48.いわくつきの物件?
──
「い、家田さん……まだ着かないんっすか?」
「ええ。あともう少しですよ。何せ寮エリアの端っこの方にあるので、多少時間はかかりますが……その分、とても立派なお家になっていますからねー」
「あっ、そうっすか……」
……はい。それから俺は早速、そのクランハウスになりそうなお家の内見に向かっていた……のだが。その遠さに俺は、ヒイヒイと弱音を吐いていた。だってかれこれ一時間は歩いているんだぜ。これもう、ちょっとしたウオーキングだよ。
……何かもう既にこの時点で、クランハウスの候補から外れてしまいそうだけれども。もしもここに決めるのなら、自転車とかの乗り物は必須かもしれないな……
「到着しましたよ神谷様。こちらです」
「あっ、はい……」
考え事をしていた頭を上げ、家田さんの手を向けた方を見てみると──そこには。
「って、えっ……ええーっ!?」
ギャグマンガのような反応をしてしまうくらい、西洋風の二階建ての立派なお家が建っていたんだ。そのベージュに塗られた家は、周囲にある建物で一際異彩を放っていて……この前を通れば、誰しもが目を奪われるような。そんな感覚を覚えたんだ。
そして窓は丸くて縦に長い、高級そうなやつが何個も並んでいて。二階にはベランダというか……バルコニーらしい場所もあって。更にそこから視線を上に向けると、幾つもの尖った屋根や、煙突らしきものまで見えたのだった。
そう……例えるのならまるで本の世界から飛び出してきたような、小さなお城のような。そんなメルヘンチックなお家だったんだ。
もしかしてこれ、真白ちゃんが見たらとっても喜ぶんじゃないかな……って。いやいや、もう少し冷静になってくれ神谷!
「ちょっと、家田さん!! 本当にここなんっすか!? 売家なんすか!?」
「はい、こちらで間違いありません。そしてこちらは、超絶格安で住めます」
「い、いや、どういうことなの……?」
もう俺は『凄い』とかの次元を通り越して、『何で?』の疑いのレベルにまで来ちゃってるよ。
「まぁまぁ神谷様、とりあえず中もご覧になってください」
「あ、はい……」
そして家田さんに言われるがまま、芝の生えた庭を進んで、家田さんの後ろを追いかけて行くのだった。
──
「な……なんだこれは……!?」
家に入ってからも、俺はこの家に驚かされていた。
なぜならこの一番広い場所……リビングというか共同スペースというか、その場所には家具が置かれていたからだ。
例を挙げるのなら……高級そうなソファーや椅子があちらこちらに何脚も置かれて、その中心にはテーブル。天井にはシャンデリアが吊るされていて。
そして壁には、木の本棚に入ったままの本に、よく分からない感じの絵画が並べられて。奥の壁では、ホワイトボードが埋め込まれていた。
よくよく見れば、どの家具も全部埃かぶってはいたが……明らかに、少し前までは人が住んでいた形跡があったんだ。
「ちょ、ちょっと家田さん!? これってどういうことすっか!?」
「これは前の住人が置いていった物ですねー。これらは、ご自由にお使いいただいても結構ですよ?」
「いやいや! ご自由にどうぞっておかしいっすよ! 埃まみれだけど、これ全部まだ使えそうだし! これ! 一体何があったんですか!?」
そしたら家田さんは顔を伏せ「……聞きたいですか?」と一言。
「……えっ?」
や、やはりいわくつきの物件だったのか? 正直、外観や内装を見て、かなり心は惹かれかけてはいたんだが……事故物件と言われちゃ、住む気はなくなるよ。
ほら、クランハウスはみんなで住む場所だから、怖いことがあったらいけないでしょ? それにメンバーは女の子も多いんだから、俺は一層そういうことに気をつけなきゃいけないんだよ……
……いや別に、俺が怖いからとかそんなんじゃないからな!! ほんとだぞ!?
「神谷様? どうされます?」
「あっ、はい。じゃあ聞かせてください」
もうクランハウスの候補から外れかけているし、せっかくだから土産話の一つでも作っていこうと考えた俺は、家田さんにそう言ったんだ。
「承知いたしました。では、お話させていただきますね」
そしてそれを聞いた家田さんは一礼し、何かのナレーションでもしているかのように、淡々と語っていくのだった──




