92.「それ、オマエが言うのか?」
そしてその後、俺らはすぐに準備をするように言われて……独特な空気の中、演技を行ったんだ。
相変わらず透子ちゃんは、ガチガチに緊張していたみたいだけど……俺の顔を見るなり、素敵な笑顔を取り戻してくれて、明るく元気に踊ってくれたんだ。一時的なものとは言え、こんなにも露骨に俺のことを好きでいてくれるのは嬉しいな……
……なーんてそんなことを思いながら俺は、練習していた高難易度のターンをフィニッシュで決めたのだった。
「きっ、決まったぁー!! なんて完璧なパフォーマンスなんだぁっ!!」
司会のお兄さんはマイクを飲み込むくらいに近づけ、興奮気味に言う。もうさっきまでのやりとりは、すっかり忘れているようだった。
そして俺は筐体から降り、笑顔で透子ちゃんに声をかけた。
「とっても最高だったよ、透子ちゃん!」
「へへっ、シュウイチ、オマエもだ!」
そう言って透子ちゃんは拳を突き出してくる。同じく俺も拳を出して、優しくグータッチを決めたんだ。
「さぁーそれではいよいよ結果発表です!」
そして結果発表の時間だ。
決勝戦での点数は内訳は、俺と透子ちゃんを合わせたゲームのスコア(200点満点)と六人の審査員の付ける点数(600点満点)、そして視聴者審査(100点満点)による点数が出され、その全てが合計されて出るんだ。
「まずはゲームのスコアからだ! 明智さん……95点! そして……なんとなんと、神谷君は過去最高記録の100点満点をたたき出したぁ!!」
お兄さんの熱い実況で、観客のボルテージは更に上がっていく。
「よーし、いいねいいねー」
「へへ、流石シュウイチだ!」
「それで、次は審査員が付ける点数の発表だ!!」
お兄さんの呼びかけで、一斉に視線が審査員席の方へと向けられる。俺もみんなと同じようにそっちを向いた。
ここで初めて俺は、審査員席をじっくりと見たのだが……座っているのは体育の先生や音楽の先生、学園長など、名だたるメンバーな人達ばかりだったんだ。いくら生徒会長とは言え、この場に久之池が座っているのは、やっぱり少し不釣り合いな気がした。
勘の鈍い俺ですらそう思うんだから、きっと観客のみんなも同じことを思うだろう……もしかしたらこれで、蓮の言葉を信じてくれる人が増えたかもしれないな。
それで審査員席では、一人ひとり点数が発表しているようだった。審査員は機械のボタンを押し、背後のスクリーンから点数が表示されていく。イメージ的にはテレビで見る、あの漫才コンテストっぽい感じである。
そんで久之池を除いた五人の点数は、全員90点台の後半と相当良い点数を与えてくれたのだが……予想通りというか、久之池の点数は65点という何とも言えないような数字を付けてきたんだ。まぁ、これでもだいぶ妥協したんだろうけどさぁ……
「お、おっと、久之池君の点数が低いですね……?」
少し困惑気味にお兄さんは言う。そして軽いブーイングのようなものが、観客席の方から聞こえてきたんだ。
……だがそんなのは全く気にせず、久之池はただ淡々と。
「ええ……ダンス自体はとても素晴らしかったのですが、少々オリジナリティが欠けていると感じました。もう少し柔軟に取り組めると尚良いですね」
「ああ、そうでしたか。ご指摘ありがとうございます。次回に活かせるように頑張りますね?」
こんなペラッペラで、テーブルの下で銃口を突きつけ合っているような会話を終え、俺は『さっさと次に進んでくれ』とお兄さんに視線を向けた。それを上手いこと察してくれたらしく、お兄さんは頷いて。
「えっ、えーそれでは! 現在の神谷チームの得点は742点! 現在一位の生徒会クランの834点を超えるには、あと93点が必要となります!」
あと……93点か。簡単に超えられそうなものだと思いがちだが、最後は視聴者による審査だ。
この視聴者審査は、俺らの演技を見た視聴者なら誰でも端末から得点を付けることが出来る。最高は100点で最低は0点。そしてその全てを合計し、平均で出た数字が得点になるんだ。
だから当然、0点なんて付けてくる奴なんてざらにいる。さっきまで人気のあった生徒会クランですら、70点台しか取れていなかったみたいだし……この視聴者審査はあまり期待は出来ないんだ。
久之池もその辺を読んで、あんな点数を付けたのだろう…………だけど。
「シュウイチ……」
「大丈夫。きっと大丈夫だ」
やれることは全てやったんだ。だから後はみんなを信じるしかない。
……そして少しだけ待った後。お兄さんが、他のスタッフからタブレット端末を渡されて。そして口を開いたんだ。
「さぁ、それで集計結果が出たようです! 視聴者投票による得点は……」
お兄さんはタブレットをタップし、結果を見る。すると、ここからでも分かるくらいに大きく目を見開いた後。
「なっ、何と96点だっ!!!!」
「なっ──」「えっ!?」「うそ……!!」
そうやって発したんだ。点数を聞いた観客は大いに盛り上がる。そして、その勢いに負けないくらいに、お兄さんは今日一の興奮状態で。
「これを足すと……838点!! よって生徒会チームの点数を超え、堂々の一位となった……チーム神谷の優勝だぁ!!」
その宣言と同時にバァンと大量の紙吹雪が、ステージ上に舞い降りた。
「や、やった……やったぞ!! ボクらの優勝だっ、シュウイチ!!!」
透子ちゃんは感情があふれ出したのか、俺の胸に飛び込むように、強く抱き着いてきたんだ。
「あははっ! うん! 俺達は勝ったんだ!! 優勝出来たんだ!!」
そして俺は透子ちゃんを抱きしめたまま、観客に向かって手を振った。
「おめでとう、神谷ー!! お前らなら優勝できると思ったぜ!!」
「生徒会クランに勝ってくれて本当に良かった!! 最高だ!!」
「あかりんの振り付けを取り入れていた、透子氏に感動したでござる!!」
その後も多くの人が、続々と誉め言葉を投げてくれたんだ。きっとほとんどのみんなは、俺らに100点満点を付けてくれたんだろうな……本当に、感謝してもしきれないくらいだよ。
…………んで。そんな中。結果に納得していない人物が一名いたようで。
「そ……そんな、そんな私情で点数を決めていいはずが無いだろっ……!!」
「……」
その言葉が聞こえたのか、透子ちゃんは抱きしめるのを止めて、俺から離れ……久之池の方へと歩いて行ったんだ。
「え、透子ちゃん?」
「……」
そして透子ちゃんは久之池の前に立って……本当に不思議なように。それでいて全く悪気の無いような表情で、久之池にこう言い放ったのだった。
「それ、オマエが言うのか?」
「────っっ!!!!」




