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23.ねんがんの れんらくさきをてにいれたぞ!

 たっ、退学だって……? いくら闇堕ちしてしまったとはいえ、本当は朱里ちゃんのことを思いやれるはずの人物なのに。


 また元の関係に戻れたかもしれない、引き返せたかもしれない、朱里ちゃんの貴重な友達だったのに……!


「どうして! その友達は何をやったの!?」


「多分、私のポイントで豪遊していた頃が忘れられなくて、生活水準を下げられなかったんだろうね。何か他の生徒からポイントを奪ったのが、学園側にバレたんだって」


「そ、そんな……」


 俺は一気に力が抜けるような感覚を覚える。何なんだ、この救いの無い物語は。


 そんな俺を見た朱里ちゃんはボソッと。


「だから……今でもたまに思うんだよね。あの時の私が、2回目のライブをやらなかったらって。そしたらあの子ともまだ友達でいられたのかなってさ」


「……そっか」


 こんな救われない物語を……朱里ちゃんはずっと1人で抱えていたんだ。あかりんの友達には決して話せないから。


 それなのに。朱里ちゃんはアイドルの……あかりんの仮面を被って、ステージに立ち続けていたんだ。ポイントの為というよりは……ファンのみんなを元気付ける為に。


 本当に救われたいのは、他の誰でもない朱里ちゃん自身だと言うのに……!


 そりゃ……つれぇでしょ。


「友達を退学にまで追い込んだ私が、みんなを勇気づけるアイドルなんか続けていいのかなってね。嫌でも思っちゃうんだよ」


 その朱里ちゃんの寂しそうな顔は、アイドルになってしまったことを後悔しているように見えた。


 ……でも。本当にそれだけを思っていたら、既にアイドルを辞めているだろう。


 これは俺の勝手な予想だけど、朱里ちゃんは『アイドルを続けたい』って気持ちだって、持ち合わせていると思うんだよ。


 でも『辞めたい』って気持ちもきっと嘘じゃないと思うから……朱里ちゃんは、そんな2つの葛藤を抱えたまま。孤独に学園生活を過ごしていたんだね。


 それに気が付いた俺は……『何とかしてあげたい』って、本能的に思ったんだ。


「でも……でも! 朱里ちゃんは絶対に悪くないよ! それに、君の歌声で、踊りで! 救われている子だって、絶対にいるはずだよっ!」


 俺は思ったことを全部口に出した。おこがましいって思われるかもしれないけど……それでも、彼女を救ってあげたかったんだ。


 それを聞いた朱里ちゃんは、少しだけ驚いた表情を見せた後に……笑顔を取り戻して。優しくお礼を言ったんだ。


「ふふっ、ありがと。それは私もちゃんと自覚しているよ」


 ……それはそうかも。朱里ちゃんはステージの上という位置から、ファンのみんなを見ているんだ。


 ファン歴0日の俺なんかに言われるまでもなく、朱里ちゃんはファンの声援を、踊りを、表情を。肌で感じているんだ。


 それならもっと他のことを言えば良かった……と脳内で反省会を開いていると。


「でも、そうやってしっかりと言葉で聞けて良かったよ。私の思い違いなんかじゃなかったって知れたからさー?」


 俺をフォローしてくれたのか、朱里ちゃんはいつもの口調で言ってくれたんだ。


 やっぱりこの子は俺が思っている以上に強くて、凄い人だと。そう直感したんだ。


「うん。朱里ちゃんのライブを生きがいにしている人、さっきのライブで見たから。それは自信を持って言えるよ」


「あははーっ。それは嬉しいけれど、もっと他の生きがいも見つけたらいいのにねー?」


「えっ、どうして?」


「1つの物に重心を傾けていたら、それが崩れた時に大変なことになるからね。だから私もアイドルだけじゃなくて、他の趣味も持つようにしてるんだー」


 朱里ちゃんは得意げに言う。もしかしてこの考えに至ったのは、唯一の友達を失ったことが原因なのか……?


 いや、流石に考えすぎかもしれない。


「ああ、そうなんだ。例えば?」


「カフェに行ったり、猫とたわむれたり。あとはゲームかなー?」


 ゲームという単語で、俺はピクっと反応する。


 そういや朱里ちゃんだって学園に入るまでは、アイドルじゃなくて普通の子だったんだ。この学園を選ぶくらいなんだから、きっと余程のゲーマーなんだろう。


「朱里ちゃんはどんなゲームが好きなの?」


「基本的に何でもやるけど……得意なのは音ゲーかなー?」


「へぇー音ゲー!」


 こんな可愛い子の口から『音ゲー』という言葉が飛び出してくるのに、俺は少し興奮してしまう……あっ、別に息を荒くしたりはしてないからな?


「音ゲーって誰かと戦うってよりは、自分自身と戦ってる気がするからさ。その辺が好きなんだよねー」


「ああ分かる分かる! スコアが数字でちゃんと出るから、上達具合がよく分かるよね!」


「そうそうー。最近ではダンスゲームもやっててねー。アイドルの踊りとはまた違って、そこも面白くて……」


 朱里ちゃんが喋っている最中、突然『ピピピ』っと電子音が鳴り出した。どうやら朱里ちゃんの端末から鳴っているらしい。


「あっ、ごめん、電話だ」


「いやいや、大丈夫だよ」


 こんなことを言っているが、俺の脳内では「おい、空気読めよ電話ァ!」とキレていた。人間なんてそんなものだ。


 朱里ちゃんは「ありがと」と微笑んだ後、俺に背を向けて電話を取った。


「はいっ、私です! はい! ……はい!」


 まさか電話越しでも、あかりん状態になるとは思わなかった。


 まぁ流石にライブ中よりは、若干抑え目だったけど。それでも朱里ちゃんとは違う、完全なあかりんだった。


「……はいっ、分かりました! お願いしますねっ!」


 朱里ちゃんは電話を切って、こちらを振り向く。そして朱里ちゃんの声でこう言った。


「ライブの片付けをしてくれる人からだったよ。それで……今から片付けに来るって」


「そうだったんだ」


「うん、だから……修一とはここでお別れすることになるよ」


「……あっ、そっか」


 その片付けの人はこの場所、ライブ会場に来るってことだもんな。その時に俺と朱里ちゃんが2人きりでいた所を見られたら……すっげー面倒なことになるもんな。


 というか俺なんかがというよりは、朱里ちゃんに多大な迷惑がかかっちゃうから。四の五の言わずに、とっとと去るべきだよな。


「うん、分かった。俺、帰ることにするよ」


「……」


「じゃあね、朱里ちゃん。俺なんかがこんなこと言っていいか分かんないけど……アイドル活動、頑張ってね! 応援してるからさ!」


 そう言って俺は立ち上がり、出口に向かおうとした……その時。


「待って、修一」


「えっ?」


 朱里ちゃんに呼び止められた。振り返ると朱里ちゃんは、ボールペンでメモ帳に何かを書きながら……


「色々と私の話聞いてくれてありがと。それで……修一が良かったらだけど。これ、受け取って?」


 そして朱里ちゃんはメモ用紙を破り、俺に手渡してきた。


「うん……?」


 その紙を見てみると、そこには数字が何個か並んでいた。これは……?


「それは私のフレンドのコードだよ」


「えっ……ええっ!? そんなの、俺が貰っていいのっ!?」


「いいよいいよ。ただ……」


 そして朱里ちゃんは人差し指を鼻に当てて、ウインクをしながら……


「みんなにはナイショだよ?」


「──!!」


 ハートを撃ち抜かれるとは……まさにこのことか! だって今の俺、心臓がドキドキしてるもん!! まさかこれが……こっ、恋!?


 そんな俺は何も言えずに固まっていると。


「……恥ずかしいからそんなに顔見ないでよ。早く行きなって」


「あっ、ごめん! じゃあね!!」


 そして本当に俺は、その場から離れて行くのだった……


 ──


 今日は色々なことがあったけど。まぁ、ひとまず言えることは……





 アイドルの連絡先を手に入れたぞ!! うおー!!! やったー!!!!

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