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42.俺の手を取ってくれ!

 ──


 そして放課後、俺達はいつものファミレス席に集まっていた。


「はーい。それじゃあ今から、緊急会議を開きますけれども……」


「……」


「どうしてみんな、死んだような顔してるのさ?」


 俺以外のみんなは一様に顔を下げ、険しい表情をしながら固く口を閉ざしていた。これがいわゆるお通夜ムードってやつだろうか。


 そして俺の隣に座った蓮は、プルプルと震えた手でお手拭きを握りしめて。


「どうしたもこうしたもあるか……お前、生徒会長どころか生徒会クランにまで目を付けられて。無事に生きて帰れるワケがねぇんだよ……!」


 頭を抱え、ぐるぐると回した目で、弱々しく呟いた。ここまで弱気な蓮を見るのは初めてかもしれない……というかお前、若干キャラ崩壊してないか。大丈夫か。


「おい、蓮! 元気出してくれよ! ほら、みんなも元気づけてやってくれ……」


「……シュウイチ。今までありがとナ。オマエの骨はちゃんと拾ってやるから」


「いやいや、ちょっと! 待ってくれよみんな! もう負けた気でいるのかよ! 俺達も奴らに負けないくらいの大きなクランを作ってさ、アイツらをぎゃふんと言わせてやろうぜ!」


 みんなを鼓舞させるように、俺は大声で言う……ただ。返ってきたのは、力ない蓮の言葉だけだった。


「いい加減現実を見てくれ、神谷。相手は全生徒の中から選ばれた、30人の精鋭クランだ。相手が本気を出せば、いつでも僕らなんて潰せる……そんな奴らに勝てるわけがねぇんだよ……」


「でも! そんなの、やってみなきゃわからないだろ!」


「……そ、それに、シュウイチはただ断るだけでよかったのに、わざわざ相手に喧嘩を売ったんだ! 勝手にその争いにボクらを巻き込むのは、おかしいんじゃないのかっ!?」


「……!」


 俺は……その言葉に何も言い返せなかった。


 確かに透子ちゃんの言う通りだ。こうなってしまった全ての責任は、この俺にある。


 俺は勝手に、みんなも手を貸してくれるものだと思い込んでいたけれど……そんなの、虫が良すぎるもんな。


 本来これは、俺が一人で処理しなければならない話であって……みんなを巻き込んでいい理由なんて、これっぽっちもないんだ。


「……ごめん。俺、スゲーわがままなこと言ってたね。謝るよ」


 俺はみんなに頭を下げる……そして。


「でも。俺はクランを設立して、本気で奴らに勝とうとしているんだ。本当は俺が作ろうとしているクランに、みんな入ってほしいけれど……あんな正論を言われちゃ、無理強いは出来ない」


「……」


「だから。俺を信じてくれる人だけ……俺のクランに入って欲しいんだ。そして入ってくれた以上、俺が責任を持って最後まで守ってみせると誓うよ……だから。どうかお願いだ。俺に力を貸してくれないか!」


 そして俺は真正面に向かって、ピンと手を伸ばした。誰か。俺の手を握ってくれることを、ただひたすら信じて────


「……んっ!」


 最初に俺の手に触れたのは……真白ちゃんだった。彼女は温かい小さな手で、俺の手を優しく握りしめて。


「私はどこへだって、王子様についていきますよ! そして王子様が戦うのなら……私だって戦場で剣を振るいます! だって……ずっと守られてばかりのお姫様も、退屈ですもん!」


「ははっ、ありがとう真白ちゃん! 君がいるだけで、とっても心強いよ!」


 俺はもう片方の手を伸ばして、真白ちゃんの頭をナデナデしてあげた。そしたら真白ちゃんはとっても嬉しそうに微笑んで。


「えへへっ……王子様からこんなご褒美貰っちゃいましたよ。私、とってもとっても幸せですっ……!」


「……こいつペットか?」「ホントにマシロは安い女だな……」


 そんな大不評の二人を尻目に。藤野ちゃんは俺の方を向いて。今まで固く閉ざしていた口を開いたんだ。


「……わっ、私も入れてほしいの! 神谷君!」


「ええっ、結奈!? 嘘でしょ!?」


 透子ちゃんは驚き、藤野ちゃんを引き留めようとするが……彼女は目もくれずに。ポツリと語るのだった。


「……私はね、みんなと違って秀でた特技も持っていないし、特別強いわけでもないし。どっちかというと弱い方の部類だし。こんな変な学園、とても一人じゃ生きていけないってのは、とっくに気が付いていたんだ」


「……」


 途中、口を挟みたい箇所があったけど……俺は最後まで黙って聞くことにした。


「でもね、そんな弱い私を。何の役にも立たない私を、神谷君は見捨てることなく……ずーっと気にかけてくれてね。それが何だかとっても嬉しくて。いつの間にか神谷君は……私が一番信頼できる人になっていたんだ」


「藤野ちゃん……」


「そんな彼が困っているのなら、私は助けたいの。私に何が出来るか、役に立つかなんて全く分からないけれど。それでもいいのなら……私を仲間に入れてほしいの!」


 そう言って藤野ちゃんは、俺の手にポンと触れたのだった。


「ああ、もちろんだよ! 藤野ちゃんが来てくれるのなら、俺は大歓迎だよ!」


「ありがとね、神谷君! 私……あの時。神谷君が大切な仲間がいるって、裏切れないって言ってくれたの、とっても嬉しかったんだよ?」


「そりゃあ、藤野ちゃん達を裏切るような真似は出来ないもんね! ……あっ。そうだ。さっき気になっていたんだけど……藤野ちゃん、自分を卑下するような言葉は、あんまり言わないようにしようね?」


「えっ……それはどうして──」


「だって藤野ちゃんにだって、素敵なところは沢山あるもん。もし分からないのなら、俺が何百個だろうと、何千個だろうと挙げてみようか?」


「──!!」


 すると藤野ちゃんは、度肝を抜かされたかのように目を開いた……かと思えば、他の人に見られまいと、すぐに袖で顔を隠した。そして勢いよく立ち上がって。


「え、えっと、わ、私! お手洗いに行ってくるね!」


 逃げ出すように、その場から離れて行ったんだ。


「ありゃりゃ、どうしたんだろう?」


「なかなか王子様も罪な人ですね……私が様子を見に行ってあげましょうか?」


「あっ、じゃあお願いするよ」


 そして真白ちゃんも立ち上がり、チラッとだけ俺の方を見て。


「……でも私だって、王子様の素敵なところは何万個も言えますけどね」


 俺にだけ聞こえる声量でそう言って、真白ちゃんは藤野ちゃんの後を追うのだった……


「……な、何の勝負だ?」

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