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41.やっぱガチャは悪い文明

「それで……その生徒会長さんが、わざわざ俺に何の用っすか?」


 俺は素っ気なさそうに、久之池と名乗った男へと問いかける。すると久之池は小さく口を開いて、乾いた笑いを見せた。


「ハハッ。随分と警戒してるようだな。まぁ神谷……いや天才ゲーマーの「Kamiya」なら当然の反応か」


「……」


 どうもこの生徒会長さんは既に、俺の正体がKamiyaであることに気が付いているらしい。いずれ誰かにはバレることだろうとは思ってはいたが……こんなぽっと出の奴に言われちゃ、俺のテンションもだだ下がりってもんだ。


「……早く要件を言ってれないっすか? こっちは久々のイチャイチャタイムで、時間が惜しいんっすよ」


「ハハ、それは悪かったな。なら用件だけ簡潔に言おう」


 そして久之池は端末を開いて、俺が書いた本を見せてくる。そして。


「お前の本、全部読ませてもらった。学園の情報やバイトについては、多少情報が粗い部分もあったが……初心者狩りのことやゲームそのものについては、申し分ない程の情報が書かれてあった。とても驚いたよ」


「そりゃどうも」


「ああ。オレも初心者狩りは許せないタチなんでな。それで折り入ってお前に提案があるんだが……お前、ウチのクランに入団してみないか?」


 するとそれを聞いた周囲の連中が、大きくどよめきだした。多分、久之池はとんでもないことを口走っているんだろうけど……クランってなんだ。そんな制度、この学園にあったのか? いや、でも本を書いてる時に何かで見たような……


「お前の知識、そしてゲームの腕を気に入ってな。まぁ……所謂スカウトってやつだ。自分で言うのもなんだが、オレらのクランはめったにこんなことしないから、レア中のレアなんだぜ?」


「いや、ちょっと待ってくれ。クランって何だよ?」


 俺がそう聞くと、久之池はポカンと口を開いて。


「まさか知らないのか? 新入生は皆、最初の授業で説明されるはずなんだが……」


「ああ……その日はサボってたもんでさ」


「……まぁいい。オレが教えてやろう」


 そして久之池は俺に背を向け、電子黒板に簡単な図形を書いて分かりやすく説明してくれた。


「クランってのは、他の学校で言う部活みたいなもんで……最大三十人までのグループが組めて、好きな時に一緒にゲームをプレイできるんだ。そのメンバーで大会にだって出られるし、『クラン対抗戦』というクラン同士で勝負することだってあるんだ」


 ああ、なるほどな。オンラインゲームでよくある『クラン』と、さほど仕組みは変わらないのだろうな。それで気になるのは……


「俺がそこに入るメリットは?」


 聞くと久之池はまた笑みを浮かべて。


「ふっ。ランキングには『クランランキング』というものも存在してな。クランメンバーの稼いだポイントを合計して算出するんだが……オレがリーダーを務めている『生徒会クラン』は三年連続、年間ランキング1位を記録している」


「ふーん……」


 要するにこいつは、この学園の絶対王者ってことになるのか。そんな奴らに誘われてるってのは、まぁ結構自慢できそうなもんだが。


「そして1位になれば、凄まじい程のボーナスポイントが支給されるんだ……個人ランキングで貰えるポイントとは、桁違いのな」


「……」


 あんまり予想は出来ないが……どうせこの学園のことだ。ウン百……いや、ウン千万ポイントはくだらないだろうな。


「それにランキングが上位のクランに所属していると、様々な特典だって受けられる。レストラン等でかかる食費が減り、必要な出席日数も圧倒的に減り、タダでタワマンにだって住むことが出来る……どうだ? とんでもないメリットだろ?」


 久之池は自慢げに言う。確かに魅力的な要素はてんこ盛りだが……何か。どこかそいつの言い方が気に入らなかったんだ。


「……ひとつ。聞きたいことがある」


「なんだ?」


「どうせアンタんとこのクランは大所帯で、既に最大の人数がいるんだろ? 仮に俺が入ったとして……出ていく奴もいるだろ。そいつはどうなるんだ?」


 そしたら久之池は「どうしてそんなことを聞くのか」とでも言いたげな顔をして、不思議そうに答えた。


「まぁ、それは出て行ってもらうことになるだろうな……だがな、それは仕方のないことなんだよ。オレらのクランは成果主義で、メンバーの入れ替えも激しい。だからメンバーの皆は、緊張感を持って過ごしてもらっているんだ」


 それを聞いて……俺は限りなく低い数字からカチッと、完全な0パーセントへと変わっていった。何がって、そりゃあ……


「断る。俺はそんな堅苦しいのは嫌いなんだ」


 このクランに入る確率がだ。


「……それならば君だけノルマは課さないことにしよう。それならば──」


「そういうのが気に入らないってんだ。そもそも俺は、誰かの下で動くのが嫌いなんだよ。俺を入れたきゃ、リーダーの座を渡すとこからじゃないのか?」


 俺は久之池に向かって挑発を見せる。すると久之池はあからさまな態度は見せなかったものの、少しイラついてるのは雰囲気から見てとれたんだ。


「ははっ、中々図太いね。そもそも一年生の内からこんなクランに入れることが、これ以上ない程の幸運だというのに」


「ビッグマウスなのはお互い様だろ。俺にはそのクランが全く魅力的に見えない……それにな。俺にだって大切な仲間がいるんだ。仲間を裏切って、一人で変なクランに行くなんてマネは……絶対に出来ねぇんだよ」


「……ああ、そうかい、それは残念だ。それなら君自身が、クランを発足するつもりなのかい?」


「……まぁ。そういうことになるな」


 そんなの全く考えてなかったけれど。


 そして久之池は人差し指を立てて、続けて言う。


「それなら君にひとつだけ警告しておくけど。一年生がノリで作ったクランは、99パーセント失敗する。そういうクランをオレは何個も見てきたんだ」


「ご忠告どうも。だけどな、俺からすれば1パーセントって結構高い数値なんだぜ? 狙ったSSRを引き当てる確率なんて、1パーよりも断然に低いからね」


「ハッ、やはりガチャは悪い文明のようだね。冷静な判断を下すことが出来なくなってるよ……今の君みたいにね?」


「もしかしてバカにしてる?」


「いいや。ただ……99パーセント失敗するってのは、オレらが何もしなかった場合の確立だ。オレらが直接手を下すとなると……それは100パーセントへと変わる」


「ふーん、そうっすか。じゃあ楽しみにしてますね?」


「…………後悔するなよ、神谷」


 久之池はそうやって吐き捨て、教室から去って行った。


 そして教室には、重い空気だけが残った。


「お、おい、神谷……お前……」


 蓮が血の気が引いたような顔をして、俺に話しかけてくる。そんな蓮に……いや、みんなに向かって俺はケロッと。こう言うのだった。






「あはは。俺、やべぇ奴に喧嘩売っちゃったかもしれねぇわ」

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