だった。
そう、綱達に威を借りたあの不良3人だった。
「な、なんでお前らがここに!?」
その理由を言った。
「最初から、アンタを弱みを突き付けるためですよ」
「俺らは、この山下さんのスパイだったんですよ」
「!?」
不良3人は、山下という男の仲間。綱達の弱点を探るスパイだった。
「いやー、マジびっくりしましたよ。狂鬼の不良の異名を取る男が、まさかの弱点がこれ。妹さんかぁ……」
「ききましたよ、借金のためにバイトして妹さんには、学校としては不良キャラを隠していたなんて。マジで爆笑しましたよ」
「というわけだ、親が借金したモン。払ってもらうぜ」
「……」
今まで苦労したもの、そして妹のため、そのことに綱達はすべてあの男のせいにより激怒した。
「山下……、アンタってやつは……!」
「まさかの呼び捨てですかね、怒っても妹さんに命はないと思ってほしいなぁ」
「……」
綱達の頭に、過去が流れていた。
2年前…。
綱達の親は、亡くなった。父親のほうは、会社が倒産して、すべて奪われ、心の精神が悪化し、亡くなっていた。母親は、事故で帰らぬ人となっていた。
「あの兄妹、これからどう生きていけばいいのかしらね……」
「なら、お前が引き取ったらいいんじゃないか」
「冗談じゃないわ、私はいやよ」
誰も味方がいなかった。世話してくれる人がいなかった。
「お兄ちゃん、お父さんとお母さん……、いないの……?」
「大丈夫だ……、俺がいる。俺が、お前を不幸にさせない」
この言葉に、彼は誓ったのだ。不幸にしたくない、苦しい思いをしたくないと。
そして……。
「妹を離してくれ。その代わり……、俺の命くれてやるよ」
これに、山下は……。
「本気か?」
冗談にしても、笑えなかった。
「妹のためなら、俺のことなどどうでもいい。種が、不幸にならないようにさせるには…」
本気の目だった。綱達の言葉に、ヤクザは彼を囲んだ。
そして、数分後。政春は、綱達の元へ着いた。
だが……。
「綱達……!」
綱達はヤクザによって暴力され、血だらけだった。
「綱達くん……!」
「……」
綱達の息は荒くなっていた。
「なんでここに……、政春……」
「……」
そこに、山下たちが来て、政春達を囲んだ。
「お、お兄ちゃん……!」
種は、心配そうに泣きながら兄を見た。
「なんだ?お友達か?」
「……」
政春は、立ちあがった。
「皆、綱達を病院に……」
「アニキは……?」
すると、常之は政春の違和感を感じた。
「なんだお前は?」
「ここの頭はだれだ?」
山下は言った。
「俺が、頭だが?」
政春は、山下に向けて言った。
「……クズな奴だな」
「なんだと?」
これに山下のヤクザは怒った。
「てめぇ、山下さんを……」
ヤクザは鉄の棒を振った。その時……。
(バキンっ!)
「な……っ!」
模造刀の小刀・小竜で鉄の棒を割った。
「こいつの大事なものを奪っていくなよ」
政春の目は、瞳孔で開いていた。
「こ、こいつ……!」
山下たちは、動揺した。
「人の弱み、他人の大切なものを奪うやつ……、そんな奴には怒りの鉄槌が必要」
政春は、小竜をヤクザに向けた。
「怪我して、学びやがれ」
その一言に、ヤクザたちは彼の怒りに怖れていた。
つづく