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ずっとあなたのそばに  作者: しょうの
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7.魔術学院

1日おきで更新したかったのですが、2日空いてしまいました。

昨夜は寝落ちしてしまいました。


 わずかにあった馬車の揺れがなくなったことに気が付き、窓から外を見ると、既に魔術学院に着いていた。

 加護適性のことを考えすぎていて、着いたことにも気が付かなかったらしい。

 きっと、アドルフもやきもきしていたに違いない。

 ちょうどその時、遠慮がちな声が聞こえた。


 「お嬢様。・・・・どうかされましたでしょうか?」


 あぁ、やっぱり。私は慌てて制服に乱れがないかを確認した。

 制服、よし!を確認すると、慌てていること感じさせない声で返事をする。


 「扉を開けてくださいませ。」


 扉が開くと、淑女らしい動作で馬車を降りた。

 ふふふ、これなら、お姉様にも褒められるに違いない。私は、やればできる子なのだから。

 アドルフもきっと、馬車が付いたことにも気が付かないくらい呆けていたなんて絶対に思わないはず。

 やり切った感に満足し、そのまま、魔術学院の建屋へと向かおうとした。


 「・・・お嬢様、おかばんも持たずにどうするおつもりですか?」


 え!?カバン??

 私は立ち止まり、両の手をまじまじと見た。あ、何も持ってない・・・

 振り返ると、やれやれという感じに首を軽く左右に振るアドルフと視線がばっちりあった。

 かばんを持ったアドルフが立ち止まったままでいる私に近づき、私の手にカバンを握らせた。


 「アドルフは、もうジィですからね。三歩も進んだら、物忘れするやもしれません。」


 カバンを持たされても呆然としている私を尻目に、アドルフは馬車まで戻り、御者席に座った。


 「では、お嬢様。本日のお戻りは、リュイ様とご一緒と伺っております。もちろん大丈夫だと思いますが、くれぐれもお忘れなきように。もちろん、お嬢様を信じておりますので、念のためですよ、念のため。」


 そう言うと、私から視線を逸らす。でも、笑っているのは一目瞭然。その震える肩とたまに漏れ聞こえる『ふっ』という息つく音で全く隠せてない。というか、おそらく、隠す気もない。

 まったく、あのアドルフのどこがジィなのよ。現役の騎士といってもおかしくないくらい、均整の取れた体つきに、物忘れしそうもないあの態度!

 子供の頃から我が家にいるアドルフは、普段は執事であり、馬車の御者はしない。それにもかかわらず、なぜか、私が一人で魔術学院へ行く時の送迎はアドルフなのだ。

 それにアドルフは、御者っていう感じじゃないのよね、馬との接し方が。なんというか、御者席にアドルフが座ると、今にも何かを攻め落とすのではないか、という勢いをアドルフからも馬からも感じるというか。あの馬たちも、他の御者の時はもっと穏やかな雰囲気なのだけどな。

 ふぅと一つため息をつきながら、忘れるどころか、きっと今後も、事ある毎に、『念のため』と注意してくるであろうアドルフの顔が思い浮かんで、げんなりとした。



 魔術学院の建物の中は、古代語が文様のようになっている柱の間に、ワーデンファルス王国の景色を美しく切り取ったような絵画がかけられ、床には織り込みが素晴らしい上、一部、金糸、銀糸も織り込まれた絨毯が敷かれている。なぜ、これほどきらびやかなのかというと、魔術学院の立地が関係する。

 実は、魔術学院は王宮の一角に位置するのだ。他の騎士学校、アカデミーが王都ではあるが、王宮内にないことを考えると、異例の待遇だ。

 これは、騎士や文官に比べ、魔術師は極端に少ないための苦肉の策ともいえる。魔力もち自体が少ない上、魔術師とならず、騎士や文官となる者、お姉様のように婚姻により職を離れる者もいるため、その人数はぐっと絞られる。そんなに魔力もちが少ないなら、騎士や文官にしなければよいのでは?と考えてしまうのだが、魔術よりも騎士、文官への適性が高く、王国にとってそのほうが利になると認められた場合のみ、魔術師ではない他の職の選択が特例として認められる。私のような魔力ちょっぴりだからという理由では、魔術師にならないという選択肢は選べない。ひどい・・・

 そんな貴重な魔術師なので、後進の育成は王国挙げて行わなければならないのだが、ここで、誰が教鞭をとるのかという問題が常につき纏う。お父様たちよりもっと前の世代の頃は、魔術学院は王宮内にはなく、魔術学院に在籍する教師がいたらしい。貴重な魔術師が王宮の目が届きにくい学院にいるということで、王都から離れた土地の領主、特に辺境伯の方々が、教師をしている魔術師を好待遇で引き抜き、自領の魔術師としてしまうという事態が頻発するようになってしまった。ちなみに魔力もちは、特例がない限り、職が魔術師一択であるが故、どこに在籍するかは個人の裁量に任せられている。確かに、職の選択ができない上、在籍場所まで縛られたら、暴動起きるよね、魔術師の。それは、誰にとっても本意ではないからねぇ。

 で、冒頭の苦肉の策として、目が届く王宮内に魔術学院を併設し、さらに教師は、専任ではなく、王国魔術師達が兼任する今の形となったのだ。



 あの目まぐるしい11歳の誕生日からあれよあれよという間に魔術学院に入学し、3年間の教育が終わろうとしている。今、私は13歳で、もうすぐ14歳の誕生日を迎える。


 聖爵様から祝福もいただき、王国魔術師の先生方から魔力の扱いから魔術までの基礎の教育を受けた・・・なのにぃ!魔力は一向に増える気配もなく、ちょっぴりのまま。唯一この教育で得られたのは、魔力を動かすことができるようになったことだけだ。

 いや、座学はしっかり学んだわよ。だから魔術式なんかはかなり習得しているので、座学では優秀生なのよ。ふふん。だけど、いくら魔術式を習得しても、先立つものである魔力がないと動かすことができないのだ。宝の持ち腐れと言われていることはよくわかっている、かなしび。

 ただ、魔力を動かすことができるようになったので、魔力がにじみ出るのも右の手のひらへと移すことには成功した。もう、私はクルーランではなくなったのよ。ふふふ。

 魔力を手のひらに移すことができた日、晩餐後のお茶の時間に、自信満々で皆に披露した。


 「エリュナ、すごいね。よく頑張ったね。」


 リュイお兄様は、私をぎゅっと抱きしめてくれた。


 「危ない。」


 という一言だけ発し、お父様は、そんなリュイお兄様の肩をぐいっとひっぱってしまい、あっという間にぎゅっとタイムは終了した。

 リュイお兄様も18歳になり、王国魔術師となっている。背もぐんぐんと伸び、今ではお父様よりわずかに低いくらいの身長になっている。そのため、ぎゅっとされると、私の顔はお兄様の胸元に埋もれる。確かに、このままぎゅっとされ続けたら、呼吸困難になっていたかもしれないので、危なかったのかも。


 「ブランシュから、聞いている。よくやった。この調子でいきなさい。」


 ブランシュというのは、王国魔術師で魔術学院の教師。魔力を動かす能力は、王国魔術師の中でも随一といわれている。私と同じ学年に2番目の息子がいる、お母さん魔術師さんなのだ。どっしりとしていて、私の実技にも根気良く付き合ってくれた、とても優しい先生だ。

 ブランシュ先生に会えなかったら、私はずっとクルーランだったかもしれない。そう考えると、ブランシュ先生と出会えて本当によかった。


 褒めてもらえたのが嬉しくて、満面の笑みでお父様を見た。

 お父様が私から視線を逸らし、目元を覆った。口元から、くっ、という声が聞こえた気がした。お父様よくこうなるのだけど、あまりにも私を不憫に感じているのだと思う。心労が重なって倒れないといいけど。


 「お父様。私、魔力ちょっぴりだけど、これからも頑張るので、そんなに心配しないでくださいませ。」


 「お前、魔力を頭に移動したほうがいいんじゃないのか? そしたら、もう少しまともになるぞ。」


 シャルルお兄様は相変わらずのいじわるぶりだ。

 こんなシャルルお兄様は、悔しいことに非常に優秀だ。魔術師としての能力も高いのだけれど、騎士としての特性も高かったため、特例が適用され、現在は近衛第2騎士団に所属している。いいところが全部、能力にいってしまい、性格には残ってなかったに違いない。


 そのシャルルお兄様をぎろりとお母様がひとにらみした。

 だって、盛大な勘違いしているじゃないか、とかなんとかぶつぶつ言っていたが、意味が分からない。

 お母様が頬に手をあてながら、ぽつりと言った。


 「本当に、誰に似たのかしら。」


 お兄様のいじわるなところは、誰にも似ていません!お兄様特有です、お母様。

 という思いを込めて、お母様を見つめると、

 察しが悪いのよね…とぽつりともらし、私を見てから、ちらりとお父様を見ていたような気がするけど、気のせいに違いない。

 ただ、お父様が眉をぴくりとかすかに動かしたところを見ると、ちょっと動揺しているみたいだ。

 はてな、な思いで、小首をかしげると、それを見ていたお父様とお兄様達が、うっと胸をおさえた。


 お母様が何かつぶやき、盛大なため息をついたのだけど私には何を言ったのか聞こえなかった。


 『妙なところだけ察しはいいのに、本当に残念なこと。愛らしさを無自覚でふるまう娘も娘だけど、何年たっても動揺が隠せない殿方たちの方はさらに本当にどうしようもないのね・・・・』


ランベルト侯爵家の皆様がいっぱい出てきてしまって、なかなか先に進みませんでした。

次は、加護適性の話に入ります。

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