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5.こうかはばつぐんだ!

 そして藤野ちゃんは暗号解読に成功したからか、かなり興奮気味に。


「じゃあこれを解いた人が音楽室に集まって、それで合格になったの!? 」


「そういうことになるね」


「なるほど、そうだったんだ! 疑問が解消してスッキリしたよ! …………だけど」


「だけど?」


「こんな難しくてヘンテコな問題、試験中に解けるワケないじゃんかぁ!」


 藤野ちゃんは芸人をも圧倒する、凄まじいキレっぷりを見せてくれた。


「うん、そう言いたくなる気持ちも分かる。でも俺達の他にも20人くらい居たし」


 俺が音楽室の扉を開いた時、ちょっと驚いたもんな。こんなに暗号を解けた奴が居たのかって。


「20人も……! いやでも、合格者が20人って考えたら、少な過ぎるんじゃ……?」


「あっいや、教師は俺たちのことを『特待生』と呼んでいたんだ。だからさっき船で帰った人でも、成績優秀者なら合格すると思うよ。『一般生』としてね」


 きちんと確認したワケではないが、多分そんな仕組みになっているだろう。流石に合格者があれだけだったら、学校として成り立たないしな。


「でも私が特待生なんて……もし試験で満点取っていた人がいても、音楽室に来ていなかったら一般生になるんでしょ? そんなの理不尽じゃないかな……?」


「いいや、全然理不尽じゃない。むしろ優しい位だと思うね」


 俺の食い気味の返答に、藤野ちゃんは疑問の表情を浮かべる。


「えっ? どうして?」


「この学校は噂通り、本当に『ゲーム』によって全てが決まるんだ。だからあの試験も『学力』なんかじゃなくて『ゲーム適性能力』を測っていたんだと思うよ」


「ゲーム適性って……? じゃあこれはどんなゲームを想定していたの?」


「それは分かんないけど……多分、脱出ゲームとかじゃないかな? そういうゲームには暗号解読とか結構出でくるし、今回の暗号も比較的分かりやすいヤツだったからさ」


「あれでも簡単な部類なんだね……」


 それで藤野ちゃんは、音楽室に行った理由や合格した理由も分かって、だいぶ落ち着きを取り戻したようだけど。


「……うーん、ホントに私が合格しちゃっても良かったのかなぁ?」


 藤野ちゃんは自分の合格、しかも『特待生』で合格したことにあまり納得がいっていないようだった。


 まぁ俺が半ば無理やり、藤野ちゃんを音楽室まで連れて来たのだから、そうやって思うのも当然なのかもしれない。


 でも。藤野ちゃんが特待生に相応しい人物だと、俺は本気で思っているんだよ。


 だからどうにか今、藤野ちゃんが抱えている不安というか罪悪感というか、その辺の何かを取り除いてやりたいんだけどな。


 そう思った俺は、藤野ちゃんにこう声を掛けるのだった。


「良いんだよ。学園側は『解いた暗号を誰かに教えてはいけない』なんて一言も言ってないしさ。俺が連れて来ようが、藤野ちゃんは合格なんだよ」


「うーん、そうなのかなぁ?」


「それにさ。藤野ちゃんが俺のハンカチを拾ってくれなかったら、俺が音楽室に連れて行くことすら出来なかったんだよ?」


「あっ、確かにそうだね!」


 藤野ちゃんはハッと気が付いたような顔をする。後もう一押しって所かな。


「まぁ今なら辞退も出来るかもだけど、オススメはしないよ。だってこんなチャンス逃すのはもったいないもん!」


「チャンス?」


「うん、こんなに面白そうな学園に入れる機会なんてそうそう無いよ! それに藤野ちゃんは『パフェを食べる』という目標を成し遂げてないじゃんか! どうするか決めるのは、その後からだっていいんだよ!」


「……!」


 そう言うと藤野ちゃんは『自分がこの学園に来た理由』をハッキリ思い出したようで。


「そっか、そうだよね! 私、合格で……ホントに合格で良いんだよね!?」


 確かめるように。俺に何度もそうやって尋ねてきたんだ。


「ああ、もちろんだよ! 君は立派な『特待生』なんだ!」


 そしたら藤野ちゃんは久しぶりに……とっても素敵な笑顔を見せてくれたんだ。


「……うんっ! 神谷君のおかげかもしれないけど、私も合格したんだ! だから……本当に、本当にありがとね! 神谷君っ!」


 ──その藤野ちゃんの眩しい微笑みは。俺のハートに大ダメージを与えるのだった。


「かわっ……かわいい……!!」


 俺は思わず握っていたフォークを落とし、ばったり椅子に倒れる。ああ。これがいわゆる『尊死』ってヤツ……か…………


「うえぇっ!? ちょっと! 神谷君!?」

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