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43.遂にクランの結成だ!

 そしてここに残ったのは、俺と透子ちゃんと蓮だった。


 蓮は依然として、絶望に浸ったような顔をしているが……透子ちゃんはというと。


「んん……はぁ……」


 さっきからチラチラと俺の方を見て、何かを気にしている素振りを見せていた。


「どうかしたの、透子ちゃん?」


 俺がそう聞くと、透子ちゃんはタイミングを見計らっていたかのように、大きめの声を出して。


「ああーもう! マシロも結奈も行くのなら、ボクも行くしかないじゃんかっ!」


「……透子ちゃん、別に無理しなくてもいいんだよ?」


「してないっ!! というかどうしてボクだけそんなに冷めてるんだ! もっと『君がいないと俺はダメなんだ……』とか、そういう下りはないのかっ!?」


 ああ。意外と透子ちゃんもそういうの求めてたんだね。気付いてやれなくてごめんよ……


 ……でもさ。そういうことを透子ちゃんに言ったら言ったで、きっと照れちゃって、俺にナイフぶん投げてくるでしょ。俺はそこまで読めているんだよ。


「でも透子ちゃんが最初に俺の誘いを断ったんだし……第一、透子ちゃんは争いに巻き込まれたくないんでしょ? 俺のクランに入るのなら、きっと色んなクランとの戦いは避けられないよ」


「うっ、それは……そうだけど。きゅ、急に気が変わったんだ! いいだろっ! それにボクは友達が少ないから、結奈がどっか行っちゃったら……寂しいんだよ」


 透子ちゃんは悲しげな目をして言う。きっと透子ちゃんは、俺のクランに入るのは嫌なんだろうけど……藤野ちゃんと離れる方が、もっと嫌って思っちゃったんだろうな。


「うん、そっか。それなら透子ちゃんも俺のクランに歓迎するよ! 実は俺、君の持つポテンシャルが一番高いと踏んでいるんだよ!」


「ポテン……? ああ、そうだろ! ボクはサイキョーなんだから!」


 そしたら透子ちゃんは元気を取り戻したのか、笑顔で自分の胸をポンと……いやペタッと叩いて見せたんだ。


「それで、そんな最強な透子ちゃんにお願いがあるんだけどさ……みんなの飲み物をドリンクバーで汲んできてくれないかな?」


「ええっ、どうしてボクが?」


「俺は今から蓮の説得をしなくちゃならないからさ……どうか頼むよ、透子ちゃん!」


 俺は両手を叩いてお願いする。そしたら上機嫌になったのが功を奏したのか。


「もー全く、シュウイチは仕方ないヤツだな!」


 そう言ってドリンクバーの方へと駆けていくのだった。


「透子ちゃん、走っちゃだめだよ……って、あはは。聞いてないや」


 笑いながら俺は、隣に座っている蓮の方を向いた。


「フン……それで残ったのは僕だけ、と。前にもこんな流れあったな」


「ああ、あったね。いっつもいっつも、蓮が最後まで残るなんて……そ、そんなに俺が信じられないのかよっ、ううっ……!」


「ウソ泣きやめろ。僕は誰よりも現実を見て、冷静な判断を下しているだけだ……僕は今だって、お前が生徒会長に勝てるなんて、これっぽっちも思っていない」


 蓮は冷たくそう言い放つ。もー。ホントに俺が泣いてたらどうするつもりだったのさ……今回はウソ泣きだったけども。


「んー、そっか。でもみんなは俺のことを信じてくれたよ」


「……」


「じゃあ蓮はさ。俺を信じてくれた藤野ちゃん達のことをどう思って見てたのさ?」


「随分と性格悪いなお前……お望みなら言ってやるけど」


「ああ、今は二人だけなんだ。蓮の本音を聞かせてくれよ」


 そしたら蓮は一瞬ためらったものの……意を決したのか、口を開いたんだ。


「……先のことを全く考えられない、大馬鹿共だと思って見てたさ。アイツらは最強と謡われている生徒会クランと戦うってことを、本当に理解しているのか?」


「完全に理解している……とは、言えないかもね」


 正直、藤野ちゃん達が蓮と同じくらい先を見通す力があったのなら……さっきの返答も変わっていたのかもしれないのは事実である。もちろんそれでも変わらない可能性だってあるけれども。


「……だけどな。同時に羨ましくも思えたんだ。僕にはあれだけ信頼できるような人物に出会ったことがない。だから……お前を信じたアイツらのように、何も考えず脳死でついていけたら……どれだけ楽に生きられるだろうよ」


 続けて蓮は小さく。そして心底羨ましそうにそう言ったんだ。


「そっか。蓮は警戒心が強いのは知っていたけど……何か人を信じることに対してトラウマでもあるの?」


「よくンなこと聞けるなお前……デリカシーってもんはねぇのかよ?」


「はは。こんな失礼なこと、蓮くらいにしか聞けないよ」


「自覚があんのが、より一層腹立つな……」


 そんなことを言いながらも、蓮は顔を上げて。まるで独り言を言うかのように……ポツリポツリと語るのだった。


「……昔、親父がな。友人に騙されて借金掴まされたんだ。桁四つのな」


「……千円!?」


「万単位だバカ……そっからまぁまぁ裕福だった僕の暮らしは一変して、地獄みたいな生活と化したんだよ……そしてずっと僕は親父を恨んだ。『お前が信じなかったら、こんなことにはならなかった』ってな。お前なんかに同情なんてされたくないから、これ以上は言わねぇけど」


「別に強がらなくてもいいのに」


「……もちろんこの学園だって、特待生になれてなきゃキッパリ諦めてただろうよ……でも僕は成し遂げた。だがそれで終わりじゃない。僕はこの学園を無事に卒業して、金を持って、成功者になるまでは……絶対に家には帰れねぇんだ」


 そして蓮は唇を嚙み締めた。きっと色んな想いが、頭に巡っているのだろう。


「そっか。蓮はすんごい重たい物を背負ってたんだね。道理で慎重派だった訳だよ」


「だから同情はナシだって言っただろ、気色悪い」


「分かったよ。それで……蓮はどうするの? 俺んとこに来てくれるの?」


 そしたら蓮は呆れたように。


「まだンなことが言えるのかよ……お前んところ入ったら、学園生活がハードモードに変わるのは目に見えてるじゃねえか。僕は絶対に帰れないって言ってるだろ?」


「うん。それを分かった上で俺は聞いているんだよ」


 すると蓮は乾いた笑いを上げて。


「ははっ……じゃあお前があいつに聞いたのと、同じことを聞いてみるが……僕がお前のクランに入るメリットは、一体何なんだ?」


「そんなの決まってるじゃん。それは……楽しいからだよ!」


「…………は?」


 蓮は口を開けて固まってしまう……だがそんなのお構いなしに俺は続けて。


「俺はアイツみたいに、ポイントも家も成績も上げられないけれど……俺らのクランは、どのクランよりも楽しいものになるって確信しているんだ! それに可愛い女の子達だっているし! こんなのサイコーの、楽園以外の何物でもないだろっ!?」


「……」


 蓮は圧倒されたのか、しばらく何も言わなかった。


 そして何秒か後に、また力なく笑って。


「ははっ……ホントお前って。神谷ってバカなんだな」


「なんだー! さっきからバカバカうっさいぞ!」


「だが……そんなバカさが僕には足りていなかったのかもしれない。神谷、奴らに……生徒会クランに。本当に勝てるんだよな?」


 蓮は最後に確認するように俺に問う。


「ああ、もちろんだよ……って言いたいとこだけど、やっぱりやーめた!」


「……あ?」


「『蓮が完全に俺を信じてくれたら勝てる』って言い換えてみることにするよ!」


「……はぁ。軽々しく信じるなんて、よく言えるもんだなぁ」


 そう言いつつ、蓮はやれやれと呆れたように……でもさっきとは違って、俺には見せないように微笑んで。


「わーったよ。信じる。お前を信じたら、絶対に勝てるんだよな?」


「ああ! 当然だ! 生徒会だろうが何だろうが、俺らは絶対に負けないさ!」


「言ったな? 僕は忘れないぞ」


「ああ、ずっと覚えててよ!」


 ……と、そういったところで、正面から二人の姿が見えてきて。


「おーい、王子様! 藤野さんを連れ戻してきましたよー」


「ご、ごめんね神谷君、私はもう落ち着いたから!」


 そして同時に横からは、いっぺんに全員分のドリンクを運ぼうとした透子ちゃんが来て……


「うわっ、シュウイチ、こぼれそう! 早く持って持って!」


「おう、任せろ!」


 俺は席を立って、透子ちゃんからドリンクを受け取った。そしてそれをテーブルの上にドンと置いて。


「よーし、みんな座ってドリンクを持ってくれ! クラン結成の誓いを立てるぞ!」


 俺のその言葉で全員は流れを察したのか、笑顔を見せて飲み物を手に取った。そしてそのグラスを高く掲げて……


「今日から神谷の……いや、俺達のクランの結成に……乾杯だーっ!!!」


「「「かんぱーい!」」」「……」


 カチャンガチャンと勢い良くグラスのぶつかる音がした。おかげで中のジュースはほとんどこぼれてしまったけれど……俺達らしいファンファーレだし、よしとしよう。


 俺はそんなことを思いながら……わずかに残ったメロンソーダを、一気にグビリと飲み干すのだった。




 第三章完

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