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35.パフェ好き少女は選ばれたい?

 ──


「おめでとう、神谷君! 無事に1位を取ることが出来たねっ!」


「ああ、ありがとう藤野ちゃん! こんな結果を出せたのは、みんなの協力があってこそだよ!」


「うん! 後でみんなにお礼を言わなきゃね! ……ところで神谷君、話は変わるけれど。何だかさっきから私達、すっごい視線を感じない?」


 ……はい。ここは朝のサイコー学園の一年一組教室。俺達は五月になってやーっと教室にやって来たもんだから、ちょっとだけ話題の人になってるらしい。


 あっ、説明が遅れたけれど、特待生は全員同じクラスに割り振られているんだ……要するに俺達はみんな同じ一組ってわけ。離れ離れにならなくて良かったよ。


「んーもしかして遂に、俺のモテキが来たんじゃない?」


「いや、それは違うんじゃないかな……?」


 そんな会話を藤野ちゃんと繰り広げていると、開いた教室の扉から何やら見知った顔が見えてきて。


「あっ、見つけた! シュウイチ! 早くボクのポイント返せーっ!!」


「おはようございます、王子様! 今日も一段と輝いていますね!」


 そう言いながら透子ちゃんと真白ちゃんが、俺の机の傍までやって来たのだ。


「ああ、おはよう二人とも。今日の真白ちゃんもとっても可愛いよ!」


「えっ!? そ、そそそうですか!?」


「おいシュウイチ! ボクを無視するな!」


「ああ、ごめんごめん。もちろん透子ちゃんも可愛いよ!」


「……ッ!! だからぁ!!そうじゃないってばぁ!!」


 あはははっ。朝から二人の女の子を照れさせてしまうなんて、なんて俺は罪深い男なんだろうな……


「ふう……さて、それじゃあポイントを返していこうか」


「……って、お、おい、シュウイチ!」


 透子ちゃんがチラチラと焦ったように、俺の隣に視線を誘導させようとしてくる。なんだなんだと首を動かして見てみると、そこには……


「えっ? …………あっ!! もももちろん、藤野ちゃんも可愛いよ!?」


「……神谷君。ゼッタイ、私のこと忘れてたよね?」


 藤野ちゃんはジト目で俺に訴えてくる。ああっ、絶対イジけちゃったよこの子!


「いっ、いやいやそんなことは!」


「別にいいですもーん。どうせ私は二人と違って、特徴的なとことか少ないし、魅力的なとこだって少ないですもーん」


 全く無いって言わないところに、藤野ちゃんの自信が見え隠れしているんだよな……お前のそういうとこが一番かわいいんやぞ!!?? 分かるか!?


「違うってば! 藤野ちゃんは他のみんなより付き合い長いし、言わなくても伝わっているんじゃないかなーって思ってた……だけで」


「……」


 流石に言い訳が苦し過ぎるか?


「こ、今度パフェ奢るから。機嫌を直してくれませんか」


「……ん」


 そしたら藤野ちゃんはコクっと頷いた……お兄さん、君がチョロ過ぎて心配になちゃうよ。そして十二分に君もキャラは濃いから安心してくれ。


「……ったく。朝から騒がしいな」


「あっ、蓮!」


 いつの間にか蓮まで、この場に加わっていた。そして蓮は周囲を確認した後、俺に顔を近づけて、小声で言葉を発す。


「あまり人のいる場所で、ポイントがどうだとか話すな。いずれお前が1位になったトリックはバレるだろうが、自分から言いふらす意味も無いだろ」


 うーん、正論過ぎて言い返す言葉が無い。


「ありがと、蓮。これからは気を付けるよ」


「ああ。それにな、今日のランキングの結果を見てクラスメイトは全員ピリついている。神谷は当然のこと……その近くにいる奴も、標的になるだろうな」


「えっ? 標的って……?」


「……なんとなく分かんだろ?」


 蓮の鋭い視線が突き刺さる。俺にはその蓮の瞳が『こんな状況を作り出したお前には、そこの女達を護る義務がある』と訴えているように見えたんだ。


 まぁ、俺に何かしてくるのはマジでどうだっていいけれど。藤野ちゃん達に何かしてくる奴が現れでもしたら……きっと俺は冷静ではいられなくなる。


 だから本当はもう少し時間を置いてから、次の作戦に移ろうと思ってたんだけど……そんなこと言われたら、俺は怖くておちおち休んでいられない。急いで次の行動に移らなくては。


 そう思った俺は素早く、少しだけ多めにポイントをみんなに返して「何かあったらすぐに、俺に知らせるんだぞ」と言って、この場を解散させたんだ。


 ──


 そして放課後。俺は藤野ちゃんをとあるカフェに呼び出していた。


「ごめんね神谷君、待ったかな?」


「うん、15分くらい」


「り、リアルな時間言うんだね……って来てるの神谷君だけ? 透子ちゃんとかはまだ来てないの?」


「ああ、今日は俺だけだよ。別にみんなも呼んでよかったけど、絶対俺が全員分奢ることになりそうだったからさー」


 俺は笑ってそう言う。それを見た藤野ちゃんは、少しだけうつむいて。


「そ、そっか。私、神谷君と二人きりなんだ……!」


「あれ、やっぱ嫌だった? それなら今からでも誰か呼ぼうか……」


「あっいいのいいの! そんな嫌とか、そんなんじゃないから!」


「そう? ならいいけど……」


 別に無理とかしなくていいのに。でもまぁ本人がそう言っているんだし、その言葉を信じておくことにしよう。


「それで、今日藤野ちゃんを呼び出したのは、ここも美味しいパフェがあるって聞いたから、一緒に食べたかったのと……」


「えっ!? ここにパフェがあるの!?」


 そしたら藤野ちゃんは分かりやすいくらいに目を輝かせて、興奮した様子を見せる。ほんとパフェにチョロくて可愛いな。


「うん。それと、次の作戦を教えておこうと思ってね。作戦はいずれみんなにも話そうと考えてるけど、誰かには先に伝えておこうってさ」


「えっ、それはどうして?」


「また少し、手伝ってほしいことがあってね。でも今回は全員の手を借りる程でもないかなって思って……あっ、別に嫌なら断ってくれていいからさ。でももちろん今回も、報酬のポイントは渡そうと思ってて……」


 そこで藤野ちゃんは『手伝う内容』でも『報酬のポイント量』でもなく……


「誰でもいいのなら……どうして神谷君は私を選んだの?」


 そうやって聞いてきたのだ。


「えっ? それは……藤野ちゃんが一番喋りやすいからかな?」


「私が……喋りやすい?」


「うん」


 だって蓮はなんか怖いし、透子ちゃんはツンツンして凶暴だし、真白ちゃんは俺を愛し過ぎてるから……あっ、もちろんみんな良い子だし、みんな大好きなのは間違いないんだけど。このメンバーで一番の常識人を挙げろと言うのなら……


「やっぱり藤野ちゃんが一番かな?」


「そっか。私が一番か……えへへっ!」


 藤野ちゃんは、ほわほわの笑顔を見せる。もしかして選ばれて嬉しいのだろうか……? でもさっきは少し嫌そうだったのに……うーん、乙女心ってとっても難しいなぁ。


「あっ、それで次の作戦というか……神谷君は何をするつもりなの? もしかして次は全学年で1位を取ろうとしてるとか?」


 そしてようやく本題に入ったところで……俺は藤野ちゃんに向かって、こう言うのだった。





「いや。今から俺は、本を出版しようと思っているんだ」


「…………えっ? ほ、ほん?」

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