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4.解けた! ビビってきた!

「ねぇ神谷君ってば! 一体どこに向かっているの!?」


「合格を掴みに行っているんだよ!」


「それ、答えになってないんだってばぁ!」


 藤野ちゃんは俺がどこに向かっているのか、何をしようとしているのか全く理解出来ていないみたいだけど……それでも手を離すことなく、俺の後ろを着いてきてくれた。


 そして俺達はとある階まで上り、その階の廊下を駆け巡って……その『例の場所』を見つけたんだ。


「あったあった、ここだよ」


 俺はその教室の前で足を止める。


「はぁっはぁっ……!」


 藤野ちゃんは息を切らしたのか、身体を使って大きく呼吸をしていた。何だかとってもエッ…………じゃなくて。とてもシンパイだ。ホントだよ。


「藤野ちゃん、大丈夫?」


「大丈夫じゃないよ! 急に走り出すんだもん! ……それで神谷君、ここはどこなの?」


「7階にある音楽室だよ」


「音楽室? どうしてそんな所に……?」


「そろそろ落ち着いた? じゃあ、入ろうか」


「あっ、ちょっと!?」


 俺は藤野ちゃんの制止を振り切り、音楽室の扉をガラガラっと開いた。


 ──そこには。受験生と思われる20人弱の生徒が椅子に座っていて。そして黒板の前には、俺が試験を受けた時の試験監督だった女教師が立っていた。


 それで女教師は扉の音で俺達に気が付いたようで、こっちを向く。


「ん? お前ら来るのが遅いぞ。他の生徒はとっくに集合している」


「あーすみません。ちょっとトイレ行っててですね」


「……まぁいい、お前も早くそこに座れ。その後ろの女子もか?」


 女教師は俺から藤野ちゃんに視線を移す。


「えっ? えっと、私はその……」


「あー、そうなんっすよ。ほら藤野ちゃん、こっちこっち!」


「あっ、う、うん!」


 俺は先に音楽室に入って藤野ちゃんに手招きし、後ろの方の空席に呼び寄せて、2人で並んで座った。


 さて、今から何が始まるのか……まぁ大方予想はついているんだけどね。


「……ちょ、ちょっと、神谷君!」


 藤野ちゃんは小声で俺に話しかけてきたが、俺は『静かに』のジェスチャーを返した。きっと聞きたいことは山ほどあるだろうけれど、今は黙って座っているのが最善だ。


 そしたら藤野ちゃんは不満そうな顔をしたものの、黙って前を向いた。そしてしばらく待っていると。


「よし……これで本当に全員だな?」


 女教師はそう言って、音楽室の扉の鍵を閉め、ここにいる生徒の人数を数えだした。


 そして1つ咳払いをして。


「んんっ、では改めてだ……おめでとう諸君。ここにいる23名は『特待生』として西園寺学園に合格したことを報告する」


「……ええっ!?」


「そして本日からお前達には『仮入学』の権利が与えられる。親御さんらには学園の方から説明しておくから、その辺は安心しておくといい」


「へへっ、やったね藤野ちゃん!」


 俺は横を向いて藤野ちゃんにハイタッチを求める……が。


「えっ、えっ? どどどっ、どういう……?」


 藤野ちゃんは予想以上に動揺していた。まぁ数分前までは完全に合格を諦めて泣いていたぐらいだから、驚くなって言う方が無理があるのかもしれないな。


「おい後ろの方、静かにしろ」


「あっ、すすすっ、すみません!」


「サーセン!」


「……はぁ。それじゃあまずこの学園の仕組みについての説明だが……」


 そして俺らは教師から一通り学園の説明を受け、学園専用のスマートフォンのような端末を受け取り、その場で解散となった。


 ──


「……分かんない。何が起こったのか、ホントに分からないよっ!」


「まーまー落ち着いてよ藤野ちゃん。可愛いお顔が台無しだよ?」


 ここはサイコー学園内の食堂……いや、お洒落なレストランとでも言うべきか。俺達はテーブル席に向かい合って座り、少し早めの晩御飯を楽しんでいた。


「確かに藤野ちゃんの言った通り、ここのご飯は美味しいね。ほら見て見て、俺のハンバーグの肉汁やばいよ」


「……」


 藤野ちゃんは無言で俺を見詰めてくる。おいおい、そんなに見ないでおくれよ。惚れちゃうじゃないか。


 ……冗談はさておき。俺だけがパクパク食べていても仕方ない。折角2人で食事しているんだから、藤野ちゃんも食べてくれないと。


「藤野ちゃんはジャンボパフェ食べないの? あんなに食べたがってたじゃん」


「食べたいよ! 食べたいけど、色々と分からないことが起こりすぎて、頭がパンクしそうになっているんだよ!!」


 藤野ちゃんは怒りにも似たような口調でそう言った。どうやら藤野ちゃんは未だに混乱しているらしい。


「んーそっかぁ。じゃあ藤野ちゃんは何が気になっているの?」


 俺はハンバーグをキコキコ切りながら、藤野ちゃんに尋ねる。


「沢山あるよ! まず1番に聞きたいのは……何で音楽室に行った人だけが合格したの?」


「それはそういうテストだったからだよ」


「もう! 分かるように言ってよ!」


 藤野ちゃんは子供のように両手両足を動かして、感情を表現させる。俺が最初の自己紹介の時に感じた印象とは全く違う、完全な素の自分を見せていた。


「おぉ、藤野ちゃんがかなり心を開いてくれてるみたいで、俺は嬉しいよ!」


「ひ、開いてないってば!」


 可愛い……と言うのを我慢して。俺は藤野ちゃんに分かるように、最初から説明した。


「えっとね。思い出して欲しいけれど、試験前に試験監督が『気を抜くな』って言ってた問題があるんだよ。多分どの教室でも言っていたと思うけどさ」


「えっ? 確かに言っていたような……いや、言ってなかったかも……?」


 藤野ちゃんは人差し指をほっぺたに当てて、思い出す素振りを見せる。意外とあざといぞこの子。


「いや。多分言ってる。そして気を抜くなと言っていた問題は最初と最後。数学の問1と国語の謎の文字列だ」


「謎の文字列?」


「うん。問題用紙の最後に書いてあったでしょ? 確か『ててえんうわえ゛かこたとくん』だっけ」


 そう聞くと藤野ちゃんは大きな瞳を更に見開いて、驚いたような表情を見せる。


「えっ! 見たけど……あれって何か印刷ミスか何かなんじゃなかったの?」


「俺も一瞬そう思ったけれど、それは違う。あれは国語の最後の問題だったんだ」


「問題!? あれが!?」


「うん。ただそのままじゃ怪文書にすらならない。そこでヒントになるのが、数学の最初の問題『1+1』なんだ」


 そして藤野ちゃんは「はて?」と首を傾げる。


「1+1がヒントになるってどういうこと?」


「うん今から説明するから……じゃあさ藤野ちゃん、1+1の答えって何か分かる?」


「えっ……? 『2』だよね?」


 何でそんなに自信なさげに言うのさ。


「そう。答えは『+2』なんだよ」


「えっ! 私プラスつけ忘れたよ!」


「いやそこはそんなに重要じゃない……」


 もしかしてこの子は天然属性まであるのか? ならもっと簡単に説明しないと。


「んーと、じゃあさ藤野ちゃん。平仮名の『あ』に+2したらどうなるか分かる?」


「えっ? 全然意味が分からないよ……?」


「うんうん。答えは『う』だね。なら『い』に+2すると答えはどうなるかな?」


「えっ、だから、えっ……?」


「おっ、正解! 答えは『え』になるんだ」


「…………あっ!!!」


 藤野ちゃんはビビッときたのか、大声で手を叩く。周りからの冷たい視線が気になるが、藤野ちゃんはそんなものに気づいてすらいないようだった。


「分かったみたいだね。+2って言うのは、五十音を2つ移動するってことなんだ。五十音表をイメージすれば分かりやすいかもね」


「じゃあもしかして、さっきの文字に+2していけば、文章が浮かび上がってくるってこと!?」


「ふふ、やってみたら?」


 俺は『ててえんうわえ゛かこたとくん』と書いた紙を藤野ちゃんに渡した。藤野ちゃんはそれを手に取ってゆっくりと読み上げ……


「な、な、か、い、お、ん、が、く、し、つ、に、こ、い……あっ! 『7階音楽室に来い』だ!!」


「藤野ちゃん、正解だよ!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] こういう脱出ゲーム的な要素があると面白いですね。
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