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95.私にだって特別を!

 ────


 そして次の日。


「……ということがあったんだよね」


 俺は朱里ちゃんの元を訪れ、昨日の出来事を全て話していたんだ。


 きっと朱里ちゃんは何日も病室から出られずに、ずっと退屈だったのだろう。最後まで飽きずにリアクションを取りながら、俺の話を聞いてくれたんだ。


「あははっ、そうなんだー。まさか透子まで彼女になるなんて……やっぱり修一はモテモテだねぇ?」


 朱里ちゃんは小悪魔っぽく笑いながら、俺の方を見る。何だか少しからかわれているような気がしたけど……不思議と、悪い気は全くしなかったんだ。


「うーん……それほどでもあるのかなぁ?」


「あはは。どうして彼女三人いる人が、自信なさげに言うのさー?」


「いや、まぁそうなんだけどさ。俺はずっとみんなのことを好きって言ってるだけで、そんな特別なことをしているつもりはないんだよね」


 もちろんみんなには日常的に愛の言葉を伝えたり、スキンシップを取ったりだとかはしているけれど……俺はそれが特別なことだとかは、別に思っていないんだよね。というか好きな子見たら、勝手に身体が動いちゃうだけだし。


 ……まぁ、この言い方が正しいか分からないけれど。俺がモテまくっているのは、きっと俺の力とかなんかじゃなくて。俺の想いや素敵な所を見つけ出してくれる、彼女たちの力があるからなんだと思うんだ。


 そして彼女たちのそういう所に、俺はまた惹かれてしまうのだよ…………とか何とか考えていると。朱里ちゃんは疑問の目を向けてきて。


「んー? それなら授業を抜け出してまで私のお見舞いに来てるのも、そんな特別なことじゃないの?」


「えっ? まぁ……そうなるね。退屈な授業を受けるよりも、大切な朱里ちゃんのお見舞いに行く方が、俺にとっては最重要なことなんだよ! 当然のことなんだよ!」


 そうやって俺は堂々と答えたんだ……ちなみに現在の時刻は午前十時半。皆が眠たい目を擦りながら、必死に頑張っている時間である。


 そしてそれを聞いた朱里ちゃんは、ちょっぴり嬉しそうに。


「へぇーそっか。だったら修一はとっても凄いよ。そんなの、誰にでも出来るようなことじゃないもん。その才能、修一のゲームの才能にも匹敵するんじゃないかな?」


「……そうかな? そこまで言ってくれるなんて、嬉しいよ」


 何だかこんなにもべた褒めされると、ちょっとだけ恥ずかしくなってしまうな……ホントにただ俺は、授業をサボってるだけなのにな。あはは。


「……よし。それじゃ、放課後にはみんなで来るからさ! それまで寂しいだろうけど、我慢しててね!」


 そこで俺は冗談っぽく言うと、朱里ちゃんはゆるっと笑って。


「あははー。分かったよ。……そうだ、修一。今日修一が来たこと、みんなに秘密にしておこうか?」


「えっ、どうして?」


「だってそんな話聞いたらさ。私だって修一と特別を作りたくなっちゃったもーん」


 それを聞いて、俺は少し驚く。


「えっ、あっ、そうなの!? それじゃあ……そうしようか!」


 普段は大人っぽい朱里ちゃんも、こんな風に可愛い所があるんだなぁ。これは、アイドルのあかりんの時とも少し違った可愛さだから……きっと俺しかこの姿は見られないんだろうな。何だかちょっと得した気分だ。


 そして朱里ちゃんは続けて。


「それでさ、修一」


「ん、何?」


「私が退院したらさ。どこか遊びに行かない?」


「おお、いいねいいね! 他には誰か誘う?」


 すると朱里ちゃんは食い気味に。


「ううん。私と修一だけで行きたいの」


「えっ、それは全然いいけど……どうして二人だけで?」


 俺がそう聞くと、朱里ちゃんはちょっとだけ恥ずかしそうに。


「……だからさっき言ったじゃん。私も修一と特別を作りたいって」


「ああ、そっか! それならぜひ行こう! 俺はどこへだって君を連れ出すよ!」


 そうやって俺は手を引くようなジェスチャーをしたんだ……それがおかしかったのか、また朱里ちゃんは笑って。


「ふふっ、ありがと。やっぱり修一は、みんなから好かれる訳だよ」


「そ、そうかなぁ?」


 そんなこと言われると、お世辞だとしても、とっても嬉しくなってしまうよ。


「うん、そうだよ。じゃあ引き留めてごめんね、修一?」


「大丈夫だよ! それじゃあまた!」


「はーい。待ってるよー」


 そして俺は手を振りながら扉を開いて、病室から出る。それでいざ帰ろうとした時……俺は病室にバッグを置き忘れたことに気が付いたんだ。


「あっ」


 当然すぐに戻れる距離なので、俺は取りに戻った。


「あーごめんごめん朱里ちゃん、忘れ物しちゃったよ……」


 言いつつ、病室の扉をまた開く。そしたら朱里ちゃんが素早く、何かを自分の背後に隠したのが、一瞬だけ目に入ったのだった。


「……ん、どうしたの?」


「なっ、何でもないよー? 気にしないでー?」


 朱里ちゃんは目を泳がせて言う……こんなにも朱里ちゃんが焦ってるのは、相当珍しいな。何だか俺、いつも朱里ちゃんにからかわれている気がするし、たまには俺も反撃してもいいんじゃないか……?


 そんな悪魔の誘いに乗った俺は、ちょっとそれを探ってみることにしたんだ。


「いや、気になるなー。ちょっとそれ見せてよー?」


「えっ、いやいやいや、見ても本当に面白くないから!」


 朱里ちゃんのその必死さが、逆に俺の知りたい欲求を高めていく。


 ……これは正攻法では見せてくれないな、と確信した俺は。少々強引な方法でそれを見ることにしたんだ。


「そっか……と見せかけて、スティールッ!!」


 そこで俺は素早く朱里ちゃんに近づき、ベッドと朱里ちゃんの背中で抑えている『それ』を抜き取ったんだ。


「あっ、ちょっと修一!!!!」


 見てみると、どうやらそれは一枚のコピー用紙だったらしく、丸くて可愛らしい手書きの文字で『デートスポット一覧』と書いていて。そしてその下には、遊園地や映画館等々、遊べそうなスポットが羅列されていたんだ。


 ……俺は一瞬だけ、頭が真っ白になる。


「……えーと?」


 これってもしかして……朱里ちゃんはこれを作って。そして俺をデートに────


「修一、忘れて?」


 そこで朱里ちゃんは「返せ」と言わんばかりに手のひらをこっちに向け、笑顔で圧を掛けてきたんだ……その笑顔はさっきも見たはずなのに、何だかとても恐ろしいものに見えてしまったんだ。


「あ、あの、えっと……」


 ひるんだ俺は続きの言葉が出てこず、そのまま震えていると……


「忘れて?」


 朱里ちゃんは再び手を動かして、俺に紙を返すよう訴えてきたんだ。


「ひっ、ごっ、ごめんなさいー!!」


 俺は情けない声を上げながら、すぐさまその紙を投げるように返し、急いで病室から出たのだった……










「……あ、またバッグ忘れた!!!!」




 第五章 完

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