29.見つけた。私の……王子様っ!
……俺は少女を大事に抱えたまま走り続けた。いくらその少女が軽いとは言っても、人間を抱えたまま走るという行為は、想像以上にキツイものだった。
だけど。俺はこの子を救わなくてはならない。絶対に何とかしなきゃいけないって思ったから、苦しくても立ち止まることなく走り続けたんだ。
そして次第に人通りの多い道まで出てきた。そこで俺の少女を抱えた姿を見て、笑う生徒、スマホをこちらに向ける生徒、はたまた激励を飛ばしてくれる生徒もいた。
まぁそんなのに構っている暇なんか無かったから、全部無視して必死に足を動かし続けたんだけど……マラソン選手ってみんなこんな気持ちで走っているんだろうか?
そんでいよいよ病院に到着するという直前に……抱えていた少女が目を覚ましたんだ。
「…………ん、んっ……?」
「あっ、起きた!? もうすぐで病院に着くから、頑張ってくれ!」
「…………あっ、あれ。わっ、わたし、また……」
「何も言わなくて良い! 大丈夫! あともう少しだから、俺に任せてくれ!!」
「…………」
そしたら少女は俺を信用してくれたのか、恐怖で怯えてしまったのか、はたまたこれは夢だと思ってしまったのか……眠るように、再び目を閉じるのだった。
……まぁ。ここで暴れられたりするよりは、何倍もマシだよな。
そして俺は担いだまま病院に突っ込んで、お医者さんに少女を見せるのだった。
──
それから俺は待合室的な場所でボケーっと時間を潰していると、白髪のお医者さんが俺のところにやってきて、少女の症状について話してくれたんだ……あっ、今のはダジャレじゃないからな?
そんでその話を簡単にまとめると、彼女はそこそこ重たい貧血状態になっていたらしく、何日か入院が必要なんだと。
まぁ病院が色々と面倒みてくれるのなら安心かも……って思ったんだけど。ひとつ心配なことというか、気になることがあったんだ。
「でも先生。彼女は新入生ですよね?」
少女を運んでいる最中、その胸元に俺と同じ色の校章が光っているのに俺は気が付いたんだ。
「ええ、そのようですが……それが?」
「きっと彼女は入学したばかりで、頼れる友達とかがいないと思うんです! だから俺……ずっと彼女の傍にいてやってもいいですか!」
「それは構いませんが……ずっとですか?」
「はい! 朝から晩まで……もちろん次の日も! きっと彼女は不安でいっぱいだろうから、俺だけでも近くにいたいんです!」
「でも君、授業とかあるでしょ?」
「それは大丈夫です! もともと今月は行く気無かったんで!」
「は、はぁ……?」
そして困惑気味のお医者さんを通り抜けて、俺は彼女の病室へと向かったのだった。
──
今はスペースが開いているのか、彼女の部屋は一人部屋になっていた。そして部屋の中央にあるベッドの上に、少女は横になっていた。少女の背の低さで、いっそうこのベッドの大きさが引き立つな。多分透子ちゃんよりも小さいんじゃないか?
んん……しかしこの子はやはり。
「可愛いな……」
なんか最近誰にでも言ってる気がするから、可愛いの安売りみたいになっているけど……でも本当にそう思っているんだから仕方ないだろ。
『眠り姫』とでも名付けたいくらいに寝顔が似合っているが、そろそろ起きた表情も見てみたいよ。(さっき一瞬だけ見たけど)
うーん。それで彼女が起きるまで何をしていようか。ゲームでもやって待っていたいのだが、あいにく携帯ゲーム機は寮に置いたままなんだ。なら……体操でもやっていようかな。
はい、おいっちにーさんしー。にーにーさんしー。
────で。そんなこんなで、彼女が目覚めるのを待ち続けて二時間くらい経過した。もうお外も真っ暗である。
流石に俺も疲れたし、腹が減ってきたし、ちょっと眠くなってきたよ。コンビニで何か買いに行こうかな……いや、デリバリーという手もあるな。でも病院まで運んでくれるのだろうか? 絶対誰かに止められそうだ。
……仕方ない。ちょっと買いに行ってくるか。そう思った俺はチラッとだけ少女の方を確認して、病室を後にしようした……のだが。
「……えっ?」
少女の瞳はパッチリ開いていた。つまり……
「えっ、起きてたの?」
少女は無言でゆっくりと頷く。もしかして俺のことを警戒しているのだろうか?
うん……目覚めたら、知らない男と二人きりの部屋に入れられてたら誰だって怖いよな。それに俺汗だくだし……多分俺でも怯えると思うもん。
だから……早く怪しい人じゃないって証明しなくては!
「あっ、俺は神谷修一って言って、君と同じ新入生なんだ! 決して変な者じゃないから、安心してくれ!」
二時間体操続ける奴は、たぶん変人だと思う……なんて説得力の無い言葉なんだ。
「ほっ、ほら、君が倒れていたからここまで連れてきたんだ! 君も途中で目を覚ましたでしょ! 俺のこと覚えて……いないかな?」
「……」
そ、そんな無表情で見つめられたら、いくら俺でも気まずくなるってば!
「え、えっと、とりあえず元気そうならよかったよ! それじゃあ俺は帰って、また様子を見に来るから……あっ、君が嫌ならもう来ないけど……?」
一旦おれはこの場から離れて、彼女を落ち着かせようとしたのだが。そんな彼女は俺に向かってポツリと一言。
「…………見つけた」
「へ、へっ? ど、どうゆう……」
ワケが分からずに俺が固まっていると。少女はベッドから降りて、俺の方へとてくてくと歩いてきて……
「な、なに……?」
「やっと見つけた。私の……王子様っ!」
俺の身体をギューッと抱きしめてきたのだった。
「……えっ。え……うええぇぇえっ!?」




