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36.俺、作家になります!

「そう、本。あの読むやつだよ」


「いや、それは分かってるんだけど……どうしてそんなことを? それに神谷君は何を書くつもりで……そもそも、本なんて簡単に出せるものなの?」


 藤野ちゃんは頭に浮かんだであろう、いくつもの疑問を俺にぶつけてくる。こうやって自分が疑問に思ったことをすぐに質問出来るのは、藤野ちゃんの立派な長所ですな、ほっほっほ……


 ……まぁ、とりあえず。最後に投げかけた疑問に答えてみようか。


「うん、とっても簡単に出せるよ。ほら、藤野ちゃんの端末にも入ってたでしょ? 『ブック』ってアプリがさ」


「えっ? あったけど……それがどうしたの?」


 俺の発した『ブック』という単語を聞いても、藤野ちゃんはいまいちピンときていない様子だった。


「あははっ。その様子だと、まだ一度も開いたことなさそうだね?」


「あっ、ええっ? どうして分かったの?」


 藤野ちゃんは、驚きと照れを混ぜたような表情を見せる。実にたまらんね。


「それじゃあ藤野ちゃんに説明するとね。このアプリは、本屋さんとかで売っている『市販の本』じゃなくて『この学園の生徒が書いた本』が読めるんだ……何なら、それしか読めないんだけどね」


「えっ? 生徒が書いた本なの?」


「うん。たまに教師とか学園側が出した本とかもあるけども」


 でもその数はかなり少ないから、大半はこのサイコー学園に在籍してる生徒が書いた本だと思っていればいいよ。


「それでこれらは全部電子書籍で、ポイントを払えばすぐに購入出来るんだ」


「へぇーすごいね! どんな本が売ってあるの?」


「うん、本当に色々な種類な本があるよ。イラスト、漫画、小説、テストの予想問題にゲームの攻略方法……強い格ゲープレイヤーの弱点が書かれた本や、強いカードゲーマーの使用デッキ一覧が書かれた本、なんてのも売られているね」


「そ、そんなマニアックなものまで……?」


「少なからず需要はあるんじゃないかな。それに紙の本を発行する訳じゃないから、多少は売れなくても、そんなに痛い思いはしないんじゃない?」


 実はここで本を出版するのに、全くポイントは必要はないんだ。そして売り上げたポイントは、7割くらい作家に直接入ってくるので……物凄いローリスクで、本を出すことが出来るんだ。


 今回俺が本を出す理由の一つがこれである。もしもこの作戦が失敗して全く売れなかったとしても、あまりダメージは受けなくて済むのだ……まぁ、精神的ダメージは考えてないけども。


「んーそっか! それで神谷君はどんな本を出すつもりなの?」


「ふふ、それはね……『全くゲームをプレイせずに、総合ランキング1位を取る方法教えます! ~これであなたも億万長者~』かな?」


「め、めちゃめちゃ怪しいね……」


「まぁこれは仮のタイトルだから、結構適当だよ……あ、そうだ。あかりんに帯コメント書いてもらおうかな。『私はこの方法で家を建てました!』って」


「いやそれ、大嘘じゃん……神谷君、こんなこと言ったら悪いけど……これは売れないんじゃないかな?」


 流石にさっきの帯コメントの下りは冗談だが……


「売れるよ。きっと売れる」


 俺は本気で、これを多くを売ろうとしているんだよ……本だけに。


「ど、どうしてそんな自信が……?」


「んー。じゃあちょっと藤野ちゃんに質問するけどさ。この学園で、ゲームで稼いで生きている……いわゆる黒字を出している生徒って、全体の何パーセントくらいだと思う?」


 いきなり俺は問題を投げかける。そしたら藤野ちゃんは、しばらく考えるような仕草を見せた後に。


「ううーん。それは半分……50パーセントくらい?」


「ブー。そんなにいないよ。答えは正確には分からないけど、10パーセントもいないんじゃないかな?」


「えっ!? そんなに少ないの!?」


 藤野ちゃんは驚嘆の声を上げる。全く予想もしていなかった数字を聞かされたからだろうか。


「うん。もちろんゲームとか大会とかの種類で、割合は大きく変動するだろうけど……絶対に50パーセントとかになることはないって言えるよ」


「どうして?」


「例えばトーナメント大会ってさ、一回戦で半分が負けるんだよ。二回戦でも更に半分になって……その繰り返し。それでもポイントが貰えるのは、せいぜい優勝者と準優勝者くらいなんだ」


「……」


「まぁトーナメントがデカかったら、もう少し下の人も貰えるだろうけれど。現実はそんな感じでさ。大会に参加した大半の人が『損』しているんだ」


「そうだったんだ……」


 藤野ちゃんは小さく頷く。


 この学園は強者にめっちゃ優しく、弱者や平凡な人にはとことん厳しい……そんなイカレた場所なんだ。


「ピラミッドの頂点付近にいる人だけしか、ゲームで稼げないって、四月の間で大半の人が理解して。平凡な自分は、ゲームで食べていけないと悟ってしまった時に……ゲームの記録がほとんど無い、神谷って人が学年1位を取ってさ。こんなタイトルの本を出したら……みんな買うでしょ?」


「あっ、確かにそうかも……?」


「そして今回俺が本を出す理由は、ポイント稼ぎも当然あるけれど。知名度を更に増やすこと。そしてゲームを諦めてしまった大半の人に寄り添って、味方になってもらうこと。今の俺達に向けられたヘイトを減らすってのも理由かな」


「そうだったんだ。神谷君はちゃんと考えてたんだね……!」


 藤野ちゃんは申し訳なさそうに呟く。分かってくれたのなら別にいいのに。


「……でも神谷君。ホントはもっと色んな女の子にモテたいって理由が、一番大きいんじゃないの?」


「……べ、べべべっ、別に?」


「えっ、冗談のつもりで言ったんだけど……もしかして本当なの?」


「……よーし! じゃあ早速執筆にとりかかろうか、藤野ちゃん!」


「あっ、逃げた!」

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