22.やっぱつれぇわ……
「それは……辛くない?」
それから長い時間を掛けて、何とかひねり出した言葉がこれだった。
……いや、ひねり出したと言うよりは。ずっと俺の心の中で巡っていた言葉を、そのまま外に吐き出したような……そんな表現をした方が正しいのかもしれないな。
そしてそれを聞いた朱里ちゃんは認めるように、こくりと頷いて。
「うん、辛いよ。でも応援してくれる人がいるから、私はここまで頑張れるんだ」
そうやってサラッと。でもどこか自分に言い聞かせているように答えたんだ。
ここまで正直に心情を吐露してくれたのに、俺は少し驚きを覚えたけど……もしかしたら朱里ちゃんは、ずっと誰かに打ち明けたかったのかもしれないな。
アイドルの大変さ。辛さ。そして素の自分である『朱里』の孤独さを。
今回はたまたま、よくあかりんのことを知らず、ファンでもなかった俺が適任だったから、ここまで色々と話してくれたんだろう。
実際、ファンにこんな話をしたら、俺以上に心配してしまって、凄い大事になっちゃいそうだもんな。
「そっか。朱里ちゃんはどんなきっかけで、アイドルになったの?」
俺がそうやって聞くと、朱里ちゃんは調子を取り戻したのか、さっきまでの口調に戻っていた。
「ふふーそれはねー。最初はおふざけみたいな感じで始めたんだよ」
「おふざけ?」
「うん。私が修一と同じように入学したばかりの頃ね。一緒に合格した中学の友達とポイントを出し合って、1時間だけステージを借りたんだよ。あっ、ステージって言っても、ここみたいな立派な場所じゃなくて……本当に小さな場所だよー?」
……んっ? ちゃんと友達いるじゃん……って思ったけど。ここは大人しく聞いておくべきか。
「へぇー。それでそれで?」
「その借りた場所で、歌を歌ったんだ。今思えば、この学園内にはカラオケだってあるのに、随分と変なことしたよー」
思い出しているのか、朱里ちゃんは目を閉じて、思い出に浸っている。可愛い。
「そしてね。そのステージで歌っている姿を、サイッターにアップしたの」
「サイッター?」
「この学園の生徒が使っているSNSみたいなものだよ。それにその動画を載せたら……まぁ今風に言うのなら、バズっちゃってね。『次は見に行かせてください!』みたいなコメントも沢山付いちゃったんだよ」
「へぇー! 凄いじゃん!」
「ただ……それには問題があってね。その人気が出て、話題になったのが『私』だけだったんだよね」
「あっ……」
ここで俺は色々と察してしまう。
「も、もしかしてその友達も……?」
「うん。私の友達も歌って、サイッターにアップしてたんだよ。でも友達は……ほとんど注目されなくてさ」
「それは何だか気まずいね……」
片方だけバズってしまうのは、大衆から明確に差を突き付けられている感じがして……めちゃくちゃつれぇよな。
きっとその友達も朱里ちゃんと親しい仲とはいえ、嫉妬に苦しんだんだろうなぁ……
「一方で私は学園新聞にまで取り上げられちゃってね、もう2回目をせざるを得ない状況までになってて……まぁそのライブは、結果として大成功したんだけど」
「さらっと凄いこと言ってる!」
やはり朱里ちゃんには、アイドルの才能があったのか……? 大衆の目も侮れないな。
「でも私の友達はやっぱり注目されなくてさ。私が『一緒にやろうよ』って言っても『お客さんはみんな朱里を求めてるから』って言って、出てくれなかったんだ」
「うーん……」
きっとそれは朱里ちゃんのことを思ってのことなんだろうけど。朱里ちゃんも友達のことを思っての行動なんだよなぁ。
このお互いがお互いを思っているのに、どこかすれ違っている感じが、つれぇわ……
「それから私は忙しくなって、友達とは疎遠になっちゃったんだ。それから一切連絡取らなくなってね」
「うん」
「そして次に会った時、彼女は……私にポイントを要求してきたの」
「えっ、えぇ……」
何だその急展開は。完全に闇堕ちしちゃってるじゃんか、その友達。
「まぁ……最初は応じたよ。友達の為だって自分に言い聞かせて、ライブで得たポイントの半分くらい渡したんだ」
「……」
「でも、それは次第にエスカレートしていって。『朱里がこんなに売れたのは私のおかげだから』って言って、もっとポイントを要求してきたの」
「……流石にそれはおかしいよ」
聞いているだけで怒りがフツフツと湧いてくる。さっきまでの友達と同一人物とは思えないってばよ。
「うん、私もそれは受け入れられないって言って断ったの。そしたら怒って、大喧嘩になって……お互い怪我しちゃったよ」
朱里ちゃんはケラケラと笑ったけど……その表情は、どこか無理しているようにも見えたんだ。
「それで。どうなったの?」
「それからはもう関わってこなくなったよ」
「ああ。それなら良かった……」
「まぁ。退学させられたってことを聞いたのは、結構後からだったけどね」
「……えっ?」




