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ずっとあなたのそばに  作者: しょうの
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2.魔力発現

回想部分が少し続きます。

お付き合いくださいませ。

 通常、魔力もちは、4,5歳くらいまでに魔力発現するといわれている。うちのお兄様達なんて、なんと、2歳で発現させているのだ。さすがランベルト侯爵家だと、上を下への大騒ぎだったとか。

 そんな中、私は一向に魔力発現する気配がなかった。ただ、家系をさかのぼってみると、魔力発現しない人もそれなりにはいたので、それ自体は特に問題はなかったのだ。


 あれは、私の11歳の誕生日のこと。


 私のお父様であるカイル・ランベルトは、現ランベルト侯爵であり、かつ、王国魔術師長という肩書を持つ。非常に整いすぎた顔立ちに、プラチナブロンドの髪、アイスブルーの瞳という、纏う色彩自体が冷ややかな上、さらに温度を下げてしまうほど冷ややかな視線で、水系魔術の最上位の氷魔術を使うのだ。全ての温度感が低すぎることから、氷の魔術師長と呼ばれているらしい。


 こんな冷ややかで王国トップクラスの魔術師の出来すぎるお父様は、それはもう、いつでも大忙し。ほとんど家でお会いすることがない。それにもかかわらず、お父様が、私の誕生日の今日!早くお帰りになると連絡があったのだ。

 私は、いち早く部屋を出て、エントランスホールの一番前に陣取った。お母様、お姉様、お兄様達もみなエントランスもお迎えに出てきたが、一番前は譲らない!

 ふんす、ふんすと鼻息も荒く、今か今かとお父様がお帰りになるのを待っていた。

 振り返らなくてもわかるほど、お母様とお姉様の視線が非常にいたいが、気にしない!


 そんな中、エントランスホールの扉から、ガチャリと音がした。嬉しくてたまらなかった私は、


「おとうさまぁ!」


 と駆けだして、ホールに入ったばかりのお父様にぎゅっと抱きついた。


 私の淑女らしからぬ動作にお母様とお姉様の眉が同時にピクリと上がるのが横目に見えてしまい、お小言の始まりを感じた瞬間、私の中で何かがぞわりと動いた。

 ぶるっとかすかに震えた私をお父様が抱き上げ、背中を、ぽんぽんと優しく叩いてくれた。

 私を抱いたまま、お父様が歩き出そうとした、その時、私のお尻部分に、ほわんと本当にかすかな魔力が発現した。


 お母様とお姉様は上がった眉はそのままで目を見開き、そばにいたお兄様達は、表情が抜け落ちたような顔になった。

 冷静沈着、氷の魔術師長のお父様ですら、一瞬固まったからね。


「今のは、・・・・・魔力発現? え?・・お尻だけ?・・お尻?」


 時が止まったランベルト侯爵家の静寂を破ったのは、お父様譲りのプラチナブロンドの髪を一つにまとめ、アメジストのような紫の瞳をもつ上のお兄様、シャルル・ランベルト。魔術学院に在籍している15歳。


 うぅ、そんなに、お尻、お尻言わないでよ。さらに、お尻をじっと見るのもやめて。

 乙女なんだから、恥ずかしいのよ。

 シャルルお兄様は、ちょっと意地悪だと思う。いつものことなのだけど。


 通常の魔力発現は、体全体から魔力がにじみだすような感じであり、魔力が強ければ強いほどそのにじみだす量が多い。ただ、どんなに弱くても、「魔力だ!」と絶対にわかるくらいには『体全体に』魔力が発現する。ちなみに、規格外のお兄様達は、ほとばしる様なかなり強い魔力が放たれたらしい。


「魔力発現・・・・だな・・・・」


 魔力、魔術に関しては王国随一であるお父様も、懐疑的な目で、私のお尻をじっと見ていた。

 うぅ、だからお尻を見るのはやめて…・


 お兄様、お父様の視線が痛くて、うつむいてしまったとしても許してほしい。

 だって、いたたまれないのは、私のほうだもん!

 「魔力だ!」と断言してもらうこともできない、それは、もう、発現なんてしなければよかったと思えるほどのかすかな魔力を、11歳で発現させるなんて。

 それも、体全体でもなく、お尻だけなんて、恥ずかしすぎるっ。


 少し涙目になりながら、さらに項垂れていく私を見て、最初に通常モードに戻ったのは、お父様だった。

 こほんっと軽く咳払いすると、


「エリュナ、魔力発現だ。おめでとう。」


 と、私のお尻を撫でてくれた。

 いや、だから、お父様、お尻はもういいです。

 通常モードだと思ったけど、まだお父様も動揺しているようだ。いつものお父様だったら、絶対にお尻なんて撫でないもの。


 すると、お母様譲りで私と同じくハニーブロンドの髪に、アイスブルーの瞳の下のお兄様、リュイ・ランベルトが、優しく、ほんわりと微笑んでくれた。


「エリュナ、来年から、一緒に魔術学院に通えるね。楽しみだよ。

 ・・・一人だけ通えないって寂しがっていたから。僕も寂しいなと思っていたし。」


 うぅ、リュイお兄様の優しさが心にしみる。

 リュイお兄様は、ちゃーんと私の目を見てくれているもの。

 シャルルお兄様と双子だとは思えない、この優しさ、私の心のオアシス!


「魔術学院・・・・」


 リュイお兄様の魔術学院という言葉で正気に戻ったお母様、ナディア・ランベルトが、エメラルドグリーンの瞳をきらりと光らせた。

 お母様、見た目は、ほんわりとしたとてもかわいらしいお顔なのに、見た目と言動のギャップがひどすぎると思うのよ。


「旦那様。お急ぎにならないと、間に合わないかもしれません。」


 お母様のことばに、お父様も首肯する。


「確かにそうだな。

 リュディガー、神殿に早馬を。エリュナは青月の生まれだから、深藍せいらんの聖爵だ。」


 エントランス入口に控えていたお父様の補佐官リュディガーが、すっと外に出ていくのが見えた。


 誕生日が突如慌ただしくなり、きっと、お祝いはなくなってしまうのだろうなぁとしょんぼりとさらにさらに項垂れた瞬間、


「尻に魔力・・・・クルーランだな、うん。」


 手をぽんと打ち、納得の表情のシャルルお兄様。

だから、もう、いいから。お尻が光る魔物に例えるのもやめて。


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