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37.ケツイがみなぎった

 ──


 ……そして俺達はパフェを片手に、本の執筆作業に取り掛かっていた。


「それで神谷君、本の内容はどんなのにするの? いくら売れるからと言っても、中身が適当だったら、神谷君の評判はガタ落ちするんじゃない?」


 流石藤野ちゃん、本を出した先のことまで考えてくれてるみたいだ。


「ああ、それは大丈夫だよ。中身もしっかり書くからさ」


「でも……神谷君がやった方法は、誰も参考にならないんじゃないの?」


 確かに藤野ちゃんが言った通り俺が1位になった方法は、他の人からすれば全く参考にならないだろう。友達のポイントをかき集めて、その合計で上位を目指すなんて……頭で思いついても、絶対に実行できないもんな。


 だから。


「俺が1位になった方法はチャチャっと数行で書いてさ、その後は別のことを色々と書いていこうと思っているんだ」


「えっ、そんなことしていいの?」


「いいさ。最終的に読者が満足してくれたら……読んでよかったって思えたら、それは成功になるんだよ」


 とりあえず手に取って読んでもらうことが大事だから、あんな釣りみたいなタイトルになるのは致し方無いのだ。許してくれ。


「でもみんなが納得する内容なんて、神谷君に書けるのかな……?」


 藤野ちゃんは疑いの目を俺に向けてくる。蓮ほどではないけれど、結構藤野ちゃんも現実的な考えをしてるよな……まぁ、別にそれは嫌いじゃないけどね。


「んー。それじゃあ、また藤野ちゃんに質問をしてみようか。藤野ちゃんが一か月バイトをやってさ。不思議に思ったこととか、気が付いたことって何かあった?」


「えっ?」


「何でもいいからさ」


 確か藤野ちゃんは、カフェかなんかでバイトしていたはずだ。俺が真白ちゃんの病室に籠っていた時、バイトの様子を写真付きで送ってくれたんだよな……もちろんそんなことをしてくれたのは、藤野ちゃんただ一人だけだったけど。


 それで藤野ちゃんは、どうにかひねり出すように、頭を傾けて。


「うーんとね……あっ! 午前中は暇な時間が多かったよ!」


「そりゃ、みんなは授業中だからね」


「あれ、そっか。でも一緒に働いていた先輩もいたような……?」


「おっ、それそれ」


 俺は人差し指で机をポンポンと叩く。


「えっ?」


「先輩がどんな顔で働いていたか覚えている?」


「ええっ? どんな顔って……?」


 藤野ちゃんは困惑気味の表情を見せる。どうも質問の意図がよく分かってなさそうだったので、俺は話を進めることにした。


「これは俺の予想だけど……楽しんでやっているようには見えなかったはずだよ。本来出席するべき授業までサボって、バイトをしているんだ。彼なのか彼女なのかは知らないけれど、きっとその人は相当ポイントに困っているはずだよ」


「うーん、確かにそうだったかも……? いや、でもでも神谷君。授業に出でもポイントって貰えるんじゃ……?」


 思い出したように藤野ちゃんはそう言う。


「前も言ったかもしれないけれど、授業で得られるポイントって少ないんだ。明らかに学園側は、授業で得られるポイントとゲームで稼いだポイントを合わせて生活することを想定しているんだよ」


「えっ、じゃあゲームに勝てない人はどうすればいいの?」


「まぁ、バイトで稼ぐしかないね。バイトはゲームに勝てない生徒に向けた、学園が用意した救済処置だ。実際これだけで生活している人も多いし……これから一年生の中からそんな人が増えるのも、避けられない未来だ」


「……」


 藤野ちゃんは何も言わずに頷いた。


「そんな人らが欲している情報は、やはりバイト情報だろうね。俺は一通り内職は体験したから、採用されるコツとかは教えられるし……店で働くようなバイトは、藤野ちゃんとか実際に働いてる人から話を聞けば、きっと書けるはずだ」


「いわゆるバイト誌みたいなのを書くの?」


「うん、そうそう」


「それは良い考えだと思うけど……そんな需要がありそうなもの、既に他の人が出しているんじゃないの?」


「いや、探したんだけど、全然無いんだよね」


「えっ、どうして?」


 俺もそれが不思議に思ったから、色々と調べたんだよ。そしたらまぁ……なんとも嫌な真実にたどり着いてしまってね。


「これが原因なのかは分からないけど……この学園では本当にポイントがピンチになった時に、少しだけバイトするのが普通らしくてさ。ゲームをせず、ずっとバイトだけで生きている人を『ゲームで勝てない敗北者」ってレッテルを貼って、見下すような風潮があるんだよ」


 それを聞いた藤野ちゃんは目を見開いて、驚きの声を上げるのだった。


「なっ、何それ!! そんなの絶対おかしいよ!」


「うん。俺もそう思ってる。絶対にこんな風潮は、今すぐにでも無くなった方がいい」


 そして藤野ちゃんは思い出したようにバッと、顔を上げて。


「……あっ! 時々バイト先に厄介なお客さんが来てたけど……もしかしてそういうことだったの!? ……ゆ、許せないっ!」


 分かりやすく怒りを露わにした。こんなこと言っていいか分かんないけど……藤野ちゃんって怒った表情まで可愛いんだね。最強じゃん。


「ああ。だから『ランキング1位』である俺が提示してやるんだ。色々な生き方があっていいって。全く恥ずかしいことなんかじゃないってね」


「うん、そうだよ! 神谷君は何にも間違ってないよ!」


 藤野ちゃんはうんうん同意してくれた。とても心強いね。


 それで……俺はこれを知った時、強く決意したんだよ。こんな風潮を作り上げた勘違いゲーマーさんを……俺の手で潰してやるってね。

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