39.藤野ちゃんは嫉妬中?
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それから俺は一週間くらい本を書き続けた。慣れない執筆作業に何度も心がくじけそうになったけれど……その度に俺は真白ちゃん達に連絡して、天使の声を自分の身体に染み込ませ、やる気を奮い立たせたんだ。
それでその甲斐あってか、何とか俺は本を書き上げることに成功したのだ。やはり持つべきものは美少女のお友達だね……にへへ。
そしてその後、藤野ちゃんとも撮影スタジオに行って、宣材写真の撮影もしたんだ。
まぁ俺には写真を撮る力なんて無いので、ちゃんとポイントを支払ってプロのカメラマンさんに撮ってもらったぞ。つまり俺は、ただの藤野ちゃんの付添人である……いや、マネージャーと呼ぶべきだろうか?
で、その撮影中、藤野ちゃんは恥ずかしそうだったけど、カメラマンさんの話術で次第に緊張をほぐしていって……最終的にはノリノリで撮影していたぞ。本当にカメラマンさんって、喋りも上手くて凄いよな。弟子にしてほしい。ナンパ術とか教えてくれないかな……
……あっ。それで結局、藤野ちゃんの衣装は特別買うことなく、ベレー帽に制服とスカートのいつものスタイルで撮影したよ。ホントはコスプレとかしてほしかったけれど……元々藤野ちゃんは可愛いから、これでも充分に良さが伝わるからいいかなって、俺は思ったんだ。うん。
そしてその後も俺は休むことなく、蓮たちに作戦を報告し、宣伝ポスターの許可を取り、貼り出して、正式に本も出版したんだ。
それで俺の本『全くゲームをプレイせずに、総合ランキング1位を取る方法教えます! ~これであなたも億万長者~』は、宣伝の効果や俺のランキング効果もあってか、そこそこの売り上げを記録することが出来たんだ。
もちろん宣伝とかにかかった費用の元は、まだまだ取れてはいないのだが……入学したばかりの一年生の出した本にしては、異例の売り上げだった。
まぁ、このまま地道に売れていけばいいな、なんて呑気に思っていたのだが……数日後、とある出来事により爆発的な売り上げを記録することになるなんて。この時の俺は知る由もなかったのだ。
──
数日後。
「……んん、ふぁあー」
大きな欠伸をしながら俺は、久々の一年一組の教室に向かう。どうして久々なのかというと……俺は一週間ほとんど寝ずに執筆に取り掛かっていたのもんだから、本を書き終えた後に体調を崩して、しばらく寝込んでしまっていたのだ。
そんなわけで学校を休まざるを得なかったのだよ……だから今回はサボりじゃないんだぞ! マジで!
で。そんな弱った状態でも俺は『もしかしてこれ……お見舞いイベントが発動するんじゃないか!?』とか、密かに期待していたんだけど。当然男子寮は女子立ち入り禁止なので、それは叶うことなく……くそおっ! どうして寂しく一人で過ごさなきゃいけないんだよ!!
それに蓮も外出してて、まともに看病してくれなかったので、大半の時間は一人で横になってて……なんか思い出すだけで泣きそうになってきたぞ。グスン。
……でも、それも今日で終わりだ。早く教室に行って、藤野ちゃん達に会おう。そしてギューってしてもらって、直接元気を貰おう。そうしよう。
そんなことを思いつつ俺は、教室の扉をガララッと開いた。
「あれっ、もしかして神谷?」
そしたら扉近くに座っていた男子生徒が、俺に話しかけてきたんだ。
「そ、そうだけど?」
……ま、まずいぞ。俺はこいつの名前を知らない……そもそも何で話しかけてきたんだ? はたして俺は何かしたんだろうか……と若干焦りを見せていると。
「オレ、お前の本買ったぜ! めっちゃ参考になった!」
男子生徒はそう言いながら、端末で俺の本を表示させたんだ。ま、まさかっ! これが俗に言われる……購入報告というやつじゃないか!?
「えっ、ホント!? 買ってくれたの!?」
「ああ! お前の本のおかげでランク上がったぜ!」
「ああーそっか! おめでとう!」
……いやぁ。こうやって直接お礼言われると、すんごい嬉しいなぁ。書いた甲斐があったもんだよ……今のはダジャレじゃないぞ。
そんな感じでしばらく男子生徒と談笑していると。クラスの女子も俺の存在に気が付いたみたいで。
「あっ、あたしも神谷君の本買ったよー! バイト情報たくさんあって、チョー便利だったー!」
「ウチも買った! でも、もっとバイトの種類を増やしてほしいな!」
女子たちは本の感想を言いながら、俺を囲むようにやって来たのだ……おいおいおい、これまさか本当に俺のモテキが来たんじゃないか!? ハーレム形成できるんじゃないのか!?
「わ、分かった。考えておくよ」
「やったー!」
「神谷くん、サイコーだね!」
「え、えへへ……」
……いやいや、デレるな! 落ち着くんだ神谷! 俺には藤野ちゃんと透子ちゃんと真白ちゃんと朱里ちゃんがいるじゃないか! これ以上好きな子を作ってしまったら、本当に俺の身が持たなくなちゃうぞ!!
「えっと、ホントにみんなありがとね!」
俺はお礼を言いながら、少女をかき分け、自分の席に向かって行く……その道中でも、名前の知らない生徒に話しかけられたんだ。
「神谷くん、本に誤字があったよ」
「そ、それはメールで送っといてほしいな!」
「神谷、情報に間違いがあったぞ」
「それもメールで!」
…………ふぅ。
まさか自分の席にたどり着くまで、ここまで話しかけられるとはな……本の効果は絶大だな。そしてクラスの雰囲気も落ち着いているし。これで俺らに向いていたヘイトもかなり減ったし。相当動きやすい環境が作れたな。いやぁ、よかったよかった……
いや……にしても。
「売れすぎじゃね……?」
何だか不気味なくらいに売れている。もちろん売れたのは嬉しいし、今の俺が書ける内容ほとんど全てを注いで宣伝もしたので、当然といえば当然かもしれないが……何か謎の力が働いているような、そんな気がしなくもない……
「……か、神谷君」
「へっ?」
突然の聞きなれた声に、俺は顔を上げる……そこには。
「神谷君は可愛い女の子なら……誰でもいいの?」
「……え、えっ?」
少し頬を膨らませた藤野ちゃんが、俺の机の前に立っていたのだ。
 




