32.まるで映画のワンシーンです……!
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そしてそのままお互いの体温を感じ続けていると。いつの間にか俺は泣き止んでて、真白ちゃんも元気を取り戻したみたいで。
「もうこんな湿っぽい話は止めにしませんか? 私はもっともっと、王子様と楽しいお話がしたいんですよ!」
明るい笑顔を見せながら、真白ちゃんはそう言った。おそらくこれが彼女の本心なんだろう。
「うん、分かった。それなら俺がお話してあげようか。俺のエピソードはどれも濃いものばかりだから、きっと退屈しないよ?」
俺は抱きしめていた手を放して、ベッドの上に座った。
「えへへ、やったー! 王子様のお話が聞けるの、嬉しいです!」
真白ちゃんもついて来て、俺のすぐ隣に座る……でも不思議と俺はドキドキはせずに、どこか落ち着いていた。彼女が俺に抱いている安心感のようなものが、こっちにも移ったのだろうか。
「それじゃあ何から話そうかな……」
そして俺は今まで温めていた、面白いエピソードを思い出してみる……うーん、例えばそうだなぁ。
とあるネトゲで害悪クランを一夜にして壊滅させた話とか、とあるソシャゲでランキング1位を取るために、指の感覚がなくなるまでタップし続けた話とか……
いや、どれも王子様っぽくねえな……ただのネトゲ廃人のエピソードじゃねえか。しっかりしてくれよ神谷王子。
「王子様?」
「あっ、ちょっと待っててね、真白ちゃん。いま華やかな話を思い出しているから……」
そうやって答えて、じっくり考えていると、真白ちゃんはまた微笑んで。
「ふふっ、何でもいいんです。らしくなくたって、無理に取り繕わなくたっていいんですよ。だってあなたは間違いなく、私の王子様なんですから!」
そう優しく、俺を包み込んでくれたのだ。
「ま、真白ちゃん……!」
それじゃあネトゲで女キャラ使って遊んでいたら、六人くらいの男から一斉に求婚された話でもしてみようかな……とか思っていたら、突然。
扉のノックの音と同時に「汐月さん、体調は良くなりました?」と、外からの女性の声が聞こえてきた。もしかしてナースさんだろうか?
「あっ、王子様! 早く隠れて!」
そしたら真白ちゃんは焦ったように言う……何だかこのセリフだけを抜き取ったら、どこかの一国が滅びそうな、大変な状況みたいに聞こえるね。
「えっ、どうして?」
「だってどう考えても、もうお見舞いが出来る時間は過ぎてるじゃないですか!」
真白ちゃんはピシッと、部屋に掛けられた時計を指す。その時計の短針は8の方向を示していた。
「いやでも俺、医院長的な人から許可貰ったんだけど……」
「アタシは許可出していないわよ?」
「あ、えっ?」
パッと後ろを振り返ってみると、そこには気の強そうなナースの姿があった。既に部屋に入っていたらしい。
「全く、医院長は適当なこと言って……後でしっかりお説教しておくわ」
ナースさんはため息を吐きながらそう言う……もしかして医院長はこのナースに、尻に敷かれているのだろうか。
そして彼女は俺に近づいて。
「汐月さんを運んでくれた神谷君……でしたか? 彼女が心配なのは分かるけれど、早く寮に帰りなさい。今なら見逃してあげるから」
そうやって諭すように言った。
「見逃すって……俺、そんなに悪いことしてるんですか?」
「知らないの? 正当な理由なく午後八時以降の外出。そして自室以外での就寝は、校則で禁止されているのよ?」
「え、そうなんすか!?」
俺としたことが、その校則を見逃していたようだ……でも普通に考えてみればそうだよなぁ。それを禁止しなかったら、男子が付き合っている女子の部屋に遊びに行って、絶対いかがわしいことをするもんな。羨ま……けしからん。
……ただそうなってくると、ここで帰るのもリスクが出てくる。第一、ここから寮までの距離もかなりあるし、夜間外出絶対許さないマンの大人に見つかったら、絶対に今よりも状況が悪くなるもんなぁ。
それに……せっかくここまで真白ちゃんと仲良くなったんだから。もう少し傍にいたいってのが本音かもな。
「分かったなら早く帰りなさい。やろうと思えば、いつでも学園側に報告出来るんですからね?」
その言葉……裏を返してみれば、まだ報告していないってことだ。もしかしたらこのナースさんは、話の分かる人かもしれない。
「んーじゃあナースさん。俺と取引しませんか?」
「取引? そんな、大人をあまりからかうんじゃ……」
「そんじゃあとりあえず……三万ポイントでどうっすか?」
言いながら俺はタブレットを取り出して、現在の所持しているポイントの画面を見せつける。それを見たナースさんは、分かりやすく驚いて。
「なっ……!? あなた新入生でしょう!? どうしてそこまでポイントを……!?」
「俺、結構ゲーム上手いんっすよ。それに一ヶ月後には(一瞬だけ)これの四倍以上になる予定っすけどね?」
何も嘘は言っていないのでセーフ。そして俺は畳みかけるように。
「ほら、早く端末を出してください。この学園内にいる限り、ポイントを使う必要があるんですから、みんな持っているはずですよね?」
「ええ……それはそうだけれど」
「なら早く。ナースさんが戻って来るのが遅かったら、他の人に怪しまれちゃいますよ?」
こんな風に急いで決断を迫らせるのは、詐欺師がよくやる手法なので……よいこのみんなは気をつけようね☆
そしてナースは無言で端末を取り出して。
「へへ、じゃあ送金しておきますね……でも送金ってなんか生々しくて嫌っすね。送ポイント……送Pって呼ぶことにしましょうか」
「……」
「ああ、そんな気に病まないで下さい。ただ俺がここにいるってことを、黙ってもらうだけでいいっすから……あっ、でも色々と協力してくれたら嬉しいなぁ」
言いながら、俺はチャチャっと送Pを完了させる。そしてナースさんは、俺らに背を向けたまま……
「……それでは汐月さん。時間ですので、お夕食を持ってきますね。きっとお腹が空いているでしょうから、多めに用意しておきますよ……二食分くらい」
「へへ、よく分かってるじゃないっすか」
「……」
そしてナースさんは何も言わずに出て行った。
……ふぅ。やっぱ思った通りこの学園、大概のことはポイントでどうにでもなってしまうような、恐ろしい場所だな。アイドルの朱里ちゃんが「ポイントは大切」って言ってた理由もよく分かった気がするよ。
そんでまぁ、ランキングを狙っている時期に三万飛んだのは、少々の痛手ではあるけれど……これは必要な出費だったと割り切ろう。
そう思いながら後ろを振り向くと、目を輝かせた真白ちゃんが、両手を胸の前に構えたまま座っていて……
「すっ……すごくかっこよかったですよ! 王子様! さっきのやり取り……ジリジリと相手を追い詰めていく感じ、まるで映画のワンシーンみたいでしたっ!」
「……もしかしてそれ、俺が悪役側じゃない?」




